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大学数学基礎解説
文献あり

常微分方程式1:基本定理の準備1; アスコリ・アルツェラの定理

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はじめに

この記事は「常微分方程式」と呼ばれる講義を受けているときに書き溜めていた記事をとある理由で公開したため、もともと公開する気はなかった記事です。ですので、校正等は一切していませんが、それでも良ければご覧ください。要望があれば続きの記事たちも公開しようと思います。

常微分方程式の解の存在と一意性を言う基本定理を証明するための準備としていくつかの定理を示しておきます。示すのはアスコリ・アルツェラの定理とグロンウォールの不等式です。アスコリ・アルツェラの定理は解の存在を、グロンウォールの不等式は一意性を示すために必要になります。
なお、以下ではすべて有限次元ユークリッド空間で考えるので、単に関数と言えばユークリッド空間の部分集合(特に断らない限り開集合か閉集合)からユークリッド空間への写像のことを指すと約束します。

アスコリ・アルツェラの定理の主張

アスコリ・アルツェラの定理は条件を満たすような関数の集合からは一様収束関数列を取り出すことが出来るということを主張する定理です。非常に汎用性の高い定理なので、常微分方程式論の域を超えて重要ですし、そもそも常微分方程式論の定理というよりも関数解析という分野の定理といったほうが妥当でしょう。ただし学部前半でこの定理を見るのは、この常微分方程式の解の存在証明または複素解析のリーマンの写像定理のほとんど二択かと思われますので変に背伸びをしてまで関数解析を意識する必要はないと思います。この定理はボルツァーノ・ワイエルストラスの定理の関数空間バージョンと考えると理解しやすいので、まずはボルツァーノ・ワイエルストラスの定理の主張を確認しておきましょう。

ボルツァーノ・ワイエルストラスの定理

有界集合の任意の点列は収束する部分列をもつ。

今回はあまり高級な概念を用いずにアスコリ・アルツェラの定理を証明していくので、必然的にボルツァーノ・ワイエルストラスの定理が大活躍します。というかこれ一本でいきます。そのためこの定理の主張が飲み込めないのであれば、少しここで立ち止まって考えて理解しておくことを強くお勧めしておきます。
ではこの定理の問題を発展させて、連続関数からなる関数の集合$\mathscr{F}$の任意の関数列が収束部分列をもつような条件を考えましょう。ただし各点収束であれば極限関数が連続関数ではない場合があるので、このときの収束は一様収束としましょう。関数の集合は関数族と呼ばれることが多いので、以下$\mathscr{F}$のことを関数族$\mathscr{F}$と言ったりします。また、簡単のため関数の定義域は有界閉集合としておきます。
$\mathscr{F}$にどのような仮定があれば$\mathscr{F}$の任意の関数列が一様収束部分列をもつのか考えてみましょう。まず、関数族に属する関数がある定数で抑えられなければ、いくらでも最大値が大きくなるような関数列を作ることができるのでそもそも極限関数が存在しないということが起こり得ます。なので、次の一様有界と呼ばれる仮定は必要でしょう。

一様有界

有界閉集合$K$上で定義された連続関数の族$\mathscr{F}$一様有界であるとは、ある定数$M>0$が存在して、任意の$f\in\mathscr{F}$に対して$K$上すべての点で$|f(x)|\leq M$が成り立つことである。論理式で書くと、
$\exists M>0\,\forall f\in\mathscr{F}\,\forall x\in K\, s.t.\, |f(x)|\leq M$

では、これだけで十分なのでしょうか?実は十分ではありません。各点収束するが一様収束性しないような関数列の例としてよく$[0,1]$上の関数$f_n(x)=x^n$からなる関数列$\{f_n\}_{n\in\mathbb{N}}$が取り上げられます。この関数列を関数族$\mathscr{F}$とすると、これは$M=1$から抑えられるので一様有界です。しかし、一年生の微分積分学で習った通り一様収束しませんので反例が簡単に見つけられます。この反例を具体例に考えると$x=1$の近傍での収束が極端に遅いために一様収束性が崩壊していることが言えるでしょう。そこで連続性の程度を全体的に抑えることが必要だと考えるのが妥当でしょう。ということで同程度連続という概念を導入します。

