0
解説大学数学以上
文献あり

ネットからはじめる位相空間論 第2回・ネット(有向点族)・フィルターとリーマン積分

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

はじめに

前回: ネットからはじめる位相空間論 特別編・収束と目標達成

前回,次にリーマン積分をネットだと解釈するとどうなるか?の話をする約束をしました.それを今回やります.

目標:リーマン積分を通してネットとその収束を復習する.
欲張って部分ネット,コーシーネットにも触れてみる.

この記事にコメントを頂いたアライグマさんに感謝申し上げます.3/9,コメントを反映しました.毎度ありがとうございます.

ネットの復習(追加事項あり)

まず定義から.ここはただの前回のコピペですので特に深い意味はありません.わかる人は読み飛ばしても結構です.

有向集合

$\Lambda:\;$集合,$\leq:\;\Lambda$上の二項関係
$(\Lambda,\leq)$有向集合
$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}$以下を満たすこと:
$(1)\leq$が反射的:$\forall x\in\Lambda,\;x\leq x$
$(2)\leq$が推移的:$\forall a,b,c\in\Lambda,\;a\leq b,\;b\leq c\Longrightarrow a\leq c$
$(3)\leq$が反対称的:$\forall p,q\in\Lambda,\;p\leq q,q\leq p\Longrightarrow p=q$
$(4)\leq$が有向的:$\forall\alpha,\beta\in\Lambda,\exists\gamma\in\Lambda\;s.t.\;\alpha\leq\gamma,\beta\leq\gamma$

$(\Lambda,\leq)$$(1),(2)$までを満たすとき$(\Lambda,\leq)$は前順序集合という.
$(\Lambda,\leq)$$(1),(2),(3)$までを満たすとき$(\Lambda,\leq)$は順序集合という.

ネット(有向点族)

有向集合$\Lambda$から集合$X$への写像をネット(有向点族)という.

ネットの収束

$X:\;$位相空間 のネット$\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$$\Lambda:$有向集合)が点$x\in X$収束
$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}$任意の$x$の近傍$U$に対し
$\exists\lambda_0\in\Lambda\;s.t.\;\forall\lambda\in\Lambda,\lambda_0\leq\lambda\Longrightarrow x_{\lambda}\in U$・・・(結局)

☆上のネット$\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$が(結局)を満たすとき,$U$でネット$\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$eventuallyであるという.
つまり,$X:\;$位相空間 のネット$\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$が点$x\in X$に収束するとは,任意の$x$の近傍$U$でネット$\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$がeventuallyであることと言い換えられる.
(ここから追加事項)
このとき点$x$をネット$\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$極限点という.

また上の$\forall$$\exists$とを入れ替えた時にeventuallyと極限点にあたるものがある.

  • 上の記号を用いて
    $\forall\lambda\in\Lambda, \exists\lambda_1\in\Lambda\;s.t.\;\lambda\leq\lambda_1$かつ$x_{\lambda_1}\in U$
    となるとき$U$でネット$\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$frequentlyであるという.
  • また点$x\in X$が,任意の$x$の近傍$U$でネット$\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$がfrequentlyであるとき収積点(cruster point)であるという.
収積点と集積点

同じ読みですが意味が異なるのに注意!
位相空間$X$において点$x$が集積点(accumulation point)であるとは任意に$x$の開近傍を取るとその中に$x$以外の$X$の点が取れるということです.

また一般的な位相空間においてネットの収束先は一意とは限らないことがあります(何となれば密着位相を入れるとネットは任意の点に収束してしまいます).関数解析において道具としてネットを使う際にそもそも道具自体が怪しくて,ネットを用いた議論で怪しくなったときにそれは議論自体に問題があるのかネット(を用いている空間・シチュエーション)に問題があるのかで頭がおかしくなりそうになってしまう,こんなのは嫌です.こういう時に

ネットの収束先があればそれが一意に定まってほしいなあ

と思うわけです.強く強く思う.その思いを汲んで逆に「ネットの収束先があればそれが一意に定まる」性質を満たす空間を最初から考えれば解決!ネットの収束先があれば一つだけである位相空間をHausdorff空間と言います.以下登場する状況は明記されていない限りHausdorff空間を考えるものとします.

リーマン積分の復習

まずは昔の自分がどうやってリーマン積分を定めていたのか見てみましょう.これは 数学IIIからはじめる実解析入門 のときの資料から持ってきたものです.いろいろ気になることはありますがここではあえて手を入れずにそのまま採用してみることにします.

