未知の関数とその微分で記述された方程式を 微分方程式 といいます.たとえば,
のような方程式です.一般的な方程式では具体的な値を解として求めるのに対し,微分方程式では関数を解として求めるのが大きな特徴のひとつです.
さて,微分方程式にも積分計算と同様に「解けない」という場合が多くあります.そして,ここでいう「解けない」とは,解を初等関数のみで構成することができない ということを指しています.
初等関数とは,多項式関数,三角関数,逆三角関数,指数関数,対数関数,およびその有限回の和差積商と合成で表される関数をいいます.無理関数や双曲線関数,およびその逆関数である逆双曲線関数は指数関数によって定義されるため,これらも初等関数に含まれます.また,絶対値関数も無理関数を用いて表すことができるため,これも初等関数に含まれます.このことから,(我々に馴染みのある)多くの関数が初等関数であるとわかります.
ここで,再び上に例として挙げた微分方程式:
について考えてみます.この後に証明しますが,この微分方程式の解は初等関数では表すことができないことがわかります.すなわち,この意味で上の微分方程式は解くことができないわけですが,解が特定できないわけではありません.実際,この微分方程式の解は,
という整級数に帰着されます.形としては,指数関数の Maclaurin 級数に$x \mapsto -x^2$を代入して積分したものですね.このような解の特定の仕方を 級数解法 といいます.これはそこまで難しい内容ではないので,ここでは割愛します.
さて,微分方程式が解けるかどうか,すなわち微分方程式の解が初等関数のみで構成することができるかの判定は 微分 Galois 理論 と呼ばれる概念を導入することによって行うことができます.
よく知られた「微分」のついていない Galois 理論は,もともと高次方程式が代数的に解けるかどうか,すなわち与えられた高次方程式の係数から出発して,四則演算とべき根をとる操作を有限回繰り返し,方程式の根を表示することが可能であるかどうかを判定するために発展しました.これを微分方程式にも応用した理論が微分 Galois 理論です.
微分 Galois 理論の研究のひとつで,以下の定理が成り立つことが知られています.
有理関数$f$と$g$に対して,
なる微分方程式が解ける,すなわち初等関数のみで解を構成することができるための必要十分条件は,ある有理関数$h$に対して,
が成り立つことである.
この定理を用いて,微分方程式:
が初等関数の範囲で解けないことを証明してみます.方針は背理法で,方程式$(2.1)$を満たす有理関数$h$が存在すると仮定します.ただし,ここで$f(x)=1$, $g(x)=-x^2$です.
一般に,有理関数は,互いに素な多項式$p(x)$と$q(x)$を用いて$p(x)/q(x)$という具合に表すことができます.ただし,ここで多項式が互いに素であるとは,定数関数以外の公約式をもたないことをいいます.すなわち,$p(x)/r(x)$と$q(x)/r(x)$がどちらもともに多項式であるような$r(x)$は定数関数以外存在しない,ということです.
さて,このように有理関数$h$を互いに素な多項式$p(x)$と$q(x)$を用いて$h(x) = p(x)/q(x)$と表します.その微分は
となり,これを方程式$(2.1)$に代入すると,
が得られます.両辺に$q(x)^2$を乗じると,
となり,これを
のようにします.左辺は多項式ですから,当然右辺も多項式となります.すなわち,$q(x)$は$p(x) \, q'(x)$を割り切ります.しかし,$p(x)$と$q(x)$は互いに素ですから,これより$q(x)$が$q'(x)$を割り切ることとなります.
よって,ある多項式$s(x)$が存在して,$q'(x) = s(x) \, q(x)$となります.$q(x)$の最高次数を仮に$n$とすると,$n \geq 1$以上のとき左辺の次数は$n-1$,右辺の次数は$n+\deg s \geq n$となるので矛盾です.したがって$n<1$となりますが,この場合ゼロ次以下の多項式は定数なので,$q(x)$は定数です.
したがって,$h(x) = p(x)/q(x)$は多項式です.そして最後に方程式$(2.1)$に戻ると,左辺はゼロ次の多項式ですが,右辺の次数は$\deg h + 1$です.次数が負の値になることはないため,これは矛盾です.したがって,方程式$(2.1)$を満たす有理関数$h(x)$は存在しないため,もとの定理より,微分方程式:
は初等関数の範囲で解くことが不可能であることが証明されました.
体論はまだまったく勉強していないので,まわりを取り巻く環境が落ち着いたら勉強し始めたいです.とても面白そうです.