4
解説大学数学以上
文献あり

公差が素数の算術級数定理の証明

617
4
通報
$$\newcommand{abs}[1]{\left |#1\right |} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{Fourier}[2]{\mathcal{F}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{Hartley}[2]{\mathcal{H}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{Hilbert}[2]{\mathcal{Hil}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{inttrans}[3]{\mathcal{#1}_{#2}\left [#3\right ]} \newcommand{invtrans}[3]{\mathcal{#1}^{-1}_{#2}\left [#3\right ]} \newcommand{Laplace}[2]{\mathcal{L}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{Mellin}[2]{\mathcal{M}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{Res}[1]{\underset{#1}{\operatorname{Res}}} \newcommand{tLaplace}[2]{\mathcal{B}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{Weierstrass}[2]{\mathcal{W}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

こんにちは。今回は公差が素数の時の算術級数定理、つまり

公差が素数の算術級数定理

公差が素数であり、初項が公差と互いに素な等差数列には、素数が無限に存在する。

を群論を使わずに証明します。この定理は公差が素数でなくても成り立つのですが、それも考慮すると群論の考え方が必要になりそうだったので証明しないことにしました。何故群論を使わない証明にこだわったのかと言うと、群論を使った証明が理解できなかったからです()

さて、早速証明に取り掛かりましょう。まず幾つかの補題を示します。

ディリクレ級数

$$\sum_{n=1}^\infty \frac{a_n}{n^s}$$の形の級数をディリクレ級数と呼び、以下の性質があります。

$a_n$が有界ならば、$ \sum _{n=1}^\infty \frac {a_n}{n^s} $$\Re (s)>1$で広義一様絶対収束し、従って正則関数を定める。

$|a_n|\leq M$($M$は定数)とする。$\Re(s)>1$において、
$$ \begin {aligned} \sum _{n=1}^N\left |\frac {a_n}{n^s}\right | &\leq M\sum _{n=1}^Nn^{-\Re (s)}\\ &\leq M\left(1+\sum _{n=2}^{N}\int _{n-1}^{n}x^{-\Re(s)}dx\right )\\ &=M\left ( 1+\int _{1}^{N}x^{-\Re(s)}dx\right )\\ &=M\left(1+\frac {1}{\Re(s)-1}\right) \end {aligned} $$
より絶対収束し、
$$ \begin {aligned} \sum _{n=N+1}^\infty \left |\frac {a_{n}}{n^{s}}\right | &\leq M\int _{N}^\infty x^{-\Re(s)}dx\\ &=\frac {MN^{1-\Re(s)}}{\Re(s)-1} \end {aligned} $$
より従う.

$\sum a_n$が有界ならば、$\sum_{n=1}^\infty \frac{a_n}{n^s}$$\Re(s)>0$で広義一様収束し、従って正則関数を定める。

$\sum a_n < M$($M$は定数)とし、$s_n=\sum _{k=1}^na_n$、但し$s_0=0$とする。
$$ \begin {aligned} \sum _{n=1}^{N}\frac {a_n}{n^s} &=-\sum _{n=1}^{N}\frac {1}{n^{s}}\left (s_{n-1}-s_{n}\right )\\ &=\sum _{n=1}^{N-1}s_{n}\left (\frac {1}{n^{s}}-\frac {1}{(n+1)^{s}}\right )-\frac {s_N }{N^s}\\ \sum _{n=1}^{N-1}\left |s_n\left (\frac {1}{n^s}-\frac {1}{(n+1)^s}\right )\right |&=\sum _{n=1}^{N-1}\left |s_n\int _{n}^{n+1}sx^{-s-1}dx\right |\\ &\leq \sum _{n=1}^{N-1}M|s|\int _{n}^{n+1}x^{-\Re(s)-1}dx\\ &=M|s|\int _{1}^{N}x^{-\Re(s)-1}dx\\ &=\frac {M|s|}{\Re(s)}\left (1-N^{-\Re(s)}\right ) \end {aligned} $$
より従う.

オイラー積

ディリクレ級数と素数を結びつける重要な無限積です。収束性の話が本っっっっっ当に重要なんですが今回は割愛します。

数論的関数$a(n)$が、任意の素数$p$に対して$|a(p)p^{-s}|<1$かつ$a(n)が$完全乗法的、つまり任意の自然数$n,m$について$a(n)a(m)=a(nm)$が成り立つとき、素因数分解の一意性からディリクレ級数はオイラー積表示

$$ \begin {aligned} \sum _{0< n}\frac {a(n)}{n^{s}}&=\prod _{p}\left (1+\frac {a(p)}{p^s}+\frac {a(p^{2})}{p^{2s}}+\cdots \right )\\ &=\prod _{p}\frac {1}{1-\frac {a(p)}{p^s}} \end {aligned}$$