Step1.連続関数に原始関数が存在することを検証

:解析概論p.97-103を見よ.ここでは連続関数に対しその原始関数が存在することを認める.

Step2. 可積分(積分可能)の条件とは何か・定積分とは何かを考える

区間$[a,b]$で有界な連続関数$f(x)\;(x\in[a,b])$を考える.

$[a,b]$$x_1, x_2, \cdots,x_{n-1}$$n$個の区間($I_1, I_2,\cdots,I_{n}$:全て閉区間)に,幅を特に指定しないで分割.
$a< x_1< x_2<\cdots< x_{n-1}< b$
この分割を$\Delta$とする.但し,$I_{j}=x_j-x_{j-1}>0 \;(j=2,3,\cdots,{n-1}), I_1=x_1-a, I_n=b-x_{n-1}$

次に,各区間$I_j (j\in\{1,2,\cdots,n\})$で任意の点$\xi_j$を取って,以下の和
$\sum_{j=1}^{n}f(\xi_j)I_j$
を考える.このとき,
$I\overset{\text{def}}{=}\max\{I_1, I_2,\cdots,I_{n}\}$
とすると,$\lim_{I\to 0}\sum_{j=1}^{n}f(\xi_j)I_j$の極限が存在.それを$J$とすると,これを区間$[a,b]$における$f(x)$の定積分と言い,
$J\overset{\text{def}}{=}\int_{a}^{b}f(x)\;dx$
と表す.

$\mathbb{R}$に含まれる閉区間上で定められた有界な連続関数に対してリーマン積分を定めていますね.すうがく徒のつどいの時は(参加者の皆様がとても優しくて)おとがめなしでしたが,数学者I先生主催のセミナーで同じスライドを使って発表したところ,「リーマン積分を考えられるのは連続な関数に限るんですか?」と条件に突っ込みが入りました.連続関数だと原始関数が考えられるというご利益がありますが,$\mathbb{R}$に含まれる閉区間上で定められた「有界な」関数というだけでリーマン積分が扱えますね.前の自分を一つ越えました.タイムスリップして前の自分に突っ込みを入れたくなりますね.
また上では区間の分割を考えその中で幅が最大のものを0に近づける極限をやりましたが,僕はここにはフィルターが隠れているとにらんでいます.がしかし深入りはせずこの話は今後の自分への宿題ということにしておいて先に進むことにします.我々が興味があるのはあくまでネットです.

ここでこのセクションのまとめ.リーマン積分の定め方には大きく分けて2種類,有名なものがあります.それは

リーマンの可積分条件:近似和の,分割の幅の最大値を0に近づける極限をとる
ダルブーの可積分条件:上から(過剰和)と下から(不足和)が同じ極限値を持つときその値を採用

上の枠の中にあるのは「リーマン流」.そしてこれから考えるのは「ダルブー流」です.
因みにこの両者をつなぐ定理があってそれは「ダルブーの定理」と言います.ややこしいですね.次のセクションにて実質証明をします.

「リーマン流」もネットでは?というご指摘について

確かに,次のセクションにある状況で

この有向族が収束するということが,$f$$[a,b]$上でRiemann積分可能ということに他ならない.
(宮島静雄「関数解析」.横浜図書.p41)

とだけ書いてある本もありますがこのとき(有向族の収束についての一般的な十分条件がわからないと)具体的にどのように収束を考えるのかわからない.このとき「リーマン流」だとその収束のやり方がイメージしやすいしその点リーマン流でもネットが背後に隠れているという説明はできると思います.
がしかし,今回「ダルブー流がネット!」と書いている理由は,深堀はしないもののフィルター及びフィルター基を用いてリーマン積分を考えるやり方がリーマン流に近いと判断したからです.例えば「森毅の主題による変奏曲 上」のp164から「函数の振動量とリーマン積分可能性」というセクションがあってそれらしい記述があるように見受けられます(がしかし僕はまだよく読んでいません.全然的外れなことを書いてしまっている可能性もありますがとてもそれらしく思います).興味があるようでしたら こちらの資料 とかを見ると勉強になるかもしれません.因みに"riemann integral filter"とかでぐぐるとこの資料か中国の大学の資料が出てくると思いますが,後者の方は買わないと見られないようです.とても気になります.だれか買って僕に見せてほしいです.お願いします.

