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解説大学数学以上
文献あり

自己共役作用素の自己共役な拡張は自分自身以外に存在しないこと

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自己共役作用素は極大対称である. 自己共役作用素は対称作用素でもあるから, 自己共役作用素が対称作用素としての真の拡張を持たないことから, 自己共役作用素の真の拡張で自己共役な物は存在しない.

$X$をヒルベルト空間, $T$を稠密な定義域$D(T)$を持つ線型作用素とする. $X$の内積を$((\cdot,\cdot))$と書く.

$X\times X$の部分集合$G_T^*$

$(y, z)\in X\times X$で, 全ての$x\in D(T)$に対して$((Tx, y))=((x, z))$

を満たす$(y, z)$全体の集合とする.

行間

$D(T)$$X$で稠密だから
$(y, z_1), (y, z_1)\in G_T^*$ならば$z_1=z_2$が成り立つ. ゆえに$G_T^*$をグラフとする線型作用素$T^*$が定まる.

$D(T)$$X$で稠密だから
$X$の任意の元$x$に対して$x$に収束する$D(T)$の点列$(x_n)$が存在して$G_T^*$の定義より
$((Tx_n, y))=((x_n, z_1))=((x_n, z_2))$
ゆえに
$((x_n, z_1-z_2))=0$
内積は連続であるから,
$((x, z_1-z_2))=0$
ゆえに$z_1=z_2.$

$T^*$の定義より
$x\in D(T), y\in D(T^*) \Rightarrow ((Tx, y))=(x, T^*y))$
が成り立つ.

$((Tx_n, ay_1+by_2))$
$$=a((Tx_n, y_1))+b((Tx_n, y_2))$$
$=a((x_n, T^*y_1))+b((x_n, T^*y_2))$
$=((x_n, aT^*y_1+bT^*y_2))$
ゆえに
$((x_n, T^*(ay_1+by_2)))=((x_n, aT^*y_1+bT^*y_2))$
再び内積の連続性より
$((x, T^*(ay_1+by_2)))=((x, aT^*y_1+bT^*y_2))$
ゆえに$T^*$は線型である.

ふたつの作用素$S, T$について
$D(S)\subset D(T)$
かつ
$x\in D(S) \Rightarrow Sx=Tx$
が成り立つとき, $T$$S$の拡張といい, $S\subset T$と書く. $S$$T$の拡張でもあるとき$T=S$と書く.

作用素$T$の定義域$D(T)$$X$で稠密であり$T\subset T^*$であるとき$T$を対称作用素といい, 特に$T=T^*$であるとき$T$を自己共役作用素という.

定義域$D(T)$$X$で稠密な作用素$T$が対称作用素であるための必要十分条件は

任意の$x, y\in D(T)$に対して$((Tx, y))=((x, Ty))$

となることである.

$T\subset T^*$ならば$y\in D(T)$$y\in D(T^*)$でもあり, $y\in D(T)$ならば$T^*y=Ty$であるから
$((Tx, y))=((x, T^*y))=((x, Ty)).$

逆に任意の$x, y\in D(T)$に対して$((Tx, y))=((x, Ty))$が成り立てば$(y, Ty)\in G_T^*$であるから$y\in D(T)$かつ$T^*y=Ty$ゆえ$T\subset T^*$を得る.

極大対称性

対称作用素$H$が極大対称であるとは$H$の真の拡張であるような対称作用素が存在しないことである.

自己共役作用素は極大対称である.

$H$を自己共役作用素とし$H_0$$H$の拡張で対称作用素とする. $H\subset H_0\subset H_0^*\subset H^*$
である. $H^*=H$であるから$H_0=H$すなわち自己共役作用素の対称な拡張は自分自身に限る.

参考文献

[1]
藤田-黒田-伊藤, 関数解析
投稿日:527
更新日:17日前

投稿者

研究の記事の他に, 発見シリーズ, 行間シリーズ, 超入門シリーズも書いています. 北田均『数理解析学概論』新訂版序文の「ほぼ独学と思われる熱心な読者」, 結城浩『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』あとがきの「類太郎」. 指摘を受けたり自分で誤りに気付いて, 後から訂正することも多々あります. 寛容な目で温かい目で見て頂きたいです. 悪意のあるきつい言い方をされることが多々ありますが, それさえしなければ指摘については真摯に対応したいです. 普通のご指摘でも私は人間なので必ずしもすぐには対応できないことはご理解ください. 数式, 特に偏微分方程式が好き. 多変数複素解析のヘルマンダーの方法:複素多様体における外微分 d を d=∂′+∂′′ とするとき‚ 既知微分形式 f と未知微分形式 u について ∂′′u=f (ディーバー方程式)の可解性で諸問題を考える方法, 複素多様体における微分幾何として複素モンジュ-アンペール方程式の解の存在, 代数解析の偏微分方程式への応用でも何かを遺したいです.

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研究の記事の他に, 発見シリーズ, 行間シリーズ, 超入門シリーズも書いています. 北田均『数理解析学概論』新訂版序文の「ほぼ独学と思われる熱心な読者」, 結城浩『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』あとがきの「類太郎」. 指摘を受けたり自分で誤りに気付いて, 後から訂正することも多々あります. 寛容な目で温かい目で見て頂きたいです. 悪意のあるきつい言い方をされることが多々ありますが, それさえしなければ指摘については真摯に対応したいです. 普通のご指摘でも私は人間なので必ずしもすぐには対応できないことはご理解ください. 数式, 特に偏微分方程式が好き. 多変数複素解析のヘルマンダーの方法:複素多様体における外微分 d を d=∂′+∂′′ とするとき‚ 既知微分形式 f と未知微分形式 u について ∂′′u=f (ディーバー方程式)の可解性で諸問題を考える方法, 複素多様体における微分幾何として複素モンジュ-アンペール方程式の解の存在, 代数解析の偏微分方程式への応用でも何かを遺したいです.