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無限テトレーションの収束

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この記事の目標

ちょっと待っててね…

この項目は,執筆者が編集しすぎて大変長くなっています。特にスマホの場合は表示されるまで少し時間がかかりますが,カップラーメンでも食べながら気長にお待ち下さい。

また,証明をとばせば,何しているかはすぐに読めます。証明を折りたたむ機能を付けていないのは,単に僕がCSSについて知らないだけです。

この記事は,はてなブログで投稿した記事を, Mathlog で再編集,再掲したものです。これを書きながら Mathlog に慣れる目的もあります。
https://marukunalufd0123.hatenablog.com/entry/infinitetetlation

Mathlogについての感想は,一番下に書きました。

証明したいこと

無限テトレーション

xを正の実数とする。またx>0で定義される関数の列{fn(x)}を,f1(x)=x,fn+1(x)=xfn(x)によって定める。このfn(x)が収束するためのxに関する必要十分条件は,eexe1/eである。

ちなみに,ee0.065988,e1/e1.44467である。

上記の定義において,xに対してfn(x)を取る操作のことを,(n階)テトレーションをとると言います。nとしたときを無限テトレーションと名付けることにします。更に,limnfn(x)が存在するときは,その値をf(x)と書くことにします。例えばf(1)=1であり,f(2)は存在しないことが簡単に分かります。

xを正の実数と仮定しているのは,単に議論を簡単にしたいからであって,解析的にはxは任意の複素数をとったときが面白いです。
http://neqmath.blogspot.com/2018/06/blog-post_29.html
上記サイトが具体的に図示をしてくれて面白いです。

入試問題より

x=2の場合は,非自明ですが収束することが分かります。これを高校生に考えさせた問題があります。2011年度同志社大学全学部日程(理系)の第Ⅳ問です。

数列a1=2,a2=22,a3=222,a4=2222,は漸化式a1=2,an+1=(2)anを満たしている。f(x)=(2)xとして次の問いに答えよ。
(1) 0x2におけるf(x)の最大値と最小値を求めよ。
(2) 0x2におけるf(x)の最大値と最小値を求めよ。
(3) 0<an<2 (n=1,2,3,)が成立することを数学的帰納法を用いて示せ。
(4) 0<2an+1<(log2)(2an) (n=1,2,3,)が成立することを数学的帰納法を用いて示せ。
(5) limnanを求めよ。

この問題を解き切ることで,{fn(2)}の極限値が2であることが従います。この問題の解答は,読者の皆様にお任せ致します。

認める事実

まず,高等学校における学習指導要領の数学Ⅲまでは既知としています。そのうえで,次の命題を認めます。

有界単調数列は収束

上に有界な単調増加数列は収束する。つまり数列{an}n=1が次の2条件を満たすとき,数列{an}は収束する。

  1. 任意の正の整数nに対してanan+1である
  2. ある定数Mが存在して,任意の正の整数nに対してanMを満たす

また,上界を持たない単調増加数列は発散する。

(下に有界であっても同様である。)

高校の数学では,上記命題を認めた上で話を進めることが多いですが,表立って主張を述べているわけではありませんので,ここで触れておくことにしました。

また,次の性質も成り立ちます。

指数をとっているからアタリマエ

x>0ならば,任意の正の整数nに対してfn(x)>0である。

定理1を証明しよう

上記の内容を認めた上で,定理1に証明を与えます。

x=1のとき

x=1のときは任意の正の整数nに対してfn(x)=1ですから,f(x)=1であり,収束しています。

x>1のとき

いくつか補題を与えながら証明を進めていきます。

単調増加

x>1のとき,任意の正の整数nに対してfn(x)<fn+1(x)である。

数学的帰納法

n=1のときはf2(x)f1(x)=xx1>0より,0<f1(x)だったからf1(x)<f2(x)である。

n=kのときにfk(x)<fk+1(x)が成り立つと仮定する。n=k+1のとき,fk+2(x)fk+1(x)=xfk+1(x)fk(x)>0より,0<fk+1(x)だったからfk+1(x)<fk+2(x)である。