ネットの眼鏡から見てみたら

リーマン積分を授業で習ったときに「なんであんなに分割とか考えるんだ?まじだりー」と思ったことがある方は多いと思います.僕もそう思っていましたが,ネットを勉強してからその重要性が見えてきた気がします.
ここではAnalysis Nowの問題を解くという形でリーマン積分を再考しますが,その問題文にも

Recall from your calculus course what it means that the nets have
the same limit. Now realize that you have been using net convergence
for a long time without you (and your teacher?) noticing!
(Gert K. Pedersen "Analysis Now". Springer. p16)

という記述がありました.以下を読むと皆さんもそう思われるのではと思います.

Analysis Now E 1.3.3

閉区間$[a,b]\subset\mathbb{R}$と,有向集合$\Lambda=\{\lambda=\{x_0,x_1,\cdots,x_n\}\;|a=x_0< x_1<\cdots< x_n=b\}$を考える.
有界な関数$f:[a,b]\to\mathbb{R}$をとる.
$\lambda\in\Lambda$について

  • $(Sf)_k=\sup\{f(x)\;|x_{k-1}\leqq x\leqq x_{k}\}$
  • $(If)_k=\inf\{f(x)\;|x_{k-1}\leqq x\leqq x_{k}\}$
    を定めてネット
  • ${\sum^{*}}_\lambda f=\sum_{k=1}^{n}(Sf)_k(x_k-x_{k-1})$
  • ${\sum_{*}}_\lambda f=\sum_{k=1}^{n}(If)_k(x_k-x_{k-1})$
    を定める.

このときネット$\left({\sum^{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$$\left({\sum_{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$は両方とも$\mathbb{R}$に収束することを示せ.

これを解いていきます.$\left({\sum_{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$$\mathbb{R}$に収束することだけ示します($\left({\sum^{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$の方も同様にできるため).

その前に$\Lambda$が有向集合になるということを説明します.

細分

分割$\lambda,{\lambda}_{'}\in\Lambda$について${\lambda}_{'}$$\lambda$細分 $\lambda\leq{\lambda}_{'}$
$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}\lambda$による各辺の分点がすべて${\lambda}_{'}$の分点でもあるとき

この関係$\leq$により$\Lambda$は有向集合になります.
実際,

  • $\lambda\leq\lambda\;(\forall\lambda\in\Lambda)$
  • $\lambda_{\alpha}\leq\lambda_{\beta}$かつ$\lambda_{\beta}\leq\lambda_{\gamma}\Longrightarrow\lambda_{\alpha}\leq\lambda_{\gamma}\;(\forall\lambda_{\alpha},\lambda_{\beta},\lambda_{\gamma}\in\Lambda)$
  • $\lambda_{\alpha}\leq\lambda_{\beta}$かつ$\lambda_{\beta}\leq\lambda_{\alpha}\Longrightarrow\lambda_{\alpha}=\lambda_{\beta}\;(\forall\lambda_{\alpha},\lambda_{\beta}\in\Lambda)$
    までは「それはそう」.さらに
  • $\forall \lambda_{\alpha},\lambda_{\beta}\in\Lambda,\;\exists\lambda_{\gamma}\in\Lambda\;s.t.\;\lambda_{\alpha}\leq\lambda_{\gamma}$かつ$\lambda_{\beta}\leq\lambda_{\gamma}$
    については$\lambda_{\gamma}$として$\lambda_{\alpha}$$\lambda_{\beta}$の分点を含む分割を取ればよいので成り立ちます.いいですね.

$\left({\sum_{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$$\left({\sum^{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$がネットなのかというのは「それはそう」です.
また下では$\left(s-{\sum_{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$がネットだと書いていますがそれも「それはそう」です.なぜなら,ネットとは有向集合(今回で言う$\Lambda$)からある集合(今回で言う$\mathbb{R}$)への写像だからです.送る元が有向集合か否かに大きな関心がありますが,今回は大丈夫ですので何も心配はいりません.

種明かしすると以下の命題が成り立ちます:

命題1の状況でネット$\left({\sum_{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$$\sup\{{\sum_{*}}_\lambda f\;|\lambda\in\Lambda\}$に収束する

「有界単調増加数列が上限に収束」のネットver!

