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素数定理の証明への道 (3) : チェビシェフ関数の漸近公式の導出

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はじめに

この記事は 素数定理の証明を理解しよう を読んでいる前提で書かれています。執筆の動機や証明の構成、参考文献やこの記事の目的もすべてそちらに書いていますので、まだの方はぜひそっちを読んでみてください。この記事でようやくチェビシェフ関数の$\psi$関数の漸近公式を与えることができます。まず、はじめに$\psi(x)$をゼータ関数と関連付ける積分表示を与え、この積分を 前の記事 で示した不等式を武器に評価していくことで、我々のゴールであった$\psi(x)\sim x$が示され、 最初の記事 のような形で素数定理が示されるわけです。それでは見ていきましょう!

まず、チェビシェフ関数についてもう一度定義し直しておきます。

フォン・マンゴルト関数、チェビシェフの$\psi$関数

正整数$n$に対し、
\begin{equation} \Lambda(n)=\begin{cases} \log p &(\mbox{ある素数$p$と整数$m$が存在し}n=p^m)\\ 0 & (\mathrm{otherwise}) \end{cases} \end{equation}
と定める。これをフォン・マンゴルト関数という。
さらにチェビシェフの$\psi$関数を次式で定める。
\begin{equation} \psi(x)=\sum_{1\leq n\leq x}' \Lambda(n) \end{equation}
なお、$\sum_{1\leq n\leq x}'$は不連続点においては、上極限と下極限の平均をとることを意味する。

$\psi(x)$とゼータ関数の関連付け

この関連付けはペロンの公式の特殊な場合を適用していく方針になります。ペロンの公式とは、ディリクレ級数からその係数の和を復元する方法を与えるものですが、その核となるのは次の積分です。

$c,x>0$とする。
\begin{equation} I(x)=\frac{1}{2\pi i}\int_{c-i\infty}^{c+i\infty} \frac{x^s}{s}ds= \begin{cases} 1 & (x>1)\\ \frac{1}{2} & (x=1)\\ 0 & (0< x<1)\\ \end{cases} \end{equation}
が成り立つ。ここで広義積分は$\int_{c-i\infty}^{c+i\infty}=\lim_{T\to\infty}\int_{c-iT}^{c+iT}(T\in\mathbb{R})$を意味する。

$f(s)=\frac{x^s}{s}$とおこう。$0< x<1,x=1,1< x$の場合を分けて考える。まず$0< x<1$のとき、
\begin{equation} \int_C f(s)ds \end{equation}
を考える。ここで$M>0$を十分大きな実数とし、$C=C_1$であり、$C_1$が線分$\{c+it\mid -T\leq t\leq T\}$$C_2$が線分$\{\sigma+iT\mid c\leq\sigma\leq M\}$$C_3$が線分$\{M+it\mid T\geq t\geq ^T\}$$C_4$が線分$\{\sigma-iT\mid M\geq\sigma\geq c\}$であり、それぞれ図1のように向きづけられているとする。

!FORMULA[27][-976361209][0]のときの積分経路 $0< x<1$のときの積分経路

$f(s)$$C$の内部で正則なので、コーシーの積分定理より、$\int_C f(s)ds=0$である。また、$0< x<1$であるので$M\to\infty$の極限において$f(s)$は一様に0に収束するから、$M\to\infty$のとき$\int_{C_3} f(s)ds\to 0$である。$f(s)$は実軸上では実関数を定める正則関数であるから、$\overline{f(s)}=f(\bar{s})$に注意すれば、$\int_{C_2+C_4}f(s)ds$は純虚数になることが分かる。さらに$C_2$は実軸に平行なので、次の式が成り立つ。
\begin{equation} \int_{C_2+C_4} f(s)ds=2i\int_{C_2} \Im(f(s))ds \end{equation}
$f(s)$の定義から$0< x<1$において、この式は$M\to\infty$においても収束し、さらに$T\to\infty$において、$\int_{C_2+C_4} f(s)ds\to0$と分かる。よって、$C$$M\to\infty$とした後$T\to\infty$とすれば、
\begin{equation} \frac{1}{2\pi i}\int_{c-i\infty}^{c+i\infty} \frac{x^s}{s}ds=0\quad(0< x<1) \end{equation}
が分かる。続いて$1< x$の場合を示す。$0< x<1$の証明において、$M\to-\infty$とすれば、$1< x$では$f(s)\to 0$となるので、図1.の積分路を虚軸で折り返せば全く同様にして証明ができるが、今回は別の積分経路をとってみる。

