この記事では
ポテト一郎
さんのツイートを発端として最近話題になっている(?)正$n$角形の円と放物線による表現について私なりに考察した結果を紹介します。
その話題となっている一連のツイートがこちらになります。
【吃驚仰天!正七角形!?】
— ポテト一郎🥔 (@potetoichiro) February 14, 2021
なな、なんと、円と2本の放物線の交点を結んで正七角形をつくることができるそうです。先ほど初めて知り私もやってみました。そして、その美しさに感動しました。松田康雄先生が発見し、2019年に算額が高見神社に奉納されたとのことです。いつか実物を見に行きたいです! pic.twitter.com/VptFWHlpRl
【拡張!正十三角形!?】
— ポテト一郎🥔 (@potetoichiro) February 15, 2021
円と4本の放物線の交点を結んで正十三角形をつくることに成功しました。我ながら頑張りました! https://t.co/mjKpObvbWK pic.twitter.com/aNCX1kXqXo
Enneadecagon. Equations later ... pic.twitter.com/KP4UbWeGLm
— Ignacio Larrosa Cañestro (@ilarrosac) February 15, 2021
It seems that most of the parabolas that go through 3 of the vertices, go through a fourth. In the case of the icosapenthagon, I had a hard time choosing them to cover the other 24 vertices. Finding exact expressions with radicals for their coefficients is more complicated ... pic.twitter.com/hsVMip19i4
— Ignacio Larrosa Cañestro (@ilarrosac) February 16, 2021
この4つのツイートでは正$7,13,19,25$角形(の頂点)が円と放物線の交点として表現されています。このことについて私なりに考察して、その結果を利用したところひとまず正$31,37$角形でも同じことができるのを確認できました。
正三十一角形 pic.twitter.com/oU6GHrXOkn
— しょう (@emiemi_ogaoga) February 17, 2021
正三十七角形できちゃった pic.twitter.com/8tAO5wb8ms
— しょう (@emiemi_ogaoga) February 17, 2021
以下で私がどうやってこの結果を得たのかを紹介します。
まずこれらの表現が満たすべき条件というのを定めましょう。
このような表現ができる$n$についての条件、またはこのような表現ができるときどのように放物線を取ればよいのかを考えるのが今回の問題となります。
とりあえずこの条件から$n$は$3k+1\;$($k$は正整数)の形で表される場合に限って問題が考えられることがわかります。$x$軸対称であったほうが扱いやすいので以下$n$は$6k+1$型の自然数ということにしましょう。
まず放物線が表す$4$つの頂点についての条件を考えます。そこで上で紹介した$4$つのツイートをよく見てみると以下の法則が成り立つことがわかりました。
$3$点$(1,0),(\cos a,\sin a),(\cos b,\sin b)$を通る放物線は点$(\cos(a+b),-\sin(a+b))$も通る。
仮定を満たすような放物線の方程式はラグランジュの補間公式より
$\dis y=\frac{(x-1)(x-\cos b)}{(\cos a-1)(\cos a-\cos b)}\sin a+\frac{(x-1)(x-\cos a)}{(\cos b-1)(\cos b-\cos a)}\sin b$
と表される。この右辺に$x=\cos(a+b)$を代入すると
\begin{eqnarray}
&&\frac{\cos(a+b)-1}{\cos a-\cos b}(\frac{\cos(a+b)-\cos b}{\cos a-1}\sin a-\frac{\cos(a+b)-\cos a)}{\cos b-1}\sin b)
\\&=&\frac{-2\sin^2(\frac{a+b}{2})}{-2\sin(\frac{a+b}{2})\sin(\frac{a-b}{2})}(\frac{-2\sin(\frac{a+2b}{2})\sin(\frac{a}{2})}{-2\sin^2(\frac{a}{2})}\cdot2\sin(\frac{a}{2})\cos(\frac a2)-\frac{-2\sin(\frac{2a+b}{2})\sin(\frac{b}{2})}{-2\sin^2(\frac{b}{2})}\cdot2\sin(\frac{b}{2})\cos(\frac b2))
\\&=&\frac{\sin(\frac{a+b}{2})}{\sin(\frac{a-b}{2})}(2\sin(\frac{a+2b}{2})\cos(\frac{a}{2})-2\sin(\frac{2a+b}{2})\cos(\frac{b}{2}))