$\left({\sum_{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$の値は全て($[a,b]$での$f$の取りうる値の上限)$\cdot(b-a)$で抑えられて有界です.
そして$\left({\sum_{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$は分割が細かくなるほど値が大きくなります:

青の分割はそれより細かい赤の分割(端点も含んでいる)の点を全て含んでいる
青の分割はそれより細かい赤の分割(端点も含んでいる)の点を全て含んでいる

(赤の近似和)-(青の近似和)の値は0以上
(赤の近似和)-(青の近似和)の値は0以上

以上より 第1回 の最後に出た証明を丸々使って示すことができます.

${\sum^{*}}_\lambda f$の場合は分割が細かくなるほどその値が小さくなって${\sum^{*}}_\lambda f$の値の下限に収束することも示せます.こっちの方法の方がスマート(というかネットのありがたみがわかる!点列でよくやる議論がほぼそのまま使えている!!)ですが,ここでは解析の教科書に書いてあるやり方に忠実になってみようと思います.

これを示しましょう.
以下,簡単のため$\sup\{{\sum_{*}}_\lambda f\;|\lambda\in\Lambda\}$$s\in\mathbb{R}$と書くことにします.

証明の基本方針はネット$\left(s-{\sum_{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$に対してネットの収束の定義に沿って確かめることです.

【復習】ネットの収束

$X:\;$位相空間 のネット$\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$$\Lambda:$有向集合)が点$x\in X$収束
$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}$任意の$x$の近傍$U$に対し
$\exists\lambda_0\in\Lambda\;s.t.\;\forall\lambda\in\Lambda,\lambda_0\leq\lambda\Longrightarrow x_{\lambda}\in U$・・・(結局)

つまり勝手な$0\in\mathbb{R}$の近傍$(-\varepsilon,\varepsilon)\;(\varepsilon>0)$に対してある添え字$\lambda_1\in\Lambda$があって,それよりも$\Lambda$内で「細かい」$\lambda\in\Lambda$について$s-{\sum_{*}}_\lambda f$$(-\varepsilon,\varepsilon)$に入っている,これを確かめます.

その前に記号を導入します.

  • 小区間$I=[x,y]\subset[a,b]$についてその「長さ」を$|I|:=y-x$と書くことにする.
  • $[a,b]$の分割$\lambda=\{x_0,x_1,\cdots,x_n\}$について,$\lambda$の小区間を$x_0$から順に$I_k\;(k=1,2,\cdots,n)$として$d(\lambda):=\max_{1\leqq k\leqq n}|I_k|$と書くことにする.
  • 上限の性質から$\forall\tau>0,\exists$分割$\lambda_0\in\Lambda\;s.t.\;0\leqq s-{\sum_{*}}_{\lambda_0} f<\tau$・・・⓪
    が成立.

  • さて$\forall\lambda\in\Lambda$をとる.分割$\lambda$に区間が$n$個あるとする.
    $\lambda$$\lambda_0$の分点を合わせた分割を$\lambda'\in\Lambda$とする.このとき$\lambda\leq\lambda'$
    $\therefore{\sum_{*}}_\lambda f\leqq{\sum_{*}}_{\lambda'} f\leqq{\sum^{*}}_{\lambda'} f\leqq{\sum^{*}}_\lambda f$
    特に$0\leqq{\sum_{*}}_{\lambda'} f-{\sum_{*}}_\lambda f$
    同様に$\lambda_0\leq\lambda'$から$0\leqq{\sum_{*}}_{\lambda'} f-{\sum_{*}}_{\lambda_0} f$

  • $e:=$($\lambda_0$により生ずる小区間の辺の長さの最小値)として以下では
    $d(\lambda)< e$・・・①
    を満たす$\lambda$のみを考える.

このとき
$\lambda$で生ずる$[a,b]$のどの区間も$\lambda_0$の分点を高々1つしか含まない.・・・★
またこの際$\lambda_0\leq\lambda$とする.
さてこのとき・・・

  • $\lambda$$k$番目の区間を$I_k\;(k=1,2,\cdots,n)$として$I_k$に含まれる$\lambda_0$の分点の個数を$n_k$個とする.

★より各$k$について$0< n_k< n$

$k$について$\lambda'$では$I_k$$p_k$個の小区間${I_k}^l\;(l=1,2,\cdots,p_k)$に分割されるとする.