以上より数学的帰納法から補題は示された。♦

1<xの範囲でも,場合分けをすることで考えていきます。

上に有界

1<xe1/eのとき,任意の正の整数nに対して,fn(x)<eである。

やはり数学的帰納法

n=1のときは明らか。
n=kのときにfk(x)<eが成り立つと仮定する。{fn(x)}の定義から,logfk+1(x)=fk(x)logxである。つまり,logfk+1(x)<e1e=1である。よってfk+1(x)<eが成り立つ。

以上より数学的帰納法から補題は示された。♦

補題4,補題5から,1<xe1/eにおいて{fn(x)}は上に有界な単調増加数列ですので,収束します。

1<xe1/eのときは収束する

次に,e1/e<xのときにどうなるかを見ていきます。

少なくともeは上界ではない

e1/e<xのとき,ある(十分大きな)正の整数Nが存在してfN(x)>eを満たす。

背理法

ここに証明を入力します。

収束はしない

e1/e<xのときは{fn(x)}は収束しない。

|fn+1(x)fn(x)|を評価する

補題3,4より,正の整数nに対して0<fn(x)<fn+1(x)が成り立っていた。そこで区間[fn(x), fn+1(x)]に対して,関数logxに対して平均値の定理を適用する。つまり,ある定数cnが存在して,logfn+1(x)logfn(x)fn+1(x)fn(x)=1cn,fn(x)<cn<fn+1(x)を満たすようにとれる。特に0<fn(x)<cnなので,logfn+1(x)logfn(x)fn+1(x)fn(x)<1fn(x)であり,fn(x)(logfn+1(x)logfn(x))<fn+1(x)fn(x)を得る。この左辺にあるlogfn+1(x)logfn(x)については,logfn+1(x)logfn(x)=logfn+1(x)fn(x)=logxfn(x)fn1(x)=(fn(x)fn1(x))logxと変形できるので,結局(fn(x)fn1(x))logxfn(x)<fn+1(x)fn(x)である。ここで仮定より,十分大きい正の整数Nが存在して,nNならばlogx>1/e,fn(x)>eだったので,fn(x)fn1(x)<fn+1(x)fn(x)である。ここである正の実数γ0<γ<fN(x)fN1(x)を満たすようにとれば,|fn+1(x)fn(x)|γ>0nNで成り立つ。これは,{fn(x)}が収束しないことを言っている。

従って,e1/e<xのときは収束しないことが示せました。

e1/e<xのときは収束しない

0<x<1のとき

まずは発想を共有しよう

x>1のときよりも,0<x<1のときの方が難しいです。今回考えた発想の手がかりをまず初めに言っておきます。

x=0.1としてみましょう。f1(x), f2(x), f3(x), f4(x), f5(x), f6(x)を計算した結果は次のようになります。
f1(x)=0.1f2(x)=0.794328f3(x)=0.160573f4(x)=0.690919f5(x)=0.203742f6(x)=0.625544この事実が何を教えてくれるかというと,n偶数であるか奇数であるかによって,値が大きく振れてしまうことです。
ですので,0<x<1のときは偶奇に分けて考察をしていきましょう。

いざ証明

まずは次を示します。

偶奇に分ければ単調性が見えてくる

0<x<1ならば,すべての正の整数mについて,
{0<f1(x)<f3(x)<f5(x)<<f2m1(x)<<10<<f2m(x)<<f6(x)<f4(x)<f2(x)<1である。

n2以上の整数とする。
fn(x)の定義から,fn+2(x)fn+1(x)=xfn+1(x)fn(x)が成り立つので,両辺の(自然)対数をとり,
 ① log(fn+2(x)fn+1(x))=(fn+1(x)fn(x))logx
同様に,
 ② log(fn+1(x)fn(x))=(fn(x)fn1(x))logx
①-②から,
 ③ log(fn+2(x)fn(x))=(fn+1(x)fn1(x))logx
n=2のときから考える。0<x<1 だったから logx<0 である。また,
   f3(x)f1(x)=xxxx=xxx1>0