!FORMULA[55][36882813][0]のときの積分経路 $x>1$のときの積分経路

すなわち、積分$\int_C f(s)ds$において、$C$$C_1$を線分$\{c+it\mid -T\leq t\leq T\}$$C_2$を中心$c$半径$T$の半円で図2.のように向きづけられたものとしたとき、$C=C_1+C_2$とする。ただし、$T$は十分大きくとっておく。$C$の内部の$f(s)$の極は$s=0$のみであり、その点における$f(s)$の留数は1であるから留数定理より、
\begin{equation} \frac{1}{2\pi i}\int_C f(s)ds=1 \end{equation}
である。$T\to\infty$のとき、$\int_{C_2} f(s)ds\to 0$を示をしめせばよい。$C_2$上の点を実部が$-\log T$以下の部分$C_3$とそうでない点$C_4$に分けて考えると、実部が$-2\log T$以下の$C_3$では$\int_{C_3}f(s)ds=O(x^{-\log T})$となり、$C_4$では$\int_{C_4}f(s)ds=O(\frac{\log T}{T})$となる。いづれにしろ$T\to\infty$$\int_{C_2} f(s)ds\to 0$であるので、
\begin{equation} \frac{1}{2\pi i}\int_{c-i\infty}^{c+i\infty} \frac{x^s}{s}ds=1\quad(x>1) \end{equation}
である。最後に$x=1$の場合は愚直に計算する。
\begin{equation} I(1)=\frac{1}{2\pi i}\lim_{T\to\infty}\int_{c-iT}^{c+iT}\frac{1}{s}ds=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^\infty\frac{c}{c^2+t^2}dt=\frac{1}{2} \end{equation}
よりすべての結果が得られた。

$\Re(s)>1$において次の式が成り立つ。
\begin{equation} \sum_{n=1}^\infty\frac{\Lambda(n)}{n^s}=- \frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)} \end{equation}

前の記事の命題1.より、
\begin{equation} \log\zeta(s)=\sum_{n=2}^\infty \frac{\Lambda(n)}{n^s\log n} \end{equation}
より、両辺を$s$で微分して、
\begin{equation} \frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}=-\sum_{n=2}^\infty\frac{\Lambda(n)}{n^s}=-\sum_{n=1}^\infty\frac{\Lambda(n)}{n^s} \end{equation}
であるから成り立つ。なお極限操作の交換の妥当性は$\Re(s)>1$における広義一様収束性より従う。

これらの命題を合わせて、次の結果が得られます。

$c>1$において次の式が成り立つ。
\begin{equation} \psi(x)=\frac{1}{2\pi i}\int_{c-i\infty}^{c+i\infty}\frac{x^s}{s}\left(-\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}\right)ds \end{equation}

命題1,2.より、
\begin{align} \frac{1}{2\pi i}\int_{c-i\infty}^{c+i\infty}\frac{x^s}{s}\left(-\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}\right)ds &=\frac{1}{2\pi i}\int_{c-i\infty}^{c+i\infty}\frac{x^s}{s}\sum_{n=1}^\infty \frac{\Lambda(n)}{n^s}ds\\ &=\sum_{n=1}^\infty\Lambda(n)\frac{1}{2\pi i}\int_{c-i\infty}^{c+i\infty}\frac{1}{s}\left(\frac{x}{n}\right)^sds\\ &=\sum_{n=1}^\infty\Lambda(n)I\left(\frac{x}{n}\right)\\ &=\sum_{n\leq x}'\Lambda(n)\\ &=\psi(x) \end{align}
となるので示された。なお、途中の極限操作の交換は一様収束性より従う。また、$I(x)$は命題1.と同じ記号である。

$\psi(x)\sim x$の証明

いよいよ目的の定理の証明です。その前に一つ補題を示しておきます。

$-\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}$$s=1$において1位の極をもち、この点における留数は1である。

