この記事は直積集合や直積位相の解説でもある.
『ナビエ-ストークス方程式の解の存在と滑らかさの直観的議論および一意性』 では普通の数学では正当化できない論法を用いている. そこでは, 写像$\varPhi:$
$$\varPhi[u](t, x)=\left( \int_{\mathbb{R} \times \mathbb{R}^3} E^i(s, y) \, ( \, f^i(t-s, x-y) - (u \cdot \nabla)u^i(t-s, x-y))dsdy\right)_{i=1, 2, 3}$$
の不動点, すなわち$\varPhi[u]=u$となる$u$の存在で正当化できないか考えている.
私が今まで考えてきたのはバナッハの不動点定理(縮小写像の原理)による物だった. それによれば解の一意性も得られるが, うまくいくかはまだわからない. 別の不動点定理として, 例えば以下のふたつがある.
$X$を局所凸線型位相空間の空でないコンパクト凸集合とし, $T:X\to X$を連続とすると, $Tx=x$となる点$x \in X$が存在する.
$X$をノルム空間の空でないコンパクト凸集合とし, $T:X\to X$を連続とすると, $Tx=x$となる点$x \in X$が存在する.
(高橋渉『非線形関数解析学 不動点定理とその周辺』156ページ目にどちらもある)
しかし無限次元ノルム空間の有界閉集合はノルムから定まる位相でコンパクトではないので, 普通に閉球などを考えてもコンパクトではなくなる. そこで, 次の定理を使えるのではないかとTwitterで教えていただいた. 以下線型空間の係数体は$\mathbb{R}$とする.
$V'$をノルム空間$V$の双対空間とする. $V'$の閉単位球
$\{ \ell \in V' \mid \|\ell\|_{V'}\le 1\}$
は汎弱位相でコンパクトである.
(谷島賢二『新版 ルベーグ積分と関数解析』182ページ, 高橋14ページ)
ヒルベルト空間$H^m$はリースの表現定理によって$(H^m)'=H^m$とみなせる. これは$\ell \in (H^m)'$に対して或る$F \in H^m$が一意に存在して, 任意の$\varphi \in H^m$に対して
$\langle \ell, \varphi \rangle =(F, \varphi)_{H^m}$
となり$\ell$と$F$を同一視することである. また$\|\ell\|_{(H^m)'}=\|F\|_{H^m}$である.
谷島氏の本では汎弱位相の根底にある直積集合と直積位相についてかなり雑に書いてあったので, 以下自分にも説明するつもりで記事を書く.
集合$A$と集合$B$に対してその直積$A\times B$は次のように定義される.
$A \times B = \{(a, b)\mid a \in A, b \in B\},$
ここで$(a, b)$は$a$と$b$の順序付きの組である.
厳密には$(a, b)=\{a, \{a, b\}\}$とする.
$xy$平面において$A$が$x$軸上の区間で$B$が$y$軸上の区間ならば$A \times B$は$xy$平面の長方形である(無限に伸びていたり境界の辺を含まないこともある).
位相空間$X$の開集合系の部分集合$\mathcal{B}$が開基であるとは, $X$の任意の開集合$U$に対して或る$\mathcal{B}' \subseteq \mathcal{B}$が存在して
$U=\bigcup\mathcal{B}'$
となることを言う.
$X_1, X_2$を位相空間とする. $X_1$の開集合系を$\mathcal{O}_{X_1},$ $X_2$の開集合系を$\mathcal{O}_{X_2}$とするとき,
$\{ U \times V \mid U \in \mathcal{O}_{X_1}, V \in \mathcal{O}_{X_2}\}$
によって生成される(開基とする)$X_1 \times X_2$の位相を直積位相という.
集合$X$の位相$\mathcal{O}_1, \mathcal{O}_2$について
$\mathcal{O}_1 \subset \mathcal{O}_2$
である時, 前者の開集合は後者の開集合でもあるから, 前者は後者より弱い, 後者は前者より強い, と言う.
