$a_1,\ldots,a_n$を正の実数とするとき,$$\frac{n}{\frac{1}{a_1}+\cdots+\frac{1}{a_n}}\leq (a_1\cdots a_n)^{\frac{1}{n}}\leq \frac{a_1+\cdots+a_n}{n} $$
という不等式が成り立つことはよく知られている.左辺,中辺,右辺はそれぞれ$a_1,\ldots,a_n$の調和平均,相乗平均,相加平均と呼ばれる.
一方で解析をちょっとかじったことのある人なら,$$\left\| f \right\|_p \leq \mu(X)^{\frac{1}{p}-\frac{1}{q}}\left\| f \right\|_q $$という不等式を目にしたことがあるだろう.ここで,$(X,\Sigma,\mu)$は$\mu(X) < \infty$を満たす測度空間,$f$は$X$上の可測関数,$1\leq p < q \leq \infty $ である.
この記事の目標は,一見全く関係ないように見えるこれら2つの不等式の共通の一般化となる定理を証明することである.
以下,確率空間$(X,\Sigma,\mu)$および$X$上の正値可測関数$f$を固定する.なお,$\log\circ f$は有界であると仮定しておく.
$M_f : \mathbb{R}\to \mathbb{R}$を$$M_f(t)= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} ( \int_X f^td\mu )^{\frac{1}{t}} &(t\neq0) \\ \exp(\int_X(\log f)d\mu)&(t=0) \end{array} \right. \end{eqnarray} $$によって定める.
$p\in [1,\infty)$のとき,$M_f(p)$は$f$の$L_p$ノルム$\left \| f \right \|_p$に他ならない.
$X=\{1,\ldots,n\}, \Sigma=2^{X}, \mu(\{k\})=\frac{1}{n}\;(k=1,\ldots,n)$であるときを考え,$f(k)=a_k \;(k=1,\ldots,n)$とおく.このとき,$$M_f(t)= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \left(\frac{a_1^t+\cdots+a_n^t}{n}\right)^{\frac{1}{t}} &(t\neq0) \\ (a_1\cdots a_n)^{\frac{1}{n}}&(t=0) \end{array} \right. \end{eqnarray} $$である.よって,$M_f(-1), M_f(0), M_f(1)$はそれぞれ$a_1,\ldots,a_n$の調和平均,相乗平均,相加平均に他ならない.
$M_f$は$\mathbb{R}$上の連続関数である.
$0$以外の点で$M_f$が連続であることは有界収束定理を使って容易に示せる.よって$M_f$が$0$で連続であることを示す.
関数$g:\mathbb{R}\to \mathbb{R}$を$g(t)=\int_Xf^td\mu$によって定める.このとき,$g$は$\mathbb{R}$上で微分可能で$ g'(t)=\int_Xf^t\log f d\mu$となる.よって,
$\begin{align}
\lim_{t \to 0}M_f(t) &= \lim_{t \to 0}\exp\left(\frac{1}{t}\log(g(t))\right) \\
&= \exp\left(\left.\frac{d}{dt}\log(g(t))\right|_{t=0}\right) \\
&= \exp\left(\frac{g'(0)}{g(0)}\right)\\
&= \exp\left(\int_X \log fd\mu\right)\\
&= M_f(0)
\end{align}$
となり,$t=0$での連続性も従う.
この記事の目標は以下の定理を証明することである.
$M_f$は$\mathbb{R}$上で単調増加である.
命題1より$M_f$は$\mathbb{R}$上連続で,また$0$以外の点では微分可能であるから,$t\neq 0$に対し$M_f'(t)\geq 0$であることを示せば十分である.
$t\neq0$に対し,$$M_f'(t) = \frac{1}{t^2}\left(\frac{\int_Xf^t\log f^td\mu}{\int_Xf^td\mu}-\log\left(\int_X f^td\mu\right)\right)M_f(t) $$が成り立つ.ゆえに,$$\int_Xf^t\log f^td\mu\geq\left(\int_Xf^t d\mu\right)\log\left(\int_Xf^td\mu\right) $$を示せばよいが,これは関数$h(t)=t\log t$が凸関数であることから,Jensenの不等式より従う.
上の定理より,特に$M_f(-1)\leq M_f(0)\leq M_f(1)$である.この不等式を$X=\{1,\ldots,n\}, \Sigma=2^{X}, \mu(\{k\})=\frac{1}{n}\;(k=1,\ldots,n)$の場合に適用することによって相加平均,相乗平均,調和平均の大小関係を得る.
$a_1,\ldots,a_n$を正の実数とするとき,$\frac{n}{\frac{1}{a_1}+\cdots+\frac{1}{a_n}}\leq (a_1\cdots a_n)^{\frac{1}{n}}\leq \frac{a_1+\cdots+a_n}{n}$が成り立つ.