1.はじめに
2.準備
3.昆虫の数学
4.歴史・研究者
5.最後に
6.謝辞
この記事は
Mathlog Advent Calendar 2023 大学数学部門
20日目の記事です。
どうも、色々やる数学徒です。
今回の記事では「昆虫」にまつわる数学のお話を紹介していこうと思います。(昆虫にまつわる数学っていうよりは数理モデルのガイドみたいな感じになると思います)
僕は昔から昆虫と数学が大好きなのですがその両方が融合した興味深い分野の歴史や詳細を書いていきます。
※この記事は何か新しい試みを紹介するというよりは現在までの偉大なる先人たちの研究結果の紹介記事のようなものとなっています。
※昆虫の画像がしばしば登場いたします。苦手な方はご注意ください。
数理モデルの世界に入るにあたって必要不可欠な知識を書いていきます。(初学者でもわかりやすく読めるように努力します)
分かる方は飛ばしてもらって構いません。
簡単に言ってしまえば数理モデルとは、対象となる事象(現実世界で起こるさまざまな現象)を数学の言語を用いて記述することです。(数理模型と呼ぶこともあるそうです)
この準備ではモデルを数学の言語で書き起こすための作業で重要になってくる基礎的な技術を記します。
必ずこれを目に通してからお読みください
・記事内で登場する数学はあまり難しいものではありませんが、基本的な線形代数の知識があればより面白い内容となっています。
・
・ベクトルは太字で記します。(例:スカラーは
・積分定数は
・数学は名詞ですがこの記事中では動詞としても用いています。決して誤字ではありません!
・昆虫などの生物間の出来事で一方が得をする関係を寄生関係、両方ともが得をする関係を共生関係といいます。
・上の寄生関係において得をする方すなわち寄生者を
・たまに無言で
・途中に無数の集合体がでてきます。集合体恐怖症の方は自己責任でお読みください。
・何か誤植や追加で書いてほしいことがある場合は僕にDMなどでご連絡ください。
・この記事内で使用している写真の2次使用はやめてください。
・この記事は学生が書いているため怪しげな点が数多く散見されると思います。間違っていたら優しくお伝えください。
以下の公式は既知として扱っちゃいます。(ここでは詳しく説明とかはしません)
すべての基本となっている超重要な式ですね。
ここで運動エネルギーを
その他高校レベルの物理公式
微分方程式とは中学・高校でやる方程式(
中学・高校でやる方程式は等式を満たすような
微分方程式は大きく分けて
具体的に常微分方程式では以下のような方程式を取り扱います。
<解き方>
このような微分方程式の解を一般解と言いますが、初期条件(ある一点の関数の値)を与えると任意定数
特殊解の具体例
微分方程式を解くにあたってスケール変換という用語が登場するので少し紹介しておきます。
スケール変換とは、ある特定の数
一般に物理に登場する方程式はこのような不変性を持ちます。そして、不変性に対応する保存則が成立します。(ネーターの定理)
力学の運動方程式では慣性の法則が関わってくるため
見たらわかる通り
例)
<解き方>
両辺に
<解き方>
右辺の邪魔な
もちろん不定積分なので積分定数はでてきてしまいますが、両辺の積分定数をまとめちゃって大丈夫です。
また、両辺を
例)
<解き方>
両辺に
(
忘れてはいけないのが
まず、同次スケール変換とは
これは
ここで
したがって、
よって解は
微分方程式を
このような微分方程式を完全微分方程式といいます。
与えられた微分方程式
例)
解は
最も簡単な例としてクレーローの微分方程式が挙げられます。
この一般解は
例)
より
スケール変換不変性がある場合
例)
<解き方>
また、
ここで
この微分方程式に対して重ね合わせの原理が成り立つため一般解は
この
こんなふうに表示できるってわけですね。
実際に
まず、
解の形を
(
また、上の式は
要は
上の解説文の中に語弊を招く記述が見られたので読み飛ばしてください(今後訂正いたします)
例)
<解き方>
(三角関数の合成を用いれば特殊な場合の微分方程式もワンパターンで書けることがしばしばあります)
基礎的な物理や数理モデルでは常微分方程式で話は終わりますが、複雑なモデルになってくると話は変わりってきます。
例)
都合の良い形に移項する。
積分する
↑
こんな感じのものを偏微分方程式って言います。(解ける時の方が少ないですね)
実用例を紹介しておきます。
熱伝導方程式の導出です。
実軸上の有限区間
時刻
と書くことができます。微小時間
これが熱量の定義です。
熱量保存則より
数学を学ぶ最初の段階に遭遇すれば大興奮不可避ですね。
区間
このとき、
上のフーリエ級数展開を周期的でない関数にも適用できるように導入されたのがフーリエ変換です。
