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大学数学基礎解説
文献あり

ネーター環の同値な定義と既約イデアル分解について

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この記事ではネーター環の同値な定義である

  • (昇鎖条件):イデアルの任意の昇鎖列は有限回で停止する.
  • (極大条件):イデアルの空でない任意の族は包含関係に関する極大元を持つ.

の同値性を確認して、ネーター環の任意のイデアルが既約イデアルで分解できることを示します。
この記事では証明しませんが、ネーター環の既約イデアルは準素イデアルになることがわかっており、私が今勉強しているイデアル類群の話に繋がっていくので、今後それらの記事を書く前座として先の性質の確認していきたいと思います。

定義など

$R$を可換環とします。$R$がネーター環であるとは昇鎖条件を満たしていることとします。論理記号を用いると

$R:\text{Noetherianring}:= \forall \{I_n\}_{n \in \mathbb{N}}:昇鎖列^{※},\exists n_0 \in \mathbb{N},「I_{n_0} =I_{{n_0}+1}=I_{{n_0}+2}=\dots」 (R \supset I_n:\text{ideal}) $

次に$I$が既約イデアルであることを

$I:\text{irreducible} := 「I=J_1 \cap J_2 ⇒I=J_1 \lor I=J_2」(J_1,J_2:\text{ideal}) $

と定義します。

$\{I_n\}_{n \in \mathbb{N}}が昇鎖列であるとは$
$ I_1 \subset I_2 \subset I_3 \subset I_4 \subset I_5 \subset ... $
となることである.

証明

以下の2条件は同値である

  • (昇鎖条件):イデアルの任意の昇鎖列は有限回で停止する.
  • (極大条件):イデアルの空でない任意の族は包含関係に関する極大元を持つ.

(昇鎖条件)$⇒$(極大条件) から示す
$あるRのイデアル族$$\mathfrak{A} \neq \emptyset $$が存在して, \subsetに関して極大元を持たないと仮定する.$
$この時「\forall I \in \mathfrak{A},\exists J \in \mathfrak{A},I \subsetneq J」$であるが, この操作により
$ I_1 \subsetneq I_2 \subsetneq I_3 \subsetneq I_4 \subsetneq \dots $,
となるイデアル増大列$\{I_n\}_{n \in \mathbb{N}}$が作れて昇鎖条件に矛盾するので示せた.

次に(極大条件)$⇒$(昇鎖条件) を示す
$\{I_n\}_{n \in \mathbb{N}}:$昇鎖列$(R \supset I_n:\text{ideal})$」を取る.
仮定より「$\exists J \in \{I_n\}_{n \in \mathbb{N}},\forall n \in \mathbb{N}:J \subset I_n⇒J=I_n$」である.
ここで「$\exists n_0 \in \mathbb{N} ,J = I_{n_0}$」である.
$\therefore 「J = I_{n_0}\subset I_{{n_0}+1}\subset \dots = J$ $ (\because\{I_n\}_{n \in \mathbb{N}}:昇鎖列)$
$\therefore「 \exists n := n_0 \in \mathbb{N},I_{n_0} =I_{{n_0}+1}=I_{{n_0}+2}=\dots$
これは昇鎖条件を示している.

今回は二つの同値な条件についての確認をしましたが、もう一つ同値な言い換えがあります。
気になる人は示してみてはいかがでしょう。

$R:\text{Noetherianring}$
$ ⇔ \forall I \subset R$$(I:\text{ideal}),\exists a_1,a_2,\dots,a_n \in R,I=(a_1,a_2,\dots,a_n)$
(※「$(r)$:$\text{Ideal of R generated by r}$」)

これはネーター環の任意のイデアルが有限生成であることを言っています。
それではネーター環の任意のイデアルが既約イデアルで分解できることを示していきましょう。

$R:\text{Noetherianring}$
$⇒\forall I \subset R$$\displaystyle (I:\text{ideal}),\exists K_1,K_2,...,K_n \in R:I=\bigcap_{i=1}^nK_i$$(K_{1 \le i \le n}:\text{irreducible})$

$R:\text{Noetherianring}$とする.
$\mathfrak{B}:Rの既約イデアルの共通部分で表せない\text{ideal}の族$」とおく.
$\mathfrak{B} \neq \emptyset$と仮定する.
命題1で扱った極大条件により, 極大元$I \in \mathfrak{B}$がとれる.
$I \in \mathfrak{B}$より,特に$I$は既約イデアルでないので
$I=J_1 \cap J_2 \land I \subsetneq J_1 \land I \subsetneq J_2$$(R \supset \exists J_1,J_2:\text{ideal})$
$(\because \neg「I=J_1 \cap J_2 ⇒I=J_1 \lor I=J_2」⇔「I=J_1 \cap J_2 \land I \subsetneq J_1 \land I \subsetneq J_2」)$
ここで$I$の極大性により$J_1,J_2 \notin \mathfrak{B}$
$\displaystyle\therefore$$\exists K_{1}^1,K_{2}^1,...,K_{n}^1,K_{1}^2,K_{2}^2,...,K_{m}^2 \in R,「J_1=\bigcap_{i=1}^{n}K_{i}^1,J_2=\bigcap_{i=1}^{m}K_{i}^2」$$\displaystyle (K_{i}^{j}:\text{irreducible})$
$\displaystyle\therefore I=\bigcap_{i_2=1}^{m} \bigcap_{i_1=1}^{n} \bigcap_{k=1,2}K_{i_k}^k$
以上より$I \notin \mathfrak{B}$であり矛盾
$\therefore \mathfrak{B} = \emptyset$, よって題意は示された.

同値な条件を使えばサックっと示せてしまいましたね。

終わりに

慣れている人であれば息をするように証明を行うことができると思うんですけど、普通なら結構重めの内容だと思ったので、示す命題を減らしてできるだけコンパクトに纏めました。気になった時に追記するかもしれません。
あと本記事ではAtiyah-MacDonald可換代数入門を参考にしています。可換環論に興味をもっている方にとてもおススメします(まだ読み切れてない←)
また本記事で間違っているところなどあればご指摘お願いします(アティマクに限らず専門書を一人で読んでいるので変なところを指摘されたい!!!)。

お疲れさまでした。

参考文献

[1]
Michael Francis Atiyah, Atiyah-MacDonald 可換代数入門
投稿日:2023219

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