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素数定理の証明への道 (2) : Re(s)=1付近でのゼータ関数の振る舞いについて

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はじめに

この記事は 素数定理の証明を理解しよう を読んでいる前提で書かれています。執筆の動機や証明の構成、参考文献やこの記事の目的もすべてそちらに書いていますので、まだの方はぜひそっちを読んでみてください。この記事ではゼータ関数の$\Re(s)=1$の近くでの挙動について分析していきます。特に素数定理は、$\zeta(s)$が直線$\Re(s)=1$で消えないことと同値であることが知られているので、この記事の大きな目標としてこれを示すことを掲げておきましょう。また、それ以外にも第3のステップである$\psi(x)\sim x$を示すために必要な、ゼータ関数のこの直線付近での挙動を多少なり評価しておきます。

ゼータ関数が$\Re(s)=1$上に零点をもたないことの証明

この目標となる定理は技巧的ながらも比較的初等的な証明が知られています。まずいくつかの補題を準備します。一応フォン・マンゴルト関数について復習しておきましょう。

フォン・マンゴルト関数

正整数$n$に対して、
\begin{equation} \Lambda(n)=\begin{cases} \log p &(\mbox{ある素数$p$と整数$m$が存在し}n=p^m)\\ 0 & (otherwise) \end{cases} \end{equation}
と定める。これをフォン・マンゴルト関数という。

では以下補題を2つほど証明します。

半平面$\Re(s)>1$において、次の式が成り立つ。
\begin{equation} \log\zeta(s)=\sum_{n=2}^\infty \frac{\Lambda(n)}{n^s\log n} \end{equation}

$\Re(s)>1$において$\zeta(s)$はオイラー積表示をもち、また$|z|<1$において、テイラー展開$\log(\frac{1}{1-z})=\sum_{n=1}^\infty \frac{z^n}{n}$が成り立つことに注意すれば、
\begin{align} \log\zeta(s)&=\log\prod_p \left(\frac{1}{1-p^{-s}}\right)\\ &=\sum_p \log\frac{1}{1-p^{-s}}\\ &=\sum_p \sum_{m=1}^\infty\frac{p^{-ms}}{m}\\ &=\sum_{p,m} \frac{p^{-ms}}{m}\\ &=\sum_{p,m} \frac{\log p}{p^{ms}\log p^m} \end{align}
ここで、絶対収束性より和は自由に並べ替えてよいことに注意すれば、$p^m$が小さい順に並べ替えて、$n=p^m$とおくことで、
\begin{equation} \log\zeta(s)=\sum_{p,m} \frac{\log p}{p^{ms}\log p^m}=\sum_{n=2}^\infty\frac{\Lambda(n)}{n^s\log n} \end{equation}
となる。

$\sigma>1$とし、$t$を実数とする。
\begin{equation} \log|\zeta^3(\sigma)\zeta^4(\sigma+it)\zeta(\sigma+2it)|\geq0 \end{equation}
が成り立つ。

\begin{equation} n^{-(\sigma+it)}=e^{-\sigma\log n - it\log n}=n^{-\sigma}(\cos (t\log n)-i\sin (t\log n)) \end{equation}
に注意する。$z\in\mathbb{C}$に対し、$\log z=\log |z|+i\arg z$であるから、$\Re(\log z)=\log |z|$に注意すると、命題1より
\begin{align} \log|\zeta^3(\sigma)\zeta^4(\sigma+it)\zeta(\sigma+2it)| &=3\log|\zeta(\sigma)|+4\log|\zeta(\sigma+it)|+\log|\zeta(\sigma+2it)|\\ &=3\Re(\log\zeta(\sigma))+4\Re(\log\zeta(\sigma+it))+\Re(\log\zeta(\sigma+2it))\\ &=3\sum_{n=1}^\infty\Re\left(\frac{\Lambda(n)}{n^\sigma\log n}\right)+4\sum_{n=1}^\infty\Re\left(\frac{\Lambda(n)}{n^{\sigma+it}\log n}\right)+\sum_{n=1}^\infty\Re\left(\frac{\Lambda(n)}{n^{\sigma+2it}\log n}\right)\\ &=\sum_{n=2}^\infty\frac{\Lambda(n)}{n^{-\sigma}\log n}(3+4\cos(t\log n)+\cos(2t\log n))\\ &=\sum_{n=2}^\infty \frac{\Lambda(n)}{n^{-\sigma}\log n} 2(1+\cos (t\log n))^2\\ &\geq 0 \end{align}
なお、最後の変形は恒等式$3+4\cos\theta+\cos 2\theta=2(1+\cos\theta)^2$による。