${(sf)_k}^l:=\inf\{f(x)\;|x\in {I_k}^l\}$とおけば,
$ \left\{ \begin{array}{l} sf\leqq(sf)_k\leqq{(sf)_k}^l\leqq Sf\\ \sum_{l=1}^{p_k}|{I_k}^l|=|I_k| \end{array} \right. $
より
$d_k:=\sum_{l=1}^{p_k}\left({(sf)_k}^l-(sf)_k\right)|{I_k}^l|$
とすると
$n_k=0$なら$d_k=0,\;n_k>0$なら$d_k\leqq\left((Sf)-(sf)\right)|I_k|$
つまり小区間は$n_k>0$の時だけを考えればよいことがわかる.

(ここから大事)

  • $\lambda_0$の分点により実際に分割される$I_k$の「長さ」の和を$V_\lambda:=\sum_{n_k>0}|I_k|$とおけば
    $0\leqq{\sum_{*}}_{\lambda'}f-{\sum_{*}}_{\lambda}f\leqq(Sf-sf)V_\lambda$・・・②
    成立.
  • このとき
    $\exists\lambda_0$$[a,b]$のみにより決まる=$\lambda$に依存しない 定数$c>0\;s.t.\;0\leqq V_\lambda\leqq c\cdot d(\lambda)$・・・☆
    これは今回は事実として認めることにする.

(今までがお膳立て.ここからが本題の証明)

  • $\forall\varepsilon>0$に対して
    $0<\delta<\min\left\{e,\frac{\varepsilon}{[2(c+1)(Sf-sf+1)V_\lambda]}\right\}$となるように$\delta$をとる.
    このとき$d(\lambda)<\delta$となる任意の$\lambda\in\Lambda$は①,②,☆を満たすから
    $0\leqq{\sum_{*}}_{\lambda'}f-{\sum_{*}}_{\lambda}f<\frac{\varepsilon}{2}$
    成立.

ここで生じる小区間の辺の長さの最小値が$\delta$となる分割を$\lambda_1$とおいて,$d(\lambda)<\delta$をみたす$\lambda\in\Lambda$をとる.
このとき
$\lambda$で生ずる$[a,b]$のどの区間も$\lambda_1$の分点を高々1つしか含まない.
またこの際$(\lambda_0\leq)\lambda_1\leq\lambda$とする.

このとき⓪を$\tau=\frac{\varepsilon}{2}>0$として用いて
$0\leqq s-{\sum_{*}}_\lambda f=\left(s-{\sum_{*}}_{\lambda_0} f\right)-\left({\sum_{*}}_{\lambda'} f-{\sum_{*}}_{\lambda_0} f\right)+\left({\sum_{*}}_{\lambda'} f-{\sum_{*}}_{\lambda} f\right)$
$\;\;\;\leqq\left(s-{\sum_{*}}_{\lambda_0} f\right)+\left({\sum_{*}}_{\lambda'} f-{\sum_{*}}_{\lambda} f\right)$
$\overset{\text{⓪と☆}}{<}\frac{\varepsilon}{2}+(Sf-sf)\cdot c\cdot d(\lambda)\overset{\delta\text{の定め方}}{<}\;\;\frac{\varepsilon}{2}+\frac{\varepsilon}{2}=\varepsilon$
以上よりネット$\left({\sum_{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$$\sup\{{\sum_{*}}_\lambda f\;|\lambda\in\Lambda\}$に収束する.

上限を下限に変えるなどして$\left({\sum^{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$$\inf\{{\sum^{*}}_\lambda f\;|\lambda\in\Lambda\}$に収束することも示せます.

はじめに思ったこと1~部分ネット~

点列の問題を解くときに部分列を持ってきてその極限を参考にすることは自然な発想だと思います.実際

点列がある値に収束$\Longrightarrow$任意の部分列も同じ値に収束

が成り立ち,点列の極限の必要条件になっていてシボリコミできるからです.
では今回で言う「部分列」は何か?

絵的に考えて関数$f$$[a,b]$上での積分値に収束するネットは(恒常的に関数$f$$[a,b]$上での積分値を値として返さない限り)収束値より上回ったり下回ったりします.そのネットから「上回るの全部持ってきたもの」と「下回るの全部持ってきたもの」が取り出せそうです.それらが今回だとそれぞれ$\left({\sum_{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$$\left({\sum^{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$だと考えることができます.
それは言葉を変えると$\left({\sum_{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$$\left({\sum^{*}}_\lambda f\right)_{\lambda\in\Lambda}$は積分値に収束するネットの部分ネットだということができます.