同程度連続

有界閉集合$K$上で定義された連続関数の族$\mathscr{F}$同程度連続であるとは、任意の$\varepsilon>0$に対して、ある$\delta>0$が存在して、すべての$f\in\mathscr{F}$$x,y\in K$に対して、$|x-y|<\delta$ならば$|f(x)-f(y)|<\varepsilon$であることをいう。論理式で書くと、
$\forall\varepsilon>0\,\exists\delta>0\,\forall f\in\mathscr{F}\,\forall x,y\in K\quad s.t.\,|x-y|<\delta\Rightarrow |f(x)-f(y)|<\varepsilon$

要は同程度連続とは関数族全体におなじ$\delta>0$で抑えられる一様連続性を課すことです。これが必要なことも同程度連続性の否定を考えれば簡単に示せます。同程度連続性の否定は論理式で書くと、
$\exists\varepsilon_0>0\,\forall\delta>0\,\exists f\in\mathscr{F}\,\exists x,y\in K\quad s.t.|x-y|<\delta\land |f(x)-f(y)|\geq\varepsilon_0$
ですので$\delta=\frac{1}{n}$として、この$\delta$に対して定まる$f_n$$\mathscr{F}$から取り出して関数列$\{f_n\}$をつくります。この関数列はどんな部分列を取り出しても決して一様収束し得ません。なぜならば仮に一様収束部分列$\{f_{n_k}\}$があったとすると、$\{x_{n_k}\},\{y_{n_k}\}$$|x_{n_k}-y_{n_k}|<\frac{1}{n_k}$かつ$|f_{n_k}(x_{n_k})-f_{n_k}(y_{n_k})|\geq\varepsilon_0$を満たすようにとることができ、ボルツァーノ・ワイエルストラスの定理から、$\{x_{n_k}\}$の収束部分列$\{x_{n_k(m)}\}$をとりだすことができますが、このとき十分大きな$p,q$に対して、
$|y_{n_k(p)}-y_{n_k(q)}|\leq |y_{n_k(p)}-x_{n_k(p)}|+|x_{n_k(p)}-x_{n_k(q)}|+|x_{n_k(q)}-y_{n_k(q)}|$
であるので$|x_{n_k}-y_{n_k}|<\frac{1}{n_k}$も踏まえると$\{y_{n_k(m)}\}$$\{x_{n_k(m)}\}$と同じ値に収束することが分かります。すると仮定から$|f_{n_k(m)}(x_{n_k(m)})-f_{n_k(m)}(y_{n_k(m)})|\geq\varepsilon_0$であったので、$\{x_{n_k(m)}\}$の収束先では連続性が成立しなくなるので、極限関数が連続関数でなくなってしまいます。なお、閉集合という仮定から点列の極限もまた関数の定義域に入っていることには注意しでください。このように同程度連続性の必要性が言えるわけです。さて、実はこれらの一様有界性および同程度連続性が$\mathscr{F}$の任意の関数列が一様収束部分列をもつための十分条件にもなっています。

アスコリ・アルツェラの定理

有界閉集合$K$上ので定義された連続関数の族$\mathscr{F}$が一様有界かつ同程度連続であれば、$\mathscr{F}$の任意の関数列$\{f_n\}$が一様収束部分列をもつ。

証明は先ほどボルツァーノ・ワイエルストラスの定理を紹介しましたが、これを用いて関数列から各点で収束するように関数を抽出していき、対角線論法を用いて一様収束列を構築していきます。ですがその際に少し技術的な工夫をする必要があるので、先に補題いくつか示しておきましょう。

