ウィーナー空間のBorel σ-fieldとcylinder σ-fieldは、なんで一致するんや?
有限個の時刻しか見てへんのに、経路全体の可測構造が分かる理由
確率過程を勉強していると、Brownian motionの標本経路を集めた「ウィーナー空間」が出てきます。
ここで、最初に引っかかりやすいのが、次の疑問です。
有限個の時刻における値しか見ていないcylinder setから、なんで経路空間全体のσ-fieldを作ってええんやろうか。
経路は、すべての時刻に対して値を持っています。
つまり、経路は無限次元的な対象です。
それなのに、有限個の時刻の情報から始めて、本当に経路全体の可測構造を捉えられるのでしょうか。
結論からいうと、連続経路の空間では、
$$
\text{cylinder setsが生成する }\sigma\text{-field}=\text{一様収束位相から生じるBorel }\sigma\text{-field}
$$
が成り立ちます。
もっと具体的には、経路空間を次のように置きます。
$$ W=C_0([0,T];\mathbb{R}^d) $$
このとき、
$\boxed{\mathcal{B}(W)=\sigma(X_t:t\in[0,T])}$
が成り立ちます。
さらに強いことに、すべての実数時刻を見る必要すらありません。
$\boxed{\mathcal{B}(W)=\sigma(X_q:q\in\mathbb{Q}\cap[0,T])}
$
つまり、可算個しかない有理時刻の値だけで、経路空間のBorel σ-field全体を生成できるんです。
そんなことあるんかいな、と思うかもしれません。
あるんです。
カギになるのは、次の四つです。
・経路の連続性
・有理数の稠密性
・経路空間の可分性
・σ-fieldが可算回の集合演算に閉じていること
今日は、この四つがどうつながるのかを、行間を飛ばさずに説明します。
数学はな、途中を飛ばすから分からんようになるんです。
今日は飛ばしません。
⸻
まず、経路空間とは何か
通常の有限次元空間では、一つの点は有限個の実数で表されます。
たとえば、三次元空間の点は次のように表されます。
$x=(x_1,x_2,x_3)$
一方、経路空間では、一つの点が関数そのものです。
今回考える経路空間は、次の集合です。
$C_0([0,T];\mathbb{R}^d)=\{\omega:[0,T]\to\mathbb{R}^d\mid \omega\in C([0,T];\mathbb{R}^d),\ \omega(0)=0\}$
これを簡単に、
$W=C_0([0,T];\mathbb{R}^d)$
と書きます。
この空間の要素は、時刻0で0から始まる連続関数です。
つまり、一つの要素が一本の経路になっています。
ここで大事なのは、この段階の経路は確率変数ではないということです。
ただの関数です。
経路空間の「点」が関数になっている、それだけです。
⸻
なんで経路空間に距離を入れるんや?
集合だけを用意しても、二つの経路が近いのか遠いのかは決まりません。
そこで、経路空間に距離を入れます。
今回使うのが一様ノルムです。
$||\omega||_\infty=\sup_{0\le t\le T}|\omega(t)|$
二つの経路の距離は、次のように定めます。
$$
d_\infty(\omega,\eta)=||\omega-\eta||_\infty=\sup_{0\le t\le T}|\omega(t)-\eta(t)|
$$
これは、時間区間全体で見たときの、二つの経路の最大のずれを表しています。
たとえば、ほとんどの時刻で二つの経路が近くても、一か所だけ大きく離れていたら、一様距離は大きくなります。
逆に、次が成り立つとします。
$$
||\omega_n-\omega||_\infty\to0
$$
これは、定義を書き直すと次の意味です。
$$
\sup_{0\le t\le T}|\omega_n(t)-\omega(t)|\to0
$$
つまり、すべての時刻で誤差がまとめて小さくなっています。
これを一様収束といいます。
点ごとの収束と一緒にしたらあきません。
点ごとの収束は、各時刻を固定すれば収束するというだけです。
一様収束では、時間区間全体を一気に抑えています。
⸻
距離から開球と位相を作る
中心となる経路を一つ固定し、正の数を半径として選びます。
開球は次のように定義されます。
$$
B(\omega_0,r)=\{\omega\in W:|\omega-\omega_0|_\infty< r\}
$$
これは、基準となる経路から、どの時刻でも距離が半径未満しか離れていない経路の集合です。
集合が開集合であるとは、その集合に含まれるどの経路を取っても、その経路を中心とする小さな開球が集合の中に入ることをいいます。
つまり、集合の中の点が境界に張り付いておらず、少しだけ動かしても集合の中に残るということです。
このような開集合の集まりが位相です。
位相があることで、連続性、収束、開集合、閉集合といった概念を扱えるようになります。
⸻
σ-fieldとは何やったか
確率を定義するためには、どの集合に確率を割り当てるかを決める必要があります。
