この記事では第一種チェビシェフ多項式を非整数に一般化します。
さて、第一種チェビシェフ多項式とは次のようなものです。
第一種チェビシェフ多項式
$T_0(x)=1$
$T_1(x)=x$
$T_2(x)=2x^2-1$
$T_3(x)=4x^3-3x $
$T_4(x)=8x^4-8x^2+1 $
$\qquad\vdots$
${\displaystyle T_{n+1}(x)=2xT_{n}(x)-T_{n-1}(x)}$ (ただし$n = 1, 2,\ldots $)
この多項式は
${\displaystyle T_{n}(\cos (t))=\cos(nt),}$
と見ることで、$\cos $ の倍角公式そのものになる性質を持っています。
このことは、下図のように立体グラフ化することで視覚的に捉えることができます。
$T_6(x)$ の立体グラフ1
$T_6(x)$ の立体グラフ2
$T_6(x)$ の立体グラフ1
動画へのリンク
「y=32x⁶-48x⁴+18x²-1は円周を5等分し、7等分もするの図」-Twitter
サインカーブをいい感じに円柱に巻き付けたものを横から見ると第一種チェビシェフ多項式のグラフと一致することがおわかりいただけましたでしょうか。
第一種チェビシェフ多項式 $T_n(x)$ の $n$ は当然ながら非負整数です。この記事では、この $n$ を任意の実数に一般化する方法を考えます。
なぜそんなことを考えるのか?それを説明するために、このグラフをみてください。
$y=T_4(x)\text{ と }y=\cos(4\cos^{-1}(x))$のグラフ
$y=T_4(x)\text{ と }y=\cos(4\cos^{-1}(x))$ のグラフは $|x|\le1$ の範囲で完全に一致していますね?
このように、$y=T_n(x)\text{ と }y=\cos(n\cos^{-1}(x))$ のグラフは $|x|\le1$ の範囲で一般に一致します。このことは、 ${\displaystyle T_{n}(\cos (t))=\cos(nt)}$ に $t=\cos^{-1}x$ を代入すればわかります。
ここで、 $y=\cos(n\cos^{-1}(x))$ の方は $n$ を実数に一般化してもグラフを書くことができ、$n$ を連続的に変化させることができます。そのことから、 $T_n(x)$ の方も同様に連続的に変化させることができるような表現を見つけることがこの記事の目的です。
この記事では複素数の対数や三角関数の逆関数を扱います。
指数関数の逆関数として複素数の対数を定義したり、三角関数の逆関数を定義したりする際には値域が多価にならないように制限しないとうまく議論できないので、この記事ではそれぞれ次のように制限します。
・ この記事での複素数の対数を次のように定義します。
$\mathrm{Log}(z)=\log|z|+i\mathrm{Arg}(z)$
ここで $\mathrm{Arg}(z)$ は偏角の主値といい、値域を $-\pi<\mathrm{Arg}(z) \le\pi$ とします。このとき
$e^{\mathrm{Log}(z)}=z$
となることに注意します。
・この記事では $\cos $の逆関数を $\cos^{-1}$ と表記し、アークコサインと呼びます。定義域・値域を次のように制限します。
$y=\cos^{-1} x$ $\Leftrightarrow$ $x=\cos y$ $(-1\le x \le 1,0\le y\le \pi)$
$T_n(\cos(t))=\cos(nt)$
に
$t=\cos^{-1}x$
を代入すると、$(|x|\leq1)$
$T_n(x)=\cos(n\cos^{-1}x)$
次に
$e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$
に
$\theta=\cos^{-1}x$
を代入すると
$\begin{align} e^{i\cos^{-1}x}&=\cos(\cos^{-1}x)+i\sin(\cos^{-1}x)\\ &=x+i\sqrt{1-x^2} \end{align}$
ここで両辺の $\mathrm{Log}$ をとります。
$i\cos^{-1}x=\mathrm{Log}(x+i\sqrt{1-x^2})$
$\cos^{-1}x=-i\mathrm{Log}(x+i\sqrt{1-x^2})$
$n\cos^{-1}x=-i\cdot n\,\mathrm{Log}(x+i\sqrt{1-x^2})$
$\begin{align}
\cos\left(n\cos^{-1}x\right)&=\cos\left(-i\cdot n\mathrm{Log}(x+i\sqrt{1-x^2})\right)\\
&=\frac{1}{2}\left(
e^{-i^2\cdot n\mathrm{Log}(x+i\sqrt{1-x^2})}
+e^{i^2\cdot n\mathrm{Log}(x+i\sqrt{1-x^2})}
\right)\\
&=\frac{1}{2}\left(
(x+i\sqrt{1-x^2})^n
+(x+i\sqrt{1-x^2})^{-n}
\right)\\
&=\frac{1}{2}\left(
(x+i\sqrt{1-x^2})^n
+(x-i\sqrt{1-x^2})^{n}
\right)\\
\end{align}$
最後に $i\sqrt{1-x^2}$ の部分を $\sqrt{x^2-1}$ に書き換えれば
$\begin{align} \cos\left(n\cos^{-1}x\right) &=\frac{1}{2}\left( (x+\sqrt{x^2-1})^n +(x-\sqrt{x^2-1})^{n} \right)\\ \end{align}$
$\begin{align} \therefore T_n(x) &=\frac{1}{2}\left( (x+\sqrt{x^2-1})^n +(x-\sqrt{x^2-1})^{n} \right)\\ \end{align}$
いい感じの式ができました!
$\begin{align} T_n(x) &=\frac{1}{2}\left( (x+\sqrt{x^2-1})^n +(x-\sqrt{x^2-1})^{n} \right)\\ \end{align}$
導出の際には $|x|\le1$ に制限していましたが、できあがった式は $|x|>1$ の範囲にも自然に拡張することができます。そして、$n$ が整数の場合には、通常の第一種チェビシェフ多項式と同値です。いい感じの一般化になっているのではないでしょうか。
連続化も楽しかったですが、チェビシェフ多項式にはまだまだ面白い遊び方がありそうですね。