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正n角形を円と放物線の交点で表現する

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はじめに

 この記事では ポテト一郎 さんのツイートを発端として最近話題(?)になっている正n角形の円と放物線による表現について私なりに考察した結果を紹介します。
 その話題となっている一連のツイートがこちらになります。

 この4つのツイートでは正7,13,19,25角形(の頂点)が円と放物線の交点として表現されています。このことについて私なりに考察して、その結果を利用したところひとまず正31,37角形でも同じことができることを確認できました。

正31角形 正31角形

正37角形 正37角形

 以下で私がどうやってこの結果を得たのかを紹介していきます。

考察

問題の内容

 まずこれらの表現が満たすべき条件というのを定めましょう。

  1. n角形の各頂点が円x2+y2=1と放物線の交点となっている。
  2. すべての放物線は合計4つの頂点を表すものとする。
  3. すべての放物線は点(1,0)を通り、その他の頂点で交わることはないものとする。

 このような表現ができるnについての条件、またはこのような表現ができるときどのように放物線を取ればよいのかを考えるのが今回の問題となります。
 とりあえずこの条件からn3k+1(kは正整数)の形で表される場合に限って問題が考えられることがわかります。x軸対称であったほうが扱いやすいので以下n6k+1型の自然数ということにしましょう。

放物線と円の交点

 まず放物線が表す4つの頂点についての条件を考えます。そこで上で紹介した4つのツイートをよく見てみると以下の法則が成り立つことがわかりました。

 3(1,0),(cosa,sina),(cosb,sinb)を通る放物線は点(cos(a+b),sin(a+b))も通る。

 仮定を満たすような放物線の方程式はラグランジュの補間公式より
y=(x1)(xcosb)(cosa1)(cosacosb)sina+(x1)(xcosa)(cosb1)(cosbcosa)sinb
と表せる。
 この右辺にx=cos(a+b)を代入すると
cos(a+b)1cosacosb(cos(a+b)cosbcosa1sinacos(a+b)cosa)cosb1sinb)=2sin2(a+b2)2sin(a+b2)sin(ab2)(2sin(a+2b2)sin(a2)2sin2(a2)2sin(a2)cos(a2)2sin(2a+b2)sin(b2)2sin2(b2)2sin(b2)cos(b2))=sin(a+b2)sin(ab2)(2sin(a+2b2)cos(a2)2sin(2a+b2)cos(b2))=sin(a+b2)sin(ab2)((sin(a+b)+sinb)(sin(a+b)+sina))=sin(a+b2)sin(ab2)(2sin(ab2)cos(a+b2))=2sin(a+b2)cos(a+b2)=sin(a+b)
を得る。

すなわち頂点
(cos2πin,sin2πin),(cos2πjn,sin2πjn)
を表す放物線が表すもう一つの頂点は
(cos(2π(i+j)n),sin(2π(i+j)n))
となるということです。

追記

 もう少しスマートな証明法がないか模索してみたところ次の主張を示すことができました。

 複素数平面において円|z|=1と放物線が異なる4z1,z2,z3,z4で交わるときz1z2z3z4=1が成り立つ。

 放物線は焦点αからの距離と準線Im(z)=bからの距離が等しい点の集合であるのでその方程式は
|zα|=|bIm(z)|
となる。これと円|z|=1の交点を考えるとzz=1から
z2|zα|2=z(zα)(zzaz)=z(zα)(1αz)4z2|bIm(z)|2=(2bzz2zzi)2=(2bizz2+1)2
なのでzについての四次方程式
4z2|zα|24z2|bIm(z)|2=4z(zα)(1az)+(2bizz2+1)2=0
|z|=1の共通解を求めればよい。
 特に上の四次方程式の定数項は1であるのでその解をz=z1,z2,z3,z4とおくと解と係数の関係から
z1z2z3z4=1
が成り立つ。

表現の構造

 では上で紹介した4つのツイートにおいて(i,j)の組はどのように取られていたのか見てみましょう。
 正6k+1角形に対する表現はx軸対称で計2k本の放物線からなるのでk本の放物線について以下に記します((i+j)の項は(i+j)(i+j)(x軸反転)またはn(i+j)(偏角の周期性)で置き換えて3k=n12未満にしたものとしました)、

