22

素数が無限にあることの証明色々

2252
3
$$$$

 今回の記事では素数が無限に存在することの色々な証明方法の一覧みたいなものを作ろうと思っています.有名なものからマイナーなものまで僕が知る限りを記します.
この記事は初学者用なので優しく書いているつもりです.
日本語とか数式に変な所があったらDMまでお願いします.
では早速証明していきましょう!

命題

素数が無限に存在するか

1.ユークリッドによる証明 (背理法)

素数が有限個しか存在しないと仮定する.
その有限個の素数の集合を{$p_{1}$,$p_{2}$,,,$p_{n}$}とおく(以下ではこの組を$P$と書くことにする).
このとき、$p=p_{1}p_{2}…p_{n}+1$という数を考える.この数$p$の素因数全体の集合において$P$は存在しえない.しかし、$p$$P$のどの素数よりも大きく、$P$に属していないので矛盾
$∴$背理法により素数は無限に存在する.

 僕はこの証明を最初見た時は簡潔さと巧妙さに驚きました.
しかも、なんとこんな凄い証明をユークリッドは紀元前に見つけてしまっているんです.改めてユークリッドの偉大さがわかりましたね.

2.オイラーによる証明(級数を用いる証明法)

素数が有限個しか存在しないと仮定する.
ここで、$∀p_{i}∈P$に対し
$\displaystyle{\frac{1}{1-p_{i}}}$ という実数を考える.これは初項$1$で公比が$\displaystyle\frac{1}{p_i}$の無限等比級数ともいえる.
$\displaystyle\frac{1}{1-\frac{1}{p_i}}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{1}{p_{i}^{k}}$
($∵$高校数学を少し振り返りましょう
確か、初項を$a_{1}$公比をを$r$とおいたときの等比数列の第n項までの和は$\displaystyle\frac{a(r^{n}-1)}{r-1}$となりましたね.この等比級数が無限に続く場合を考えます.つまり、$\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{a(r^{n}-1)}{r-1}$を考えれば良くて、結果$|r|<1$のとき$\displaystyle\frac{a_1}{1-r}$となるわけです.
このことをふまえて証明を続けます.)
このとき$i=1,2,…,n$までの積を考える.素因数分解の一意性より、$\displaystyle\prod_{i=1}^n\frac{1}{1-\frac{1}{p_{i}}}=\prod_{i=1}^n\sum_{k=0}^{\infty}\frac{1}{p_i^{k}}=\sum_{l=1}^{\infty}\frac{1}{l}$
左辺は仮定より有限個の積となっているが右は調和級数のため発散し矛盾.

 個人的にはゴリ押し感がありましたが、素数と級数が関係していると知ったときは感動しましたね.

3.ゴールドバッハによる証明(フェルマー数を用いた証明法)

まず、初学者さんのためにフェルマー数の紹介をします.
フェルマー数とは$F_{n}=2^{2^{n}}+1(n∈\mathbb{Z})$で表される自然数のことで基本的な性質として次を満たします.数学的帰納法($F(1)$において成り立つことを示し、$F(k)⇨F(k+1)$($∀k∈\mathbb{N})$を満たすことを示し、以上の結果から$F(n)$($∀n∈\mathbb{N}$)が成り立つことを結論ずける証明方法ですね).により容易に証明が可能なので詳細な検討は読者に委ねる.
$$F_{n}=F_{0}・F_{1}・...・F_{n-1}+2$$この式を移行し$n=m+1$とおくことで$$F_{0}・F_{1}・...・F_{m}=F_{m+1}-2$$$∀p∈P$ が2つのフェルマー数を割り切るとすると、$p$ は 2 も割り切ることになり矛盾。

フェルマー数を用いたエレガントな証明でしたね.数学の証明では簡潔であるほど美しいので、この証明はとても美しいと言えますね!

4.$π$が無理数であることを用いた証明法(1)

まずは、ゼータ関数のオイラー積表示を用いた証明です.
ゼータ関数のオイラー積表示はあまりにも有名なのでここでは証明を載せません.
$\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{s}}=\prod_{p}\frac{1}{1-\frac{1}{p^{s}}}$と表せることをリーマンゼータ関数のオイラー積表示といいます.(ここで$\prod_{p}$は素数全体にわたる積のことを意味します)
ここでs=2の場合(バーゼル問題)を考えます.
$\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{2}}=\prod_{p}\frac{1}{1-\frac{1}{p^{2}}}=\frac{π^{2}}{6}$となる.(今回はここに深く触れませんが調べてみると色々あります)
$∴$素数が有限個しか存在しないと仮定すると左辺は有理数、右辺は無理数となり矛盾.

 一様$π^2$が無理数なことは$π$が超越数であることより背理法を用いて証明できます。ここで$π$が超越数であることを当然のように言っていますが実は$π$が無理数であることを示すことは容易ではありません.

