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解説大学数学以上
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リーマン積分の基礎理論

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1変数関数のリーマン積分の定義

方針とイメージ

ここでは,高校数学までで定義した積分を,より厳密に定義しよう。積分の本質は面積を測ることにある。ここでも,その立場によって積分を定義することにしよう。
有界な区間$I=[0,1]$内の関数$f:I \to \mathbb{R}$と基準線である$x$軸によって囲まれる図形の面積を$R$とおく。この図形の面積を求める方法を考えよう。

最も単純な方法の一つとしては,長方形を並べる方法がある。例えば,区間$I$$n$等分する。これにより得られる小区間$I_k = \left[ \dfrac{k-1}{n}, \dfrac{k}{n} \right] \ (k=1, \cdots, n)$を長方形の底辺とすると,各辺の長さは$\dfrac{1}{n}$となる。長方形の高さは,各小区間の左端の値$f \left( \dfrac{k-1}{n} \right)$としよう。

各小区間による長方形の面積は$f \left( \dfrac{k-1}{n} \right) \dfrac{1}{n}$とかける。これらの総和を$s_n$とおくと,

$$ s_n = \sum_{k=1}^{n} f \left( \dfrac{k-1}{n} \right) \dfrac{1}{n} $$

とかける。これは求めたい図形の面積$R$を”近似”して得られた図形の面積であるから,$R \sim s_n$である。もしこの区間の分割する数$n$を増やせば,より精密に図形を近似できると考えられる。従って,期待される等式は次のようになる。

$$ \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^{n} f \left( \dfrac{k-1}{n} \right) \dfrac{1}{n} = R $$

そこで,我々はこの$R$が関数$f:I \to \mathbb{R}$により定まったことを考慮して,次のようにかくことにしよう。

$$ \int_I f = R $$

この$R$$f$$I$における積分という。

ここまでの議論は大変最もらしい論理の下で面積を求められたように見える。しかし,上の方法により求めた値は必ずしも真の面積に一致するか否かは難しい問題である。
例えば,区間$[0,1]$を中点をとるように分割したとき,それによって得られる長方形の面積の総和は$R$に一致するだろうか。また,$f$の値をとる点を右端や中点にしたときも,それによって得られる長方形の面積の総和は$R$に一致するだろうか。
こうした,より一般的な場合に対応できて,はじめて「長方形の面積の総和」は真の面積になるのではなかろうか。これ以降の議論においては,上の議論を一般化し,次の指針で積分を定義することにしよう。

【リーマン積分の定義の指針】

  1. 有界閉区間$I$$n$個の小区間$I_k$に分割する。

  2. 小区間$I_k$の代表点$\xi_k \in I_k$をとる。

  3. 関数$f:I \to \mathbb{R}$に対し,$f$$\Delta$におけるリーマン和$\Sigma (f;I;\xi)$を求める。
    $$ \Sigma (f;\Delta;\xi) := \sum_{k=1}^{n} f(\xi_k) (x_{k} - x_{k-1}) $$

  4. リーマン和$\Sigma (f;\Delta;\xi)$の区間の幅$|\Delta|$を0に近づけたときの極限$R$$f$$I$におけるリーマン積分と定義する。
    $$ \lim_{|\Delta| \to 0} \Sigma (f;\Delta;\xi) = R $$

区間の分割

$\mathbb{R}$の有界閉区間$I = [a,b]$$n$個の小区間に分割しよう。
区間$I$の中に任意の分点$t_1 < t_2 < \cdots < t_{n-1}$をとり,端点を$a = t_0, b = t_n$とおくと,区間$I$の中に$n$個の小区間$I_k = [t_{k-1}, t_{k}]$がとれる。このとき,$I = I_1 \cup \cdots \cup I_n$と表される。これを$I$分割といい,次のようにかく。

$$ \Delta : a = t_0 < t_1 < \cdots < t_n = b : I_k = [t_{k-1}, t_{k}], \ k = 1, \cdots, n $$

そして区間$I$の分割全体の集合を$\mathscr{D} = \mathscr{D}(I)$とかく。

次に区間の長さと幅を定義しよう。$\mathbb{R}$の有界閉区間$I = [a,b]$長さを,
$$ |I| := b - a $$
で定める。また,区間$I$直径(distance)を,
$$ d(I) := \sup_{x,y \in I} |x - y| $$
で定める。これらの定義により,区間$I$の分割$\Delta$を,
$$ d(\Delta) := \max_{k=1,\cdots,n} d(I_k) $$
で定めよう。