\\&=&\frac{\sin(\frac{a+b}{2})}{\sin(\frac{a-b}{2})}((\sin(a+b)+\sin b)-(\sin(a+b)+\sin a))
\\&=&\frac{\sin(\frac{a+b}{2})}{\sin(\frac{a-b}{2})}\cdot(-2\sin(\frac{a-b}{2})\cos(\frac{a+b}{2}))
\\&=&-2\sin(\frac{a+b}{2})\cos(\frac{a+b}{2})
\\&=&-\sin(a+b)
\end{eqnarray}
を得る。
すなわち頂点
$\dis(\cos\frac{2\pi i}{n},\sin\frac{2\pi i}{n}),(\cos\frac{2\pi j}{n},\sin\frac{2\pi j}{n})$
を表す放物線が表すもう一つの頂点は
$\dis(\cos\left(-\frac{2\pi (i+j)}{n}\right),\sin\left(-\frac{2\pi (i+j)}{n}\right))$
となるということです。
もう少しスマートな証明法がないか模索してみたところ次の主張を示すことができました。
複素数平面において円$|z|=1$と放物線が異なる$4$点$z_1,z_2,z_3,z_4$で交わるとき$z_1z_2z_3z_4=1$が成り立つ。
放物線は焦点$\a$からの距離と準線$\Im(z)=b$からの距離が等しい点の集合であるのでその方程式は
$|z-\a|=|b-\Im(z)|$
となる。これと円$|z|=1$の交点を考えると$z\ol z=1$から
$z^2|z-\a|^2=z(z-\a)(\ol zz-\ol az)=z(z-\a)(1-\ol az)$
$\dis4z^2|b-\Im(z)|^2=(2bz-\frac{z^2-z\ol z}{i})^2=-(2biz-z^2+1)^2$
なので$z$についての四次方程式
$4z^2|z-\a|^2-4z^2|b-\Im(z)|^2=4z(z-\a)(1-\ol az)+(2biz-z^2+1)^2=0$
と$|z|=1$の共通解を求めればよい。
そして上の四次方程式の定数項の値は$1$であるのでその解を$z=z_1,z_2,z_3,z_4$とおくと解と係数の関係から
$z_1z_2z_3z_4=1$
が成り立つ。
では上で紹介した$4$つのツイートにおいて$(i,j)$の組はどのようにとられていたのか見てみましょう。
正$6k+1$角形に対する表現は$x$軸対称で計$2k$本の放物線からなるので$k$本の放物線について以下に記します。
($-(i+j)'$の項は$-(i+j)$を$(i+j)$($x$軸反転)で、または$n-(i+j)$(偏角の周期性)で置き換えて$3k=\frac{n-1}{2}$未満にしたものです。)
$n=7\;(k=1)$のとき
$\begin{array}{cccc}
i&j&-(i+j)&-(i+j)'\\
1&2&-3&3
\end{array}$
$n=13\;(k=2)$のとき
$\begin{array}{cccc}
i&j&-(i+j)&-(i+j)'\\
1&3&-4&4\\
2&5&-7&6
\end{array}$
$n=19\;(k=3)$のとき
$\begin{array}{cccc}
i&j&-(i+j)&-(i+j)'\\
1&4&-5&5\\
2&6&-8&8\\
3&7&-10&9
\end{array}$
$n=25\;(k=4)$のとき
$\begin{array}{cccc}
i&j&-(i+j)&-(i+j)'\\
1&11&-12&12\\
2&6&-8&8\\
3&7&-10&10\\
4&5&-9&9
\end{array}$
これを見てわかる通りこの表の$i,j,-(i+j)'$の列で$1$から$3k=\farc{n-1}{2}$までの番号が尽くされることになります。
逆に$i,j,-(i+j)'$の列で$1$から$3k$までの番号が尽くされるように$(i,j)$が取れることが表現の存在する必要十分条件となることは簡単にわかります。
上の理屈で組$(i,j)$を構成していくとより$5\leq k$における表現も得られそうです。
というわけで$k=5,6$のときについてまず$i=1,2,\ldots,k$と並べて$j$にテキトーに数字を当てはめてみると
$n=31\;(k=5)$のとき
$\begin{array}{cccc}
i&j&-(i+j)&-(i+j)'\\
1&14&-15&15\\
2&7&-9&9\\
3&10&-13&13\\
4&8&-12&12\\
5&6&-11&11
\end{array}$
$n=37\;(k=6)$のとき
$\begin{array}{cccc}
i&j&-(i+j)&-(i+j)'\\
1&7&-8&8\\
2&9&-11&11\\
3&10&-13&13\\
4&14&-18&18\\
5&12&-17&17\\
6&15&-21&16
\end{array}$
という表が(偶然)できたので上で私が示したような表現が得られたのでした。
$k=1,2,3,4,5,6$において$i=1$に対する$j$の値が$k+1$または$3k-1$とできるのは少し興味深いですね。
上では$k=1,2,3,4,5,6$に対して少なくとも一つは表現が存在していることを示しましたがその表現は果たして一意的なのでしょうか?