完全正規直交関数列
を考えます。
ここで
(以降
すると、
したがって
また、
と簡潔に表せます。
特にこの記事内でいうフーリエ変換は以下で定義したものです。(上はただの導入です)
具体的に色々な関数をラプラス変換していきましょう。
実際にラプラス変換を用いて微分方程式を解いてみましょう。
例1)
<解き方>
両辺ラプラス変換します。
例2)
<解き方>
両辺ラプラス変換する
移行して初期値を代入する
これを逆ラプラス変換します。
正直積分方程式は微分方程式ほど種類も多くなく解法も簡単なのでいくつか例を示すだけにとどまります。(追記12/20:ここで触れる積分方程式は簡易なものだけ、という意図でしたが上手く表現することができていませんでした。)
例)
ここで気づくべきことは
そうすると
積分内の
ちょっと数字が汚くなっちゃいました。
例)
両辺微分します。
ここに形は載せていますが、詳しく解説しちゃうとこの記事がとてつもなく長くなってしまうので個人的にわかりやすかった解説サイトを載せておきます。(追記12/18:結局書きました)
解説サイト
上で述べた考え方を用いて具体的な数理モデルを考えましょう。(有名なやつばかりで面白くないのでとばしてもらって構いません)
質量
時刻
時刻
フックの法則や運動方程式に従うと次のように立式できます。
初期値
ある生物の個体数
微分というものの本質を考えれば容易に以下が導けます。
マルサスモデルを現実で考えてみたとき資源や生活圏は限られているため人口の増加率はある時点から減少し人口は飽和します。
このときの
このロジスティック方程式は見てわかる通りマルサスモデルの強化版みたいなものです。
ここで人口の増加だけでなく病気などに感染した数も考えましょう(全体の人口
このとき、切片
したがって比例係数を
とかけます。
この微分方程式をロジスティック方程式というそうです。(数理モデルで一番有名ですね)
生物の捕食・被食関係による個体数の変動を考える。2種の個体群が存在し、片方が捕食者
長くなってしまうのでここでは詳しく途中式は載せませんが以下のような微分方程式となることが知られています。
物理だとこんな問題もあります。(特殊な場合の解は有名ですね)
他にもSIRモデルなど実用的な式は大体数理モデルです。
では数理モデルについてある程度理解が深まったと思うので今回の本題、「昆虫の数学」についていくつかのテーマを紹介しようと思います。
みなさんは素数ゼミという一風変わったセミを知っていますか?このセミはなんと驚くべきことに素数年周期で地上に出てきます。(
近年、なぜこのセミは素数年周期なのかという研究が進んでいます。(数理モデルを用いた)
こちらはかなり面白い話ですよ。
知っている方も多いかもしれませんが、ここではチューリング・パターンについて記します。
提供:竹さん
上の図
図
このように生物に現れる模様の規則性は拡散方程式を用いて表現できます。
まず、拡散方程式を導入する際に重要となってくるのは生物の模様も化学反応の結果だと考えることです。
このとき、ある化学反応を考える上で登場する
また、
ここで
そして反応も計算に含み考える場合は
これを反応拡散方程式といいます。この方程式を基としてパターンが生じる条件や実際に生じるパターンを考えるそうです。
次に
この
を満たす
さらにここで考えている領域
ここで
(
以上の前提を踏まえて体表パターンについて入りましょう。
シュミレーションをするためには上で述べたように具体的な化学反応が必要なのですが、ここでは参考文献通りに
この化学反応の反応拡散方程式は、
と書けます。
この系を用いるパターン形成のシミュレーションは次のようになるらしいです。
ここで
周期境界条件は、
どのように導出するのかは参考文献とした
こちら
をご覧ください。
しかし、これを実際にシミュレートするのは大変な労力であったため基本的な反応拡散方程式のパラメータをイジってアブの複眼っぽいものを生成してもらいました。(僕はPythonすら扱えないのでうぃりあむさんに丸投げしてしまいました。笑)
シミュレートしたものが次の図です。
うぃりあむさんに作ってもらった画像
実際にアブの複眼と似ていますね。(このシミュレートを適応させるには生物学的な制限があるらしいですが僕はあまり理解が及んでいないので気になる方は「チューリンング・パターン」で調べてみてください)おそらく複眼の水晶体の境界条件や生物学的にモルフォゲンが〜という細かい制約がたくさん必要みたいです。改めてこの分野を開拓している方々の凄さがわかりました。
この話はあまり有名じゃないかもしれません。
皆さんはトンボなどの不均翅亜目の仲間の翅の構造は幾何学的だと思ったことはありませんか?