有界閉区間$I$においては,その直径は明らかに$d(I) = b - a = |I|$であらわされる。同様にして,分割$\Delta$によって得られる小区間$I_k = [t_{k-1}, t_{k}]$の直径は$d(I_k) = t_{k} - t_{k-1} = |I_k|$で表されることに注意しよう。
区間の分割の幅が意味するものは,小区間の直径の最大値のことである。上の注意により,$\mathbb{R}$の有界閉区間においては直径と長さは一致するので,言い換えれば,分割の幅とは小区間の長さの最大値に他ならない。

ところで,分割の数と分割の幅との関係について見てみよう。いま,区間$I$$n$分割されているものとしよう。このとき,次のような不等式が成り立つ。
$$ d(\Delta) \geq \frac{b-a}{n} $$
実際,
$$ b - a = (t_{n} - t_{n-1}) + (t_{n-1} - t_{n-2}) + \cdots (t_{1} - t_{0}) \leq nd(\Delta) $$
であるから,両辺を$n$で割ることでただちに示される。この不等式により,分割の幅を限りなく小さくすることは,分割の数を限りなく増やすことになる。

小区間の代表点とリーマン和

$\mathbb{R}$の有界閉区間$I = [a,b]$の分割$\Delta \in \mathscr{D}$によって得られる小区間$I_k = [t_{k-1}, t_{k}], \ k = 1, \cdots, n$を考えよう。このとき,この小区間の点$\xi_k \in I_k$をとるとき,この点を$I_k$代表点という。この点列$\{ \xi_1, \cdots, \xi_n \}$$\xi$とかくことにする。

関数$f:I \to \mathbb{R}$について,区間$I$の任意の分割$\Delta \in \mathscr{D}$によって生じる小区間$I_k$から任意の代表点$\xi_k \in I_k$をとる。このとき,$f$$\Delta$に関するリーマン和を次のように定義する。
$$ \Sigma (f;\Delta;\xi) := \sum_{k=1}^{n} f(\xi_k) |I_k| $$

リーマン和$\Sigma (f;\Delta;\xi)$は区間$I$の分割$\Delta$によって生じた小区間$I_k$の長さ$|I_k|$を底辺,その小区間の代表点$\xi_k$における$f$の値$f(\xi_k)$を高さとする長方形の面積$f(\xi_k) |I_k|$の総和のことである。リーマン和は,関数と$x$軸によって囲まれた図形の面積を近似している様子がわかる。一見複雑なことをしているようにみえるが,実は単に「たんざく」の面積を求めただけに過ぎない。

リーマン積分

上で定義したリーマン和を用いて,リーマン積分を定義する。

リーマン積分

$\mathbb{R}$の有界閉区間$I$上で定義される関数$f:I \to \mathbb{R}$に対し,次を満たすような実数$R \in \mathbb{R}$が存在するとき,$f$$I$リーマン積分可能であるという。

$$ \forall \varepsilon > 0 \ \exists \delta > 0 \ \forall \Delta \in \mathscr{D}(I) \ \forall \xi \subset I \ \left( d(\Delta) < \delta \Longrightarrow |\Sigma (f;\Delta;\xi) - R| < \varepsilon \right) $$

これを次のようにかく。

$$ \lim_{d(\Delta) \to 0} \Sigma (f;\Delta;\xi) = R $$

このとき,$R$$f$$I$におけるリーマン積分といい,次のようにかく。

$$ R = \int_I f = \int_I f(x)dx $$

リーマン積分は分割の幅に関するリーマン和の極限のにより定義される。定義は$\varepsilon-\delta$論法による定義であるから難しく感じるかもしれないが,基本に立ち返ってリーマン和の定義を見直せばよいだろう。

殆ど明らかなことではあるが,次のことははじめのうちは気にしておいた方がいいだろう。

関数$f:I \to \mathbb{R}$$I$におけるリーマン積分が存在すれば一意である。

$f$$I$におけるリーマン積分を$R, \ R'$とする。
任意の$\varepsilon > 0$をとると,
$$ \begin{eqnarray*} |R - R'| &\leq& |\Sigma (f;\Delta;\xi) - R| + |\Sigma (f;\Delta;\xi) - R'| \\ &\lt& \varepsilon \end{eqnarray*} $$
であるから,$R = R'$である。$ \blacksquare $