任意の$\mathbb{R}^n$の有界閉集合$K$に対して、稠密可算集合$D\subset K$が存在する。

一応可算性と稠密性の定義を確認しておくと、集合$D$が可算とは$D$$\mathbb{N}$の間に全単射が存在する、つまり$D$の要素を番号付けして$x_1,x_2,\ldots$と列挙できることでした。そして$D$$K$において稠密とは$K$のどの点にもいくらでも近い$D$の点があるということでした。さて、$\mathbb{Q}$$\mathbb{R}$で稠密可算部分集合であったことから、$K\cap\mathbb{Q}^n$$K$の稠密可算集合を与えることがすぐに分かるので、これで証明が完了します。もう一つだけ補題を準備します。

有界閉集合$K$の任意の稠密部分集合$D$と任意の$\delta>0$に対して、有限個の$D$の元$x_1,\ldots,x_n$をとることができて、任意の$x\in K$に対して$x_1,\ldots,x_n$のうちのどれかである$x_m$があって$|x-x_m|<\delta$となる。

少々複雑ですがご容赦ください。証明は少し技巧的な方法でボルツァーノ・ワイエルストラスの定理を適用します。ある意味この定理の一番の山場かもしれません。なお、位相空間についてそれなりに含蓄のある方にとってはただ$K$のコンパクト性を述べているに過ぎないように感じられるでしょう。そのような方にとってはこの定理は自明と思われますので読み飛ばして構いません。

補題4

以下$x\in K$に対し、$x$$\varepsilon$近傍$N_{\varepsilon}(x)$を、
$N_{\varepsilon}(x)=\{y\in K\mid|y-x|<\varepsilon\}$
として定める。$\delta>0$を任意にとる。まず$D_0=\emptyset$とする。$D$から適当に要素$x_1\in D$を一つ取り、$D_1=\{x_1\}$とする。次に$x_1$$\frac{\delta}{2}$近傍、すなわち$N_{\frac{\delta}{2}}(x_1)$に対し、$N_{\frac{\delta}{2}}(x_1)\cap N_{\frac{\delta}{2}}(y)=\emptyset$となるような$y\in D$が存在するとすれば$y=x_2$とおき、$D_2=D_1\cup\{x_2\}=\{x_1,x_2\}$とする。そのような$x_2$が存在しなければ何もしないことにする。以下同様の操作を繰り返す。すなわち$D$の部分集合$D_n$が確定していれば、すべての$x_1,x_2,\ldots,x_n\in D_n$に対して$y\in D$
$N_{\frac{\delta}{2}}(y)\cap N_{\frac{\delta}{2}}(x_i)=\emptyset\quad(i=1,2,\ldots,n)$
となるものが存在すれば、$y=x_{n+1}$とおき$D_{n+1}=D_n\cup\{x_{n+1}\}$とし、そのようなものが存在しなければ操作を終了する。
まずこの操作は必ず停止することを示す。仮に操作が停止しないとすれば、任意の$n\in\mathbb{N}$に対して$D_n$が存在することになる。よって$D_{\infty}=\bigcup_{n=1}^\infty D_n$が確定し、これは無限集合になる。このとき、先の$D_n$の定め方により決定される$x_n=D_n-D_{n-1}$からなる点列をつくると、これは$K$の点列だから、ボルツァーノ・ワイエルストラスの定理より収束部分列$\{x_{n_k}\}$をもつ。すると、十分大きな$N>0$をとってくれば$p,q>N$が存在して、$|x_p-x_q|<\frac{\delta}{2}$とすることができるが、$m=\max\{p,q\}$とするとこれは$D_m$の定め方に反するので矛盾が生じる。よってある$n\in\mathbb{N}$が存在して、この操作は$D_n$で止まる。
このとき$D_n$には先の操作を行うことができないので、任意の$x\in D$に対してある$x_i\in D_n$が存在して、$|x-x_i|<\frac{\delta}{2}$である。さて、この$D_n$の元$x_1,\ldots,x_n$が求めるものである。なぜならば任意の$x\in K$に対して、$D$の稠密性から$|x-y|<\frac{\delta}{2}$となるような$y\in D$をとることができるが、$y\in D$であったから$x_i\in D_n$であって$|y-x_i|<\frac{\delta}{2}$とすることができる。よって、
$|x-x_i|\leq |x-y|+|y-x_i|<\delta$
となり、定理が示される。

