今回は、正の整数全体において定義される、「挿入」という演算に対して、そこから得られる以下の多重挿入ゼータについて述べます。
タイトルにあるテトリスとの関係については「最後に」で述べます。
$$ \zeta^\circ(k_1,…,k_r):=\sum_{0< n_1<\cdots< n_r} \frac{1}{n_1^{k_1}\circ\cdots\circ n_r^{k_r}} $$
挿入を定義する前に、いくつかの準備をします。
$(n)$を$n=0,1,…$番目の素数とする。
すなはち、$(0)=2,(1)=3,(2)=5,(3)=7,…$
$x,y\in\mathbb{N}_{>0}$に対して、ある$n$が存在して、
$x=(n)^{e_n}\times\cdots\times(0)^{e_0}$
$y=(n)^{d_n}\times\cdots\times(0)^{d_0}$
なる非負整数の列$e_k,d_k(k=0,…,n)$が存在し、これらは$n$が決まれば一意的である。(これは整数における「素因数分解の存在と一意性」と呼ばれる)
ただし、非負整数$n$に対して、$(n)^0=1$としておきます。
上のように、素因数が大きいほど左に書く表示を降順標準形ということにします。
さて、いよいよ挿入の定義をします。
$\mathbb{N}_{>0}$上の演算$\circ$で以下を満たすものを挿入演算という。
この演算が存在して一意的であることの証明は省略します。
これだけで一般の正の整数に対する挿入演算は決定しますが、よくわからないと思うので、具体的な計算方法と具体例をみてみましょう。
その前に一つ重要な公式を述べておきます。
$(n)^{e_n}\times\cdots\times(0)^{e_0}=(n)^{e_n}\circ\cdots\circ(0)^{e_0}$
これは「降順標準形」では積$\times$と挿入$\circ$が書き換え可能である、という公式です。(これは1,3番目の性質と帰納法から簡単に示せます。)
つまり、具体的に計算をするときは、2つを素因数分解し、標準形にし、それぞれの標準形を結合して、再び標準形に直し、素因数分解に直すことで計算できます。
上の正の整数$x,y$に対して、
まず、
$x=(n)^{e_n}\times\cdots\times(0)^{e_0}=(n)^{e_n}\circ\cdots\circ(0)^{e_0}$
である。
同様に、
$y=(n)^{d_n}\times\cdots\times(0)^{d_0}=(n)^{d_n}\circ\cdots\circ(0)^{d_0}$
である。
このとき、
$x\circ y=(n)^{e_n}\circ\cdots\circ(0)^{e_0}\circ(n)^{d_n}\circ\cdots\circ(0)^{d_0}$
これの右辺を1,2番目の性質を用いて整理すると、
$(m)^{f_m}\circ\cdots\circ(0)^{f_0}$と書ける。
ここで、$m$は非負整数、$f_k$は非負整数列である。
このとき、
$x\circ y=(m)^{f_m}\circ\cdots\circ(0)^{f_0}$
より、
$x\circ y=(m)^{f_m}\times\cdots\times(0)^{f_0}$
である。
以下に計算例を載せます。
$10\circ12$を計算する。
まず、$10=5\times2,12=3\times2^2$
より、$10=(2)\times(0)=(2)\circ(0),12=(1)\times(0)^2=(1)\circ(0)^2$
よって、$10\circ12=(2)\circ(0)\circ(1)\circ(0)^2$
ここで、$(0)\circ(1)=(0)\circ(0)$より、
$(2)\circ(0)\circ(1)\circ(0)^2=(2)\circ(0)\circ(0)\circ(0)^2=(2)\circ(0)^4$
よって、
$10\circ12=(2)\circ(0)^4=(2)\times(0)^4=5\times2^4=80$
となる。
ついでに$12\circ10$も計算しておく。
$12\circ10=(1)\circ(0)^2\circ(2)\circ(0)$
ここで、$(0)\circ(2)=(1)\circ(0),(0)\circ(1)=(0)\circ(0)$
より、
$(0)^2\circ(2)=(0)\circ\{(0)\circ(2)\}=(0)\circ\{(1)\circ(0)\}$
$=\{(0)\circ(1)\}\circ(0)=\{(0)\circ(0)\}\circ(0)=(0)^3$
だから、
$(1)\circ(0)^2\circ(2)\circ(0)=(1)\circ\{(0)^2\circ(2)\}\circ(0)=(1)\circ(0)^3$
ゆえに、
$12\circ10=(1)\circ(0)^3=(1)\times(0)^3=3\times2^3=24$
この例から分かるように、一般に$x\circ y$と$y\circ x$は異なります。
また、重要なことは、素因数分解表示の状態で$\times$と$\circ$を行き来するためには、素因数分解は降順の形で表示しなければならないということです。($\circ$は順番が重要であるため)
さて、ついに多重挿入ゼータを定義します。
$$ \zeta^\circ(k_1,…,k_r):=\sum_{n_1<\cdots< n_r} \frac{1}{n_1^{k_1}\circ\cdots\circ n_r^{k_r}} $$
また、以下に変種を定義します。(既に変種だろとか言わない!)
非負整数$x,y,z$に対して、
$z=x\circ y$となっているとき、
$z$は$x$の倍数、$x$は$z$の約数であるという。
このとき、$x\preceq z$と書く。
特に$x\ne z$であるなら、$x\prec z$と書く。
これにより以下を定める。
$$
\zeta^\circ_\prec(k_1,…,k_r):=\sum_{n_1\prec\cdots\prec n_r} \frac{1}{n_1^{k_1}\circ\cdots\circ n_r^{k_r}}
$$
$$
\zeta^\circ_\preceq(k_1,…,k_r):=\sum_{n_1\preceq\cdots\preceq n_r} \frac{1}{n_1^{k_1}\circ\cdots\circ n_r^{k_r}}
$$
今回扱った挿入演算は、お察しの通り、
テトリス代数
で出てくるあの挿入演算と同じものです。
具体的には、$(\mathcal{F}(\mathbb{N}),\bullet,\varnothing)$と$(\mathbb{N}_{>0},\times,1)$がモノイドとして同型なので、その同型を用いて$\mathcal{F}(\mathbb{N})$上の挿入$\circ$を$\mathbb{N}_{>0}$上に自然に誘導でき、実はそれが今回述べた挿入演算と一致します。
本記事は思いつきで定義しただけですが、この級数の面白い性質が見つかることを期待しています^^
今回はこの辺で。
誰か級数強い人頑張ってくれ…!