部分ネット

$\{x_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}:\;X$のネット $(\Lambda,\leq_l):\;$有向集合

$(M,\leq_m):\;$有向集合で$M$上の写像$\varphi:M\longrightarrow\Lambda$

  • $\forall\lambda\in\Lambda,\exists\mu_0\in M\;s.t.\;\forall\mu\in M,\mu_0\leq_m\mu\Longrightarrow\lambda\leq_l\varphi(\mu)$
  • (単調性)$\forall m_1,m_2\in M,\;m_1\leq_m m_2\Longrightarrow\varphi(m_1)\leq_l\varphi(m_2)$

を満たすとき,$\{x_{\varphi(\mu)}\}_{\mu\in M}$$\{x_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$部分ネットという.

部分ネットの定義にはいろんな流派がある

部分ネットの定義を探すと少なくとも3種類の定義が見つかると思います.今回採用したのはWillard subnetと言われるもので,これから$\varphi$の単調性を除くとKelley subnetと呼ばれるものになります.今回Kelley subnetを採用した理由としては点列の部分列も部分ネットになるようにしたかったからです.また今回は深入りはしませんが3つ目のsubnetの定義にも時間があれば迫っていきたいとも思っています.興味のある方は こちらの資料 が参考になるかと思います.

☆部分ネットを使うとネットついてちょっとわかりそうでネットの収束が大体どこに行きそうかつかめそうな感じがします(あくまで「感じ」ですが).収積点の定義を見つめれば「なんだあたりまえ」ですがこの込み入った解説は次回行います(第2回の良い復習になるかも).

ネットの収積点(cruster point)を極限点とする部分ネットの存在を示せ

ですがネットに収積点がないと部分ネットの極限点がわからないからネットの収束は何もわからなくなってしまう.

部分ネットの最後にもう一つだけ上の話の続きを.ネットが収積点を持たないときでも部分ネットの収束を考えたい.でもどうすれば・・・?こういうときはおねだりです.

任意のネットが収束する部分ネットを持つように・・・!

と強く強く思う.すると最初からこの性質を満たす空間だけ考えればよいではないか!と思えてきます.任意のネットが収束する部分ネットを持つ位相空間をコンパクト空間と言います.

はじめに思ったこと2~コーシーネット~

命題1の問題を解くにあたって,はじめはネットの収束は収束先の点が決まらない限りわからんぞと思いネットの収束の十分条件について考えていました.
収束か否かの判定でよく使うものといえば・・・?M判定法と「Cauchy」!ということではじめ僕は

十分「細かい」分割$\lambda_{\alpha},\lambda_{\beta}\in\Lambda$について$\left|{\sum_{*}}_{\alpha} f-{\sum_{*}}_{\beta} f\right|$はトテモ小さい値

この作戦でやろうと思っていました.ある分割より細かい分割でうんぬんというのはネットの定義に忠実だと思い$\lambda_{\alpha},\lambda_{\beta}\in\Lambda$$\lambda_{\gamma}\Lambda$より細かいとして
$\left|{\sum_{*}}_{\alpha} f-{\sum_{*}}_{\beta} f\right|\overset{\text{三角}}{\leqq}\left|{\sum_{*}}_{\alpha} f-{\sum_{*}}_{\gamma} f\right|+\left|{\sum_{*}}_{\beta} f-{\sum_{*}}_{\gamma} f\right|$として実質
$\left|{\sum_{*}}_{\alpha} f-{\sum_{*}}_{\gamma} f\right|$をどうやってトテモ小さい値にするかを考えていましたが,納得する解答を作ることはできませんでした.もしこの路線でうまくいった!という話があれば是非教えて頂きたいです.

さて話はCauchyに.
前回 3つのタイプの収束の話をしました.

フィルターの収束:自分の戦えるナワバリをムリクリ拡大して収束
コーシーネット/コーシーフィルターの収束:前の自分よりいい自分になることで目標に着実に近づく
ネットの収束:どんなことでもその場でウマク立ち振る舞えるようになって合格

この中でフィルターとネットはやりましたが,コーシーネットはまだ現時点では何者だかよくわかりません.ちょっと触れてみましょう.