だから,③式の右辺は正と負の積となっているので負である。したがって

   log(f4(x)f2(x))<0

が成り立ち,この式からf4(x)f2(x)<1 となるから,f4(x)<f2(x) が従う。

n=3 のときは③式の右辺が正であることが分かるので,n=2 のときと同様に,f3(x)<f5(x) である。

この議論を繰り返すことで,
{0<f1(x)<f3(x)<f5(x)<<f2m1(x)<<f2m(x)<<f6(x)<f4(x)<f2(x)<1
であることが示される。

また,補題1よりf2m(x)>0 であり,x (0<x<1) と正の実数a について xa<1 が成り立つことから,

   f2m+1(x)=xf2m(x)<1

である。よって,
{0<f1(x)<f3(x)<f5(x)<<f2m1(x)<<10<<f2m(x)<<f6(x)<f4(x)<f2(x)<1
が分かり,証明は完了した。◆

この証明によって,関数列{f2m1(x)}m=1上に有界な単調増加数列なので,ある収束先 α(x) が存在します。同様に関数列{f2m(x)}m=1下に有界な単調減少数列なので,ある収束先 β(x) が存在します。

もしもα(x)=β(x)ならば limnfn(x) は存在するし,α(x)β(x) ならば limnfn(x) は存在しないというとです。

というわけで,α(x)=β(x) となるための x についての必要十分条件を探すことが,当分の目標になります。

まずはα(x), β(x)が満たすべき式を提示します。

上記の設定において,α(x), β(x)は次の式を満たす。
{log(log1α(x))=α(x)logx+log(log1x)log(log1β(x))=β(x)logx+log(log1x)

fn(x) の定義より,logfn+1(x)=fn(x)logx だが,この両辺を1 倍することで,

   log1fn+1(x)=fn(x)log1x

を得る。この式によって偶数列と奇数列だけに分離することができて,
{log(log1f2m+1(x))=f2m1(x)logx+log(log1x)log(log1f2m+2(x))=f2m(x)logx+log(log1x)この2式についてmとすることで,
{log(log1α(x))=α(x)logx+log(log1x)log(log1β(x))=β(x)logx+log(log1x)を得る。◆

といっても示した式はさすがに煩雑ですので,log1α(x)=s, log1β(x)=tと置き換えます。すると,
{logs=eslogx+log(log1x)logt=etlogx+log(log1x)となり,ちょっとすっきりしました。

ちょっとだけs, tのとりうる値の範囲も考えておきます。といっても,0<α(x)10β(x)<1なので
1es<1, 1e<t1ということなのですが。。。

eex<1のとき

eex<1 のとき,α(x)=β(x)であることを示します。

そのために,u (1eu1) について,u の定義域の内部で微分可能な関数 F(u) を考察します。

 ④ F(u):=eulogx+log(log1x)logu

これを u で微分すると,

  dduF(u)=eulogx1u=1u(ueulogx+1)

となります。特に(ueulogx+1) は常に0以上です。なぜなら,ueu は,u=1 で最大値 1e をとることが増減を調べることによってわかります。今,eex<1としましたので elogx<0 となります。つまり,1eu1 の範囲では常に1ueulogx となりますので,(ueulogx+1) は常に0以上です。

以上より,1eu1 の範囲では dduF(u)0 ですので,F(u) は単調減少な関数であることが分かりました。

つまり,F(u) は中間値の定理から,F(u)=0 となるようなu(1e, 1)高々1つしか存在しないことになります。
s, t が存在すれば,s=t でなきゃいけないって言ってるんですね。

しかし,α(x), β(x) の存在性からs, t の存在は保証されているので,結局 α(x)=β(x) です。

∴ eex<1 のときは f(x) は存在する。

x<ee のとき

x<ee のとき,α(x)β(x)であることを背理法で示します。

関数 logx について平均値の定理から,fn(x)fn+1(x) の間にある実数 Rn が存在して,

   logfn+1(x)logfn(x)fn+1(x)fn(x)=1Rn

となるようにとれます。この式を変形すると,

   logfn+1(x)fn(x)Rn=fn+1(x)fn(x)