答えはNoです。
簡単なプログラムを書いて虱潰し的に$(i,j)$の取れ方を探索してみた(ただし$i$の値は$i=1,2,\ldots,k$と固定した)ところ$k=1,2$のときは確かに一意的でしたが$k=3$のときは
と$2$通りの表現が、$k=4$のときは
と$6$通りの表現が、$k=5$のときは
と$14$通りの表現が存在し、長くなるので詳細は省きますが$k=6$のときは$62$通り、$k=7$のときは$262$通り、$k=8$のときは$1264$通りほどあるようです。こうして指数関数やら階乗やらの速さで増えていく様子を見ると正$6k+1$角形については必ず表現が存在しそうな感じがしますね。
先ほど
yotsunva
さんの以下のツイートに連なる議論を見かけまして、どうやら$n=6k+1$が素数であるときは表現の存在が保証されるとともにある条件によってユニークに定まるようです。(ユニークというのは数ある表現のうちある特別な条件を満たすものがただ一つ存在するというニュアンスです。)
放物線と円の交点4つの内3つがその正多角形の頂点のいずれかと一致するときに4点目も頂点のいずれかと一致することは偶然ではないし、放物線をより高次な曲線にしても同様のことが言える(4点目がどこかということも含めて Abel's theorem からわかる) https://t.co/fpKRu1EOUU
— yotsunva (@yotsunva) February 15, 2021
$n=6k+1$が素数のときは正$n$角形に対する表現が存在する。特に任意の放物線についてそれが表す頂点を
$\dis(1,0),\l(\cos\frac{2\pi a}{n},\sin\frac{2\pi a}{n}\r),\l(\cos\frac{2\pi b}{n},\sin\frac{2\pi b}{n}\r),\l(\cos\frac{2\pi c}{n},\sin\frac{2\pi c}{n}\r)$
とおくとその表現は$a^3\equiv b^3\equiv c^3\pmod{n}$という条件によってユニークに定まる。
いまこの記事における上での議論から正$n$角形を円と放物線の交点で表現する問題は
$\ZZ{n}$の$0$以外の元($n$は素数であったのでつまり$\ZZt{n}$の元)を$2k$個の組$(a,b,c)\;(a+b+c\equiv0\pmod{n})$に分ける問題に帰結されるのであった。
すなわち準同型$f:\ZZt{n}\to\ZZt{n}\quad x\mapsto x^3$について$|\Ker f|=3$であり、任意の剰余類$A=\{a,b,c\}\in\ZZt{n}/\Ker f$について$a+b+c=0$が成り立つことを示せばよい。
ここで素数$n$の原始根の一つを$r$とおくと$\ZZt{n}$の任意の元$x$は$r^j\;(0\leq j< n-1=6k)$の形に一意に表され、
$x^3=r^{3j}=1$が成り立つとき$r$の取り方から$3j|(n-1)=6k$を満たす。そのような$j$の取り方は$j=0,2k,4k$の三通りであるので$|\Ker f|=3$を得る。
そして任意の剰余類$A\in\ZZt{n}/\Ker f$は$\{r^j,r^{j+2k},r^{j+4k}\}\;(0\leq j<2k)$の形に一意に表され、
$\dis r^j+r^{j+2k}+r^{j+4k}=r^j\frac{r^{6k}-1}{r^{2k}-1}\equiv0\pmod{n}$
となるので主張を得る。
中国剰余定理から議論を帰結できないか考えてみたところ$n$の異なる素因数の個数が$1$個か$2$個の場合に帰結できることがわかりました。
$n$以下の任意の$n'\;(n'\equiv1\pmod{6})$について正$n'$角形に対する表現が存在すると仮定すると、$n$が互いに素な真の約数の積$MN\;(M,N>1,\;\gcd(M,N)=1,\;M,N\equiv1\pmod{6})$として表せれるとき、正$n$角形に対する表現が存在する。
主張のような$M,N$について仮定より正$M,N$角形に対する表現が存在するので、つまり$M=6i+1,N=6j+1$とおくと$\ZZ{M},\ZZ{N}$はそれぞれ$2i,2j$個の$3$つ組$\{a,b,c\}\;(a+b+c\equiv0\pmod{M,N})$(と$\{0\}$)に分割できる。そのような分割をそれぞれ$A_s,B_t\;(1\leq s\leq2i,1\leq t\leq2j)$とおく。このとき$n=MN=(6j+1)(6i+1)=6k+1$より$k=6ij+i+j$に注意する。
