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大学数学基礎解説
文献あり

指標の第一直交関係と第二直交関係について

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はじめに

この記事では表現論における重要な定理である「指標の第一直交関係」と「指標の第二直交関係」を紹介していきたいと思います。

まず指標の第一直交関係は次のような定理です。

指標の第一直交関係

$\varphi,\psi$を有限群$G$の既約表現とする。このとき
$$ \frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\overline{\chi_{\varphi}(g)}\chi_{\psi}(g)=\begin{cases} 1 & \varphi\sim\psi \\ 0 & \varphi\not\sim\psi \end{cases} $$
が成り立つ。

続いて指標の第二直交関係は次のような定理です。

指標の第二直交関係

$C,C'$を有限群$G$の共役類、$g\in C, h\in C'$とする。このとき
$$ \sum_{\chi}\overline{\chi(g)}\chi(h)=\begin{cases} \frac{|G|}{|C|} & C=C' \\ 0 & C\ne C' \end{cases} $$
が成り立つ。ここで和は既約指標全体を動く。

まずこの定理に登場する用語の解説を行います。その後、この 2 つの定理の間にどのような関係があるかを見ます。証明はしないので、証明を知りたい方は参考文献をご覧ください。

表現論の基礎

必要な知識を簡単に紹介していきます。まず表現を定義します。

表現

$G$を有限群、$V$を (有限次元) 複素ベクトル空間とする。準同型$\rho:G\to GL(V)$のことを表現という。

続いて表現の同値を定義します。

同値

2 つの表現$\varphi:G\to GL(V), \psi:G\to GL(W)$同値であるとは、ある線形同型$T:V\to W$が存在して、任意の$g\in G$に対して
$$ T\circ \varphi(g)=\psi(g)\circ T $$
が成り立つことをいう。このとき$\varphi\sim\psi$と表す。

不変部分空間を定義して、既約表現を定義します。

不変部分空間

$\rho:G\to GL(V)$を表現とする。$V$の部分空間$W$不変部分空間であるとは、任意の$g\in G, w\in W$に対して$\rho(g)w\in W$となることをいう。

どのような表現に対しても、$\{0\}$$V$は常に不変部分空間である。

既約表現

不変部分空間が$\{0\}$$V$のみであるような表現を既約表現という。

指標に話を移します。表現のトレースをとったものを指標といいます。

指標

表現$\rho:G\to GL(V)$に対して、$\chi_{\rho}(g)=\text{Tr}(\rho(g))$により定まる写像$\chi_{\rho}:G\to\mathbb{C}$指標という。

既約指標

既約表現の指標を既約指標という。

ここまでで指標の第一・第二直交関係の主張は理解できると思います。

指標表

表現論には指標表と呼ばれるものがあります。これは既約表現の情報を表にまとめたものです。指標表を定義する前に 2 つ命題を用意します。次の命題はトレースの性質から簡単に証明できます。

指標は類関数である。すなわち、$g,h\in G$が同じ共役類に属するとき、$g,h$における指標の値は等しい。

次の命題は指標の第一・第二直交関係を用いて証明できます。詳しくは参考文献をご覧ください。

有限群$G$の共役類の個数と既約表現の同値類の個数は等しい。

既約表現の同値類が$s$個あるとし、$\varphi_1,\ldots,\varphi_s$を互いに同値でない既約表現、$\chi_1,\ldots,\chi_s$をそれらの指標 (既約指標) とします。上の命題より共役類は$s$個あるので、それらを$C_1,\ldots,C_s$とします。指標は類関数なので$\chi_i(C_j)$はただ 1 つの値を取ります。このとき、$i$$j$列成分を$\chi_i(C_j)$とした$s\times s$の表を指標表といいます。

3 次対称群$S_3$の指標表は次のようになる。

$C_1$$C_2$$C_3$
$\chi_1$111
$\chi_2$1-11
$\chi_3$20-1

共役類、既約指標の番号のつけ方は自由なので、行・列を並べ替えたものも指標表である。

さて、大雑把に言えば指標の第一直交関係は「行に関する直交性」、第二直交関係は「列に関する直交性」です。しかし指標表をそのまま行列として見ても行に関しては直交していません。これは共役類の大きさが反映されていないためです。また列ベクトルとして見ると直交していますが正規直交はしていません。

そこで、行ベクトル・列ベクトルに関して正規直交するようにしてみましょう。

まず、第一直交関係の左辺は共役類についてまとめることで
$$ \frac{1}{|G|}\sum_{k=1}^s\sum_{g\in C_k}\overline{\chi_{\varphi}(g)}\chi_{\psi}(g)=\frac{1}{|G|}\sum_{k=1}^s|C_k|\,\overline{\chi_{\varphi}(C_k)}\chi_{\psi}(C_k) $$
となります。そこで、行ベクトルに関して正規直交するように次のような定義をします。

$i$$j$列成分を$\sqrt{\frac{|C_j|}{|G|}}\chi_i(C_j)$とした$s\times s$の表を改造版指標表と呼ぶことにする。(ここだけの用語)

$S_3$の改造版指標表は次のようになる。

$C_1$$C_2$$C_3$
$\chi_1$$\frac{1}{\sqrt{6}}$$\frac{1}{\sqrt{2}}$$\frac{1}{\sqrt{3}}$
$\chi_2$$\frac{1}{\sqrt{6}}$$-\frac{1}{\sqrt{2}}$$\frac{1}{\sqrt{3}}$
$\chi_3$$\frac{2}{\sqrt{6}}$$0$$-\frac{1}{\sqrt{3}}$

この改造版指標表を使えば指標の第一直交関係・第二直交関係は次のように述べることができます。

指標の第一直交関係

改造版指標表において行ベクトルは正規直交する。

指標の第二直交関係

改造版指標表において列ベクトルは正規直交する。

このような条件をみたす行列をご存じでしょうか。そう、ユニタリ行列です。ユニタリ行列であることと、行ベクトルが正規直交基底であることと、列ベクトルが正規直交基底であることはすべて同値です。よって次の定理が得られます。

改造版指標表はユニタリ行列である。

指標の第一・第二直交関係は「改造版指標表はユニタリ行列」という事実を通してつながっていることがわかりました。

最後に

いかがだったでしょうか。今後も表現論や他の分野の記事を書いていきたいと思うので、よろしくお願いします。

参考文献

[1]
桂利行, 代数学II 環上の加群, 東京大学出版会, 2007
[2]
Benjamin Steinberg, Representation Theory of Finite Groups, Springer, 2011
投稿日:2022316

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投稿者

数学系の大学院生。群論・リー代数・表現論・組合せ論・数理物理などを広く浅くやっています。

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