となりますが,これはこの記事の②式を代入することで,

   (fn(x)fn1(x))Rnlogx=fn+1(x)fn(x)

となります。ここで,次の補題を使います。

上の状況で,n が十分大きいときに Rnlogx<1 が成り立つ。

この補題3を認めてしまえば,n が十分大きいときには

   |fn+1(x)fn(x)|>|fn(x)fn1(x)|

となり,これは fn(x) が収束すると仮定したことに矛盾します。

(ε論法でやるべきと思いますが,ここではがばがばに証明します。)
{fn(x)}が収束すると仮定する。このとき,次の関数 G(u) を考える。G(u):=loguulogxこの関数については G(f(x))=0が成り立つ。(なぜなら,f(x)=xf(x) でなければならないから。)
また,唐突に G(1logx) を計算すると,G(1logx)=log(logx)+1<0 (x<ee)また,G(u)0<u<1 では明らかに単調増加である。従って,
 ⑤ 1logx<f(x)
である。

また,Rnfn+1(x)fn(x) の間にある実数だから,はさみうちの原理から,

 ⑥ limnRn=f(x)

となる。n が十分大きいときは,⑤⑥より,

1logx<Rnが成り立ち,これよりRnlogx<1が従う。◆

これで定理1が正しいことは証明できました。

xを正の実数としたとき, {fn(x)}が収束するための必要十分条件は,
eexe1/eである。

その他の話題

今回考えましたf(x)=limnfn(x)については,逆関数がx1/xであることが分かっています。

特にこのf(x)は,今求めた定義域内で微分可能な関数です。

まとめ

たいへんでした。総括を書く気力が起こりませんね。

おまけ:実験程度にMathlogで執筆した

初期設定から,かなりたくさんのデザインCSS定義があり,見た目的には満足しています。

しかし\bfseriesコマンド及び\bmパッケージが用意されていないため,数式で太字を表すことが難しいですね。例えば現在の環境ですと,\pmb{ma=mg+T}と入力すればma=mg+Tma=mg+Tと表せることは出来るのですが,プラスの文字を見ればわかる通り,文字に文字を重ねて太字を作っているため,あまり使いたくありません。まだまだ発展途上でしょうか。

完全に思い違いでした。\boldsymbolで太字に出来ます。(2020年11月11日追記)

そのほか,不等式を打つときに$y < x$のように,“<”と“x”は空白を入れて書かないとエラーが出ました。これは裏でhtmlの書き方をサポートしていることが原因と思われます。

11月11日のアップデートでこの不具合が解消されました。

align

環境は普通に使えたので嬉しいです。他にも,自分で定義したコマンドが使えるというのも有り難いです。僕は大量にマクロを定義してTeXの文書を書く人間ですので,それを流用できたのはありがたかったです。(例えば,分数の標線がデフォルトよりちょっと長いことに気づきました?)

ただ,\hbox{},\vbox{}が正しく動いるわけではなさそうです。でもこれはMathJaxが悪いだけかな。。。

ていうか,任意の執筆者は
https://docs.mathjax.org/en/v2.7-latest/tex.html
を読もう。更に,
http://memopad.bitter.jp/web/mathjax/TeXSyntax.html
も読もう。

はてなブログから移行してもいいかなーとも思いました。これからMathlogが発展することを楽しみにしています。

投稿日:2020117
OptHub AI Competition

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投稿者

ぱるち
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数学屋さんをしています。代数,数論系に興味があり,今は楕円曲線と戯れています。Mathlogは現実逃避用という噂もあります。@f_d00123

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  1. この記事の目標
  2. 証明したいこと
  3. 入試問題より
  4. 認める事実
  5. 定理1を証明しよう
  6. $x=1$のとき
  7. $x>1$のとき
  8. $0< x< 1$のとき
  9. その他の話題
  10. まとめ
  11. おまけ:実験程度にMathlogで執筆した