1変数関数のリーマン積分の例と性質

重要な例

定数関数の例は最も単純である。

任意の実定数$c \in \mathbb{R}$に対し,
$$ \int_I c = c|I| $$
を示せ。

任意の$I$の分割$\Delta$に対し,$c$のリーマン和は,
$$ \Sigma(f;\Delta;\xi) = \sum_{k=1}^{n} c|I_k| = c|I| $$
である。従って,例1の等式が示される。$ \blacksquare $

しかし,すべての関数が積分可能なわけではない。その代表例が次の関数である。

関数$f:[0,1] \to \mathbb{R}$$f(x) = D(x), \ x \in [0,1]$で定める。ただし,ディリクレ関数$D$を次で定める。
$$ D(x) := \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 1, \ x \in \mathbb{Q} \\ 0, \ x \in \mathbb{R} \setminus \mathbb{Q} \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
このとき,$f$$[0,1]$上リーマン積分可能でない。

区間$I = [0,1]$$n$等分した分割を$\Delta_n$とおく。
小区間$I_k = \left[ \dfrac{k-1}{n}, \dfrac{k}{n} \right]$の端点が有理数なので,各小区間の左端を代表点$\xi_k = \dfrac{k-1}{n}$としたものを$\xi$とおくと,そのリーマン和は
$$ \Sigma(f;\Delta_n;\xi) = \sum_{k=1}^{n} \frac{1}{n} = 1 $$
となる。
一方で,各小区間の内部$int \ I_k = \left( \dfrac{k-1}{n}, \dfrac{k}{n} \right)$から無理数の稠密性により,無理数$\eta_k \in int \ I_k$がとれる。これを代表点とする点列$\eta$について,リーマン和を考えると,
$$ \Sigma(f;\Delta_n;\eta) = 0 $$
を満たす。従って,2つのリーマン和に関する極限が一致しないので,$f$のリーマン積分は存在しない。これにより,$f$はリーマン積分可能でない!$ \blacksquare $

どのような条件を満たせばリーマン積分可能になるのか否かを見ていくのが次回以降のテーマになる。

リーマン積分の基本性質

わかりやすさを考慮して,$\mathbb{R}$の有界閉区間$I$上リーマン積分可能な関数全体の集合を$\mathscr{R}(I) = \mathscr{R}(I,\mathbb{R})$とかくことにする。

積分の線形性

$\mathbb{R}$の有界閉区間$I$に対し,次が成り立つ。
$$ \forall f, g \in \mathscr{R}(I) \left( f + g \in \mathscr{R}(I), \ \int_I ( f + g ) = \int_I f + \int_I g \right) \\ \forall c \in \mathbb{R} \forall f \in \mathscr{R}(I) \left( cf \in \mathscr{R}(I), \ \int_I cf = c \int_I f \right) $$
※線形代数学を学んだ読者であれば,次の事実も従うことがわかるだろう。$\mathscr{R}(I)$は上の演算により$\mathbb{R}$-ベクトル空間になる。また,この定理により,$I$上のリーマン積分は$\mathscr{R}(I)$から$\mathbb{R}$への線形写像になる。

任意の$x \in I$に対し,$f(x) \leq g(x)$を満たす時,$f \leq g$とかくことにする。積分については,単調性が成り立つ。

積分の単調性

$$ \forall f,g \in \mathscr{R}(I) \left( f \leq g \Longrightarrow \int_I f \leq \int_I g \right) $$

この定理における$f$を値$0$の定数関数におきかえれば,正値関数の積分も常に正値であることが従う。

積分の平均値定理

$\mathbb{R}$の有界閉区間$I = [a,b]$上で定義される積分可能な有界関数$f:I \to \mathbb{R}$に対し,$f$の上限と下限をそれぞれ$M,m$とする。このとき,
$$ \int_I f = \mu(b-a) $$
を満たすような$\mu \in [m,M]$が存在する。

まず,$f$$I$上有界で,任意の$x \in I$に対し,$m \leq f(x) \leq M$を満たす。
積分の単調性と例1により,
$$ m(b-a) \leq \int_I f \leq M(b-a) $$
を満たす。そこで,両辺を$b-a$で割り,$\displaystyle \mu = \frac{1}{b-a} \int_I f$とおくと,確かに$m \leq \mu \leq M$を満たす。$ \blacksquare $

追記(2021/12/6):続編記事の作成の目途がたたないため,タイトルと記事の内容を修正しました。

参考文献

投稿日:20211024
更新日:2021126

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