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大学数学基礎解説
文献あり

ピタゴラス数とガロア群のコホモロジー②

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前回の記事 では、ピタゴラス数を求める問題をQ(i)上の方程式
|z|=1
と捉え、これがコホモロジーの等式
H1(Gal(Q(i)/Q),Q(i)×)=1
から解けるということを扱いました。
今回は、この方法をより一般の場合に拡張し、ヒルベルトの定理90を証明します。

前回の証明

絶対値が1Q(i)の元はwQ(i)×を用いてw/wと書けるという主張は、以下のように示せるのでした。

(概略,前回の証明)

w=x+xzなるw,xQ(i)×がとれ,このとき
w=z1wz=w/w

この証明を幾つかのステップに分けて、各ステップを一般化していきます。

デデキントの補題

前回の証明における、xの存在性はデデキントの補題として一般化されます。

デデキントの補題

G,K, χ1,,χn:GK×を相異なる準同型とする.
a1,,anKに対して,
gGi=1naiχi(g)=0
ならば
a1==an=0

数学的帰納法で示す.
n=1のとき, 任意のgGに対してχ1(g)0なので明らかである.
n=kでの成立を仮定する. n=k+1,gG(i=1naiχi(g)=0)のとき, χ1(h)χn(h)なるhGを固定すると, 任意のgGに対して
i=1n1ai(1χn(h)1χi(h))χi(g)=i=1nai(1χn(h)1χi(h))χi(g)=χn(h)1i=1naiχi(hg)=0
なので, 帰納法の仮定よりa1(1χ1(h)χn(h)1)=0であり, χ1(h)χn(h)なのでa1=0である. 従って帰納法の仮定より, a1=a2==an=0である.
よって, 主張はn=k+1のときも成立し, 数学的帰納法により, 任意のnに対して示された. (証明終)

コホモロジー版の証明

前回の証明ではx+xzという数を考え、その共役をとりましたが、この数の正体は何なのでしょうか?この手法は一般化できるのでしょうか?


L=Q(i),K=Q,σG=Gal(L/K)とします。
コホモロジーへの言い換えでは、|z|=1なるzC(i)×は、φ(σ)=zなるφZ1(G,L×)に対応するのでした。このとき、xL×に対して、w=x+xz0
w=τGτ(x)φ(τ)0
と書くことができます。デデキントの補題の対偶より、このようなxは存在します。ここで、φ1-サイクルであることから
σ(φ(τ))=φ(σ)1φ(στ)
が成り立つので
σ(w)=τGσ(τ(x))σ(φ(τ))=φ(σ)1τG(στ)(x)φ(στ)=φ(σ)1τGτ(x)φ(τ)=φ(σ)1wφ(σ)=wσ(w)1
となり、特にσを複素共役とすればz=w/wが得られます。


この式変形は、一般の有限次ガロア拡大L/Kに対して成り立ちます。つまり、G=Gal(L/K),φZ1(G,L×)とし、上記の通りにwを定めれば
σG(φ(σ)=wσ(w)1)
であり、従って
φB1(G,L×)
となります。よって
Z1(G,L×)=B1(G,L×)
であり、纏めると

ヒルベルトの定理90(コホモロジー版)

L/Kを有限次ガロア拡大とするとき
H1(Gal(L/K),L×)=1

を得ます。

ヒルベルトの定理90の証明

ヒルベルトの定理90のコホモロジー版は、一般の有限次ガロア拡大に対して成り立つことを確認しましたが、ノルムを使った本来の主張はさらに巡回拡大であることを要求します。


L/Kn次巡回拡大とし、G=Gal(L/K)=σとします。

NL/K(z)=1なるzLに対して、φ(σ)=zなるφZ1(G,L×)が存在する

i1のとき
k=0i+n1σk(z)=(k=0i1σk(z))(k=0n1σi+k(z))=(k=0i1σk(z))σi(NL/K(z))=k=0i1σk(z)
なので, φ:GL×
φ(σi)=k=0i1σk(z)(i1)
により定めることができる. このとき
φ(σi)σi(φ(σj))=(k=0i1σk(z))(k=0j1σi+k(z))=k=0i+j1σk(z)=φ(σi+j)
よりφ1-コサイクルであり, φ(σ)=zより示された. (証明終)

これで、ヒルベルトの定理90を証明するための道具が揃いました。

ヒルベルトの定理90

NL/K(z)=1wL×,z=wσ(w)1

()は明らかなので, ()を示す.
補題3より, φ(σ)=zなる1-コサイクルφがとれるが, ヒルベルトの定理90(コホモロジー版)よりφ1-コバウンダリである.
従ってφ=d1(ψ)なるψZ0(G,L×)がとれる.
このときw=ψ()1とおくと
z=d1(ψ)(σ)=σ(w1)(w1)1=wσ(w)1.
(証明終)

おわりに

ヒルベルトの定理90は、当然、コホモロジーを使わなくても、より短い手順で示すことができます。しかし、コホモロジーを使うと、証明の手順が細分化されていくのが、浅学ながら面白いと思いました。以上です。

参考文献

投稿日:202366
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  1. 前回の証明
  2. デデキントの補題
  3. コホモロジー版の証明
  4. ヒルベルトの定理90の証明
  5. おわりに
  6. 参考文献