この記事ではスターリングの公式のガンマ関数を用いた証明を紹介していきます。
スターリングの公式とは以下の公式のことを言うのでした。
階乗$n!$は$n\to\infty$において
$$n!\sim\sqrt{2\pi n}\l(\frac{n}{e}\r)^n$$
と近似できる。つまり
$$\lim_{n\to\infty}\frac{n!}{\sqrt{2\pi n}}\l(\frac{e}{n}\r)^n=1$$
が成り立つ。
ここではガンマ関数
$$\G(t)=\int^\infty_0x^{t-1}e^{-t}dx$$
を用いたより強い主張
$$\G(t)\sim\sqrt{\frac{2\pi}{t}}\l(\frac{t}{e}\r)^t\qquad(t\to\infty)$$
つまり
$$\lim_{t\to\infty}\sqrt{t}\l(\frac{e}{t}\r)^t\G(t)=\sqrt{2\pi}$$
が成り立つ。
を示します。$\G(n)=(n-1)!$よりこれは$n!$についてのスターリングの公式を内含していることがわかります。
ちなみに複素関数としてさらに強い主張
$$\G(z)\sim\sqrt{\frac{2\pi}{z}}\l(\frac{z}{e}\r)^z\quad(|z|\to\infty)$$
が成り立つことも知られています(例えば
Wikipedia
でも紹介されている)が、ここでは$z\in\R_{>0}$のケースのみを扱います。
$$\sqrt{t}\l(\frac{e}{t}\r)^t\G(t)=\int^\infty_{-\infty}\exp\l(t(1+\frac{x}{\sqrt{t}}-e^{\frac{x}{\sqrt{t}}})\r)dx$$
$$\frac{x}{t}=e^{\frac{y}{\sqrt{t}}}$$
と変数変換したとき
$$\frac{dx}{t}=\frac{x}{t}\cdot\frac{dy}{\sqrt{t}}$$
が成り立つことに注意すると
\begin{align}
\sqrt{t}\l(\frac{e}{t}\r)^t\G(t)
&=\int^\infty_0\l(\frac{x}{t}\r)^te^{t(1-\frac{x}{t})}\cdot\frac{\sqrt t}{x}dx\\
&=\int^\infty_{-\infty}\exp\l(t(1+\frac{y}{\sqrt{t}}-e^{\frac{y}{\sqrt{t}}})\r)dy
\end{align}
を得る。
$t\to\infty$において
$$e^{\frac{x}{\sqrt{t}}}=1+\frac{x}{\sqrt{t}}+\frac{x^2}{2t}+O\l(\frac1{t\sqrt{t}}\r)$$
が成り立つことに注意すると
$$\lim_{t\to\infty}t(1+\frac{x}{\sqrt{t}}-e^{\frac{x}{\sqrt{t}}})=-\frac{x^2}{2}$$
となるので上の補題から
$$\lim_{t\to\infty}\sqrt{t}\l(\frac{e}{t}\r)^t\G(t)=\int^\infty_{-\infty}\exp\l(-\frac{x^2}2\r)dx=\sqrt{2\pi}\qquad(\mbox{ガウス積分})$$
を得る。
上の議論では積分と極限の交換を無断で行っていたがその正当性を以下で示しておく。
今回使うのはルベーグ積分の単調収束定理である。
区間$x\in I$上の関数$f_t(x)$が$t$について単調増加(resp.単調減少)にある関数$f(x)$に収束するとき、$f_1(x)$が積分可能であれば
$$\lim_{t\to\infty}\int_If_t(x)dx=\int_If(x)dx$$
が成り立つ。
いま
$$f_t(x)=\exp\l(t(1+\frac{x}{\sqrt{t}}-e^{\frac{x}{\sqrt{t}}})\r)$$
とおくと先の議論より
$$\lim_{t\to\infty}f_t(x)=e^{-\frac{x^2}2}$$
であることは示していたのであとは$f_t(x)$が$t$について単調であることを示せばこの定理が適用できる。
$f_t(x)$は区間$x\in[0,\infty)$において$t$について単調増加であり、区間$x\in(-\infty,0)$において$t$について単調減少である。
$f_t(x)$の代わりに
$$g_t(x)=t(1+\frac{x}{\sqrt{t}}-e^{\frac{x}{\sqrt{t}}})$$
について同じ主張が成り立つことを示せばよい。
いま
\begin{align}
\frac{\p}{\p t}g_t(x)
&=1+\frac{x}{2\sqrt{t}}-e^{\frac{x}{\sqrt{t}}}+\frac{x}{2\sqrt{t}}e^{\frac{x}{\sqrt{t}}}\\
&=\l(\frac{x}{2\sqrt{t}}-1\r)(e^{\frac{x}{\sqrt{t}}}+1)+2\\
\frac{\p^2}{\p x\p t}g_t(x)
&=\frac{1}{2\sqrt{t}}\l((\frac{x}{\sqrt{t}}-1)e^{\frac{x}{\sqrt{t}}}+1\r)
\end{align}
および$e^x-1\leq xe^x$に注意すると$\frac{\p^2}{\p x\p t}g_t(x)\geq0$つまり$\frac{\p}{\p t}g_t(x)$は$x$について単調増加であり、また$\frac{\p}{\p t}g_t(0)=0$に注意すると
となることがわかる。
一応$f_1(x)=\exp(1+x-e^x)$の積分可能性についても確認する必要があるが、それは
\begin{align}
\int^\infty_0f_1(x)dx&<\int^\infty_0e^{-\frac{x^2}{2}}dx=\sqrt{\frac{\pi}{2}}<\infty\\
\int^0_{-\infty}f_1(x)dx&<\int^0_{-\infty}e^{1+x}dx=e
\end{align}
と示すことができる。