3
大学数学基礎解説
文献あり

素数定理の証明を理解しよう

5091
0
$$$$

はじめに

はじめまして。IS23erのヒロです。 ISer Advent Calendar 2022 に寄稿してみました。テーマは素数定理の証明を理解しようというものです。最初は情報科学に関連して、素数定理を計算量解析に応用して遊んでみようと考えましたが、やっぱり定理を使っていると証明なしでは申し訳なくなったのでその証明を与えることに方針を変えました。素数定理の証明には、一見すると関係ないような様々な結果を集めてくる必要があり、それ故に初学では証明に際してその全体像を見失いがちになってしまうかもしれません。そこでこの記事では、

1.複素関数論、それも留数定理と一致の定理以上の高級な道具は使わない。
2.できる限り分かりやすい証明を心掛け、寄り道は避ける。
3.証明する命題がどうして重要なのかといった動機づけを極力行い、全体像を見失わないようにする。
4.理論的・歴史的背景などの小話を積極的に取り入れ、さらなる勉強へのモチベーションになるように試みる。

ことを指針としました。もちろん学生の身で、このような目標は大それたものかもしれません。ですが自身のできる範囲で努力したつもりです。拙い記事かもしれませんが、何卒よろしくお願いします。

素数定理の主張の概要

最初に素数定理の主張を見ておきましょう。まず記号の準備をします。

漸近関係

十分大きな実数において定義された関数$f(x)$$g(x)$について、同値関係$f(x)\sim g(x)$を、
\begin{equation} f(x)\sim g(x) \Leftrightarrow \lim_{x\to\infty}\frac{f(x)}{g(x)}=1 \end{equation}
により定める。

これが同値関係になっていることは明らかでしょう。では素数定理の主張を述べます。

素数定理

$\pi(x)$$x$を超えない素数の個数とすると、
\begin{equation} \pi(x)\sim\frac{x}{\log x} \end{equation}
が成り立つ。

素数定理は、ルジャンドルとガウスにより膨大な計算によって予測され、そのおよそ100年後にアダマールとプサンによって複素関数論を用いて証明されました。その証明はリーマンのゼータ関数と呼ばれる複素関数を用いるもので、今回の証明でもゼータ関数を駆使していきます。まずはゼータ関数について見ていきましょう。

ゼータ関数

ゼータ関数は素数定理証明の鍵となります。ゼータ関数が最初に用いられたのはオイラーによってでした。オイラーはゼータ関数と素数との関係式であるオイラー積を発見し、それにより素数の逆数和は発散することを証明し、これにより解析学を数論に用いる道が拓かれました。余談ですが、オイラーはこのとき素数の逆数和の発散速度についても考察しており、これはエラトステネスの篩の計算量解析などにおいて用いられます。さて、オイラーのこの成果にも関わらずゼータ関数がリーマンの名を冠するのは、リーマンがゼータ関数を複素関数として捉えなおしたからに他なりません。リーマンはゼータ関数の解析接続を与えたうえで、素数定理の数式の両辺の誤差(細かく言うと$\pi(x)$,$\frac{x}{\log x}$ともに多少の修正を加えたもの)がゼータ関数の非自明な零点を用いて記述できるというリーマンの明示公式を発表しました。

リーマンのゼータ関数

半平面$\Re(s)>1$おいて、
\begin{equation} \zeta(s)=\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^s} \end{equation}
は正則関数を定義する。$\zeta(s)$は複素平面全体に有利型関数として解析接続され、これをリーマンのゼータ関数という。

$\zeta(s)$$\Re(s)>1$で正則であることを示すのは容易です。$s=\sigma+it$とおけば、$|n^{-s}|\leq n^{-\sigma}$なので、$s>1$について\begin{equation} \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^s}\leq 1+\int_1^n \frac{1}{x^s}dx<\infty \end{equation}
となり、$\zeta(s)$$\Re(s)>1$において広義一様絶対収束することが分かります。よって、この半平面で$\zeta(s)$は正則になります。$\zeta(s)$の解析接続は素数定理の証明で面倒なポイントの1つなので、別の記事で書きます。ですが、ゼータ関数について特に顕著な性質であるオイラー積については触れておきましょう。オイラー積表示はゼータ関数と素数の関係を示唆します。

オイラー積表示

$\Re(s)>1$において、次の等式が成り立つ。
\begin{equation} \zeta(s)=\prod_p \frac{1}{1-p^{-s}} \end{equation}
ここで$p$は素数全体に渡ってとる。