をもちます。また、ここで$a(n)=1$とすることでリーマンゼータ関数のオイラー積表示

$$\begin {aligned} \sum _{0< n}\frac {1}{n^{s}}&=\prod _{p}\frac {1}{1-p^{-s}} \end {aligned}$$

を得ます。両辺は$\Re(s)>1$で収束します。

準備運動(素数の無限性)

では、このリーマンゼータ関数のオイラー積を使って、素数の無限性を示しましょう。これに細工をすることで算術級数定理が証明できます。

素数は無限に存在する

リーマンゼータ関数のオイラー積表示
$$\zeta(s)=\prod _p \frac{1}{1-p^{-s}}$$
において、$s\to 1$とすると左辺は発散する。素数が有限個しか無いと仮定すると右辺は定数になるはずであり矛盾するので素数は無限に存在する。

ではつまらないので、もう少し強い定理から示します。

$\sum_p \frac{1}p$は発散する。

$\Re(s)>1$のとき、
$$ \begin {aligned} \zeta (s)&=\prod _{p}\frac {1}{1-p^{-s}}\\ \ln \zeta (s)&=-\sum _{p}\ln (1-p^{-s}) \\ &=\sum _{p}\sum _{0< n}\frac {p^{-ns}}n\\ &=\sum _{p}p^{-ns}+\sum _{p}\sum _{1< n}^\infty \frac {p^{-ns}}{n} \end {aligned} $$
また、
$$ \begin {aligned} \sum _{p}\sum _{1< n}\left |\frac {p^{-ns}}n\right| &\leq \sum _{p}\sum _{1< n}p^{-n}\\ &=\sum _{p}\frac {1}{p(p-1)}\\ &\leq \sum _{1< n}\frac {1}{n(n-1)}\\ &=1 \end {aligned} $$
であるから
$$ \ln \zeta(s)=\sum_p \frac{1}{p^{ns}}+O(1) $$
であり、$s\to 1$として示された。

算術級数定理の証明では、ディリクレ指標という関数のディリクレ級数(ディリクレのL関数と呼びます)について同様の議論をします。

ディリクレ指標

本来の定義とは違うのですが、簡単にするためにここでは以下で定義します。

ディリクレ指標

奇素数$N$とその原始根r、$N-1$以下の非負整数$n$に対して、$N$を法としたディリクレ指標$\chi_n:\Z \to \C$を、任意の自然数kについて以下が成り立つ関数として定めます。
$$ \begin{cases} \chi_n(k)&=\chi_n(k+N)\\ \chi_n(0)&=0\\ \chi_n(r^k)&=\exp \left(\frac{2\pi i nk}{N-1}\right) \end{cases} $$
また、$\chi_{N-1}を自明な指標と呼びます。$

以下では、$\sum_{\chi}$で全ての($N-1$個の)ディリクレ指標についての総和を表します。また、断りが無ければ$N$は奇素数とし、$\chi$$N$を法としたディリクレ指標とし、合同式の法は$N$とします。

ディリクレ指標は完全乗法的である

任意の非負整数$n,m$に対して$ \chi(n)\chi(m)=\chi(nm)$です。証明略。

ディリクレ指標は、以下の直交性があります。

$$ \sum _{0< k< N}\chi (k)=\begin {cases}N-1&\chi が自明\\ 0& otherwise \end {cases} $$

$\chi $が自明な場合は、$\chi(k)=1$より明らかです。
$\chi$が自明でない場合は、ある$N-1$以下の非負整数$a$が存在して$\chi(a)\neq 1$を満たすので、$S=\sum_{0< k< N}\chi_n(k)$とおくと
$$ \begin{aligned} \chi(a)S&=\sum_{0< k< N}\chi(ak)\\ &=\sum_{0< m< N}\chi(m)\\ &=S\\ S(\chi(a)-1)&=0\\ S&=0. \end{aligned} $$
途中、$a,2a,\cdots ,(N-1)a$$N$を法として全て異なり、また全て$N$と互いに素であることを利用しました。

$$ \sum _{\chi }\chi (n)=\begin {cases}N-1&n\equiv 1\\ 0&otherwise \end {cases} $$

$n\equiv1$の場合は、$\chi(1)=\chi(r^{N-1})=1$より明らかです。
$n\equiv 0$の場合は、$\chi(0)=0$より明らかです。
$n\not \equiv 1かつn\not \equiv 0$の場合は、$\chi_1(n)\neq 1$より、
$$ \begin {aligned} \sum _{0< k< N}\chi_k(n) &=\sum _{0< k< N}\chi _1(n)^k\\ &=\frac {\chi _{1}(n)(1-\chi_1(n)^{N-1})}{1-\chi _1(n)}\\ &=0 \end {aligned} $$