  • n=7(k=1)のとき
    ij(i+j)(i+j)1233

  • n=13(k=2)のとき
    ij(i+j)(i+j)13442576

  • n=19(k=3)のとき
    ij(i+j)(i+j)1455268837109

  • n=25(k=4)のとき
    ij(i+j)(i+j)111121226883710104599

 これを見てわかる通りこの表のi,j,(i+j)の列で1から3k=n12までの番号が尽くされることになります。
 逆にi,j,(i+j)の列で1から3kまでの番号が尽くされるように(i,j)が取れることが表現の存在する必要十分条件となることは簡単にわかります。

表現の構成

 上の理屈で組(i,j)を構成していくとより5kにおける表現も得られそうです。
 というわけでk=5,6のときについてまずi=1,2,,kと並べてjにテキトーに数字を当てはめてみると

  • n=31(k=5)のとき
    ij(i+j)(i+j)114151527993101313481212561111

  • n=37(k=6)のとき
    ij(i+j)(i+j)17882911113101313414181851217176152116

 という表が(偶然)できたので冒頭で私が示したような表現が得られたのでした。
 k=1,2,3,4,5,6においてi=1に対するjの値がk+1または3k1とできるのは少し興味深いですね。

追記

表現の個数について

 上ではk=1,2,3,4,5,6に対して少なくとも一つは表現が存在していることを示しましたがその表現は果たして一意的なのでしょうか?
 答えはNoです。
 簡単なプログラムを書いて虱潰し的に(i,j)の取れ方を探索してみた(ただしiの値はi=1,2,,kと固定した)ところk=1,2のときは確かに一意的でしたがk=3のときは

  • n=19(k=3)のとき
    ij(i+j)(i+j)1455268837109ij(i+j)(i+j)1566281093477

2通りの表現が、k=4のときは

  • n=25(k=4)のとき
    ij(i+j)111122683710459ij(i+j)111122793584610ij(i+j)110112573694812ij(i+j)167210123811459ij(i+j)156281039124711ij(i+j)156291137104812

6通りの表現が、k=5のときは

  • n=31(k=5)のとき
    ij(i+j)114152793101348125611ij(i+j)114152101236947115813ij(i+j)113142810369411155712ij(i+j)113142683912471151015ij(i+j)112132683710411155914ij(i+j)191026831315471151214ij(i+j)189213153111446105712ij(i+j)178213153912410145611ij(i+j)178211133121546105914ij(i+j)178291131315461051214ij(i+j)178210123694131451115ij(i+j)167291131215410145813ij(i+j)167212143811491351015ij(i+j)167281039124131451115

14通りの表現が存在し、長くなるので詳細は省きますがk=6のときは62通り、k=7のときは262通り、k=8のときは1264通りほどあるようです。こうして指数関数やら階乗やらの速さで増えていく様子を見ると正6k+1角形については必ず表現が存在しそうな感じがしますね。

6k+1が素数のとき

 先ほど yotsunva さんの以下のツイートに連なる議論を見かけまして、どうやらn=6k+1が素数であるときは表現の存在が保証されるとともに"ある条件"を満たすようなものがただ一つ定まるようです。

 n=6k+1が素数のときは正n角形に対する表現が存在する。
 特に任意の放物線についてそれが表す四頂点を
(1,0),(cos2πan,sin2πan),(cos2πbn,sin2πbn),(cos2πcn,sin2πcn)
とおくと
a3b3c3(modn)
を満たすようなものがただ一つ存在する。

 いま上での議論から正n角形を円と放物線の交点で表現する問題はZ/nZ0以外の元(nは素数でとしていたのでつまり(Z/nZ)×の元)を2k個の三つ組
{a,b,c}(a+b+c0(modn))
に分ける問題に帰結されるのであった。
 特にこれらの三つ組が全て
a3b3c3(modn)
を満たすように取れるためには準同型
f:(Z/nZ)×(Z/nZ)×xx3
について|Kerf|=3が成り立ち、また任意の剰余類
A={a,b,c}(Z/nZ)×/Kerf
a+b+c=0を満たすことを示せばよい。
 ここで素数nの原始根の一つをrとおくと(Z/nZ)×の任意の元x
x=rj(0j<n1)
の形に一意に表せ、このときrの位数はn1=6kであることに注意すると
f(x)=r3j=13j|6kj=0,2k,4k
つまり|Kerf|=3を得る。
 またこのことから任意の剰余類A(Z/nZ)×/Kerf
A=rjKerf={rj,rj+2k,rj+4k}(0j<2k)
の形に一意に表せ、このとき
rj+rj+2k+rj+4k=rjr6k1r2k10(modn)
が成り立つことから主張を得る。

