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解説大学数学以上
文献あり

【位相空間論】フィルターとネットの収束(1)

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まえがき

Euclid空間の点列の極限の概念は古くからその考え方こそあったが,現代的な定義がなされたのは19世紀後半のことで,Weierstrasによる.その後,Cantorにより集合論が構築されると,1906年にはFréchetが距離空間を定義し,初めてEuclid空間の枠組みから離れて極限概念を定義することに成功した.更に1914年にはHausdorffがHausdorff空間を定義し, 1922年にはKuratowskiにより位相空間が定義されることになる.当時Kuratowskiの与えた位相空間の定義は閉包による方法であり,極限概念は閉包と密接な関係があることが知られている.

距離空間では,点列の極限を用いて閉包を考察できた.更に,第1可算公理を満たす位相空間においても,閉包を考察することができる.それでは,第1可算公理を一般に仮定しない場合,このことは成り立つのだろうか.答えは「No」である.従って,点列による位相空間の概念の特徴付けには第1可算公理が本質であることがわかる.一般の位相空間で上の特徴付けがうまくいかないのは,点列が可算性をもつことに起因する.従って,点列概念から可算性を取り除き,極限概念を考えればよいことがわかる.

そこで,1922年,MooreとSmithは有向点族(ネット)と呼ばれる点列を一般化したものを導入した.これにより,閉包や連続性といった位相空間の概念を特徴付けることに成功した.一方で,1937年にはCartanによりフィルターと呼ばれる概念を導入した.これも同様にして特徴付けにおいて活躍した.実は,この2つの概念は(収束性の意味で)同値であることが1955年に証明されている.本稿では,フィルターとネットという2つの同値な概念を導入し,それらが位相空間論においてどのような役割を果たすのかを見ていくことにする.

用語について

極限概念を考察する上で肝となる,近傍に関する概念について確認する.

位相空間$X$$x \in X$において,$U \subset X$$x$近傍とは,$x \in V \subset U$なる$X$の開集合$V$が存在することをいう.特に,$X$の開集合となる$x$の近傍を$x$開近傍という.$x$の近傍全体の集合を$x$近傍系といい,$\mathcal{V}_x$と表す.また,$X$の開集合族$\mathcal{B}_x$$x$近傍基であるとは,条件$\forall U \in \mathcal{V}_x \exists B \in \mathcal{B}_x (x \in B \subset U)$を満たすことをいう(例えば,$x$の開近傍全体の族は$x$の近傍基になる).任意の$x \in X$に対して,可算な近傍基が存在するとき,$X$第1可算公理を満たすという.

1.点列

1.1. 点列

はじめに,点列の復習をしよう.

位相空間$X$に対して,写像$(x_n)_{n \in \mathbb{N}} : \mathbb{N} \to X$$X$点列という.
点列$(x_n)_{n \in \mathbb{N}}$が点$x \in X$収束するとは,条件
$$ \forall U \in \mathcal{V}_x \exists N \in \mathbb{N} \forall n \in \mathbb{N} (n \geq N \rightarrow x_n \in U) $$
を満たすことをいう.このとき,$x$$(x_n)_{n \in \mathbb{N}}$極限といい,
$$ x_n \to x, \ \lim x_n = x $$
のようにかく.

点列を考察する上で重要となる概念として,第1可算公理がある.第1可算公理を満たす空間における点列概念は位相の概念を特徴付ける.最も重要な特徴付けは閉包であろう.

第1可算公理を満たす位相空間$X$$A \subset X, x \in X$に対して,次は同値である.

  1. $x \in \overline{A}$
  2. $x_n \to x$なる$A$の点列$(x_n)_{n \in \mathbb{N}}$が存在する.

