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べき級数の逆数を求る方法について

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あいさつ

んちゃ!
今回は、与えられたべき級数f(z):=n=0anznに対する逆数1f(z)=n=0bnznを求める方法を考えます。

目次
  • 導入
  • 応用例
  • 最後に

表記
  • N0:={0}N
  • C[x]:={k=0nakxk|a0,a1,...,anC}
  • C(x):={f(x)g(x)|f(x)C[x],g(x)C[x]{0}}

導入

同値関係

C[x]に下記の様な同値関係Nを定義する。
f,gC[x]:fNgdeff(x)g(x)=O(xN+1)

同値関係確認
  1. 反射律:f(x)=n=0f(x)C[x]:f(x)f(x)=0=O(xN+1)
    fNf
  2. 対称律:
    f(x)=n=0Nanxn+O(xN+1),g(x)=n=0Nanxn+O(xN+1):f(x)g(x)=O(xN+1)fNggNf
  3. 推移律:
    f,g,hC[x]:fNggN:f(x)=n=0Nanxn+O(xN+1)g(x)=n=0Nanxn+O(xN+1)h(x)=n=0Nanxn+O(xN+1)f(x)g(x)=O(xN+1)g(x)h(x)=O(xN+1)f(x)h(x)=O(xN+1)fNggNhfh
和・積

以下、商集合C[x]n:=C[x]/に対して以下の和・積を考える。
{f,gC[x]:[f]+[g]=[f+g]f,gC[x]:[f][g]=[fg]αC:fC[x]:α[f]=[αf]

well-defined
f,gC[x]:f,gC[x] s.t. ffgg:{f(x)=n=0Nan+O(xN+1)f(x)=n=0Nan+O(xN+1)g(x)=n=0Nbn+O(xN+1)g(x)=n=0Nbn+O(xN+1)を用いると次の様に計算できる。
[1]和:
f(x)+g(x)=n=0NanxN+n=0NbnxN+O(xN+1)=n=0N(an+bn)xn+O(xN+1)=f(x)+g(x)+O(xN+1)[f+g]=[f+g]
[2]積:
f(x)g(x)=m=0Namxmn=0Nbnxn+O(xN+1)=n=0N(m=0nambnm)xn+O(xN+1)=f(x)g(x)[fg]=[fg]
[3]スカラー積:
αf(x)=α{n=0Nanxn+O(xN+1)}=n=0Nαanxn+O(xN+1)=αf(x)[αf]=[αf]
同型射

φ:C[x]N[n=0Nanxn](a0a1aN)CN+1とするとφは同型射。

同型射である事を確認
[1]φの全単射性は明らかなので省略
[2]線形性:
α,βC:[n=0Nanxn],[n=0Nbnxn]C[x]n:φ(α[n=0Nanxn]+β[n=0Nbnxn])=φ([n=0N(αan+βbn)xn])=(αa0+βb0αa1+βb1αaN+βbN)=α(a0a1aN)+β(b0b1bN)=αφ([n=0Nanxn])+βφ([n=0Nbnxn])
線形写像

f=n=0Nan+O(xN+1)C[x]に対して以下の様な(N+1)×(N+1)行列を対応付ける。
fF=(a00000a1a0000a2a1a000aNaN1aN2aN3a0)
すると、以下の式が成り立つ。
[g]C[x]N:φ([fg])=Fφ([g])

g(x)=n=0Nbnxn+O(xN+1)とする。
すると下記の様に計算できる。
φ(g)=(b0b1bN)
f(x)g(x)=m=0Namn=0Nbnxm+n+O(xN+1)=n=0N(m=0nanmbm)xn+O(xN+1)
ゆえに、
φ([fg])=(m=00a0mbmm=01a1mbmm=0NaNmbm)=(a00000a1a0000a2a1a000aNaN1aN2aN3a0)(b0b1bN)=Fφ([g])

可換性

F=(a00000a1a0000a2a1a000aNaN1aN2aN3a0),G=(b00000b1b0000b2b1b000bNbN1bN2bN3b0)の様な(N+1)×(N+1)行列を考えると[F,G]:=FGGF=0

[1]N=0の場合は明らか。
[2]そこで、0,1,2,...,Nまで成り立つと仮定。
そして、次の様にブロック分割する。
{F:=(F0N+1AN+1a0)F:=(a00000a1a0000a2a1a000aNaN1aN2aN3a0)AN+1:=(aN+1aNa1)
{G:=(G0N+1BN+1b0)F:=(b00000b1b0000b2b1b000bNbN1bN2bN3b0)BN+1:=(bN+1bNb1)
すると以下の式が得られる。
FG=(F0N+1AN+1a0)(G0N+1BN+1b0)=(FG+0N+1BN+1F0N+1+0N+1b0AN+1G+a0BN+1AN+10N+1+a0b0)=(FG0N+1AN+1G+a0BN+1a0b0)
GF=(GF0N+1BN+1F+b0AN+1b0a0)
ゆえに、以下の結果が得られる。
[F,G]=FGGF=([F,G]0N+1AN+1G+a0BN+1(BN+1F+b0AN+1)0)=(ON+1,N+10N+1AN+1G+a0BN+1(BN+1F+b0AN+1)0)
さらに次の様に計算できる。
[AN+1G+a0BN+1(BN+1F+b0AN+1)]k=l=0NkaN+1klbl+a0bN+1k(l=0NkbN+1klal+b0aN+1k)=l=0Nk+1aN+1klbll=0Nk+1bN+1klal=0
以上の計算により[F,G]=0

