この記事は小嶋泉著 「量子場とミクロ・マクロ双対性」をゼミで読んだときの, 個人的なまとめです.
物理の「量子古典対応」の数学的定式化が「ミクロマクロ双対性」である.
まず, 量子系$X$と, それを測定するための古典系$A$に対して, $A$から$X$へ「測定」という矢印が生える.
逆に, $X$から$A$には, その測定に対して示す「応答」という矢印が生える.
ここで, 古典系とは量子的物体の集まりなので, 「無限自由度の量子系」として扱うことができる.
有限自由度の量子系は1つのHilbert空間で議論できるが, 無限自由度の量子系はそれは不可能であり, $C^\ast$代数で議論する必要がある. (1.2を参照)
ミクロマクロ双対性は圏の言葉を用いて定式化される. 結論から言うと, 随伴の関係を用いる.
つまり, ミクロ量子系$X$を未知の対象のなす圏とみなし, どのようなマクロ古典系$A$と随伴$E : A \rightleftarrows X : F$を定義出来れば, $X$をどの程度理解できるのか?という問題に帰着する. ($E$は測定, $F$はそれに対する応答となる.)
この随伴関係をミクロマクロ双対性という.
ミクロマクロ双対性は圏同値ではないので, 行って戻ってくるとズレが生じる.
ここから, 単位$id_X \to T(:=EF)$と余単位$S (:= FE) \to id_A$をもつモナド$T$とコモナド$S$が考えられる.
これが物理系の動的変化過程を記述する動力学$Dyn$と, 対象系の構造分類を与える分類空間$Spec$の定式化として適切な枠組みである.
$Dyn$から見た随伴は$A$と$X$の相互作用を表すとみなせて, それによりミクロマクロ複合系が作られる.
$Spec$は物理理論の方程式論側面を明らかにする文脈でGalois群の形で記述される.
量子論の基本概念と実験・観測を用いて, $A, X, Dyn, Spec$の4つでこの見方を具体化する理論が4項図式である.
確率論の文脈では, $E : A \to X$は対象系に属する確率変数の測定・記述系からのはたらきかけ, $F : X \to A$はそれに対応した確率分布の形成と期待値の形成とみなせる.