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大学数学基礎解説
文献あり

ジャコブソン根基の性質と中山の補題の証明

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この記事では中山の補題の証明を与えていきたいと思います。
現実逃避気味に書いた記事なので、行間とか気になったところは質問していただけると幸いです。
中山の補題はその結果が偉いだけでなく、環論の事実や加群の基礎を勉強する、いい命題になっています。
まあ短い記事なので、食事中とか暇つぶしに見てください^^

補題

中山の補題を証明するためには準備が必要なので、それらを用意していきます。
できるだけ証明を与えますが、クルルの定理の主張のみ事実として与えます。
以下$R$を単位的な可換環とします。

クルルの定理

$R$の自分自身ではない任意のイデアルに対して,それを含むような極大イデアルが存在する.

定理の証明にはイデアル族に対して集合の包含関係による順序を与えて、Zornの補題を用います。この記事では具体的な証明は省略します。

$\displaystyle \mathfrak{R}:R\text{の極大イデアル全体の共通部分}$
$x \in \mathfrak{R}$$⇔$$\forall y \in R,$$1-xy:\text{unit}^※$
(※$ x \in R$$\text{unit}$であるとは$\exists y \in R,$ $xy=1$となることである. すなわち単元の事である)

ここで$\mathfrak{R}$のことをジャコブソン根基と言ったりします。

$(⇒)$$x \in\mathfrak{R}$を取る.
$\exists y \in R,$$1-xy$が単元でないと仮定すると,
$\exists \mathfrak{m}:極大イデアル,$$ 1-xy \in \mathfrak{m}$.$ $ ($\because$ クルルの定理)
ところで$x \in \mathfrak{R} \subset \mathfrak{m}$であるので$1 \in \mathfrak{m}$であるが, これは$R=\mathfrak{m}$を示しており矛盾.

$(⇐)$$x \notin \mathfrak{R}$すなわち$\exists \mathfrak{m}:極大イデアル,$$ x \notin \mathfrak{m}$とする.
$\mathfrak{m} \subset \mathfrak{m} + (x)=R$であるので,
$\exists u \in \mathfrak{m},\exists y \in R,$$u+xy=1$である.
上式より$1-xy \in \mathfrak{m}$であるので単元でない.

ところで有限生成$R$-加群の定義をここで再確認しておきましょう。

$M$が有限生成$R$-加群であるとは,
$\exists u_1, u_2, ..., u_n \in M,$$\forall x \in M,$$\exists r_1, r_2, ..., r_n \in R:x = r_1u_1 + r_2u_2 + ... + r_nu_n $
となることである.

上で$\{u_1, u_2, ..., u_n\}$のことを$M$の生成系と言います.

本題

それでは中山の補題は証明していきましょう。

中山の補題

$M$が有限生成$R$-加群とし,$\mathfrak{a} \subset \mathfrak{R}$を満たすイデアルとする.
この時「$M=\mathfrak{a}M⇒M =0$」である.

$M \neq 0$と仮定する.
仮定より$\{u_1, u_2, ..., u_n\}$$M$の最小生成系として取れる.
ここで$u_n \in \mathfrak{a}M$より,
$\exists a_1, a_2, ..., a_n \in \mathfrak{a}:u_n = a_1u_1 + a_2u_2 + ... + a_nu_n $.
$\therefore (1-a_n)u_n= a_1u_1 + a_2u_2 + ... +a_{n-1}u_{n-1}$.
ここで命題2より$1-a_n$$R$で単元であるので,
$\exists r \in R,$$u_n= ra_1u_1 + ra_2u_2 + ... +ra_{n-1}u_{n-1}$
(勿論, ここで$r$$1-a_n$の逆元として取った).
これは最小性に矛盾している.

証明完了です、お疲れさまでした。見ての通り中山の補題は環論の知識さえあれば証明すること自体は案外できてしまいます。ですが実はもっとテクニカルな証明がございまして、気になる方は「Atiyah-MacDonald可換代数入門」の命題2.4を見るととても幸せになれると思います。系を一つ載せておきます。

$M$が有限生成$R$-加群とし,$N$$M$の部分加群, $\mathfrak{a} \subset \mathfrak{R}$を満たすイデアルとする.
この時「$M=\mathfrak{a}M+N ⇒ M=N$」である.

終わりに

今回は中山の補題を証明するのにとどまりましたが、系として様々な問題が考えられるのでせっかく証明したのですから考えてみてはいかがでしょうか。
あとクルルの定理の主張を認めてしまったので簡単に示せましたが、大事なことですよね...まあ、いつか気が向いたら追記しようと思います(割とやる気はあります)。私がmathlogに記事を書くのは現実逃避みたいな側面があるので、また数学の進捗がよくなかったら上げようと思います。閲覧ありがとうございました。

参考文献

[1]
Michael Francis Atiyah, Atiyah-MacDonald 可換代数入門
投稿日:2023312

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