$\zeta(s)$$s=1$で1位の極をもち、この点における留数は1より、正則関数$h(s)$であって、
\begin{equation} \zeta(s)=\frac{1}{s-1}+h(s) \end{equation}
となるものがとれるから、
\begin{equation} -\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}=\frac{1}{s-1}\frac{1+(s-1)^2 h'(s)}{1+(s-1)h(s)} \end{equation}
と書けるので明らか。

$\psi(x)\sim x$が成り立つ。

$c>1$を適当にとって固定しておく。補助的に関数$\psi_1(x)$
\begin{equation} \psi_1(x)=\int_0^x \psi(u)du \end{equation}
で導入する。定理3.より、
\begin{align} \psi_1(x)&=\frac{1}{2\pi i}\int_0^x \int_{c-i\infty}^{c+i\infty}\frac{u^s}{s}\left(-\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}\right)dsdu\\ &=\frac{1}{2\pi i}\int_{c-i\infty}^{c+i\infty}\int_0^x \frac{u^s}{s}\left(-\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}\right)duds\\ &=\frac{1}{2\pi i}\int_{c-i\infty}^{c+i\infty}\frac{x^{s+1}}{s(s+1)}\left(-\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}\right)ds \end{align}
が成り立つ。ここで積分の順序交換は命題1.の証明から$x$を固定したときに、$[0,x]$における$\lim_{T\to\infty}\int_{c-iT}^{c+iT}\frac{u^s}{s}\left(-\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}\right)ds$の収束は一様であることが分かるので正当化される。
\begin{equation} F(s)=\frac{x^{s+1}}{s(s+1)}\left(-\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}\right) \end{equation}
とおけば、補題4.より$F(s)$$s=1$において1位の極をもち、この点における留数は$\frac{x^2}{2}$である。下図のような積分路$C$$\int_C F(s)ds$を考えよう。

