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大学数学基礎解説
文献あり

微分可能性に立ち向かう関数たち_part 1

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この記事は, 北海道大学で2023年1月11日に行われた「オムニバス発表会第8回 微分可能性に立ち向かう関数たち」をもとに作成したものです。

連続と微分可能を結ぶ関数たち

導入

アンドレ=マリー・アンペール(1775-1836)は,1806年の論文で次のような定理を主張した.

任意の関数は有限個の点を除き微分可能である.

ここでいう「関数」というのは, 「連続関数」を想定してよいだろう. 19世紀頃まではこの主張は正しいものと信じられてきた. これは, オイラーやラグランジュの頃には連続関数が何ものであるがよくわかっていなかったことが理由の1つであるだろう (詳しくは[1]).

しかし, 実際にはこの主張は正しくない. 例えば, 連続だがほとんどいたるところ微分可能でない関数として,ワイエルシュトラス関数やリーマン関数, 高木関数などが知られている.

  • $$W(x)=\sum_{n=0}^{\infty} b^n \cos(a^n \pi x)$$
    (ただし, $a$は奇整数, $0< b<1$, $ab.1+\frac{3}{2}\pi$.)
    ワイエルシュトラス関数 ワイエルシュトラス関数
    (図は wikipedia から引用.)

  • $$T(x)=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{2^n} \psi(2^n x)$$
    (ただし, $\psi(x)=\min_{n \in \mathbb{N}} |x-n|$)
    高木関数 高木関数
    (図は wikipedia から引用.)

そこで今回は, どのような関数のクラスが微分可能性を保証するのか,連続と微分可能の間にはどのような関数たちが住んでいるのかをみていこう!

連続関数のクラス

以下では, 特に断らない限り,区間$I \subset \mathbb{R}$上で定義された関数$f: I \to \mathbb{R}$を考える. 区間$I$は, 有界であったり非有界であったりするし, 開区間であったり閉区間であったりする. ここでは, 特に制限はしない.

まずは, 連続と微分可能の定義を復習しておこう.

連続

関数$f$$a \in I$連続(continuous)であるとは,
$$\lim_{x \to a} f(x)=f(a)$$
が成り立つことをいう.
$f$が任意の$a \in I$で連続であるとき, $f$$I$上連続であるといい,$I$上の連続関数全体の集合を$C(I)$と表す.

微分可能

関数$f$$a \in I$微分可能(differentiable)であるとは,ある$p \in \mathbb{R}$が存在して,
$$\lim_{x \to a} \frac{f(x)-f(a)-p(x-a)}{|x-a|}=0$$
が成り立つことをいう. この条件を満たす$p$微分係数(differential coefficient)といい, $p=f'(a)$と表す.

$f$$a \in I$で微分可能であれば,$f$$a$で連続であることはすぐにわかる. しかし, その逆は成立しない.

ここからは, 連続と微分可能を結ぶ関数のクラスを紹介し,それらの関係について述べていく.
まずは, 3つの連続関数のクラスを定義する.

一様連続

関数$f$$I$一様連続(uniformly continuous)であるとは, 任意の$\varepsilon>0$に対して, ある$\delta>0$が存在して, $|x-y|<\delta$となる任意の$x,y \in I$に対して,
$$|f(x)-f(y)|<\varepsilon$$
が成り立つことをいう. $I$上の一様連続関数全体の集合を$\mathrm{UC}(I)$と表す.

リプシッツ連続

関数$f$$I$リプシッツ連続(Lipschitz continuous)であるとは, ある定数$L \geqq 0$が存在して, 任意の$x,y \in I$に対して,
$$|f(x)-f(y)| \leqq L|x-y|$$
が成り立つことをいう. $I$上のリプシッツ連続関数全体の集合を$\mathrm{Lip}(I)$と表す. また,上を満たす$L$の下限を$f$リプシッツ定数(Lipschitz constant)といい, $\mathrm{Lip}[f]$と表す.

ヘルダー連続

$\alpha \in (0,1)$とする. 関数$f$$I$$\alpha$-ヘルダー連続($\alpha$-Hölder continuous)であるとは, ある定数$L \geqq 0$が存在して, 任意の$x,y \in I$に対して,
$$|f(x)-f(y)| \leqq L|x-y|^{\alpha}$$
が成り立つことをいう.$I$上のリプシッツ連続関数全体の集合を$C^{\alpha}(I)$と表す. また,$\alpha$$f$ヘルダー指数(Hölder exponent)という.