では、最後に本題のアスコリ・アルツェラの定理の証明を見てこの記事を終えましょう。

アスコリ・アルツェラの定理

$\{f_n\}$$\mathscr{F}$に属する関数の関数列とし、補題3より$D$$K$の可算稠密部分集合としてとることができる。このとき、$D$の元を漏れなく重複なく$x_1,x_2,\ldots$と番号付けして表すことができる。各$\{f_n\}$に対して、$x_1$を代入した列$\{f_n(x_1)\}$$\mathscr{F}$一様有界性より有界である。ここで$\{f_n\}$に対して、$x_1$を代入した列$\{f_n(x_1)\}$はもはや関数列ではなくただの点列になっていることに注意すると、ボルツァーノ・ワイエルストラスの定理から$\{f_n(x_1)\}$が収束するような部分列$f_{11},f_{12},\ldots$をとることができる。さて、こうして構成された関数列$\{f_{1n}\}$に再び$x_2$を代入して点列$\{f_{1n}(x_2)\}$をつくると、再びボルツァーノ・ワイエルストラスの定理から$\{f_{1n}(x_2)\}$は収束する部分列を持つから、この構成要素になる関数の列$f_{21},f_{22},\ldots$を取り出すことが出来る。同様の操作を繰り返すと任意の$x_m$に対して$\{f_{(m-1)n}(x_{m-1})\}$が収束する関数列$\{f_{(m-1)n}\}$に対して、$\{f_{(m-1)n}(x_m)\}$が収束するように関数列$\{f_{mn}\}$を取り出すことができ、
$\begin{array} \\ f_{11} &f_{12}&f_{13}&\cdots\\ f_{21}&f_{22}&f_{23} &\cdots\\ f_{31}& f_{32}&f_{33}&\cdots \\ \vdots&\vdots &\vdots &\ddots \end{array}$
のように関数の列を並べることができる。これの対角線上の関数から構成される関数列、すなわち$g_n=f_{nn}$からなる$\{g_n\}$$\{f_n\}$の部分列であり、一様収束する。以下$\{g_n\}$の一様収束性を示す。
$\varepsilon>0$を任意に一つ取り固定する。このとき、同程度連続性の仮定からすべての$f\in\mathscr{F}$に対し、$|x-y|<\delta$ならば$|f(x)-f(y)|<\varepsilon$となるような$\delta>0$をとれる。補題4より、このとき$D$の有限個の元$x_{n(1)},x_{n(2)},\ldots,x_{n(m)}$があって任意の$x\in K$に対して$x$はこれらのうちどれかとの距離が$\delta$よりも小さくできる。$M=\max\{n(1),\ldots,n(m)\}$とおく。このとき$\{g_n\}$のとり方から、$n>M$であれば、$x_{n(1)},x_{n(2)},\ldots,x_{n(m)}$のいづれに対しても、$g_N(x_{n(i)})$は収束するので、各$\{n(i)\}$に対して十分大きな数$N_i$があって、$p,q>N_i$であれば、$|g_p(x_{n(i)})-g_q(x_{n(i)})|<\varepsilon$とできる。以上から、$N=\max\{M,N_1,\ldots,N_m\}$とすると、$p,q>N$であれば任意の$x\in K$に対して、$|x-x_{n(i)}|<\delta$となるように$x_i$をとることができて、
$|g_p(x)-g_q(x)|\leq|g_p(x)-g_p(x_{n(i)})|+|g_p(x_{n(i)})-g_q(x_{n(i)})|+|g_q(x_{n(i)})-g_q(x)|<3\varepsilon$
となるので、$\{g_n\}$は一様収束する。

ここまで読んでくれてお疲れ様でした。

参考文献

[1]
杉浦光夫, 解析入門Ⅱ, 東京大学出版会
[2]
内田伏一, 集合と位相, 裳華房
[3]
宮島静雄, 関数解析, 横浜図書
[4]
R.クーラント、D.ヒルベルト[著];藤田宏、高見穎郎、石村直之[訳], 数理物理学の方法上, 丸善出版
投稿日:2022118

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東京大学理学部情報科学科B2

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