正整数$N$に対し、正整数$M>N$を任意にとる。素因数分解の一意性より$N$以下のすべての正整数$n$は、$N$以下の素数を用いて$n={p_1}^{e_1}\ldots {p_k}^{e_k}$と一意に書けるが、このとき明らかに$e_i\leq M (1\leq i\leq k)$である。よって、$\prod_{p\leq N}\left(1+\frac{1}{p^s}+\cdots+\frac{1}{p^{Ms}}\right)$$N$以下のすべての正整数$n$について$\frac{1}{n^s}$の項を含む。よって、
\begin{align} \sum_{n=1}^N \frac{1}{n^s}&\leq\prod_{p\leq N}\left(1+\frac{1}{p^s}+\cdots+\frac{1}{p^{Ms}}\right)\\ &\leq \prod_{p\leq N} \frac{1}{1-p^{-s}}\\ &\leq \prod_p \frac{1}{1-p^{-s}} \end{align}
である。$N$は任意だから$\zeta(s)\leq\prod_p \frac{1}{1-p^{-s}}$である。
同様に素因数分解の一意性から、任意の$N,M$について、
\begin{equation} \prod_{p\leq N}\left(1+\frac{1}{p^s}+\cdots+\frac{1}{p^{Ms}}\right)\leq \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^s} \end{equation}
であり、$N,M\to\infty$とすれば
$\prod_p \frac{1}{1-p^{-s}}\leq\zeta(s)$が得られる。よって示された。

素数定理の証明のあらすじ

それでは本節で素数定理の証明を見てきます。素数定理の証明は大まかに3つの面倒なステップがあり、内容的に割とバラバラなのでどうしてもゴールを見失いがちになっていまいます。そこで、この記事ではこれら3つの面倒なステップを別の記事として書き、それらを認めた上で本節で素数定理を証明していきます。まず記号の準備をします。

フォン・マンゴルト関数、チェビシェフの$\psi$関数

正整数$n$に対し、
\begin{equation} \Lambda(n)=\begin{cases} \log p &(\mbox{ある素数$p$と整数$m$が存在し}n=p^m)\\ 0 & (\mathrm{otherwise}) \end{cases} \end{equation}
と定める。これをフォン・マンゴルト関数という。
さらにチェビシェフの$\psi$関数を次式で定める。
\begin{equation} \psi(x)=\sum_{1\leq n\leq x}' \Lambda(n) \end{equation}
なお、$\sum_{1\leq n\leq x}'$は不連続点においては、上極限と下極限の平均をとることを意味する。

さて、この下で素数定理の証明に際して大まかに次の3つの段階が必要になります。

  1. $\zeta(s)$の解析接続
  2. $\zeta(s)$$\Re(s)=1$付近の分析
  3. $\psi(x)\sim x$の証明

1.は先述した通りです。素数定理の証明は1.で解析接続した$\zeta(s)$$\Re(s)=1$の直線付近でどのように振舞うのかが重要になります。その意味では$\Re(s)=1$付近での解析接続が得られればよく、複素平面全体への拡張は必ずしも必要ではないのですが、ゼータ関数の研究はリーマンにより解析接続が与えられたことから始まったといってもよく、寄り道の意義があると判断したため導入しました。
$\zeta(s)$と素数定理の関係性として、20世紀以降のさらなる研究により、ゼータ関数$\Re(s)=1$上に零点をもたないことがある意味で素数定理と同値になっているという言説は有名でしょう。2.の結果を用いて3.を証明していきます。フォン・マンゴルト関数、チェビシェフの$\psi$関数はそれ単体ではどのようにゼータ関数と関係があるのか分かりにくいですが、実はそれぞれゼータ関数と以下で表される関係式を持ちます。
\begin{align} \frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}&=-\sum_{n=1}^\infty \frac{\Lambda(n)}{n^s}\quad(\Re(s)>1)\\ \psi(x)&=\frac{1}{2\pi i}\int_{c-i\infty}^{c+i\infty} \frac{x^s}{s}\left(-\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}\right)ds\quad (c>1) \end{align}
これらを示すことで$\psi(x)\sim x$を示せます。この証明の方針として、今回はペロンの公式と呼ばれる方法をゼータ関数の場合に特殊化して用います。3.の証明はペロンの公式の他にウィーナー・池原の定理というタウバー型定理による方法が知られています。特に、先述の素数定理とゼータ関数が$\Re(s)=1$上で消えないことの同値性はウィーナー・池原の定理などにより鮮明になったといっても良いでしょう。また、この同値性は$\pi(x)$の漸近関係を複素関数論を用いて解決することへのある意味での正当化を与えたとも言って良いでしょう。すると、その後になってセルバーグによって複素関数論を用いない素数定理の証明が与えられたことの衝撃は想像に難くありません。