(1)を仮定する.$X$は第1可算なので,$x$の可算近傍基$\mathcal{B}_x$がとれる.これを$\mathcal{B}_x = \{ V_n \ | \ n \in \mathbb{N} \}$と表す.各$n \in \mathbb{N}$に対して,
$$ U_n := \bigcap_{k=1}^{n} V_k $$
とおく.このとき,$\{ U_n \}_{n \in \mathbb{N}}$は単調減少列である.いま,(1)より,各$n \in \mathbb{N}$に対して,$x_n \in U_n \cap A$がとれる(選択公理).従って,$x_n \to x$である.

(2)を仮定する.$V \in \mathcal{V}_x$をとると,$x_n \to x$より,$x_n \in V$なる$n \in \mathbb{N}$がとれる.従って,$x_n \in V \cap A \neq \emptyset$であるから,$x \in \overline{A}$である. $\square$

定理2(2)→(1)は,$X$が第1可算空間でない場合でも成り立つ.

第1可算公理を満たす位相空間においては,写像の連続性は点列により特徴付けられる.

第1可算公理を満たす位相空間$X, Y$と写像$f : X \to Y$に対して,次は同値である.

  1. $f : X \to Y$は連続である.
  2. $x \in X$$x_n \to x$なる$X$の点列$(x_n)_{n \in \mathbb{N}}$に対し,$f(x_n) \to f(x)$である.

(1)を仮定する.$x \in X$$x_n \to x$なる$X$の点列$(x_n)_{n \in \mathbb{N}}$をとる.$U \in \mathcal{V}_{f(x)}$をとると,$f : X \to Y$は連続なので,$f^{-1}(U)$$X$の開集合である.よって,$x_n \to x$より,
$$ \forall n \in \mathbb{N} (n \geq N \to x_n \in f^{-1}(U)) $$
なる$N \in \mathbb{N}$がとれる.$n \geq N$なる$n \in \mathbb{N}$をとると,$x_n \in f^{-1}(U)$なので,$f(x_n) \in U$である.従って,$f(x_n) \to f(x)$である.

(2)を仮定する.$A \subset X, y \in f(\overline{A})$をとる.このとき,$y = f(x)$なる$x \in \overline{A}$がとれる.定理2より,$x_n \to x$なる$A$の点列$(x_n)_{n \in \mathbb{N}}$がとれる.(2)より,$f(x_n) \to f(x) = y$である.ここで,$(f(x_n))_{n \in \mathbb{N}}$$f(A)$の点列なので,$y \in \overline{f(A)}$である.従って,$f(\overline{A}) \subset \overline{f(A)}$を満たすから,$f : X \to Y$は連続である. $\square$

定理3(1)→(2)は,$X, Y$が第1可算空間でない場合でも成り立つ.

次に,冒頭で紹介したHausdorff空間の点列による特徴付けを見ておこう.

第1可算公理を満たす位相空間$ X $において,次は同値である.

  1. $X$はHausdorff空間である.
  2. $X$の点列の極限が存在すれば,それは一意に収束する.

(1)を仮定する.$(x_n)_{n \in \mathbb{N}}$$x, x'$に収束する$X$の点列とする.背理法により,$x \neq x'$と仮定する.このとき,$X$はHausdorffより,$x \in U, x' \in V, U \cap V = \emptyset$なる$X$の開集合$U, V$がとれる.$x_n \to x, x'$より,$x_N \in U \cap V$なる$N \in \mathbb{N}$がとれるが,これは$U \cap V = \emptyset$に矛盾する.従って,$x = x'$である.

背理法により,(1)が成り立たないと仮定する.このとき,開集合で分離できないような異なる2点$x, x'$がとれる.$X$は第1可算空間なので,$x$の可算近傍基$\mathcal{B}_x = \{ U_n \ | \ n \in \mathbb{N} \}$$x'$の可算近傍基$\mathcal{B}_{x'} = \{ V_n \ | \ n \in \mathbb{N} \}$がとれる.各$n \in \mathbb{N}$に対して,
$$ A_n := \bigcap_{k=1}^{n} U_k, \ B_n := \bigcap_{k=1}^{n} V_k $$
とおくと,$\{ A_n \}_{n \in \mathbb{N}}, \{ B_n \}_{n \in \mathbb{N}}$は単調減少列になる.いま,各$n \in \mathbb{N}$に対して,$x_n \in A_n \cap B_n$がとれる(選択公理).従って,$x_n \to x, x'$であるが,(2)より$x = x'$でなくてはならない.これは$x \neq x'$に矛盾する. $\square$

定理4(1)→(2)は,$X$が第1可算空間でない場合でも成り立つ.

