String Applet というブラウザで動くウェブアプリの紹介です。これは多元環の表現論という、与えられた非可換環上の加群圏や導来圏の構造を調べる分野のもので、いろんな計算をやってくれて遊べる楽しいアプリです。 Jan Geuenich さんによって開発されました。
String Appletを開いた画面
本記事では、このアプリの遊び方を紹介することで、同時に具体例をもって多元環の表現論のいろいろな概念の説明や面白さを説明します。
最低限、環の定義が分かる人。分かんなくてもとりあえず何か数学で遊んでみたい人でもいいよ。
多元環だけ定義しておきます。この定義がすんなり分かれば問題ないですし分かんなくても遊べます。
体
使い方は、
です。詳しくは後で述べますが、まずは「好きに何となく左下をクリックして矢印引っ張って、Updateボタン押して、右側のタブをいろいろ見て」「クリックできそうな箇所をいろいろクリックして」遊んで見ましょう!
(どう矢印を引っ張ったらわかんなかったり、いろんな例が見たかったら、左上の「Load -> Example」のところから適当なやつを選べます)(またページを更新するたびに新しい例がランダムで表示されます)。出てくる頂点をグリグリ動かすだけでも楽しいね
こんな図とかが出てきます!
いっぱい矢印とかがあってボタンがいっぱいクリックドラッグできて楽しいですね(小並感)!
これらの情報やクリックする操作が何を意味するのかについて説明するのが本シリーズの狙いです。
細かい定義や証明は述べず、遊べるようになることに主眼を置いています。詳しい解説はそのうち。
この記事の目標は有向グラフと関係式をString Appletに入力できるようになることと、その意味をできれば理解することです。
アプリの左下に注目してください:
test
ここでは、
と呼ばれる2つのものを入力します。
有向グラフとは、頂点を適当に置いて、その間に適当に矢印を引っ張ったものです。String Appletでは、
消したかったら、矢とかをクリックしてDeleteキーを押せばいいです。すごく直感的なので多分やれば好きな有向グラフを作れると思います。
関係式について説明する前に、有向グラフから道多元環と呼ばれる多元環が構成されることを述べます。
このとき、道多元環
もう少し詳しく述べます。
「道」とは、矢を辿れるように適当にたどっていた文字列のことで、上の例だと例えば「a」「ab」「bc」「aaa」「aaaaabc」などが道です。また都合上、各頂点1,2,3について、「動かない空の道」
二つの道
上の例では、
さて、基底上にこのように演算を定めると、ベクトル空間であることから、この演算を
具体的には、分配法則で計算します。例えば、上の例で
となることがわかります。
また同じような理屈から、
このように、有向グラフという組合せ論的対象から、非可換環が自然に出てきます!実は逆に「多元環はすべて有向グラフから作られる」というタイプの性質も成り立ちます。
しかしそのためには「関係式」というもので割る必要があります。
専門数学で「関係式」というと、「ある代数系で満たされる等式」のことを指します(対称群のブレイド関係式など)。
上で作った道多元環
例を見ましょう、先程の図
test
の下段には「
新しい多元環
という意味です。例えばもとの道多元環
正確な数学的な意味は、
を考えているということです。
実は筆者が適当に有向グラフを作ってしまったせいで、
この多元環の次元が気になるって?それはString Appletが計算してくれます!
好きな多元環を有向グラフと関係式で入力して、上の「Update」を押しましょう。
test
すると右側のGeneral Informationタブの一番上に
とデカデカと表示されています。これがこの多元環
上の
答えはこの記事の一番下に置いておきます。
関係式は、なんとか=0だけじゃなくて、次のような関係式も入力できます:
これは、この有向グラフ
上の例の
をやってみましょう!
というわけで多元環を入力する方法だけでちょっと疲れたので、右側の情報の説明は次回以降少しずつしていきます。みなさんもこの記事で覚えた方法を使って好きに多元環を作って、右側の情報を眺めて「なんかわかんないけど図がいっぱいで楽しそうだな」と思ってください!
最後に、純粋にグラフ理論的な問題を投げておいて終わりにします。
次が有限次元ベクトル空間になるのはどのようなときか:
String Appletですべての有限次元多元環が扱えるわけではなく、special biserial algebraと呼ばれるある特別なクラスの多元環です。なので、有向グラフと関係式によっては例えばこういうエラーがあります:
これはString Appletで扱うには関係式が足りてないよ、と言っています。例えばabなどの関係式を入力すれば扱えます。
これはString Appletでは扱えない関係式です。
暇な人は、どういう入力でエラーがでるのかいろいろ試してみると、自然とあなたはspecial biserial algebraの定義にたどり着くでしょう。
問題1の答え
答えを一応書いておくと、