ここでは, 理論の本質をそのままに, 簡単な例で解説する.
$f$は定数とする. $u$の二次方程式$u=f-u^2$の解の, $u$と$f$の範囲を制限した上での解の一意存在を言いたい. $\varPhi[u]=f-u^2$として, $\varPhi$が或る集合$S$において(以下に述べる)縮小写像として定義できれば, $S$において$u=\varPhi[u]$となる$u$(不動点)の$S$における一意存在, すなわち上の二次方程式の解の$S$における一意存在が言える.
ここで, いったん一般論を述べる.
$S, T\subseteq\mathbb{R}$とする. 関数$\varPhi:S\to T$がリプシッツ連続であるとは, 或る定数$L\gt 0$が存在して任意の$u, v\in S$に対して
$|\varPhi[u]-\varPhi[v]|\le L|u-v|$
が成り立つことである. これは$u\neq v$のとき
$|\varPhi[u]-\varPhi[v]|/|u-v|\le L$
と書けばわかるように, 2点$(u, \varPhi[u]), (v, \varPhi[v])$を通る直線の傾きの絶対値が必ず有界であることである.
$L\lt 1, T \subseteq S$のとき$\varPhi:S \to S$は縮小写像という. $|\varPhi[u]-\varPhi[v]|\le L|u-v|$という条件において$L$が小さいから関数値の距離が2点間の距離より縮まっているという意味である. $S$が閉区間で$\varPhi$が縮小写像のとき$uy$平面で$y=\varPhi[u]$のグラフと$y=u$のグラフは1点で交わる. それが縮小写像の原理である.
もとの話に戻る. $\varPhi$を$S=[-M, M]$に制限すると$|u|, |v|\le M$だから
$|\varPhi[u]-\varPhi[v]|$
$=|-(u^2-v^2)|$
$=|u+v||u-v|$
$\le (|u|+|v|)|u-v|$
$\le 2M|u-v|$
となり$\varPhi$はリプシッツ連続である. $2M\lt 1$となるように$M$を取れば$\varPhi$は縮小写像である:$\varPhi$は$S$において最小値$f-M^2$を取り最大値$f$を取るから$-M\le f-M^2$かつ$f\le M$の時, すなわち$M(M-1)\le f \le M$のとき$\varPhi$の値域は$S$に含まれる. よって$2M\lt 1$かつ$M(M-1)\le f \le M$を満たす$M$が存在するとき$S=[-M, M]$において$u=\varPhi[u]$の解の一意存在が言える.
実際に二次方程式の解の公式によれば$u=\varPhi[u]$すなわち$u^2+u-f=0$の解$u$は
$u=(-1±\sqrt{1+4f})/2$
であり
$(-1-\sqrt{1+4f})/2\lt (-1-1)/2=-1\lt -1/2\lt -M,$
$0\lt (-1+\sqrt{1+4f})/2\lt (-1+(1+2f))/2=f\le M$
であるから上の直観的説明もあながち間違いではないだろう.