5.$π$が無理数であることを用いた証明法(2)

ここではマーダヴァ-ライプニッツの級数のオイラー積表示を用います.
マーダヴァ-ライプニッツの級数は次のようなものです.
$$\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{2n+1}=\frac{π}{4}$$
また、オイラー積表示は次のようなものです.
$$\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^{n}}{2n+1}=\left(\prod_{p≡1(mod4)}\frac{p}{p-1}\right)\left(\prod_{p≡3(mod4)}\frac{p}{p+1}\right)$$
以上より素数が有限個だと$π$が有理数となってしまい矛盾.

 $π$とオイラー積表示を用いると簡単に証明できてしまいあまり面白みがないのでこれ以降のものではそれらを極力使わないようにします.

6.サイダックによる証明

$n$は2以上の整数とする.
$n$$n+1$ は互いに素なため、$N_{2}:=n(n+1)$ は少なくとも2つの異なる素因子を持つ.同様に、$N_{2}$$N_{2}+1$ は互いに素なので、$N_{3}:=N_{2}(N_{2}+1)$ は少なくとも3つの異なる素因子を持つ.この操作を続けることにより、任意に多くの異なる素因子を持つ数を生成することができるため素数は無限に存在する.

 これは割と最近発見された証明方法でパズル的に証明していて感動しますよね.

7.ファルステンベルグによる証明(トポロジーを用いた証明方法)

整数全体からなる集合$\mathbb{Z}$ に、$+-$への無限等差数列$a\mathbb{Z}+b(a≠0)$を開基とする位相を考える.
(ここでは位相空間論については知っているものとします.)
任意の無限等差数列は、開集合であり閉集合でもある.(次のように表します.)$$\mathbb{Z}\backslash\bigcup_{i=1}^{a-1}(a\mathbb{Z}+b+i)$$
素数を有限個と仮定し、$p_{1},p_{2},…,p_{n}$とおく.$$\bigcup_{i=1}^{n}p_{i}\mathbb{Z}$$は有限個の閉集合の和集合であるため(以下この和集合をAと書く)閉集合であり、閉集合Aの補集合$A^{c}=Z\backslash A$は開集合である.しかし、$\pm1$以外の任意の整数は何らかの素数で割り切れるから補集合は$\pm1$であるが$\phi$(空)でない有限集合であるため開集合ではなく、矛盾.

 僕もつい最近知った証明方法です.トポロジーはポアンカレの言葉通り異なるものを同じと見なすということが感じられる証明ですね.(個人的にはボルスク・ウラムの定理なども色々な分野と関わっていてこの感覚に陥られます.)

8.エルデシュによる証明(素数の逆数和が発散することを用いる証明法)

素数が有限個だと仮定する.(素数の逆数和は収束すると仮定する)$n$ 番目の素数を $p_{n}$ で表すことにする.ここで$∀k∈\mathbb{N}$という数を考える.このとき、$$\sum_{i=k+1}^{\infty}\frac{1}{p_{i}}<\frac{1}{2}$$である.素数全体を2つのグループに分け、$p_{1},p_{2},…,p_{n}$$A$$p_{k+1}$ 以降を$B$とおくことにする.$N$ 以下の自然数で、$B$で割れる数と、$A$でしか割れない数に分け、$B$の個数を $N_{1}$$A$の個数を$N_{2}$とおく.
もちろん$N=N_{1}+N_{2}$が成り立つ.
$N$以下の$p$の倍数の個数は以下のように書ける.
($\left\lfloor a \right\rfloor$は床関数といい$∀a∈\mathbb{R}$の整数部分を表す.)
$\displaystyle\left\lfloor \frac{N}{p} \right\rfloor$
このことより次が導ける.$$N_{1}\le \sum_{i=k+1}^{\infty }\left\lfloor \frac{N}{p_{i}} \right\rfloor\le \sum_{i=k+1}^{\infty }\frac{N}{p_{i}}\lt \frac{N}{2}$$
を得る.ここに、最後の不等号は上記の仮定から従う.次に、$x$ を小さい素数でしか割れない$N$ 以下の自然数とし、$x=uv^{2}$$u$ は平方因子を含まない) と表す。$u$ の可能性は高々 $2k$通りであり、$v^{2}≦x≦N$ であるから、$N_{2}≦2^{k}\sqrt{N}$
$\displaystyle∴N=N_{1}+N_{2}<\frac{N}{2}+2^{k}\sqrt{N}$となるが、この式は$N=2^{2k+2}$に対して成り立たない.

この証明方法はオイラーが先に行っていたそうだがエルデシュが改良しより簡潔になったそうです.