いま中国剰余定理から同型$(\ZZ{M})\times(\ZZ{N})\sim\ZZ{n}\;((x,y)\mapsto x\otimes y)$が成り立ち、$M,N$に対する$3$つ組$A_s=\{a,b,c\},B_t=\{d,e,f\}$に対し$\ZZ{n}$の元の組$(a\otimes d,b\otimes e,c\otimes f)$を考えるとその和は$(a+b+c)\otimes(d+e+f)=0\otimes0\equiv0\pmod{n}$となるのでこれは$n$に対する$3$つ組となる。また$a=b=c=0$や$d=e=f=0$としても同じことが言えることに注意する。
さて各$s,t$について$A_s=\{a,b,c\}$と$B_t=\{d,e,f\}$によって構成できる$n$の$3$つ組は全部で$6$通りあるが、異なる$3$つ組$(a\otimes d,b\otimes e,c\otimes f)$と$(a\otimes d,b\otimes f,c\otimes e)$は共存できないことに注意すると計$3$つの分割が作れる。また$(a\otimes0,b\otimes0,c\otimes0)$と$(0\otimes d,0\otimes e,0\otimes f)$も$n$の$3$つ組になるので以上のようにして$12ij+2i+2j=2k$個の$3$つ組への分割を構成することができ、主張を得る。
$n$が素数冪$n=p^e\;(p\equiv1\pmod{6})$の形で表されるとき、正$n$角形に対する表現が存在する。
良く知られているように$p\geq3$に対して$\ZZt{p^e}$は巡回群となるのでその生成元の一つを$r$とおくと$\ZZ{p^e}$は$\sum^{e-1}_{i=0}p^{e-i-1}\frac{p-1}{3}=\frac{p^e-1}{3}=2k$個の$3$つ組
$(p^ir^j,p^ir^{j+p^{e-i-1}\frac{p-1}{3}},p^ir^{j+p^{e-i-1}\frac{2(p-1)}{3}})\;(0\leq i< e,0\leq j< p^{e-i-1}\frac{p-1}{3})$
へ分割できるので主張を得る。($r$は$\ZZt{p^{e'}}\;(e'\leq e)$の生成元でもあることに注意する。)
任意の正$n$角形$(n\equiv1\pmod{6})$に対して表現が存在するならば、その事実を示すには$p,q\;(p\neq q,p,q\equiv-1\pmod{6})$を素数として$n=p^e\;(2|e)$または$n=p^eq^f\;(2\nmid e,2\nmid f)$の場合について示せば十分である。
補題$4$から$n$をどのように互いに素な真の約数$M,N$の積に表しても$M,N\equiv-1\pmod{6}$が成り立つ場合を考えればよい。($\ZZt{6}=\{\pm1\}$に注意する)
$n$が$3$つ以上の異なる素因数を持つとすると、その中から任意に$3$つの素因数$p,q,r$を選び$n=p^eq^fr^gn'\;$($n'$は$p,q,r$のいずれでも割り切れない自然数)とおくと仮定より$p^e,q^f,r^g\equiv-1\pmod{6}$であるが$n$の真の約数$N=p^eq^f$が$N\equiv1\pmod{6}$を満たすので矛盾。
また$n$が丁度$2$つの異なる素因数を持つとき、$n=p^eq^f$とおくと仮定より$p^e,q^f\equiv-1\pmod{6}$であるので$p,q\equiv-1\pmod{6}$かつ$2\nmid e,2\nmid f$であり、
$n$が素数冪$p^e$であるときは定理$5$から$p\equiv-1\pmod{6}$の場合について考えればよく、$p^e=n\equiv1\pmod{6}$より$2|e$となる。
$2k$個の$3$つ組$(a,b,c)\;(a+b+c\equiv1\pmod{n})$への分割が存在するか否かや、$3$つ組$(a,b,c)$を構成するアルゴリズムは$n$が素数のときを除いて未だ不明ですが$(i,j)$の組を構成したときと同様の手法でより高次の正$n$角形についての表現を得ることができるんじゃないかなと思います。良ければ皆さんも正$n$角形の表現を探してみてはいかがでしょうか。