これらにより、目標の定理が証明されます。

$\zeta(s)$$\Re(s)=1$上に零点をもたない。すなわち任意の$t\in\mathbb{R}$に対して、
\begin{equation} \zeta(1+it)\neq 0 \end{equation}
が成り立つ。

背理法による。仮にある$t_0\in\mathbb{R}$があって、$\zeta(1+it_0)=0$が成り立つとする。$s_0=1+it_0$とおくと、$s=1$においては$\zeta(s)$は極であったから$s_0\neq 1$でなければならない。よって$\zeta(s)$$s_0$の近くで正則なので、ある$C>0$が存在し$s_0$の近くで、
\begin{equation} |\zeta(s)|\leq C|s-s_0| \end{equation}
が成り立つ。一方$\zeta(s)$$s=1$で1位の極であったから、$C'>0$が存在して$s=1$の近くで、
\begin{equation} |\zeta(s)|\leq \frac{C'}{|s-1|} \end{equation}
が成り立つ。さらに$t_0\neq 0$であるから、$s=1+2it_0$においても$\zeta(s)$は正則であるから、$M>0$が存在して$s=1+2it_0$の近くで、
\begin{equation} |\zeta(s)|\leq M \end{equation}
となる。今$\sigma>1$とし$s=\sigma+it_0$とおこう。$\sigma$が1に十分近ければ、上の結果をまとめて
\begin{equation} |\zeta^3(\sigma)\zeta^4(\sigma+it_0)\zeta(\sigma+2it_0)|\leq A|\sigma-1| \end{equation}
が成り立つ。ここで、$A=C^4 C'^3 M$である。よって、$\sigma\to 1$において$|\zeta^3(\sigma)\zeta^4(\sigma+it_0)\zeta(\sigma+2it_0)|\to 0$であるが、命題2より$\sigma>1$において、
\begin{equation} \log|\zeta^3(\sigma)\zeta^4(\sigma+it)\zeta(\sigma+2it)|\geq0\Leftrightarrow|\zeta^3(\sigma)\zeta^4(\sigma+it_0)\zeta(\sigma+2it_0)|\geq 1 \end{equation}
であるからこれは不合理である。

ゼータ関数の評価

続いてゼータ関数について、いくつかの不等式評価をしておきます。一応モチベーションのために、なぜこれが必要なのかについて触れておきましょう。先の命題1の式
\begin{equation} \log\zeta(s)=\sum_{n=2}^\infty \frac{\Lambda(n)}{n^s\log n} \end{equation}
において、両辺を微分すると
\begin{equation} \frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}=-\sum_{n=1}^\infty\frac{\Lambda(n)}{n^s} \end{equation}
が成り立ちます。ここでより一般に次の級数を考えましょう。
\begin{equation} f(s)=\sum_{n=1}^\infty \frac{a_n}{n^s} \end{equation}
$a_n=1(\forall n\in\mathbb{N})$の場合はこれはゼータ関数に他なりませんが、一般の数列$\{a_n\}$に対してもある種のゼータ関数の類似性が見られる場合、これはディリクレ級数と呼ばれます。記事で何度か触れていますが、ペロンの公式と呼ばれる定理によると、実は$\sum_{n\leq x} a_n$$f(s)$の積分、より詳しく言えば$f$の逆メリン変換として記述することができます。つまり、$a_n=\Lambda(n)$とすることで、$\psi(x)=\sum_{n\leq x}\Lambda(n)$$-\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}$の積分により書けることが分かるのです。こうして、$\psi(x)$とゼータ関数の間につながりを見出すことができました。そこで、$\psi(x)\sim x$を示すにあたってゼータ関数を評価すれば良いということになるのです。これをモチベーションにいくつかの結果を示しておきましょう。

$\Re(s)>0$に対して、次の式が成り立つ。
\begin{equation} \zeta(s)-\frac{1}{s-1}=\int_1^\infty\left(\frac{1}{[x]^s}-\frac{1}{x^s}\right)dx \end{equation}