その集合の集まりがσ-fieldです。
集合全体を表す記号をΩとします。
その部分集合の族をFとします。
Fがσ-fieldであるとは、まず全体集合を含むことです。
$$
\Omega\in\mathcal{F}
$$
次に、補集合について閉じていることです。
$$
A\in\mathcal{F}\Longrightarrow A^c\in\mathcal{F}
$$
さらに、可算和について閉じていることです。
$$
A_1,A_2,\ldots\in\mathcal{F}\Longrightarrow\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n\in\mathcal{F}
$$
補集合と可算和について閉じているため、可算共通部分についても閉じています。
$$
\bigcap_{n=1}^{\infty}A_n=\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n^c\right)^c
$$
ここで絶対に忘れたらあかんのは、σ-fieldが閉じているのは可算和と可算共通部分やということです。
非可算個の集合の和について、必ず閉じているわけではありません。
この「可算」という制限が、あとで可分性を使う理由になります。
⸻
生成されるσ-fieldとは何か
ある集合族をCとします。
C自体は、σ-fieldになっているとは限りません。
そこで、Cを含む最小のσ-fieldを考えます。
これを、Cが生成するσ-fieldといいます。
$$
\sigma(\mathcal{C})
$$
厳密には、次のように定義されます。
$$
\sigma(\mathcal{C})=\bigcap{\mathcal{F}:\mathcal{F}\text{ は }\sigma\text{-fieldであり、}\mathcal{C}\subset\mathcal{F}}
$$
意味は単純です。
Cに含まれる集合から始めて、補集合、可算和、可算共通部分を繰り返して作れる最小の世界です。
⸻
Borel σ-fieldとは何か
位相空間のすべての開集合を含む最小のσ-fieldを、Borel σ-fieldといいます。
$$
\mathcal{B}(W)=\sigma(\text{Wのすべての開集合})
$$
つまり、Borel σ-fieldは、距離や位相から自然に生まれる可測集合の集まりです。
今回でいうと、一様ノルムから開球ができ、開球から開集合ができ、開集合からBorel σ-fieldができます。
⸻
座標写像とは何か
各時刻に対して、経路からその時刻の値だけを取り出す写像を考えます。
$$
X_t:W\to\mathbb{R}^d
$$
その定義は次のとおりです。
$$
X_t(\omega)=\omega(t)
$$
これを座標写像、評価写像、coordinate map、evaluation mapなどと呼びます。
経路全体は無限次元的な対象ですが、座標写像の値は有限次元空間に入ります。
複数の時刻を取ると、有限次元射影を定義できます。
$$
\pi_{t_1,\ldots,t_n}(\omega)=(\omega(t_1),\ldots,\omega(t_n))
$$
これは、一本の経路から、有限個の時刻における値だけを取り出す写像です。
⸻
cylinder setとは何か
時刻を有限個選びます。
$$
0\le t_1<\cdots< t_n\le T
$$
さらに、有限次元空間上のBorel集合を一つ取ります。
$$
A\in\mathcal{B}((\mathbb{R}^d)^n)
$$
このとき、次の集合をcylinder setと呼びます。
$$
C(t_1,\ldots,t_n;A)=\{\omega\in W:(\omega(t_1),\ldots,\omega(t_n))\in A\}
$$
有限次元射影を使えば、次のように書けます。
$$
C(t_1,\ldots,t_n;A)=\pi_{t_1,\ldots,t_n}^{-1}(A)
$$
要するに、有限個の時刻の値だけを見て、経路を選別する集合です。
たとえば、次のような集合はcylinder setです。
$$
\{\omega\in W:\omega(t_1)\le a,\ \omega(t_2)-\omega(t_1)>b\}
$$
この集合に入るかどうかは、時刻t₁とt₂の値だけ見れば分かります。
一方で、次の集合は一つのcylinder setではありません。
$$
\{\omega\in W:\sup_{0\le t\le T}\omega(t)\le a\}
$$
なぜなら、時間区間全体の値を見ているからです。
ただし、一つのcylinder setでないことと、cylinder setsが生成するσ-fieldに入らないことは別問題です。
ここ、ごっちゃにしたらあきません。
⸻
cylinder σ-fieldを定義する
すべてのcylinder setsが生成するσ-fieldを、cylinder σ-fieldと呼びます。
$$
\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}=\sigma(\text{すべてのcylinder sets})