距離空間,ノルム空間
  • $X:\;$空でない集合,$X$上の距離

$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}$写像$d:X\times X\longrightarrow\mathbb{R}$で以下を満たすもの:
(正定値性)$\forall a,b\in X,\;d(a,b)\geqq0$かつ$d(a,b)=0\Longleftrightarrow a=b$
(対称性)$\forall a,b\in X,\;d(a,b)=d(b,a)$
(三角不等式)$\forall a,b,c\in X,\;d(a,c)\leqq d(a,b)+d(b,c)$

  • $X$$X$上の距離$d$の組$(X,d)$距離空間という.

【ノルム空間】

  • $X:\;$$\mathbb{K}=\mathbb{R}$or$\mathbb{C}$上のベクトル空間,$X$上のノルム

$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}$写像$||\cdot||:X\longrightarrow\mathbb{R}$で以下を満たすもの:
(正定値性)$\forall x\in X,||x||\geqq0$かつ$||x||=0\Longleftrightarrow x=0$
(三角不等式)$\forall x,y\in X,||x+y||\leqq||x||+||y||$
(「ノルムは絶対値で前」)$\forall\alpha\in\mathbb{K},\forall x\in X,\;||\alpha x||=|\alpha|\;||x||$

  • $X$$X$上のノルム$||\cdot||$の組$(X,||\cdot||)$ノルム空間という.

☆ノルムを使って距離を作れる.
具体的には上記のベクトル空間$X$について写像$d:X\times X\longrightarrow\mathbb{R}$
$d(x,y):=||x-y||\;(x,y\in X)$と定めるとこれは$X$上の距離になる(確かめてみよ).

$\forall x\in X,||x||\geqq0$を非負性,$\forall x\in X,||x||=0\Longleftrightarrow x=0$を非退化性という.つまり

正定値性=非負性×非退化性

またノルムの定義条件から非退化性だけを除いた条件を満たす写像をセミノルムという.実はセミノルムを用いて体$\mathbb{K}$上のベクトル空間に位相を作ることができる(これはおいおいやるつもり).

次にCauchyネットなるものを定義します.

まず形としては

$X$上のネット$\{f_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$
$\forall\varepsilon>0,\exists\lambda_0\in\Lambda\;s.t.$
$\forall\lambda_1,\lambda_2\in\Lambda,\lambda_0\leq\lambda_1$かつ$\lambda_0\leq\lambda_2\Longrightarrow||f_{\lambda_1}-f_{\lambda_2}||<\varepsilon$・・・☆☆
なるもの

この条件を満たすものをCauchyと言いたい.で,このとき

ネットがCauchyならば収束する(収束先を持つ)

が成り立ったら,ネットの収束の十分条件が得られた万歳!となるわけです.実際に手を動かして様子を見てみましょうか.

$||f_\lambda-\text{なんとか}||<$とても小さい値
という式を作りたいですが,まず極限が何かがわかりません.
現時点で我々が持っている武器は部分ネットだけです.まず$\{f_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$からよさそうな部分ネットを取り出し極限の候補を探しましょう.

  • ☆☆を満たすネット$\{f_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$をとる.
    ☆☆にある$\varepsilon$として$\varepsilon=\frac{1}{2}$のとき
    $\exists\lambda_1\in\Lambda\;s.t.$
    $\forall\lambda,\lambda'\in\Lambda,\lambda_1\leq\lambda$かつ$\lambda_1\leq\lambda'\Longrightarrow||f_{\lambda}-f_{\lambda'}||<\frac{1}{2}$
    が成り立ちますが,特に
    $||f_\lambda-f_{\lambda_0}||\overset{\text{三角不等式}}{\leqq}||f_\lambda-f_{\lambda'}||+||f_{\lambda'}-f_{\lambda_0}||<\frac{1}{2}+\frac{1}{2}=1$

これより

☆☆にある$\varepsilon$として$\varepsilon=1$のとき
$\exists\lambda_1\in\Lambda\;s.t.\;\forall\lambda\in\Lambda,\lambda_1\leq\lambda\Longrightarrow||f_\lambda-f_{\lambda_1}||<1$

を得ます.