1.2. 補可算位相による反例

1.1節では,第1可算公理を満たす空間における特徴付けを見た.ところが,いずれの定理も,第1可算公理を仮定しない一般の空間において成り立つとは限らないのである.この節では非可算集合$\mathbb{R}$上に補可算位相を入れた空間を例に,それぞれの定理から第1可算公理を仮定しない場合の命題が成り立たないことを見る.

非可算集合$X$に対し,$X$補可算位相とは,次で定義される位相のことである.
$$ \mathcal{T}_{cc} := \{ U \subset X \ | \ | X \setminus U | \leq \aleph_0 \} \cup \{ \emptyset \} $$

以後,主に$X = \mathbb{R}$を考える.このとき,次の基本的な事実が従う.

位相空間$(\mathbb{R}, \mathscr{T}_{\text{cc}})$は第1可算公理を満たさない.

若し位相空間$(\mathbb{R}, \mathscr{T}_{\text{cc}})$が第1可算公理を満たすとすると,$0$の可算近傍基$\mathcal{B}_0 = \{ U_n \ | \ n \in \mathbb{N} \}$がとれる.
$$ F := \{ 0 \} \cup \bigcup_{n=1}^{\infty} (\mathbb{R} \setminus U_n) $$
とおく.このとき,$| F | \leq \aleph_0$であるから,$y \in \mathbb{R} \setminus F$がとれる.そこで,$U := \mathbb{R} \setminus\{ y \}$とおく.このとき,$0 \in U \in \mathcal{T}_{cc}$である.従って,$U_N \subset U$なる$N \in \mathbb{N}$がとれるから,$y \notin U_N$である.しかし,$y \notin F$より$y \in U_N$となってしまい,矛盾する.故に,$(\mathbb{R}, \mathscr{T}_{\text{cc}})$は第1可算でない. $\square$

まず,定理1の一般化が成り立たないことを示そう.その為に,次の補題を要請する.

位相空間$(X, \mathscr{T}_{\text{cc}})$と非可算集合$A \subset X$に対して,$\overline{A} = X$である.

$x \in X$をとる.$A \subset F$なる$X$の閉集合$F$をとる.このとき,$X \setminus F$$X$の開集合であるから,$|F| \leq \aleph_0$または$X = F$である.ここで,$A$は非可算集合なので,$X = F$である.これより,$x \in X = F$である.故に,$x \in \overline{A}$である. $\square$

位相空間$(X, \mathscr{T}_{\text{cc}})$と非可算集合$A \subset X$において,任意の$x \in X \setminus A$に対して,$x$に収束する$A$の点列は存在しない.

$x \in X \setminus A$に収束する$A$の点列$(x_n)_{n \in \mathbb{N}}$が存在したとする.このとき,$U := X \setminus \{ x_n \ | \ n \in \mathbb{N} \}$とおくと,$U$$x$の開近傍である.よって,$x_n \to x$より,$x_n \in U$なる$n \in \mathbb{N}$がとれるが,これは$x_n \notin U$に矛盾である. $\square$

この定理から,$X = \mathbb{R}, \ A = \mathbb{R} \setminus \mathbb{Q}, \ x = 0$とおくと,$0 \in \overline{\mathbb{R} \setminus \mathbb{Q}} = \mathbb{R}$だが,$0$に収束する$\mathbb{R} \setminus \mathbb{Q}$の点列は存在しない.つまり,定理1の一般化が成り立たないことが従う.

次に,定理2の一般化が成り立たないことを示そう.

