実数は数直線(一次元)上, 複素数は複素平面(二次元)上で, それぞれ表現することができました.
※これについては, いつか気が向いたら記事を書いてみたいと思います….
複素数をさらに拡張して三次元の数, 四次元の数,...も考えることが出来たら面白そうです. 今回は, そんな『高次元の数』について書いてみました.
三次元の数を考えるにあたり, まず複素数の定義を思い出してみることにします.
2つの実数$x, y$ に対して
$\mathbb{Z} = x+i y$
と表せる記号$\mathbb{Z}$を複素数とし, $x$を実部, $y$を虚部と呼ぶ.
また, 複素数全体の集合を$\mathbb{C}$とする. $i$は虚数単位であり, $i$$
\equiv $$\sqrt{-1} $である.
このとき, 複素数の相等, 加法と乗法については次のように定義されています.
2つの複素数$α=a+bi, β=c+di(a, b, c, dは実数)$に対し,
(i) $α=β \Longleftrightarrow a=c$かつ$b=d$
(ii) $α+β = (a+c)+(b+d)i$ (加法)
(iii) $αβ=(ac−bd)+(ad+bc)i$ (乗法)
(i)より, 実部と虚部の組を定めると, それに対応して複素数$ \mathbb{Z} $は一意に定まると言えます.
また(iii)より,
$ i^{2}=ii$
$= ( \sqrt{-1})^{2}$
$=-1$
とわかります.
さて, 複素平面上で,原点Oと1を結んだ線分(以下, 元$1$とします)を$\pi/2$だけ回転させると, Oと$i$を結ぶ線分(以下, 元$i$とします)を得ることができます. $i$をさらに$\pi/2$回転すれば$-1$になります(これが$i^{2}=-1$に対応していました).
すると, この$1$と$i$の両方に垂直な3つ目の元があることが予想できます. この元を$j$とします. $1$を$\pi/2$回転すると$j$になることから, $i$のときと同様に考えると, さらに$\pi/2$回転させると$-1$になるので$j^{2}=-1$とわかります. つまり, $j$は$i$とは異なる虚数単位であると言えます.
2つの元$1,i$を持つ複素数が平面に結び付けられたのですから, もし$1$, $i$, $j$の3つの元を持つ数が存在すれば, 3次元空間と関係づけられそうです.
このことを踏まえて, 次のような数を仮定します.
3つの実数$x,y,z$ に対して
$x+iy+jz$
で表せる数を『三次元の数』とする. $j$は$j\notin \mathbb{C}$・・・(1), $j \neq i$を満たす虚数単位である.
※(1)について: ここでは割愛しますが, $j$が複素数であると仮定して式を整理すると簡単に証明できます.
今回の目標は「複素数を拡張して三次元の数を考える」ことですから, 先の《定義2》に准えて乗法を考えてみます.
三次元の数$a+bi+cj, x+yi+zj (a,b,c,x,y,zは全て実数)$の積は
$(a+bi+cj)(x+yi+zj)=(ax+byii+czjj)+(ay+bx)i+j(az+cx)+ij(bz+cy)$
$=(ax-by-cz)+(ay+bx)i+j(az+cx)+ij(bz+cy)$
ここで, $ij$の処理に困ってしまいます.
三次元の数が存在するかどうかを確かめるため, $ij$が実数$x,y,z$に対して$x+iy+jz$の形で表されると仮定します(この結果が$i$と$j$で表せなければ, $i$と$j$の積が三次元の数でなくなってしまい, 三次元の数が乗法について閉じていないことになります).
このとき,
$ij=x+iy+jz・・・(2)$
の両辺に$i$をかけて変形してみます.
$iij=i(x+iy+jz)$
$ i^{2}j=ix+ i^{2}y+ijz$
$-j=ix-y+ijz$
右辺を左辺に移項すると,
$-ix+y-ijz-j=0$
となり, また$ij$が登場するので, もう一度$(2)$を代入してみます.
$-ix+y-z(x+iy+jz)-j=0$
$-ix+y-zx-izy-jz^{2}-j=0$
$(y-zx)-i(x+yz)-j( z^{2}+1)=0・・・(3)$
さて, 今知りたいのは「$j$という数が何であるか?」なので, これを “$j=$” の式に直します.
$z$は実数なので, $ z^{2}+1 \geq 1$ が成り立っています.
したがって, $(3)$の両辺を$ z^{2}+1$で割ると
$ \frac{y-zx}{z^{2}+1}- i\frac{x+yz}{z^{2}+1}-j=0$
$j=\frac{y-zx}{z^{2}+1}+i\frac{-(x+yz)}{z^{2}+1}$
となります.
ここで, $\frac{y-zx}{z^{2}+1}, \frac{-(x+yz)}{z^{2}+1}$ はともに実数なので, $j$は
$j=A+iB (A,B \in R)$
の形になっています.
つまり $j$は複素数になってしまい, $(1)$ に矛盾するので, $(2)$の仮定が誤りだとわかりました.
よって, $ij$は三次元の数の集合の中に含まれないことになり,
ことが示されました.
さて, 今回は『多次元の数』の例として, 主に『三次元の数』に注目してきました. 重い証明になってしまいましたが, 最後に少しだけ一般的なお話をしたいと思います.
この投稿の中で「n次元の数」(nは自然数とします)と呼んでいた数の集合は, n個の元を持つことから正式にはn元数という名前がついています. また, それらをまとめて多元数(超複素数)といいます.
厳密な定義はいくつかありますが, ここでは「実数からスタートし, 整合性を保ったままそれを拡張してゆくと作られる数」というイメージに留めておきます.
拙い文章ではありますが, お読みいただき本当にありがとうございました.