ここで, ヘルダー連続関数についてコメントしておく. もし$\alpha=1$ならば, リプシッツ連続関数の定義と対応する. もし$\alpha>1$ならば, $f$は定数関数しかない. また, $I$が有界ならば,$0<\beta<\alpha<1$に対して$C^{\alpha}(I) \subset C^{\beta}(I)$が成り立つ.

これらの関数には, 以下のような包含関係がある.

$$\mathrm{Lip}(I) \stackrel{{\rm (i)}}{\subset} C^{\alpha}(I) \stackrel{{\rm (ii)}}{\subset} \mathrm{UC}(I) \stackrel{{\rm (iii)}}{\subset} C(I).$$ ただし,(i)は$I$が有界であるときに成り立つ. また$I$が有界閉集合ならば,(iii)は等号である.

(i): $I$は有界なので, ある$M>0$が存在して, $I \subset [-M,M]$とできる. $f \in \mathrm{Lip}(I)$ならば, 任意の$x,y \in I$に対して,
$$|f(x)-f(y)| \leqq L|x-y| =L\underbrace{|x-y|}_{\leqq |x|+|y|} {}^{1-\alpha}|x-y|^{\alpha} \leqq L(2M)^{1-\alpha}|x-y|^{\alpha}$$
となり, $f \in C^{\alpha}(I)$が分かる.

(ii): 任意に$\varepsilon>0$を取り, $\delta=\sqrt[\alpha]{\frac{\varepsilon}{L}}$と定める.
$f \in C^{\alpha}(I)$ならば, $|x-y|<\delta$となる任意の$x,y \in I$に対して,
$$|f(x)-f(y)| \leqq L|x-y|^{\alpha} < L\delta^{\alpha} =\varepsilon$$
となり, $f \in \mathrm{UC}(I)$が分かる.

(iii): $\mathrm{UC}(I) \subset C(I)$は定義より明らか. また, $I$が有界閉集合ならば, 「背理法」または「ハイネ・ボレルの被覆定理」などを用いることで$C(I) \subset \mathrm{UC}(I)$が分かる.

ここで, これらのクラスに属する関数の例を与えよう.

  1. ($\mathrm{UC}(I) \subset C(I)$であること)
    $f(x)=x^2$$(I=\mathbb{R})$$g(x)=\sin \frac{1}{x}$$(I=(0,1])$は,$f,g \in C(I)$だが$f,g \not\in \mathrm{UC}(I)$.
  2. ($C^{\alpha}(I) \subset \mathrm{UC}(I)$であること)
    $f(x)=\sqrt{x}$ $(I=[0,1])$は,$f \in \mathrm{UC}(I)$だが$f \not\in C^{\alpha}(I)$$(\frac{1}{2}<\alpha<1)$. また, $g(x)= \begin{cases} \frac{1}{\log x} & (x \in (0,\frac{1}{2}]) \\ 0 & (x=0) \end{cases}$は, $g \in \mathrm{UC}(I)$だが$g \not\in C^{\alpha}(I)$ $(0<\alpha<1)$.
  3. ($I$が有界ならば, $\mathrm{Lip}(I) \subset C^{\alpha}(I)$であること)
    $f(x)=\begin{cases} -x\log x & (x \in (0,\frac{1}{e}]) \\ 0 & (x=0) \end{cases}$ は, $f \in C^{\alpha}(I)$$(0<\alpha<1)$だが$f \not\in \mathrm{Lip}(I)$.
  4. ($I$が非有界ならば, $\mathrm{Lip}(I) \not \subset C^{\alpha}(I)$であること)
    $f(x)=x$$(I=\mathbb{R})$は, $f \in \mathrm{Lip}(I)$だが$f \not\in C^{\alpha}(I)$.

これらの関数のうち, どの関数が微分可能性を保証するのだろうか?

実は,「高木関数」や「ワイエルシュトラス関数」などの病的な関数は, ヘルダー連続だが全ての点で微分不可能であることが知られている.
したがって,

ヘルダー連続性は, 微分可能性を全く保証しない!

では, リプシッツ連続関数はどうだろうか? 実は, リプシッツ連続であることは, 微分可能性の必要条件でも十分条件でもない. つまり,$f$が微分可能でもリプシッツ連続になるとは限らず,$f$がリプシッツ連続でも微分可能になるとは限らない.
実際,$f(x)=x^2$$\mathbb{R}$上で微分可能だがリプシッツ連続ではない. また,$g(x)=|x|$$\mathbb{R}$上でリプシッツ連続だが微分可能ではない.

リプシッツ連続関数と微分可能性 リプシッツ連続関数と微分可能性

しかし,次の定理が知られている.