9.ファンによる証明

素数を有限個だと仮定し、$p_{1},p_{2},…,p_{N}$とおく.これらの素数の1つで割り切れる$x$以下の正の整数の数は次のように表現できる.
$\displaystyle\ 1+\sum_{i}\left\lfloor \frac{x}{p_{i}}\right\rfloor-\sum_{i< j}\left\lfloor \frac{x}{p_{i}p_{j}}\right\rfloor+…\pm(-1)^{N+1}\left\lfloor \frac{x}{p_{1}…p_{N}}\right\rfloor$…(1)
この数式を$x$で割って$x→\infty$とすると次のようになる.
$\displaystyle\sum_{i}\frac{1}{p_{i}}-\sum_{i< j}\frac{1}{p_{i}p_{j}}+…\pm(-1)^{N+1}\frac{1}{p_{1}…p_{N}}$
…(2)
これは次のように書ける.
$\displaystyle\ 1-\prod_{i=1}^{N}(1-\frac{1}{p_{i}})$
…(3)
$p_{1},…,p_{N}$,以外の素数が存在しない場合(1)は$\left\lfloor x \right\rfloor$と等しくなり(2)は1になるが(3)は1に成りえません.したがって、$p_{1},…,p{N}$よりも多くの存在する必要がある.
$∴$矛盾.

 この証明方法では包含-排除の原則を使っていますが、ここではその説明は割愛させていただきます.

10.ワンによる証明(ルジャンドルの公式を用いる証明)

任意の正整数$k$とする.
ルジャンドルの公式を適用すると
$\displaystyle f(p,k)=\left\lfloor \frac{k}{p}\right\rfloor+\left\lfloor \frac{k}{p^2}\right\rfloor+…$
$\displaystyle f(p,k)<\frac{k}{p}+\frac{k}{p^2}+…=\frac{k}{p-1}$
が成り立つとき
$\displaystyle k!=\prod_{p}p^{f(p,k)}$
となるが、素数が有限個しか存在しない場合
$\displaystyle\lim_{k\to \infty}\frac{(\prod_{p}p)^k}{k!}=0$となる.
これは、任意のkについて分子が分母以上であるということに反するため矛盾.

 ルジャンドルの公式はあまり有名じゃないかもしれませんが数オリなどで時折用いられるので覚えておくと便利かもしれません.

11.素数定理を用いた証明

素数定理より$\displaystyle π(x)\sim\frac{x}{\log(x)}$(ここで$π(x)$は素数計数関数で任意の実数$x$について$x$以下の素数の個数を求める関数とします)
$\displaystyle \lim_{x \to \infty}\frac{x}{\log(x)}=\infty$であることより$π(x)→\infty$が分かる.
即ち素数の無限性が従う.

 初学者の方でリーマンがお好きな方なら名前だけは聞いたことがある素数定理ですが、正直証明がとてつもなくめんどくさいので詳細な証明が知りたい物好きな方は こちら をご覧ください.今回は結論だけを使わせていただきます.

12.ベルトラン-チェビシェフの定理による証明

ベルトラン-チェビシェフの定理より任意の整数$n>1$に対して$n< p<2n$を満たすような素数$p$が常に少なくとも1つ存在する.
このことは$π(x)-π(\frac{x}{2})≧1$が任意の2以上の$x$において成り立つことと言い換えられこのことより明らかに素数は無限に存在する.

ベルトラン-チェビシェフの定理は強すぎて色々な場面に応用できますが証明は素数定理同様に一筋縄ではいきませんのでここでは深く言及しません.皆様自身で少し考えたあと こちら をご覧ください.

13.可換環を用いる証明法

素数を有限個だと仮定して$p_1,p_2,…,p_n$とする.
このとき$\mathbb Z$の極大イデアルは$(p_1),(p_2),…,(p_n)$で全てである.($(a)=\{ax|x∈A\}$とする)
ここで$\mathbb Z$のジャコブソン根基を考える.
(可換環の極大イデアルすべての共通部分をジャコブソン根基といい可換環$A$のジャコブソン根基を$J(A)$と書くことにする)
$\displaystyle J(\mathbb Z)=\bigcap_{i=1}^n(p_i)\supseteq\prod_{i=1}^n(p_i)=\left(\prod_{i=1}^np_i\right)≠0$
しかし$J(\mathbb Z)=0$より矛盾
$∴$素数は無限に存在する.

本当は$J(\mathbb Z)=0$であることなどいくつかの命題を示す必要がありますが長くなってしまうのでいつか別の記事を投稿いたします.この証明方法はコメントにて教えていただいたきました!ありがとうございました.
他にも何か知っている証明方法がありましたらよろしくお願いします.

他にもここでは紹介しきれなかった素数の無限性の証明方法がネット上ではたくさんあるのでぜひ一度調べてみてください.今後も様々な記事を書く予定なのでアドバイス等をしていただけると幸いです.

投稿日:202395

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

色数
色数
175
16540
分野の好き嫌いはしないンゴ

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中