右辺が$\Re(s)>0$で収束することを示そう。以下、$\Re(s)=\sigma$とおく。
\begin{equation} \int_1^\infty\left(\frac{1}{[x]^s}-\frac{1}{x^s}\right)dx=\sum_{n=1}^\infty\int_n^{n+1}\left(\frac{1}{n^s}-\frac{1}{x^s}\right)dx \end{equation}
に注意すれば、平均値の定理より$\left|\int_n^{n+1}\left(\frac{1}{n^s}-\frac{1}{x^s}\right)dx\right|\leq\frac{|s|}{n^{\sigma+1}}$であるので、$\sigma>0$であれば右辺の積分は広義一様絶対収束することが分かり、半平面$\Re(s)>0$で正則関数を定めることが分かる。よって$\Re(s)>1$で等式$\zeta(s)-\frac{1}{s-1}=\int_1^\infty\left(\frac{1}{[x]^s}-\frac{1}{x^s}\right)dx$が示されれば、$\Re(s)>0$においてもこの等式は拡張される。そのため以下$\Re(s)>1$とする。このとき、
\begin{equation} \int_1^\infty\left(\frac{1}{[x]^s}-\frac{1}{x^s}\right)dx=\left(\sum_{n=1}^\infty \int_n^{n+1}\frac{1}{n^s}\right)-\int_1^\infty\frac{1}{x^s}dx=\zeta(s)-\frac{1}{s-1} \end{equation}
となるのでもとの命題が示される。

余談ですが、これにより$\Re(s)>0$におけるゼータ関数の関数等式が与えられ、ゼータ関数は$\Re(s)>0$において有利型関数として拡張されることが分かります。

$\sigma,t$を実数とし、$s=\sigma+it$とおく。このとき、$0\leq \sigma_0\leq 1$$\varepsilon>0$に依存した定数$c$$\varepsilon$に依存した定数$c'$があり、

  1. $\sigma_0\leq\sigma$かつ$|t|\geq 1$なら$|\zeta(s)|\leq c|t|^{1-\sigma_0+\varepsilon}$
  2. $\sigma\geq 1$$|t|\geq 2$ならば、$|\zeta'(s)|\leq c'|t|^{\varepsilon}$

命題4の途中で示した不等式、
\begin{equation} \left|\int_n^{n+1}\left(\frac{1}{n^s}-\frac{1}{x^s}\right)dx\right|\leq\frac{|s|}{n^{\sigma+1}} \end{equation}
および三角不等式を用いて得られる不等式、
\begin{equation} \left|\int_n^{n+1}\left(\frac{1}{n^s}-\frac{1}{x^s}\right)dx\right|\leq\int_n^{n+1}\left(\frac{1}{n^\sigma}+\frac{1}{n^\sigma}\right)dx=\frac{2}{n^\sigma} \end{equation}
を組み合わせると、任意の$0<\delta<1$に対して、
\begin{equation} \left|\int_n^{n+1}\left(\frac{1}{n^s}-\frac{1}{x^s}\right)dx\right| \leq\left(\frac{|s|}{n^{\sigma+1}}\right)^\delta \left(\frac{2}{n^\sigma}\right)^{1-\delta}\leq\frac{2|s|^\delta}{n^{\sigma+\delta}} \end{equation}
が成り立つ。ここで、$\sigma=\sigma_0>0,\delta=1-\sigma_0+\varepsilon$とおくと、命題4より、
\begin{align} |\zeta(s)|&\leq\left|\frac{1}{s-1}\right|+\sum_{n=1}^\infty\left|\int_n^{n+1}\left(\frac{1}{n^s}-\frac{1}{x^s}\right)dx\right|\\ &\leq\left|\frac{1}{s-1}\right|+\sum_{n=1}^\infty\frac{2|s|^{1-\sigma_0+\varepsilon}}{n^{1+\varepsilon}} \end{align}
ここで、$\sigma\geq\sigma_0,|t|\geq1$の仮定の下では$\frac{1}{s-1}$は有界である。さらに$\sigma\to\infty$$|\zeta(s)|\to 0$を踏まえれば、定数$c$を十分大きくとることで、
\begin{equation} |\zeta(s)|\leq c|t|^{1-\sigma_0+\varepsilon} \end{equation}
とすることができるので、1.が示される。コーシーの積分公式より閉路$C$に対して、
\begin{equation} \zeta'(s)=\frac{1}{2\pi i}\int_C \frac{\zeta(z)}{(z-s)^2}dz \end{equation}
であるから、$\sigma\geq 1$に対し、$\sigma_0=1-\varepsilon$とし、$C$$s$を中心とする半径$\varepsilon$の円とすれば、$C$上の点はすべて1.の仮定の範囲に収まるので1.の結果が使えて、
\begin{equation} |\zeta'(s)|< c'|t|^\varepsilon \end{equation}
となる。

$\sigma,t$を実数とし、$s=\sigma+it$とおく。$\sigma\geq 1,|t|\geq 2$とすると、すべての$\varepsilon>0$に対し、$\varepsilon$に依存した定数$c$があって、
\begin{equation} \frac{1}{|\zeta(s)|}\leq c|t|^\varepsilon \end{equation}
が成り立つ。