話が逸れすぎましたが、それではこれら3つの事柄を認めた上で素数定理を証明します。

素数定理

まず実数$x$$x$以下の素数$p$に対して、$x$以下の最大の$p$のべきは
$p^m\leq x$を満たす最大の$m$であるから、これはガウス記号を用いて$\left[\frac{\log x}{\log p}\right]$と書けることに注意する。よって、$x$以下の$\Lambda(n)=\log p$を満たす$n$の個数は$m$個だから、
\begin{equation} \psi(x)=\sum_{1\leq n\leq x}\Lambda(n)=\sum_{p\leq x} \left[\frac{\log x}{\log p}\right]\log p \end{equation}
が成り立つ。
\begin{equation} \psi(x)=\sum_{p\leq x} \left[\frac{\log x}{\log p}\right]\log p\leq \sum_{p\leq x} \frac{\log x}{\log p}\log p=\pi(x)\log x \end{equation}
であるから両辺を$x$で割って、
\begin{equation} \frac{\psi(x)}{x}\leq \frac{\pi(x)\log x}{x} \end{equation}
を得る。ゆえに$\psi(x)\sim x$なので
\begin{equation} 1\leq \liminf_{x\to\infty} \pi(x)\frac{\log x}{x} \end{equation}
である。一方$0<\alpha<1$を任意に固定すると、
\begin{equation} \psi(x)\geq\sum_{p\leq x} \log p\geq \sum_{x^\alpha\leq p\leq x}\log p\geq (\pi(x)-\pi(x^\alpha))\log x^\alpha \end{equation}
が成り立つので、整理して
\begin{equation} \psi(x)+\alpha\pi(x^\alpha)\log x\geq \alpha\pi(x)\log x \end{equation}
が分かる。明らかに$\pi(x^\alpha)\leq x^\alpha$なので$x\to\infty$において、$\frac{\pi(x^\alpha)\log x}{x}\to 0$である。よって両辺を$x$で割って、$x\to\infty$とすると、
\begin{equation} 1\geq\alpha \limsup_{x\to\infty}\pi(x)\frac{\log x}{x} \end{equation}
さて、$\alpha$$0<\alpha<1$で任意だったのだから、これは
\begin{equation} \limsup_{x\to\infty}\pi(x)\frac{\log x}{x}\leq 1 \end{equation}
となる。以上をまとめて、
\begin{equation} \pi(x)\sim\frac{x}{\log x} \end{equation}
である。

$\psi(x)$の挙動が$\pi(x)$を決定するのに十分な情報をもっているために、$\psi(x)$についての漸近公式を認めれば、素数定理の証明はとても簡単になされることが分かりました。実際、これらは同値であることが知られており、上の証明を読んだ方にとっては逆を導くことも容易でしょう。

参考文献について

最後に参考文献について簡単に紹介しておきます。参考文献として3つの書籍を挙げていますが、今回書いた一連の記事は概ねこの3冊を参考にして出来たものです。基本的には[1]もしくは[2]に従っていますが、所々[3]を参考にした箇所もありました。[1]は複素解析の教科書ながら、ゼータ関数と素数定理の他に保形関数、特にテータ関数についての記述もあり、解析的整数論の導入にも良いと思われます。[2]はゼータ関数に関連した理論を幅広く紹介していて面白いですが、割と証明なしに結果を与えてくることもあるので好みは分かれると思います。その意味では[3]は論理的飛躍がなく読みやすいですが、予備知識としてフーリエ解析とルベーグ積分(特に優収束定理)を仮定されていますので、ご注意ください。

参考文献

[1]
エリアス・M. スタイン、ラミ・シャカルチ , 複素解析, プリンストン解析学講義, 日本評論社
[2]
松本耕二, リーマンのゼータ関数, 開かれた数学, 朝倉書店
[3]
雪江明彦, 整数論3  解析的整数論への誘い, 日本評論社
投稿日:20221214

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

ヒロ
ヒロ
10
8835
東京大学理学部情報科学科B2

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中