Rademacher’s theorem

リプシッツ連続関数は,「ほとんどいたるところ」(つまりルベーグ測度0の集合を除いて)微分可能.

よって, リプシッツ連続関数は, 通常の意味での微分可能性は保証しないが, 弱い意味では微分可能性を保証していることが分かる.

リプシッツ連続性は, 連続関数の中では非常によい振る舞いをするものである. 例えば, リプシッツ連続関数は常微分方程式の解の存在と一意性を保証する(詳細は略).

微分可能性をもつ関数のクラス

前の節では,リプシッツ連続関数が弱い意味で微分可能性を保証していることを紹介した. ここでは,リプシッツ連続以外に微分可能性を保証する関数のクラスを紹介する.

絶対連続

関数$f$$I$絶対連続(absolutely continuous)であるとは, 任意の$\varepsilon>0$に対して, ある$\delta>0$が存在して, 任意の$N \in \mathbb{N}$$I$上互いに素な任意の部分区間$\{ (x_i,y_i) \}_{i=1}^N$に対して,
$$\sum_{i=1}^N |x_i-y_i|<\delta \Longrightarrow \sum_{i=1}^N |f(x_i)-f(y_i)|<\varepsilon$$
が成り立つ. $I$上の絶対連続関数全体の集合を$\mathrm{AC}(I)$と表す.

ここで, 絶対連続関数についてコメントしておく. 関数$f$が絶対連続関数であることは, 微分積分学の基本定理:
$$f(x)=f(a)+\int_a^x f'(t)\,dt$$
が成り立つための必要十分条件を与えている. 微分積分学の基本定理が成り立たない例として, カントール関数が挙げられる.

これらの関数には以下のような包含関係がある.

$$\mathrm{Lip}(I) \stackrel{{\rm (iv)}}{\subset} \mathrm{AC}(I) \stackrel{{\rm (v)}}{\subset} \mathrm{UC}(I)$$

(iv): 任意に$\varepsilon>0$をとり, $\delta=\frac{\varepsilon}{L}$と定める. $f \in \mathrm{Lip}(I)$ならば, $I$上互いに素な任意の$\{ (x_i,y_i) \}_{i=1}^N$に対して,$$\sum_{i=1}^N |f(x_i)-f(y_i)| \leqq \sum_{i=1}^N L|x_i-y_i| < L\delta =\varepsilon$$
となり, $f \in \mathrm{AC}(I)$が分かる.
(v): $N=1$とすれば定義より明らか.

ここで, これらのクラスに属する関数の例を与えよう.

  1. ($\mathrm{UC}(I) \subset \mathrm{AC}(I)$であること)
    $f(x)=\begin{cases} x\sin \frac{1}{x} & (x \in (0,1]) \\ 0 & (x=0) \end{cases}$は,$f \in \mathrm{UC}(I)$だが$f \not\in \mathrm{AC}(I)$.
  2. ($\mathrm{AC}(I) \subset \mathrm{Lip}(I)$であること)
    $f(x)=\sqrt{x}$ ($x \in [0,1]$)は, $f \in \mathrm{AC}(I)$だが$f \not\in \mathrm{Lip}(I)$.
  3. ($C^{\alpha}(I) \not \subset \mathrm{AC}(I)$かつ$\mathrm{AC}(I) \not \subset C^{\alpha}(I)$であること)
    カントール関数$c(x)$は, $c \in C^{\tau}(I)$$(\tau=\frac{\log 3}{\log 2})$だが$c \not\in \mathrm{AC}(I)$.
    また, $f(x)= \begin{cases} \frac{1}{\log x} & (x \in (0,\frac{1}{2}]) \\ 0 & (x=0) \end{cases}$は, $f \in \mathrm{AC}(I)$だが$f \not\in C^{\alpha}(I)$ $(0<\alpha<1)$.

この微分可能性は次の定理によって分かる.

絶対連続関数$f$は, $I$上ほとんどいたるところ微分可能である.

よって, 絶対連続関数は, 通常の意味での微分可能性は保証しないが, 弱い意味では微分可能性を保証していることが分かる.

おまけ

実は,$\mathbb{R}^n$上の凸関数はほとんどいたるところ2階微分可能というアレクサンドロフの定理(Alexandrov’s theorem)が知られている.

また, 連続関数でない関数では, 単調関数や有界変動関数もほとんどいたるところ微分可能という性質をもつ(詳細は略).

参考文献

[1]
岡本久, 長岡亮介, 関数とは何か: 近代数学史からのアプローチ, 近代科学社, 2012
[2]
佐々木浩宣, ヘンテコ関数雑記帳, 共立出版, 2021
投稿日:202336

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