$$
座標写像を使うと、次のようにも書けます。
$$
\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}=\sigma(X_t:t\in[0,T])
$$
今日の目標は、次の等式を示すことです。
$$
\boxed{\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}=\mathcal{B}(W)}
$$
集合の等号を示すときは、包含関係を両方向から示します。
まず、次を示します。
$$
\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}\subset\mathcal{B}(W)
$$
次に、逆向きを示します。
$$
\mathcal{B}(W)\subset\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}
$$
⸻
第一の包含は、座標写像の連続性から出る
任意の二つの経路について、次が成り立ちます。
$$
|X_t(\omega)-X_t(\eta)|=|\omega(t)-\eta(t)|
$$
一様ノルムの定義から、固定した時刻における差は、時間区間全体の最大の差以下です。
$$
|\omega(t)-\eta(t)|\le\sup_{0\le s\le T}|\omega(s)-\eta(s)|
$$
したがって、次を得ます。
$$
|X_t(\omega)-X_t(\eta)|\le|\omega-\eta|_\infty
$$
これは、座標写像がLipschitz continuousであることを意味します。
しかも、Lipschitz定数は1です。
Lipschitz continuousな写像は連続です。
連続写像はBorel measurableなので、任意のBorel集合に対して、その逆像はBorel集合になります。
$$
A\in\mathcal{B}(\mathbb{R}^d)\Longrightarrow X_t^{-1}(A)\in\mathcal{B}(W)
$$
したがって、すべての座標写像から生成されるσ-fieldは、Borel σ-fieldに含まれます。
$$
\boxed{\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}\subset\mathcal{B}(W)}
$$
この方向は比較的素直です。
有限個の時刻を観測して定まる集合は、一様位相から見てもBorel集合になります。
⸻
難しいのは逆向きや
次に示したいのは、次の包含です。
$$
\mathcal{B}(W)\subset\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}
$$
Borel σ-fieldは、すべての開集合から生成されます。
したがって、すべての開集合がcylinder σ-fieldに入ることを示せば十分です。
証明は、次の順番で進みます。
1.有理時刻だけで一様距離を計算できることを示す
2.閉球を有理時刻の座標条件で表す
3.開球を閉球の可算和で表す
4.任意の開集合を開球の可算和で表す
この流れが、証明の本体です。
⸻
有理時刻だけで一様距離が分かる
有理時刻の集合を、次のように置きます。
$$
\mathbb{Q}_T=\mathbb{Q}\cap[0,T]
$$
この集合は可算であり、区間全体において稠密です。
稠密であるとは、どの時刻のどれだけ近くにも、有理時刻が存在するということです。
連続関数に対して、次が成り立ちます。
$$
\boxed{\sup_{0\le t\le T}|f(t)|=\sup_{q\in\mathbb{Q}_T}|f(q)|}
$$
まず、有理時刻は全時刻の一部なので、次は明らかです。
$$
\sup_{q\in\mathbb{Q}T}|f(q)|\le\sup{0\le t\le T}|f(t)|
$$
逆向きを示します。
任意の時刻を一つ固定します。
有理数は稠密なので、その時刻に収束する有理数列を取れます。
$$
q_n\to t
$$
関数が連続なので、次が成り立ちます。
$$
f(q_n)\to f(t)
$$
したがって、
$$
|f(t)|=\lim_{n\to\infty}|f(q_n)|\le\sup_{q\in\mathbb{Q}_T}|f(q)|
$$
これは任意の時刻について成り立つので、
$$
\sup_{0\le t\le T}|f(t)|\le\sup_{q\in\mathbb{Q}_T}|f(q)|
$$
です。
両方向の不等式を合わせると、等式が得られます。
経路の差に適用すれば、次の重要な式になります。
$$
\boxed{|\omega-\eta|\infty=\sup{q\in\mathbb{Q}_T}|\omega(q)-\eta(q)|}
$$
ここが今日の最重要ポイントです。
連続経路どうしの一様距離は、可算個の有理時刻の値だけで完全に決まります。
⸻
閉球をcylinder条件で表す