$(X, \mathscr{T}_{\text{cc}})$を位相空間,$(x_n)_{n \in \mathbb{N}}$$x \in X$に収束する$X$の点列とする.このとき,
$$ \exists n_0 \in \mathbb{N} \forall n \in \mathbb{N} (n \geq n_0 \rightarrow x_n = x) $$
を満たす.この条件を$\text{eventually constant}$(終局的に定数である)という.

$V := X \setminus \{ x_n \ | \ x_n \neq x, n \in \mathbb{N} \}$とおく.このとき,$V$$x$の開近傍である.$x_n \to x$より,
$$ \forall n \in \mathbb{N} (n \geq N \rightarrow x_n \in V) $$
を満たす$N \in \mathbb{N}$がとれる.従って,
$$ \forall n \in \mathbb{N} (n \geq N \rightarrow x_n = x) $$
である. $\square$

$X$を非可算集合とする.$(x_n)_{n \in \mathbb{N}}$$x \in X$に収束する$(X, \mathscr{T}_{\text{cc}})$の点列,$f : X \to X$$(X, \mathscr{T}_{\text{cc}})$から離散空間$(X, \mathcal{T}_{dis})$への恒等写像とする.このとき,$f(x_n) \to f(x)$かつ$f : X \to X$は連続でない.

補題7より,$(f(x_n))_{n \in \mathbb{N}} \ \text{eventually constant} \ f(x)$である.つまり,$f(x_n) \to f(x)$である.$V := \{ f(x) \}$とおくと,$V$$(X, \mathscr{T}_{\text{dis}})$の開集合である.しかし,$f^{-1}(V) = V$$(X, \mathscr{T}_{\text{cc}})$の開集合でない.よって,$f : X \to X$は連続でない. $\square$

この定理から,$X = \mathbb{R}, \ x_n = 0 \ (n \in \mathbb{N}), \ x = 0$とおくと,定理2の一般化が成り立たないことが従う.

最後に,定理3の一般化が成り立たないことを示そう.

位相空間$(X, \mathscr{T}_{\text{cc}})$はHausdorff空間でない.しかし,収束する任意の点列は必ず極限は一意である.

$(X, \mathscr{T}_{\text{cc}})$がHausdorffであるとする.このとき,$0 \in U, 1 \in V, U \cap V = \emptyset$なる$U, V \in \mathcal{T}_{cc}$がとれる.よって,$| X | = | (X \setminus U) \cup (X \setminus V) | \leq \aleph_0$となってしまい,$X$が非可算集合であることに矛盾する.従って,$(X, \mathscr{T}_{\text{cc}})$はHausdorffでない.

最後に,$x_n \to x, y$なる$(x_n)_{n \in \mathbb{N}}$をとる.補題7と$x_n \to x$より,
$$ \forall n \in \mathbb{N} (n \geq N \rightarrow x_n = x) $$
なる$N \in \mathbb{N}$がとれる.同様に,$x_n \to y$より,
$$ \forall n \in \mathbb{N} (n \geq N' \rightarrow x_n = y) $$
$N' \in \mathbb{N}$がとれる.従って,$K := \max \{ N, N' \}$とおくと,$x =x_K = y$である. $\square$

この定理から,$X = \mathbb{R}$とおくと,定理3の一般化が成り立たないことが従う.

1章まとめ

以上のことから,点列の極限と第1可算公理は密接な関係があることが伺える.更に,一般の位相空間においては,点列によって位相概念を特徴付けることはできないこともわかる.このことから,一般の位相空間において,位相概念を特徴付けるには,点列から可算性を外して考える必要性が出てくる.2章では,点列の素朴な一般化であるネットについて見ていく.

参考文献

[1]
児玉 之宏, 永見 啓応, 位相空間論, 岩波書店, 1974
[2]
Ryszard Engelking, General Topology, Sigma Series, Heldermann Verlag, 1989
[3]
Stephen Willard, General Topology, Dover Publications, 2004
投稿日:83
更新日:89

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