ここで, $\lambda =1, 2$として射影
$p_{\lambda}:X_1 \times X_2 \to X_{\lambda}$
を考える. 直積位相について$p_{\lambda}$は連続である.
一方, $X_1 \times X_2$に位相が入っていない時, $p_1$が連続となるような$X_1 \times X_2$の最弱位相の開集合系は
$p_1^{-1}(\mathcal{O}_{X_1})=\{p_1^{-1}(U) \mid U \in \mathcal{O}_{X_1}\}=\{U \times Y \mid U \in \mathcal{O}_{X_1}\}$
であり, 同様に$p_2$が連続となる$X_1 \times X_2$の最弱位相の開集合系は
$p_2^{-1}(\mathcal{O}_{X_2})=\{p_2^{-1}(V) \mid V \in \mathcal{O}_{X_2}\}=\{X \times V \mid V \in \mathcal{O}_{X_2}\}$
であり, いずれの$p_{\lambda}$も連続となるような最弱位相が$X_1 \times X_2$の直積位相である.
これらだけでは汎弱位相は定義できない. 集合族の直積と直積位相の定義を書く. 以上がヒントになるであろう.
集合族$(X_{\lambda})_{\lambda \in \Lambda}$に対してその直積を, 添え字集合$\Lambda$から$\bigcup_{\lambda \in \Lambda}X_{\lambda}$への写像$c$の全体:
$\prod_{\lambda \in \Lambda}X_{\lambda}=\{ c: \Lambda \to \bigcup_{\lambda \in \Lambda}X_{\lambda} \mid \forall \lambda \in \Lambda, c(\lambda) \in X_\lambda\}$
として定義する. $c$は集合族$(X_{\lambda})_{\lambda \in \Lambda}$に対して$X_\lambda$から要素をひとつずつ選んでいるので$c$を選択関数という.
全ての$\lambda$について$X_\lambda$が一定の集合$X$ならば$\prod_{\lambda \in \Lambda}X_{\lambda}$は$\Lambda$から$X$への写像全体の集合$X^\Lambda$とみなせる($\Lambda$の要素の個数が$n$で$X$の要素の個数が$m$のとき$X^\Lambda$の要素は積の法則により$m^n$個である).
さらに$\Lambda=\{1, 2\}$ならば, $c$は
$c:1 \mapsto x_1$
$c:2 \mapsto x_2$
なので$X^{\{1, 2\}}=X \times X$とみなせる.
位相空間の族$(X_\lambda, \mathcal{O}_\lambda)_{\lambda \in \Lambda}$について, $\prod_{\lambda \in \Lambda}X_{\lambda}$の射影
$p_\lambda:\prod_{\lambda \in \Lambda}X_{\lambda}\to X_\lambda$
の全てを連続にする最弱位相を$\prod_{\lambda \in \Lambda}X_{\lambda}$の直積位相という. これは
$\prod_{\lambda \in \Lambda}U_{\lambda}$
($U_\lambda \in \mathcal{O}_\lambda$かつ有限個の$\lambda$を除き$U_\lambda=X_\lambda$)
の全体を開基とする位相である.
位相空間$(X, \mathcal{O}_X)$と$A \subseteq X$に対して
$\mathcal{O}_A=\{O \cap A \mid O \in \mathcal{O}_X\}$
とすると$\mathcal{O}_A$は集合$A$の開集合系になる. 位相空間$(A, \mathcal{O}_A)$を位相空間$(X, \mathcal{O}_X)$の部分空間という.
忘却関手っぽい写像
$V' \ni \ell \mapsto \ell \in \mathbb{R}^V=\prod_{\lambda \in V}\mathbb{R}$
によって$V'$を$\mathbb{R}^V$の部分空間とみなしたときの相対位相を$V'$の汎弱位相という.
汎関数列が汎弱収束することは汎弱位相による収束と同値である.
チコノフの不動点定理やシャウダーの不動点定理で$X$を汎弱位相でコンパクト凸になるように定めて$\varPhi$が$X$から$X$へ連続写像であると言えれば, 直観的議論が正当化できるだろう.