命題2の結果は連続性より$\sigma\geq 1$にまで拡張できることに注意すれば、仮定した範囲において、
\begin{equation} |\zeta^3(\sigma)\zeta^4(\sigma+it)\zeta(\sigma+2it)|\geq 1 \end{equation}
が成り立つ。ゆえに、
\begin{equation} \frac{1}{|\zeta(s)|}\leq |\zeta^{\frac{3}{4}}(\sigma)\zeta^{\frac{1}{4}}(\sigma+2it)| \end{equation}
命題5.より、$|\zeta(\sigma+2it)|\leq C|t|^\varepsilon$となる$C>0$が存在し、また$\zeta(s)$$s=1$において1位の極をもち、$\sigma\to\infty$$|\zeta(\sigma)|\to 0$より、$\sigma\geq 1$において、$|\zeta(\sigma)|\leq \frac{C'}{\sigma-1}$となる$C'$をとれる。まとめると定数$C$を置きなおして、
\begin{equation} \frac{1}{|\zeta(s)|}\leq \frac{C|t|^{\frac{\varepsilon}{4}}}{(\sigma-1)^{\frac{3}{4}}} \end{equation}
が成り立つ。ここで、$\varepsilon$を固定したときの$\sigma$の値に関して場合分けを行う。ある$A>0$を一つ固定して任意の$|t|\geq 2$に対し、$\frac{1}{\sigma-1}\leq A|t|^{5\varepsilon}$が成り立つ場合、$c=CA^{\frac{3}{4}}$とおけば、
\begin{equation} \frac{1}{|\zeta(s)|}\leq \frac{C|t|^{\frac{\varepsilon}{4}}}{(\sigma-1)^{\frac{3}{4}}}\leq c|t|^{4\varepsilon} \end{equation}
となって、もとの命題は成り立つ。そうでないとき、すなわち不等式$\frac{1}{\sigma-1}\leq A|t|^{5\varepsilon}$がすべての$|t|\geq 2$においては成り立たない場合、この不等式において等号が成り立つ$\sigma$の値を$\sigma'$とおくと、$\sigma<\sigma'$の場合、命題5.と平均値の定理より、
\begin{equation} |\zeta(\sigma'+it)-\zeta(\sigma+it)|=|\zeta'(\sigma''+it)||\sigma'-\sigma|\leq c'(\sigma'-1)|t|^\varepsilon\quad(\sigma<\sigma''<\sigma') \end{equation}
が成り立つから、$\sigma=\sigma'$では$\frac{1}{\sigma-1}= A|t|^{5\varepsilon}$に注意すると、
\begin{align} |\zeta(\sigma+it)|&\geq |\zeta(\sigma'+it)|-|\zeta(\sigma'+it)-\zeta(\sigma+it)|\\ &\geq \frac{1}{c}|t|^{-4\varepsilon}-Ac'|t|^{-4\varepsilon} \end{align}
$c=CA^{\frac{3}{4}}$に注意すれば、$A=\left(\frac{C}{c'}\right)^4$とおけば、
\begin{equation} \frac{1}{|\zeta(s)|}\leq\frac{|t|^{4\varepsilon}}{A} \end{equation}
が成り立つ。よって、$c=\max\{CA^{\frac{3}{4}},A\}$とすればもとの命題が成り立つことが分かる。なお、最後に定めた$A$の値$A=\left(\frac{C}{c'}\right)^4$$t$$\sigma'$には明らかに依存していないことには注意する。

$\sigma,t$を実数とし、$s=\sigma+it$とおく。任意の$\varepsilon>0$に対して、ある定数$A>0$が存在し、$\sigma\geq 1$かつ$|t|\geq 2$となる任意の$s$において、
\begin{equation} \left|\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}\right|\leq A|t|^\varepsilon \end{equation}
が成り立つ。

命題5,6.より、
\begin{align} \frac{1}{|\zeta(s)|}&\leq c|t|^\frac{\varepsilon}{2}\\ |\zeta'(s)|&\leq c'|t|^\frac{\varepsilon}{2} \end{align}
となる$c,c'>0$をとれるので明らか。

少し技巧的な部分が多かったですが、これで概ねほしい精度までのゼータ関数に関する評価が得られました。ざっくりとした結論として、ゼータ関数は直線$\Re(s)=1$上で正のべきを持つべき関数により抑えられることが分かりました。この時点で何となく察せる方もいると思いますが、実はより強く$\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}$$\log |t|$によって抑えられることが知られています。

投稿日:20221215

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東京大学理学部情報科学科B2

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