本書は現在執筆中の『関数解析のお勉強』の切り抜き記事です。参考文献で勉強したことをまとめるために使っています。今回は、関数空間の要素である関数の最も単純な定義域である、ユークリッド空間についてまとめます。「ユークリッド空間とは何だ!?」と聞かれてバチッと答えられれば完璧です。(正直めっちゃ地味な記事)
関数の定義域の性質を捉えたい。「ユークリッド空間とは何か」という質問に対して、どこまで詳しく語れるだろうか。以下では、H.Weylによる構築法を紹介します。
集合$E$がユークリッド空間であるとは、有限次元の内積空間$V$と写像$f$が以下の性質を示すもののことを言う。
$$
f:E \times E \ni (x,y) \mapsto \vec{xy} \in V
$$
ユークリッド空間といえば、$d$個の実数で座標点$(x_1,\cdots, x_d)$を思い浮かべる人が多いでしょうが、後述する座標系の取り方に依存するため、ユークリッド空間の持つ幾何学的実体の性質とは相性が悪いのです。その代わり、内積が計算できる見慣れた幾何ベクトルを対応づけることで、位置を指定する点の集合とベクトルを結びつけることができます。ベクトル空間として内積空間を取ることで、長さだけでなく角度といった属性も付与することができます。内積空間の代わりに普通のベクトル空間をとってきた場合にはアフィン空間と呼ぶらしいです。この定義で先見的な空間認識とよく馴染んでいるのは不思議ですね。
座標系を定義しましょう。原点$O\in E$を固定すると、$E \ni P\mapsto \vec{OP} \in V$は全単射になるので、$E$の点を$V$のベクトルで代用することができます。さらに、$V$の正規直交基底$(e_k)$を選べば、$V$のベクトルを成分表示することができます。これで$E$上の点$P$を座標表示$(x_1,\cdots, x_d)$することができます。座標表示に必要な情報$(O,(e_k))$を座標系といいます。
ベクトル空間$V$の次数は、座標を構成するときの代表点の個数$d$であり、これをユークリッド空間$E$の次元といいます。また、$E$の点は$\mathbb{R}^d$の点で代用できるので、慣例に従い$\mathbb{R}^d$をユークリッド空間と呼びます。2点$x,y$間の距離は、対応するベクトル空間の内積を用いて、
$$
|x-y| \equiv (x-y,x-y) = \sqrt{\sum_{i=1}^{d}(x_i-y_i)^2}
$$
で表されます。このとき、以下の命題が成り立ちます。
集合$A$内の任意のコーシー列が$A$内に収束先を持つような集合を完備というのでした。$\mathbb{R}^d$の完備性(1)は有名です[2]。部分集合$S$のコーシー列は$\mathbb{R}^d$の完備性より、$\mathbb{R}^d$内に極限が存在します。$S$が閉集合なら極限が$S$内に入るので、$S$内コーシー列が収束列になります。
以下の文章では、無限次元空間を構成する関数や数列の定義域として、ユークリッド空間内の開集合や閉集合を考えていきます。ただ、少し欲をだしてコンパクト距離空間やσコンパクト距離空間(可算個のコンパクト集合の合併)を扱うこともできます。
・ユークリッド空間は、幾何ベクトル$v \in V$と点集合$E$の対応により、座標系に依存しない定式化が可能である。
・内積空間$V$との対応づけにより、距離空間の構造や直交の概念を持つ構造がユークリッド空間に付与される。
・Bolzano-Cauchyにより、ユークリッド空間は完備距離空間の構造を持つ。
ユークリッド空間そのものよりも、位相空間の体系でどのような立ち位置にあるのかを把握し、位相空間の諸概念と結びつけるのが重要だと思います。
(びっくりするほど地味な記事…)