中心となる経路と半径を固定します。
閉球は次の集合です。
$$
\overline{B}(\omega_0,r)={\omega\in W:|\omega-\omega_0|_\infty\le r}
$$
先ほどの結果から、閉球に入ることは、すべての有理時刻において距離が半径以下であることと同値です。
$$
|\omega-\omega_0|_\infty\le r\Longleftrightarrow |\omega(q)-\omega_0(q)|\le r\text{ for every }q\in\mathbb{Q}_T
$$
したがって、閉球は次のように書けます。
$$
\overline{B}(\omega_0,r)=\bigcap_{q\in\mathbb{Q}_T}\{\omega\in W:|\omega(q)-\omega_0(q)|\le r\}
$$
座標写像を使えば、さらに次のように書けます。
$$
\boxed{\overline{B}(\omega_0,r)=\bigcap_{q\in\mathbb{Q}T}X_q^{-1}\left(\overline{B}{\mathbb{R}^d}(\omega_0(q),r)\right)}
$$
右辺の一つ一つは、単一の時刻だけを見るcylinder条件です。
さらに、有理時刻の集合は可算です。
したがって、右辺は可算個のcylinder setsの共通部分です。
cylinder σ-fieldはσ-fieldなので、可算共通部分について閉じています。
よって、閉球はcylinder σ-fieldに属します。
$$
\boxed{\overline{B}(\omega_0,r)\in\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}}
$$
注意してほしいのは、閉球そのものが一つのcylinder setというわけではないことです。
閉球は、可算個のcylinder条件を全部同時に課した集合です。
⸻
なんで無理時刻を見なくても大丈夫なんや?
ここは直感でも押さえておきましょう。
もし、ある無理時刻において、二つの経路の差が半径より大きくなったとします。
$$
|\omega(t)-\omega_0(t)|>r
$$
差を表す関数は連続です。
$$
s\mapsto|\omega(s)-\omega_0(s)|
$$
したがって、その時刻のすぐ近くでも、しばらくは値が半径より大きいままです。
その近くには必ず有理数があります。
よって、ある有理時刻でも次が成り立ちます。
$$
|\omega(q)-\omega_0(q)|>r
$$
つまり、無理時刻で境界を飛び出したら、有理時刻で必ずバレるんです。
これが連続性の力です。
⸻
開球を直接書くときの落とし穴
開球は次の集合です。
$$
B(\omega_0,r)={\omega\in W:|\omega-\omega_0|_\infty< r}
$$
ここで、次のように書きたくなるかもしれません。
$$
B(\omega_0,r)\stackrel{?}{=}\bigcap_{q\in\mathbb{Q}_T}{\omega\in W:|\omega(q)-\omega_0(q)|< r}
$$
しかし、この式は一般には正しくありません。
右辺では、すべての有理時刻で差が半径未満であることを要求しています。
ところが、すべての有理時刻で半径未満でも、その値が半径に限りなく近づき、supremumがちょうど半径になる可能性があります。
その場合、経路は開球には入りません。
$$
|\omega-\omega_0|_\infty=r
$$
閉球では「以下」という条件なので、そのまま可算共通部分で表せました。
しかし、開球の「未満」という条件には、ひと工夫必要です。
⸻
開球は小さい閉球の可算和で表す
開球は、少し小さい閉球の可算和として表せます。
$$
B(\omega_0,r)=\bigcup_{{m\in\mathbb{N}:1/m< r}}\overline{B}\left(\omega_0,r-\frac{1}{m}\right)
$$
右辺の各閉球の半径は、もとの半径より小さいので、右辺は開球に含まれます。
逆に、開球の中にある経路を一つ取ります。
$$
|\omega-\omega_0|_\infty< r
$$
このとき、残っている余裕を次のように置きます。
$$
\delta=r-|\omega-\omega_0|_\infty
$$
開球の中にあるため、δは正です。
十分大きな自然数を取れば、次が成り立ちます。
$$
\frac{1}{m}<\delta
$$
したがって、
$$
|\omega-\omega_0|_\infty< r-\frac{1}{m}
$$
となり、その経路は右辺のどれかの閉球に入ります。
各閉球はcylinder σ-fieldに属し、右辺は可算和です。
よって、開球もcylinder σ-fieldに属します。
$$
\boxed{B(\omega_0,r)\in\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}}
$$
⸻