a0C{0}に対してF=(a00000a1a0000a2a1a000aNaN1aN2aN3a0)は常に逆行列を持つ。

detF=a0N+10なので明らか。

a0C{0}に対してF=(a00000a1a0000a2a1a000aNaN1aN2aN3a0)の逆行列G=(b00000b1b0000b2b1b000bNbN1bN2bN3b0)は次の様に与えられる。
{b0=1a0bn=b0k=0n1aknbk(n=1,2,...,N)

FG=(a00000a1a0000a2a1a000aNaN1aN2aN3a0)(b00000b1b0000b2b1b000bNbN1bN2bN3b0)=(a0b00000a1b0+a0b1a0b0000a2b0+a1b1+a0b2a1b0+a0b1a0b000n=0NaNnbnn=0N1aNn1bnn=0N2aNn2bnn=0N3aNn3bna0b0)=EN+1
よって
{b0=1a0bn=b0k=0n1aknbk

応用

では上記の理論を応用してみましょう。
下記の問題は書き手であるずんだもんの主(やなさん)が思い付きで書いたものになります。必ずしも正しいとは限りません。
必ず、自分で計算して正しいかどうか確認してください。

f(x)=ex=n=01n!xnの逆数g(x)=n=0bnxnのテーラー展開を求めてください。

序盤の項の係数について計算しますと下記の様になる事が分かります。
{b0=1b1=b0a1b0=1b2=b0(a2b0+a1b1)=12b3=b0(a3b0+a2b1+a1b2)=16
ゆえに、次の様になると予測できます:bn=(1)n1n!(nN0)
実際、次の様に計算出来きるのでこの予想は正しいです。
bn+1=b0k=0nan+1kbk=k=0n(1)k1(n+1k)!k!=k=0n(1)k1(n+1k)!k!=1(n+1)!k=0n(1)kn+1Ck=1(n+1)!k=0n+1(1)kn+1Ck+(1)n+11(n+1)!n+1Cn+1=1(n+1)!(11)n+1+(1)n+11(n+1)!=(1)n+11(n+1)!

Gaussの超幾何関数f(x)=2F1(a,b;c;z)=n=0(a)n(b)n(c)nn!znの逆数g(x)=n=0bnxnがどうなるか予測してください。

序盤の項の係数について計算します。すると下記の様な事が分かります。
{b0=1b1=b0a1b0=abc
予想:nN0:{γn}nN0C s.t. {γ0=1bn=(1)nγn(a)n(b)n(c)nn!の形を取る。
bn+1=b0k=0n(a)n+1k(b)n+1k(c)n+1k(n+1k)!(1)kγk(a)k(b)k(c)kk!=k=0n(1)k(a)n+1k(a)k(b)n+1k(b)k(c)n+1k(c)k(n+1k)!k!γk=k=0n+1(1)k(a)n+1k(a)k(b)n+1k(b)k(c)n+1k(c)k(n+1k)!k!γk+(1)n+1(a)n+1(b)n+1(c)n+1(n+1)!γn+1
ゆえに、以下の様にγnを決めましょう。
γn+1=(1)n(c)n+1(n+1)!(a)n+1(b)n+1k=0n(1)k(a)n+1k(a)k(b)n+1k(b)k(c)n+1k(c)k(n+1k)!k!γk(nN0)
すると下記の式が得られます。
{g(z)=1n=1znn!{m=0n1(1)m(a)nm(a)m(b)nm(b)m(c)nm(c)m(nm)γm}γn+1=(1)n(c)n+1(n+1)!(a)n+1(b)n+1k=0n(1)k(a)n+1k(a)k(b)n+1k(b)k(c)n+1k(c)k(n+1k)!k!γk(nN0)γ0=1

Gaussの超幾何関数f(x)=2F1(a,b;c;z)=n=0(a)n(b)n(c)nn!znの逆数g(x)は下記の様に書ける。
{g(z)=1n=1znn!{m=0n1(1)m(a)nm(a)m(b)nm(b)m(c)nm(c)m(nm)γm}γn+1=(1)n(c)n+1(n+1)!(a)n+1(b)n+1k=0n(1)k(a)n+1k(a)k(b)n+1k(b)k(c)n+1k(c)k(n+1k)!k!γk(nN0)γ0=1