提供:竹さん
実はトンボの翅脈はボロノイ構造に酷似しているのです
ボロノイ構造の定義をしておきます。(wikiより)
距離空間
内の有限な部分集合 が与えられたとき、各点 を母点またはサイトと呼び、これに対して、 の中で「 の点の中で が最も近い」点の集合
をの(ボロノイ)領域と呼び、 の全ての点の領域を集めた集合(の誘導するセル複体)をボロノイ図と呼ぶ。
ボロノイ領域の境界をボロノイ境界と呼び、各々のボロノイ境界の交点をボロノイ点と呼ぶ。
このボロノイ構造がトンボの翅脈などの自然界で現れるのはその性質の良さなどの工学的な理由があるみたいです。
さらに面白い話としてハネカクシやテントウムシの翅の構造も工学的観点から研究されているそうです。→
これに関する論文
ここでは昆虫が飛ぶときにどのように数学的に記述できるかについて述べるのですが、実は近年までマルハナバチのように胴体が翅に比べて大きい種類は流体力学的に解明できていませんでした。しかし、近年流体力学などの活用により研究が加速度的に進歩しているようです。
はばたきに関する論文
僕はまだ全然流体力学のことを理解していないのでここでは詳しく紹介できなそうです。(基礎でいきなり物体の大きさを考えない、みたいな話が出てきて全く理解できませんでした笑)
提供:竹さん
次に社会性昆虫のコロニー内でのカーストなどの数理モデルを紹介します。まず、社会性昆虫とは
社会性昆虫(しゃかいせいこんちゅう、英語: social insect)とは、ハチやシロアリのように、集団を作り、その中に女王や働き蟻(蜂)のような階層があるような生活をしているなど、人間のそれに似た社会的構造を備える昆虫を指す(Wikipediaより)
人間のように集団で生活する昆虫を指します。
提供:高橋さん
提供:高橋さん
以下のようなモデルが提案されているっぽいです。
ここで
これらも反応拡散方程式として考えられているようです。
詳しくは
参考にした論文
を参照してください。(僕もまだ全体理解が及んでいません)
では、ついに最後のテーマです。
冒頭で僕は昆虫・数学が好きだと言いましたが、実はもう一つ好きな分野があります。そうです!僕のアイコンにもなっている寄生蜂です。(寄生虫ほど高等な生物はいないでしょう)
調べてみると、そんな寄生蜂にも数理モデルがあるそうなのです!
おそらくイチジクコバチの仲間
一風変わったアシブトコバチの仲間
上の画像の個体たちは僕が採集した中で特にお気に入りのやつだったので少し自慢。キレイですよね!
昆虫の寄生関係では次のようなモデルが成り立つそうです。(昆虫は繁殖が同期しているので離散時間モデルを用いるそう)
(
Twitterのフォロワーさんによると寄生蜂などの産卵管の長さもモデル化できるそうです。
最初は数理モデルの歴史は案外浅いのではないかと思っていたが、考えてみたらそもそも物理学などの分野は事象をモデル化して数学の言葉で述べているのだから浅いわけがありませんでした。しかし、昆虫などのモデル化というのは最近ようやく研究され始めたのでこれから発展していくことでしょう。
内田 俊郎
合原 一幸
大崎 浩一
久保田 耕平
宮竹 貴久
アラン・チューリング
高須 夫悟
その他にも僕の知識不足で知らない巨人たちがいるのでぜひ皆さん一度は調べてみてください。
お疲れ様でした〜:;(∩´﹏`∩);:
今までの僕の投稿した記事の中で最長になってしまいました。
高校の物理なども微分方程式の知識があるとある程度説明がついたりするのでこれを機にちょっと考えてみるのもありですね。(逆に力学的エネルギー保存則とかはバリバリの大学物理レベルの証明なので感謝だけして勝手に使っちゃいましょう、先生に質問したらめちゃくちゃ渋い顔されました笑)
この記事をきっかけに数学徒も数学初学者も数理の世界を楽しんで頂けたのなら光栄です。
今回の記事は本当に色々な人に支えられてようやく作成することができました。(特に昆虫チャットの皆様、塵芥さん、うぃりあむさん)ありがとうございました。
提供:高橋さん
追記12/18 保存則(経路が違っても変わらないこと)を使って証明するそうです。ちなみに運動方程式は経験則らしいです。(>人<;)(詳しく調べてないからそうではないかも)
本記事の作成にあたり、多くの方々にご指導ご鞭撻を賜りました。物理のT先生、並びに代数のT先生、本記事の作成にあたり、適切なご助言を賜りました。感謝申し上げます。
昆虫チャットのみなさまには、多くの情報と写真を提供頂きました。厚く御礼申し上げます。
最後に、友人・先輩方には本記事の遂行にあたり多大なご助言、ご協力頂きました。ここに誠意を表します。