開球が入っただけでは、まだ終わってへん
ここで、全部の開球がcylinder σ-fieldに入ったんやから、全部の開集合も入るやろ、と思うかもしれません。
惜しいです。
開集合は確かに開球の和で表せます。
$$
G=\bigcup_{\omega\in G}B(\omega,r_\omega)
$$
しかし、この和は非可算和かもしれません。
σ-fieldは可算和については閉じていますが、非可算和について閉じているとは限りません。
ここで必要になるのが、経路空間の可分性です。
⸻
可分性とは何か
距離空間が可分であるとは、可算な稠密部分集合を持つことです。
つまり、ある可算集合が存在して、空間のどの点も、その可算集合の点で好きなだけ正確に近似できるということです。
可算稠密集合を次のように書きます。
$$
D={\omega_1,\omega_2,\ldots}
$$
経路空間は、一様ノルムのもとで可分です。
たとえば、次の条件を満たす折れ線経路を考えます。
・折れ曲がる時刻がすべて有理数
・折れ曲がる点での値の各成分がすべて有理数
・その間を直線で結ぶ
このような折れ線経路の全体は可算集合です。
さらに、任意の連続経路を、このような折れ線経路で一様に近似できます。
連続関数はコンパクト区間上で一様連続だからです。
したがって、経路空間は可分です。
⸻
可分性から可算な開基を作る
可算稠密集合を固定します。
$$
D={\omega_1,\omega_2,\ldots}
$$
次に、中心をDの点に限定し、半径を正の有理数に限定した開球の族を考えます。
$$
\mathcal{U}={B(\omega_n,r):n\in\mathbb{N},\ r\in\mathbb{Q}_{>0}}
$$
自然数も正の有理数も可算なので、この開球の族も可算です。
しかも、この開球の族は位相の開基になります。
つまり、任意の開集合は、この可算な開球の族の要素の和として表せます。
開集合を一つ取り、その中の経路を一つ固定します。
開集合なので、ある正の数が存在して、次が成り立ちます。
$$
B(\omega,\varepsilon)\subset G
$$
Dは稠密なので、次を満たすDの点を選べます。
$$
|\omega-\omega_n|_\infty<\frac{\varepsilon}{4}
$$
さらに、次を満たす正の有理数を選びます。
$$
\frac{\varepsilon}{4}< r<\frac{\varepsilon}{2}
$$
すると、もとの経路は次の開球に含まれます。
$$
\omega\in B(\omega_n,r)
$$
また、その開球の任意の要素に対して、三角不等式より次が成り立ちます。
$$
|\eta-\omega|\infty\le|\eta-\omega_n|\infty+|\omega_n-\omega|_\infty
$$
したがって、
$$
|\eta-\omega|_\infty< r+\frac{\varepsilon}{4}<\varepsilon
$$
です。
よって、
$$
B(\omega_n,r)\subset B(\omega,\varepsilon)\subset G
$$
となります。
つまり、開集合の各点は、可算族Uに属する開球で覆えます。
したがって、任意の開集合は可算個の開球の和として表せます。
$$
G=\bigcup_{{(n,r):B(\omega_n,r)\subset G}}B(\omega_n,r)
$$
各開球はcylinder σ-fieldに属し、右辺は可算和です。
よって、任意の開集合はcylinder σ-fieldに属します。
$$
G\in\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}
$$
したがって、Borel σ-fieldはcylinder σ-fieldに含まれます。
$$
\boxed{\mathcal{B}(W)\subset\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}}
$$
⸻
ついに結論や
第一の包含として、次を示しました。
$$
\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}\subset\mathcal{B}(W)
$$
第二の包含として、次を示しました。
$$
\mathcal{B}(W)\subset\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}
$$
したがって、
$$
\boxed{\mathcal{B}(W)=\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}=\sigma(X_t:t\in[0,T])}
$$
です。
さらに、証明では有理時刻しか使っていないので、次も成り立ちます。
$$
\boxed{\mathcal{B}(W)=\sigma(X_t:t\in[0,T])=\sigma(X_q:q\in\mathbb{Q}\cap[0,T])}
$$
⸻
この証明で何が本質やったんか