議論の帰結

 中国剰余定理から議論を帰結できないか考えてみたところnの異なる素因数の個数が1個か2個の場合に帰結できることがわかりました。

 nを互いに素な真の約数の積
n=MN(M,N>1,gcd(M,N)=1,M,N1(mod6))
に分解したとき、正M,N角形に対する表現が存在すれば正n角形に対する表現が存在する。

 M=6i+1,N=6j+1とおくと
n=MN=(6j+1)(6i+1)=6k+1
よりk=6ij+i+jが成り立つことに注意する。
 いま仮定よりZ/MZ,Z/NZ(から0を除いたもの)はそれぞれ2i,2j個の3つ組
{a,b,c}(a+b+c0(modM,N))
に分割できる。そのような分割をそれぞれ
As,Bt(1s2i,1t2j)
とおく。
 このとき中国剰余定理から環同型写像
φ:(Z/MZ)×(Z/NZ)Z/nZ
を取り、M,Nに関する3つ組
As={a,b,c},Bt={d,e,f}
に対しZ/nZの元の組
{φ(a,d),φ(b,e),φ(c,f)}
を考えるとその和は
φ(a+b+c,d+e+f)=φ(0,0)0(modn)
を満たすのでこれはnに関する3つ組となる。
 さて各s,tについてAs={a,b,c}Bt={d,e,f}によって構成できるn3つ組は全部で6通りあるが、同じ要素を持つ3つ組
{φ(a,d),φ(b,e),φ(c,f)},{φ(a,d),φ(b,f),φ(c,e)}
は共存できないことに注意すると計3つの分割が作れる。また
{φ(a,0),φ(b,0),φ(c,0)},{φ(0,d),φ(0,e),φ(0,f)}
n3つ組になるので以上のようにして12ij+2i+2j=2k個の3つ組への分割を構成することができ、主張を得る。

 nが素数冪
n=pe(p1(mod6))
の形に表せるとき、正n角形に対する表現が存在する。

 良く知られているようにp3に対して(Z/peZ)×は巡回群となるのでその生成元の一つをrとおくとZ/peZ
i=0e1pei1p13=pe13=2k
個の3つ組
{pirj,pirj+pei1p13,pirj+pei12(p1)3}(0i<e, 0j<pei1p13)
に分割できるので主張を得る(r(Z/peZ)×(ee)の生成元でもあることに注意する)。

 任意の正n角形(n1(mod6))に対して表現が存在することを示すには
p,q(pq, p,q1(mod6))
を素数としてn=pe(2e)またはn=peqf(2e,2f)の場合について示せば十分である。

 補題4からnをどのように互いに素な真の約数M,Nの積に分解してもM,N1(mod6)が成り立つ場合を考えればよい。
 このときn3つ以上の異なる素因数を持つとすると、その中から任意に3つの素因数p,q,rを選びn=peqfrgn(p,q,rn)
とおくと仮定より
pe,qf,rg1(mod6)
でなければならないがnの真の約数N=peqfN1(mod6)を満たすので矛盾。
 またnが丁度2つの異なる素因数を持つときn=peqfとおくと
pe,qf1(mod6)
であるためにはp,q1(mod6)かつ2e,2fであればよく、
 nが素数冪peであるときは定理5からp1(mod6)の場合について考えればよく、pe=n1(mod6)
であるためには2eであればよい。

まとめ

 2k個の3つ組
{a,b,c}(a+b+c1(modn))
への分割が存在するか否かや、3つ組(a,b,c)を構成するアルゴリズムはnが素数のときを除いて未だ不明ですが(i,j)の組を構成したときと同様の手法でより高次の正n角形についての表現を得ることができるんじゃないかなと思います。
 良ければ皆さんも正n角形の表現を探してみてはいかがでしょうか。では。

投稿日:2021217
更新日:2024512
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. 考察
  3. 問題の内容
  4. 放物線と円の交点
  5. 表現の構造
  6. 表現の構成
  7. 追記
  8. 表現の個数について
  9. 6k+1が素数のとき
  10. 議論の帰結
  11. まとめ