高校数学, 特に数Aの整数の性質で多用される「互いに素」という性質について確率と絡めて面白い事実を紹介します.
これは湧水(ゆうすい)氏のこちらの記事
任意に選んだ2数が互いに素である確率 https://mathlog.info/articles/175
とは別の証明(上記記事に比べ煩雑ではありますが)を与え一般に$n$数の場合についても言及するものです.
自然数全体から2つの数を任意に選び出したとき, その2つの数が互いに素である確率は$\frac{1}{\zeta(2)}=\frac{6}{{\pi}^{2}}$である.
ここで「互いに素」という言葉と$\zeta(s)$という関数について述べておきます.
$n$個の自然数$a_1,\cdots,a_n$について, $\gcd(a_1,\cdots,a_n)=1$であるとき$a_1,\cdots,a_n$は互いに素であるという.
リーマンゼータ関数$\zeta(s)$を
$\zeta(s)=\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^{s}}=\frac{1}{1^{s}}+\frac{1}{2^{s}}+\frac{1}{3^{s}}+\frac{1}{4^{s}}+\cdots$
によって定義する. ここでは$s$は実数とする.
今から命題1の証明を行いますが、見通しをよくするためにいくつかの式について述べておくことにします.
$\displaystyle1+\frac{1}{n^k}+\frac{1}{(n^k)^2}+\frac{1}{(n^k)^3}+\cdots=\frac{1}{1-\frac{1}{n^k}}$
これは無限等比級数の公式$\displaystyle\frac{a}{1-r}$で$r=\frac{1}{n^k}$, $a=1$を代入したものです.
$1+\frac{1}{2^{n}}+\frac{1}{3^{n}}+\cdots=\left(1+\frac{1}{2^n}+\frac{1}{(2^n)^2}+\cdots\right)\left(1+\frac{1}{3^n}+\frac{1}{(3^n)^2}+\cdots\right)\left(1+\frac{1}{5^n}+\frac{1}{(5^n)^2}+\cdots\right)\cdots$
右辺を展開すれば左辺が出ます. (例えば$\frac{1}{2^{n}}=\frac{1}{2^n}\cdot1\cdot1\cdot1\cdots$)
$\displaystyle 1+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\cdots=\frac{{\pi}^2}{6}$
ここでは証明は省略します. 探せばいろいろな証明があります.
以上を踏まえ, 命題1の証明は以下のようになります.
まず自然数全体から任意に2数を取り出したときそれらがどちらも2の倍数である確率を考えます. 2の倍数は$\frac{1}{2}$の確率で規則的に分布しているので求める確率は$\frac{1}{2}\cdot\frac{1}{2}=\frac{1}{2^2}$です. よって取り出した2数の最大公約数が2でない確率は$(1-\frac{1}{2^2})$です.
次に最大公約数が3でない確率を考えるとこれは$(1-\frac{1}{3^2})$となることが分かります. 4の場合は2の倍数に含まれるので考える必要はありません. 5の場合は$(1-\frac{1}{5^2})$です. 6の場合もまた2の場合と3の場合に含まれるので考る必要がありません. 一般に素数でない数はそのどれかの素因数の場合に含まれるので考える必要はありません. つまり素数のときだけを考えればよいです.
これらの確率をすべてかけあわせることで最大公約数が2(の倍数)でも3(の倍数)でも5(の倍数)でもない…(=互いに素である)確率が求まります.
これを$p_2$とおくと
$p_2=\displaystyle\left(1-\frac{1}{2^2}\right)\left(1-\frac{1}{3^2}\right)\left(1-\frac{1}{5^2}\right)\left(1-\frac{1}{7^2}\right)\cdots $
を得ます.
続いてこれを前に挙げた公式を用いて変形します. まず逆数を取り
$\displaystyle\frac{1}{p_2}=\left(\frac{1}{1-\frac{1}{2^2}}\right)\left(\frac{1}{1-\frac{1}{3^2}}\right)\left(\frac{1}{1-\frac{1}{5^2}}\right)\left(\frac{1}{1-\frac{1}{7^2}}\right)\cdots$
ここで公式1を右辺の各括弧に用いると
\begin{align*}
\displaystyle\frac{1}{p_2}=&\left(1+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{(2^2)^2}+\frac{1}{(2^2)^3}+\cdots\right) \\
\displaystyle&\times\left(1+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{(3^2)^2}+\frac{1}{(3^2)^3}+\cdots\right) \\
\displaystyle&\times\left(1+\frac{1}{5^2}+\frac{1}{(5^2)^2}+\frac{1}{(5^2)^3}+\cdots\right) \\
\displaystyle&\times\cdots
\end{align*}
この右辺に注目すると, これは公式2で$n=2$としたものになっているから
$\displaystyle\frac{1}{p_2}=1+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\cdots=\zeta(2)=\frac{{\pi}^2}{6}$
最後の等式では公式3を用いました. 以上から
$\displaystyle p_2=\frac{1}{\zeta(2)}=\frac{6}{{\pi}^{2}}$
を得て, 命題は示されました.
一般に$n$個の数を選び出してきた場合についても考えてみましょう.
自然数全体から$n$個の数を任意に選び出したとき, その$n$個の数が互いに素である確率は$\frac{1}{\zeta(n)}$である.
命題1の証明と同様の手順に従う.
最後に簡単な考察をして終わることにしましょう.
リーマンゼータ関数の$s>1$における単調減少性より, 証明中の記法にならい
$p_{2}< p_{3}< p_{4}<\cdots$
が分かります. つまり取り出してくる数が多いほど互いに素である確率は大きくなります. ちなみに,
$\displaystyle p_{4}=\frac{1}{\zeta(4)}=\frac{90}{{\pi}^{4}}>0.9$
なので選んできた4数が互いに素である確率は90%を超えます.
ところで
$\displaystyle p_{2}=\frac{1}{\zeta(2)}=\frac{6}{{\pi}^{2}}>\frac{1}{2}$
なので「選んできた2数が互いに素でない確率」を$\bar{p_{2}}$とおくと,
$\bar{p_{2}}< p_{2}$
が分かります. よって何個数を選んでもそれが互いに素である確率は互いに素でない確率より大きいことがわかります.