相対性理論のためにテンソルの勉強をしていると、物理と数学それぞれのテンソルの定義が異なり混乱したのでメモを残す。
座標$x^{\mu}$から別の座標$x^{\mu'}$に変換するとき、$r+s$個の変数$i_1,\cdots,i_r,j_1,\cdots,j_s$について,
\begin{align}
T^{i_1',\cdots,i_r'}_{j_1',\cdots,j_s'}=\pdv{x^{i_1'}}{x^{i_1}}\cdots\pdv{x^{i_r'}}{x^{i_r}}\cdot\pdv{x^{j_1}}{x^{j_1'}}\cdots\pdv{x^{j_s}}{x^{j_s'}}T^{i_1,\cdots,i_r}_{j_1,\cdots,j_s}
\end{align}
なる関係をもつ量$T$を$(r,s)-$テンソルという.
また,各点(を$x^{\mu},x^{\mu'}$と座標表示したときに)について上の関係:
\begin{align}
T^{i_1',\cdots,i_r'}_{j_1',\cdots,j_s'}(x^{\mu'})=\pdv{x^{i_1'}}{x^{i_1}}\cdots\pdv{x^{i_r'}}{x^{i_r}}\cdot\pdv{x^{j_1}}{x^{j_1'}}\cdots\pdv{x^{j_s}}{x^{j_s'}}T^{i_1,\cdots,i_r}_{j_1,\cdots,j_s}(x^{\mu})
\end{align}
を満たす$T(x)$を$(r,s)-$テンソル場という.
座標変換をしたときに、変換を偏微分で表示できるような量をテンソルと呼んでいる。また、先(後)の$r(s)$個の変数を反変(共変)指標といったり、$(1,0)-$テンソル($(0,1)-$テンソル)を反変ベクトル(共変ベクトル)といったりする。
系を別の系に取り換える、つまりはもとのベクトル空間の基底を取り換える変換について、同じ変換で移り変わるのが共変、逆行列になっているなら反変という。
特に、
$V$の基底を$\{e_1,\cdots,e_n\}$から$\{e_1',\cdots,e_n'\}$へと取り換えるとき,
共変:$V^*$の座標の変換
反変:$V$の座標の変換,$V^*$の基底の変換
であることは重要である。
物理流の定義では、テンソルの正体はわからないが、「どう働くか」が明示されている。この意味で実用的だが、テンソル自体が座標によらないことは(もちろんすぐに示されるが)それほど自明ではない。局所的な情報のみで構成されているためである。
$V$をベクトル空間として,$(r,s)-$テンソルとは,
$V$を$r$回,$V^*$を$s$回テンソルした空間
\begin{align}
\bigotimes_{r}V\bigotimes_{s}V^*
\end{align}
の元である.
なお、
\begin{align}
\bigotimes_{r}V\bigotimes_{s}V^*\cong\text{Hom}\left(\bigotimes_{r}V^*\bigotimes_{s}V , \mathbb R\right)
\end{align}
の同一視のもとで、テンソルを写像であるとみなすことがある。(ここから座標変換によるふるまいを議論していくわけである。)
物理においては,舞台となっているベクトル空間$V$は座標系$\mathscr O$によって座標を入れられた空間であると同時に、接空間である。(これら2つを同一視して扱っている。)
座標の方を余接空間と同一視することに注意。
テンソルの定義は定義2の通り.
$T_p(M)$を$C^{\infty}-$多様体$M$の接空間とする.
\begin{align}
T^{(r,s)}_p(M):=\bigotimes_{r}T_p(M)\bigotimes_{s}T^*_p(M)
\end{align}
\begin{align}
T^{(r,s)}(M)=T^{r}_s(M):=\bigsqcup_{p\in M}T^{(r,s)}_p(M)
\end{align}
\begin{align}
P:T^{r}_s(M)\to M
\end{align}
を射影とする.
$\mathscr U\subset M$上の$(r,s)-$テンソル場$\mathbf B:\mathscr U\to T^{r}_s(M)$とは,
$P\circ \mathbf B=\text{id}_{\mathscr U}$
なる写像であって,$C^{\infty}$級なるものをいう.
これでテンソル場が定義される。(というか物理ではちゃんと定義してないっぽい?)
テンソル場は局所表示すると、
\begin{align}
T=\sum_{i_1,\cdots,i_r,j_1,\cdots,j_s}T^{i_1,\cdots,i_r}_{j_1,\cdots,j_s}(x)\left(\pdv{x^{i_1}}\right)\otimes\cdots\otimes\left(\pdv{x^{i_r}}\right)\otimes(dx^{j_1})\otimes\cdots\otimes(dx^{j_s})
\end{align}
のように書くことができる。これで直感的に理解できるし、定義から局所座標表示によらない対象であることも了解される。
物理では多様体も、接空間も、余接空間もベクトル束も定義しないのに、テンソル場を扱える。これにはトリックがある。
多様体とは局所的にユークリッド空間だから、「系」とか「観測者」とかを用意して、ユークリッド空間に近似してしまう。その上で、扱っている空間はあくまでその点まわりだけだから、接空間に同一視してしまう。これで$\pdv{x^{i}} $を扱える。系の基底が分かっているわけだから、余接空間は接空間の双対にすぎないので、接空間(=系)の座標=双対空間の元、という対応を考えて$dx_i$を扱える。(これを「微小量」などと誤魔化す。)
$dx$は$(1,0)-$テンソルになるが、これは余接空間の基底ベクトルとしてではなく(上の数学における定義では$(0,1)-$テンソルにみえるのに)、接空間の座標成分と考えることで「うまくいっている」。
以上によって、うまくテンソル(場)を扱えるわけである。
$\text{Hom}$を使って$f:V\to V$をテンソルとみなす計算ができる。
実は$f:V\to V$(線形)は$(1,1)-$テンソルとみなせるわけだが、これは以下のようにして機械的に分かる。
\begin{align}
\text{Hom}(V,V)&\cong\text{Hom}(V^*,V^*)\\
&\cong\text{Hom}(V^*,\mathbb R^V)\\
&\cong\text{Hom}(V^*\otimes V,\mathbb R)
\end{align}
ただし途中でcurryingの同型を用いた。
一般には、
$f:V^{\otimes r}\to V^{\otimes s}$
\begin{align}
\text{Hom}(V^{\otimes r},V^{\otimes s})&\cong\text{Hom}((V^{\otimes r})^*,(V^{\otimes s})^*)\\
&\cong\text{Hom}((V^{\otimes r})^*,\mathbb R ^ {V^{\otimes s}})\\
&\cong\text{Hom}(V^{*\otimes r}\otimes V^{\otimes s},\mathbb R)
\end{align}
よって、これは$(r,s)-$テンソル。
この計算で$\mathfrak X(M)^{\otimes r}\bigotimes \mathfrak X^*(M)^{\otimes r}$の元とわかったなら、$(r,s)-$テンソルである。
ベクトル場は$(1,0)$,微分形式は$(0,1)$となる。
(ただし、$dx$や$\pdv{x}$は物理では逆で考える。)
ベクトル場については$X\in\mathfrak X(M)$より$(1,0)-$テンソル。
曲率テンソル$R:\mathfrak X(M)\times\mathfrak X(M)\times\mathfrak X(M)\to\mathfrak X(M)$が$(1,3)-$テンソルになることも,同様に計算して
$R\in \mathfrak X(M)\otimes \mathfrak X^*(M)^{\otimes3}$
からわかる。
誤植指摘等よろしくお願いします。