  • 以下同様に,$n\in\mathbb{N}$について
    ☆☆にある$\varepsilon$として$\varepsilon=\frac{1}{2n}$のとき
    $\exists\lambda_n\in\Lambda\;s.t.$
    $\forall\lambda,\lambda'\in\Lambda,\lambda_n\leq\lambda$かつ$\lambda_n\leq\lambda'\Longrightarrow||f_{\lambda}-f_{\lambda'}||<\frac{1}{2n}$
    が成り立ちますが,特に

$\exists\lambda_n\in\Lambda\;s.t.\forall\lambda,\lambda'\in\Lambda,\lambda_n\leq\lambda\Longrightarrow||f_\lambda-f_{\lambda_n}||\overset{\text{三角不等式}}{\leqq}||f_\lambda-f_{\lambda'}||+||f_{\lambda'}-f_{\lambda_n}||<\frac{1}{2n}+\frac{1}{2n}=\frac{1}{n}$

これが一般の$n\in\mathbb{N}$に対して成立.

これより「点列」$\{f_{\lambda_n}\}_{n\in\mathbb{N}}$で☆☆,つまり

$\forall\varepsilon>0,\exists N_0\in\mathbb{N}\;s.t.\;\forall m,n\in\mathbb{N},\;N_0\leq m< n\Longrightarrow ||f_{\lambda_m}-f_{\lambda_n}||<\varepsilon$

を満たすものが取れます.

☆☆を満たすネットを用いてネットの収束を考えたくて,そのためによさそうな部分ネットを取ってみたもののそれは☆☆を満たしました(収束について結局考えられていない!).☆☆の条件で堂々巡りしている感じがあります.☆☆から逃れることはできないのか・・・?

こういう時は☆☆を満たす点列の収束をはじめからアタリマエと思うことにしましょう.としたのがBanach空間です.

Banach空間

ノルム空間$(X,||\cdot||)$Banach空間
$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}$以下を満たす点列$\{f_n\}_{n\in\mathbb{N}}$は収束する:
$\forall\varepsilon>0,\exists N_0\in\mathbb{N}\;s.t.\;\forall m,n\in\mathbb{N},\;N_0\leq m< n\Longrightarrow ||f_m-f_n||<\varepsilon$

さて上の$\{f_{\lambda_n}\}_{n\in\mathbb{N}}$が収束先を持つとするとどうなるか.それを$f$とすると
$||f_\lambda-f||\overset{\text{三角}}{\leqq}||f_{\lambda}-f_{\lambda_n}||+||f_{\lambda_n}-f||$
右辺はいくらでも小さくできるのでネット$\{f_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$$f$に収束することが言えそうです.

以上をまとめてみました.

Cauchyネット

Banach空間$X$上のネット$\{f_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$Cauchy/Cauchyネット
$\overset{\text{def}}{\Longleftrightarrow}\forall\varepsilon>0,\exists\lambda_0\in\Lambda\;s.t.$
$\forall\lambda_1,\lambda_2\in\Lambda,\lambda_0\leq\lambda_1$かつ$\lambda_0\leq\lambda_2\Longrightarrow||f_{\lambda_1}-f_{\lambda_2}||<\varepsilon$

☆収束するネットはCauchy

Banach空間$X$のネット$\{f_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$で点$x\in X$に収束するものを取る.このとき
$\forall\tau>0,\exists\lambda_0\in\Lambda\;s.t.\;\forall\lambda\in\Lambda,\lambda_0\leq\lambda\Longrightarrow||f_{\lambda}-x||<\tau$
成立.
$\varepsilon>0$をとる.この際上で$\tau=\frac{\varepsilon}{2}$として
$\exists\lambda_0\in\Lambda\;s.t.\;\forall\lambda\in\Lambda,\lambda_0\leq\lambda\Longrightarrow||f_{\lambda}-x||<\frac{\varepsilon}{2}$
成立.
特に$\lambda_1,\lambda_2\in\Lambda$$\lambda_0\leq\lambda_1,\;\lambda_0\leq\lambda_2$なるものをとると
$||f_{\lambda_1}-f_{\lambda_2}||\overset{\text{三角}}{\leqq}||f_{\lambda_1}-x||+||x-f_{\lambda_2}||\overset{\text{上}}{<}\frac{\varepsilon}{2}+\frac{\varepsilon}{2}=\varepsilon$
よって$\{f_\lambda\}_{\lambda\in\Lambda}$はCauchy.

そしてこの逆も成立:

Banach空間においてCauchyネットは収束する

さいごに

今回はリーマン積分をネットから見て,部分ネットとコーシーネットまで扱いました.
次回は位相空間の定義をネット,フィルター,フィルター基から見てみようと思います.

参考文献

投稿日:38
更新日:39

投稿者

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

コメント