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コーシーの積分公式とデルタ関数

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前提知識

外微分

$\mathbb{C}$ 上の関数 $u$ に対して,$z=x+iy$ とかくことにすれば,$du=\dfrac{\partial u}{\partial x}dx+\dfrac{\partial u}{\partial y}dy$ とかける.(この式は,多様体を知っていれば微分形式の等式と理解しても良いし,そうでなければ単なる形式的な記号と思っても良い.)
ここで,以下のように記号を定める:

\begin{align*} \dfrac{\partial}{\partial z}:=\dfrac12\left(\dfrac{\partial}{\partial x}+\dfrac{1}{i}\dfrac{\partial}{\partial y}\right),\qquad &\dfrac{\partial}{\partial \bar{z}}:=\dfrac12\left(\dfrac{\partial}{\partial x}-\dfrac{1}{i}\dfrac{\partial}{\partial y}\right),\\[5pt] dz:=dx+idy,\qquad &d\bar{z}=dx-idy. \end{align*}

これは,(余)接空間の基底の取り換えと考える.このとき,$du=\dfrac{\partial u}{\partial z}dz+\dfrac{\partial u}{\partial\bar{z}}d\bar{z}$ となる.特に $u$ が正則であるときには $du=\dfrac{\partial u}{\partial z}dz$ となって便利である.

ストークスの定理

(これはやはり多様体を知っている前提であるが)次が成り立つ:

(ストークスの定理)

$M$ を向きづけられたコンパクト $n$ 次元多様体とし,$\partial M$ をその境界とする.
$M$ 上の $n-1$ 形式 $u$ に対して $\displaystyle \int_{\partial M}u=\int_M du$ が成り立つ.

コーシーの積分公式

$\Delta=\{z\in\mathbb{C}\colon |z|<1\}$ とおく. $\partial\Delta=\{|z|=1\}$ である. $\overline{\Delta}$ を含む開集合の上で正則な関数 $f$ に対して $\displaystyle \int_{\partial\Delta}\dfrac{f(\zeta)}{\zeta-z}d\zeta=2\pi i f(z),\quad z\in\Delta$ が成り立つ,というのが有名なコーシーの積分公式である.

今回の話

コーシーの積分公式の左辺に注目すると,これはストークスの定理の左辺に似た形をしている.ストークスの定理での $u$$M$ 上で定義されている必要があり,いまの場合 $f(\zeta)/(z-\zeta)$$\zeta=z$ で定義されていないから,ここは超関数微分(あるいはカレント(超関数係数微分形式)の意味での外微分)と考える必要はあるが,細かいことに目を瞑れば次のようになる.
\begin{align*} \int_{\partial\Delta}\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}d\zeta &= \int_{\Delta}d\left(\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}d\zeta\right) \\ &= \int_{\Delta}\frac{\partial}{\partial \zeta}\left(\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\right)d\zeta\wedge d\zeta+\int_{\Delta}\frac{\partial}{\partial \bar{\zeta}}\left(\frac{f(\zeta)}{\zeta-z}\right)d\bar{\zeta}\wedge d\zeta \\ &= \int_{\Delta}f(\zeta)\frac{\partial}{\partial \bar{\zeta}}\left(\frac{1}{\zeta-z}\right)d\bar{\zeta}\wedge d\zeta\qquad (\text{積の微分})\\ &= 2i\int_{\Delta}f(\zeta)\frac{\partial}{\partial \bar{\zeta}}\left(\frac{1}{\zeta-z}\right)d\xi\wedge d\eta\qquad (\zeta=\xi+i\eta) \end{align*}
となる. $\zeta\mapsto f(\zeta)/(\zeta-z)$$\zeta\neq z$ において正則だから, $\bar{\zeta}$ 偏微分をすれば $0$ になる.ということは $\displaystyle 2i\frac{\partial}{\partial \bar{\zeta}}\left(\frac{1}{\zeta-z}\right)=2\pi i\delta(\zeta-z)$(ただし $\delta$ はディラックのデルタ関数)となりそうである.実はこれは正しく,また,この結果は次のように整理できることが知られている:

(Poincaré-Lelong の公式の一部)

$\displaystyle \dfrac{i}{\pi}\partial\overline{\partial}\log|z|=\delta(z)dx\wedge dy$ が成り立つ.ただし左辺はカレントの微分の意味である.

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投稿者

多変数関数論を勉強しています。今は主に Hömander の ``An Introduction to Complex Analysis in Several Variables'' を読んでいます。

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