超幾何関数N+1FN(a1,a2,...,aN+1;b1,b2,...,bN;z)の逆数g(x)=n=0bnxnがどうなるか予測してください。

これも同じ様に計算すればいいです。
{bn=1n!k=0n1(1)k(a1)nk(a2)nk(aN+1)nk(a1)k(a2)k(aN+1)k(b1)nk(b2)nk(bN)nk(b1)k(b2)k(bN)k(nk)γk(nN)b0=1γn+1=(1)n(b1)n(b2)n(bN)n(a1)n(a2)n(aN)nk=0n(1)kk=0n(1)k(a1)n+1k(a2)n+1k(aN+1)n+1k(a1)k(a2)k(aN+1)k(b1)n+1k(b2)n+1k(bN)n+1k(b1)k(b2)k(bN)k(nk)!k!γk(nN0)γ0=1
実際b0=1
bn=b0k=0n1(a1)nk(a2)nk(aN+1)nk(b1)nk(b2)nk(bN)nk(nk)!(1)k(a1)k(a2)k(aN+1)k(b1)k(b2)k(bN)kk!γk=k=0n(1)k(a1)nk(a2)nk(aN+1)nk(a1)k(a2)k(aN+1)k(b1)nk(b2)nk(bN)nk(b1)k(b2)k(bN)k(nk)!k!γk+(1)n(a1)n(a2)n(aN+1)n(b1)n(b2)n(bN)kn!γn
なので以下の式を得る。
γn+1=(1)n(b1)n+1(b2)n+1(bN)n+1(n+1)!(a1)n+1(a2)n+1(aN)n+1k=0n(1)k(a1)n+1k(a2)n+1k(aN+1)n+1k(a1)k(a2)k(aN+1)k(b1)n+1k(b2)n+1k(bN)n+1k(b1)k(b2)k(bN)k(n+1k)!k!γk(nN0)
ゆえに
bn=k=0n1(1)k(a1)nk(a2)nk(aN+1)nk(a1)k(a2)k(aN+1)k(b1)nk(b2)nk(bN)nk(b1)k(b2)k(bN)k(nk)!k!γk=1n!k=0n1(1)k(a1)nk(a2)nk(aN+1)nk(a1)k(a2)k(aN+1)k(b1)nk(b2)nk(bN)nk(b1)k(b2)k(bN)k(nk)γk

超幾何関数f(x)=N+1FN(a1,a2,...,aN+1;b1,b2,...,bN;z)=n=0(a1)n(a2)n(aN+1)n(b1)n(b2)n(bN)nn!znの逆数g(x)は下記の様に書ける。
{g(z)=1n=1znn!k=0n1(1)k(a1)nk(a2)nk(aN+1)nk(a1)k(a2)k(aN+1)k(b1)nk(b2)nk(bN)nk(b1)k(b2)k(bN)k(nk)γkγn+1=(1)n(b1)n(b2)n(bN)n(a1)n(a2)n(aN)nk=0n(1)kk=0n(1)k(a1)n+1k(a2)n+1k(aN+1)n+1k(a1)k(a2)k(aN+1)k(b1)n+1k(b2)n+1k(bN)n+1k(b1)k(b2)k(bN)k(n+1k)!k!γk(nN0)γ0=1

ζ(2)=3F2(1,1,1:2,2;1)=π26を用いると下記の様に書ける。
{6π2=1n=1k=0n1γk(n+1k)2(k+1)2γn+1=(1)n(n+2)2k=0n(1)kγk(n+1k)2k2(nN0)γ0=1

級数S(x)=1+n=1anxnに関してその逆数T(x)=n=0bnxnがどのようになるか予測してください。

b0=1を用います。またある数列{γn}nN0Cを用いて次の様に書けたとしましょう。
bn=(1)nanγn
この場合は、
bn+1=b0k=0nan+1k(1)kbk=k=0n+1(1)kan+1kakγk+(1)n+1an+1γn+1
より以下の条件が得られる。
γn+1=(1)n1an+1k=0n(1)kan+1kakγk(kN0)
まとめると次の様です。
{bn=k=0n1(1)kankakγkb0=1γn+1=(1)n1an+1k=0n(1)kan+1kakγk(kN0)γ0=1T(z)=1n=1znk=0n1(1)kankakγk

級数S(x)=1+n=1anxnに関してその逆数T(x)は下記の様に書ける。
{T(z)=1n=1znk=0n1(1)kankakγkγn+1=(1)n1an+1k=0n(1)kan+1kakγk(kN0)γ0=1

最後に

短い記事でしたがどうでしたか?
多項式を行列で捉えるという一見誰でも思いつく方法でしたが、ちゃんと考えてみると奥が深いですよね!
今はまだ全然思いついていないのですが、
ここで書いた理論をさらに応用する方法を思いつき次第書いてみたいです。
それでは、ばいちゃ!

投稿日:58
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