はじめに
この記事は前の記事(
k-ナッチ数列の四捨五入表示の確率論的導出
)を書くにあたって触れた漸化式と確率論から不等式を導く理論がふと一般化できるんじゃないかと思い立って書いてみたものになります。
具体的には以下のように主張に拡張してみました。
数列が漸化式
および
を満たすとき
とおくと任意のに対し
が成り立つ。
これはランダムウォークの議論から成り立つ不等式なのでとりあえず安直にランダムウォーク不等式とでも呼ぶことにしました。
の設定が少しややこしいですが本質的には負のべきを許した多項式の次数っぽいものと考えればいいと思います。またの取り方は以下のように少し強くすることができます。
方程式
の絶対値未満の解を、そのそれぞれの重複度を、そして絶対値の解の個数(重複は含めない)をとおくとランダムウォーク不等式は
としても成り立つ。
ランダムウォーク問題
今回考えるランダムウォークの問題設定は
前の記事
とほとんど同じです。
ある人が軸上の非負整数点に立っており、この人はの確率で軸正の方向にだけ進むという動作を区間に至るまで無限に繰り返す。
そしてこの人が止まった点に到達したとき得点を得るものとする。
このときこの人が得る得点の期待値、つまりこの人がに止まる確率について
と定められる値がと同じ性質を満たすことを示します(ちなみににおいてこの人は負の方向に進まなくなるのでこの手法は使えません)。
いまからスタートして一回目の動作での確率での位置に進み、そこからに至る確率はそれぞれであることから漸化式
が成り立つのでについても同じ漸化式が成り立つことになる。
さてこの漸化式から方程式
の解を、そのそれぞれの重複度をとおくとの一般項は
と表せることがわかる。
このときの取り方からいくつかの項を取り除けるできることを示そう。
の一般項は
のように表せる。ただしは絶対値の解、は絶対値未満の解とした。
いまは確率なのでを満たすことに注意するとは有界、特にはにおいて発散する項を持ってはならないことになる。そして
が成り立つことに注意すると主張を得る。
不等式の導出
いまとは同じ漸化式を満たし、また仮定よりも有界であるのでも補題3と同じ主張が成り立つことになる。特にの一般項の自由度はの係数との係数の計個であり、したがって個の点における値から一般の点における値を決定することができる。
いまとしたい。そのためには
が成り立てばよく、またつまりであったことからとすればよい。
このとき
とおくと
が成り立つことがわかる。
また上の議論は
であれば成り立つのでその値として方程式の重複度込みの解の個数として
を採用してもよい。