二つの直交性は(証明も)よく似ていますね。

L関数

素数の無限性の証明でリーマンゼータ関数が果たしたような役割を、算術級数定理の証明において果たすのがディリクレのL関数です。具体的には、ディリクレ指標のディリクレ級数で定義されます。

$$ L(s,\chi)=\sum_{0< n}\frac{\chi(n)}{n^s} $$
を指標$\chi$のディリクレの$L$関数という。

$L(s,\chi)$$\Re(s)>1$で絶対収束し、$\chi$が非自明ならば$\Re(s)>0$で収束する正則関数である。$\chi$が自明ならば$\Re(s)>0$に有理型解析接続され、$s=1$に唯一の極を持ち、その位数は1である。

$\chi(n)$は有界であり、また直交性より$\chi$が非自明ならば$\sum \chi(n)$も有界であることより従う。$\chi$が自明ならば、$\Re(s)>1$において
$$ \begin {aligned} L(s,\chi_{N-1})&= \sum _{0< n}\frac {\chi _{N-1}(n)}{n^s}\\ &=\prod _{p}\left (1-\chi _{N-1}(p)p^{-s}\right )^{-1}\\ &=(1-N^{-s})\prod _{p}(1-p^{-s})^{-1}\\ &=(1-N^{-s})\zeta (s) \end {aligned} $$
であり、$\zeta$関数の性質より従う。

$$ \zeta_N(s)=\prod_{\chi}L(s,\chi) $$

$\zeta_N(s)$はオイラー積表示
$$ \prod_{p\neq N}\left (1-p^{-\ord_N(p)s}\right)^{-\frac{N-1}{\ord_N(p)}} $$
を持つ。

ディリクレ級数のオイラー積表示より、
$$ \begin {aligned} \zeta _N(s) &=\prod _{\chi }L(s,\chi)\\ &=\prod _{\chi }\prod _{p\neq N}\left (1-\chi (p)p^{-s}\right )^{-1}\\ &=\prod _{p\neq N}\prod _{0< n< N}(1-\chi _{1}(p)^np^{-s})^{-1}\\ &=\prod _{p\neq N}\prod _{0< n\leq \ord_N(p)}\left (1-e^{2\pi in/\ord_N(p)}p^{-s}\right )^{-(N-1)/\ord_N(p)}\\ &=\prod _{p\neq N}\left (1-p^{-\ord_N(p)s}\right )^{-(N-1)/\ord_N(p)} \end {aligned} $$

$\zeta_N(s)$$s=1$に一位の極を持つ。

メインパートなのですが、証明に不備があったので、今度改めて書きます。

これで準備は整いました。

算術級数定理

公差が素数であり、初項が公差と互いに素な等差数列には、素数が無限に存在する。

公差が$2$の場合は素数の無限性より明らかなので、公差が奇素数の場合について考えます。
公差を$N$,初項を$j$とします。$p\equiv j$なる素数$p$が無限に存在することを示せば良いです。
$\bar \chi$$\chi$の複素共役とすれば、$\bar \chi(j)\chi(j)=1=\chi(1)$であるから、$s>1$のとき、
$$ \begin {aligned} \ln \zeta _N(s) &=\ln \prod _{\chi }\prod _{p}\left (1-\chi (p)p^{-s}\right )^{-1}\\ &=-\sum _{\chi }\sum _{p}\ln (1-\chi (p)p^{-s})\\ &=\sum _{p}\sum _{\chi }\sum _{0< n}\frac {\chi (p)^n}{np^{ns}}\\ &=\sum _{p}\frac {\sum _{\chi }\chi (p)}{p^{s}}+O(1)\\ \bar \chi (j)\ln \zeta _N(s)&=\sum _{p}\frac {\sum _{\chi }\bar \chi(j) \chi (p)}{p^s}+O(1)\\ &=\sum _{p\equiv j}\frac {N-1}{p^s}+O(1) \end {aligned} $$
です。ここで、$s\to 1$とすると左辺は発散するので右辺の無限級数$\sum_{p\equiv j}\frac{1}p$も発散し、従って$p\equiv j\mod N$なる素数$p$は無限に存在します。

おわりに

ディリクレ指標の直交性は$N$が素数でなくても成り立ちます。それを認めれば同様にして完全な算術級数定理の証明もできます。今回は僕の理解不足もあり十分に証明出来ていない部分もあり、間違いも多く有りそうなので気付いた方は教えてくださると助かります。
最後まで読んでいたただきありがとうございました。

参考文献

投稿日:20211112
更新日:29日前

投稿者

引き算が苦手です

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

コメント