!FORMULA[118][1096599368][0]の積分路 $F(s)$の積分路

ここで$C_3,C_7$$\Re(s)=1$上にあり、$C_4,C_6$$\Im(s)=2$上にある。$C_5$は虚軸に平行で、$F(s)$$C$の内部に1以外の極をもたないように1の十分近くにとる。極は孤立しているから、このようなとり方は可能である。また、$C_4,C_5,C_6$上にも$F(s)$は極をもたないものとする。$\zeta(s)$$\Re(s)=1$上に零点をもたないので、$C_3,C_7$上には$F(s)$が特異点となるような点は存在しない。よって、留数定理から
\begin{equation} \frac{1}{2\pi i}\int_C F(s)ds=\frac{x^2}{2} \end{equation}
が成り立つ。まず、$T\to\infty$における極限を考えよう。$C_2,C_8$上では 記事2 の命題6.系より、$\left|\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}\right|\leq C|t|^\frac{1}{2}$とできるので、
\begin{equation} \left|\int_{C_i} F(s)ds\right|\leq \int_{C_i}|F(s)|ds\leq \frac{C'}{T\sqrt{T}}\to 0\quad(i=2,8) \end{equation}
となり、また、$T\to\infty$において
\begin{equation} \frac{1}{2\pi i}\int_{C_1}F(s)ds\to \psi_1(x) \end{equation}
以上をまとめると$T\to\infty$とすることで、
\begin{equation} \psi_1(x)+\frac{1}{2\pi i}\sum_{i=3}^7\int_{C_i}F(s)ds=\frac{x^2}{2} \end{equation}
となるから、仮に$T\to\infty$とした後のすべての$i=3,4,5,6,7$において、
\begin{equation} \lim_{x\to\infty}\frac{2}{x^2}\int_{C_i}F(s)ds\to0 \end{equation}
が成り立てば、$\psi_1(x)\sim \frac{x^2}{2}$が成り立つ。以下、これを示す。まず$C_3$について、$|t|\geq 2$であれば、再びある定数$C>0$をとって、$\left|\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}\right|\leq C|t|^\frac{1}{2}$とできるので、十分大きな$x$に対して、
\begin{align} \left|\int_{C_3}F(s)ds\right|&=x^2\left|\int_2^\infty \frac{x^{it}}{(1+it)(2+it)}\frac{\zeta'(1+it)}{\zeta(1+it)}dt\right|\\ &=\frac{x^2}{\log x}\left|\int_{\frac{2}{\log x}}^\infty\frac{e^{it}}{(1+it\log x)(2+it\log x)}\frac{\zeta'(1+it\log x)}{\zeta(1+it\log x)}dt\right|\quad(t\mbox{を}t\log x\mbox{で置換。})\\ &\leq C\frac{x^2}{\log x}\int_{\frac{2}{\log x}}^\infty \frac{1}{(t\log x)^\frac{3}{2}}dt\\ &\leq C\frac{x^2}{(\log x)^2} \end{align}
となるので、$x\to\infty$において、$\frac{2}{x^2}\int_{C_3}F(s)ds\to 0$である。$C_7$も同様に示せる。$C_5$上の点の実部を$\sigma_0$としよう。$C_4$上では$\frac{1}{s(s+1)}\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}$は有界なので、十分大きな$M>0$をとれば、
\begin{align} \left|\int_{C_4}F(s)ds\right|&=\left|\int_{\sigma_0}^1 \frac{x^{1+\sigma+2i}}{(\sigma+2i)(1+\sigma+2i)}\frac{\zeta'(\sigma+2i)}{\zeta(\sigma+2i)}d\sigma\right|\\ &\leq M\int_{\sigma_0}^1 x^{1+\sigma}d\sigma\\ &=M\left(\frac{x^2}{\log x}-\frac{x^{1+\sigma_0}}{\log x}\right) \end{align}
であるので、$x\to\infty$において、$\frac{2}{x^2}\int_{C_4}F(s)ds\to 0$である。$C_6$も同様である。最後に$C_5$について、同様に$C_5$上で$\frac{1}{s(s+1)}\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}$は有界なので、十分大きな$M>0$をとれば
\begin{equation} \left|\int_{C_5}F(s)ds\right|\leq Mx^{1+\sigma_0} \end{equation}
となる。ゆえに$x\to\infty$において、$\frac{2}{x^2}\int_{C_5}F(s)ds\to 0$である。これらをまとめると、$\psi_1(x)\sim\frac{x^2}{2}$となる。すなわち、
\begin{equation} \int_0^x \psi(u)du\sim \frac{x^2}{2} \end{equation}
であるので、
\begin{equation} \int_0^x\psi_1(u)du=\frac{x^2}{2}+x^2\varepsilon(x) \end{equation}
とおける。ここで$\varepsilon(x)$は誤差項で$\lim_{x\to\infty}{\varepsilon(x)}=0$を満たす。
$\alpha>1$を一つとって固定する。$\eta(x)=(\alpha x)^2\varepsilon(\alpha x)-x^2\varepsilon(x)$とおけば、
\begin{equation} \int_x^{\alpha x}\psi(u)du=\frac{\alpha^2-1}{2}x^2+\eta(x) \end{equation}
ここで$\psi(x)$平均値の定理$1< c<\alpha$となる$c$が存在し、
\begin{equation} (\alpha-1)x\psi(cx)=\frac{\alpha^2-1}{2}x^2+\eta(x) \end{equation}
となるので、
\begin{equation} \psi(cx)=\frac{\alpha+1}{2}x+\frac{2\eta(x)}{(\alpha-1)x} \end{equation}
である。$\alpha\to 1$のとき、$m(x)=\sup_{y\in[x,\alpha x]}\varepsilon (x)$とおけば、$\left|\frac{2\eta(x)}{(\alpha-1)x}\right|\leq 5xm(x)<\infty$であり、$x$が素数$p$のべきなら、$\psi(cx)\to\psi(x)+\frac{\log p}{2}$、そうでないなら$\psi(cx)\to\psi(x)$である。$p\leq x$であるから、いづれにしろ、
\begin{equation} \psi(x)=x+x\varepsilon(x) \end{equation}
として再び誤差項を$\varepsilon(x)$とおいたとき、$\varepsilon(x)\to 0\quad(as\,x\to\infty)$であることが分かる。これは$\psi(x)\sim x$に他ならない。

投稿日:20221215

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東京大学理学部情報科学科B2

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