証明で使った本質的な性質は三つです。
一つ目は、連続性です。
連続性があるから、有理時刻の値から無理時刻の値を復元できます。
その結果、一様距離も有理時刻だけで計算できます。
$$
|\omega-\eta|\infty=\sup{q\in\mathbb{Q}_T}|\omega(q)-\eta(q)|
$$
二つ目は、可分性です。
可分性があるから、任意の開集合を可算個の開球の和として表せます。
三つ目は、σ-fieldの性質です。
σ-fieldは、補集合、可算和、可算共通部分について閉じています。
まとめると、次の三つが組み合わさっています。
$$
\boxed{\text{連続性}+\text{可分性}+\sigma\text{-fieldの可算演算}}
$$
この三つによって、Borel σ-fieldとcylinder σ-fieldの一致が得られます。
⸻
経路全体に依存する事象も可測になる
たとえば、経路の最大値に関する次の集合を考えます。
$$
A={\omega\in W:\sup_{0\le t\le T}\omega(t)\le a}
$$
これは、一つのcylinder setではありません。
時間区間全体を見ているからです。
しかし、経路が連続なので、最大値は有理時刻だけを見ても変わりません。
$$
\sup_{0\le t\le T}\omega(t)=\sup_{q\in\mathbb{Q}_T}\omega(q)
$$
したがって、集合Aは次のように書けます。
$$
A=\bigcap_{q\in\mathbb{Q}_T}{\omega\in W:\omega(q)\le a}
$$
右辺は、可算個のcylinder setsの共通部分です。
よって、
$$
A\in\mathcal{F}_{\mathrm{cyl}}
$$
です。
無限個の時刻に依存するから可測でない、というわけではありません。
有限個の時刻だけで一発で判定できなくても、可算回の集合演算によって作れるなら、cylinder σ-fieldに入ります。
⸻
ウィーナー測度とどうつながるんや
確率空間の上に、標準Brownian motionがあるとします。
$$
(\Omega,\mathcal{F},\mathbb{P})
$$
$$
(B_t)_{0\le t\le T}
$$
各標本点に対して、一本の連続経路が得られます。
$$
t\mapsto B_t(\omega)
$$
そこで、経路値写像を定義します。
$$
B:\Omega\to C_0([0,T];\mathbb{R}^d)
$$
$$
B(\omega)(t)=B_t(\omega)
$$
この写像による確率測度の像測度を、ウィーナー測度と呼びます。
$$
\mu=\mathbb{P}\circ B^{-1}
$$
つまり、経路集合Aに対して、ウィーナー測度は次の確率を割り当てます。
$$
\mu(A)=\mathbb{P}(B\in A)
$$
cylinder setに対しては、次のようになります。
$$
\mu(C(t_1,\ldots,t_n;A))=\mathbb{P}((B_{t_1},\ldots,B_{t_n})\in A)
$$
つまり、cylinder sets上の確率は、Brownian motionの有限次元分布から決まります。
そして、cylinder setsが生成するσ-fieldは、経路空間のBorel σ-field全体と一致します。
せやから、有限次元分布から出発して、経路空間全体の確率測度を扱えるんです。
ここで話が全部つながります。
⸻
無限時間区間の場合
次の経路空間を考えることがあります。
$$
W^d=C([0,\infty);\mathbb{R}^d)
$$
この場合、全時間区間での一様距離は無限になる可能性があります。
そこで、各有限区間上での一様収束を表す距離を入れます。
$$
\rho(\omega,\eta)=\sum_{m=1}^{\infty}2^{-m}\left(1\wedge\sup_{0\le t\le m}|\omega(t)-\eta(t)|\right)
$$
ここで、記号の意味は次のとおりです。
$$
a\wedge b=\min(a,b)
$$
この距離による収束は、すべての正整数mについて、各有限区間上で一様収束することと同値です。
$$
\sup_{0\le t\le m}|\omega_n(t)-\omega(t)|\to0
$$
各有限区間について、先ほどと同じ議論が使えます。
$$
\sup_{0\le t\le m}|\omega(t)-\eta(t)|=\sup_{q\in\mathbb{Q}\cap[0,m]}|\omega(q)-\eta(q)|
$$
この経路空間も可分なので、有限時間の場合と同じ結論が得られます。
$$
\boxed{\mathcal{B}(W^d)=\sigma(X_t:t\ge0)=\sigma(X_q:q\in\mathbb{Q}_+)}
$$
すべての実数時刻ではなく、非負有理時刻だけで十分です。
⸻
最後に、これだけ持って帰ってや
ウィーナー空間は無限次元空間です。
でも、連続経路なら、有理時刻の値から経路全体の情報を復元できます。
さらに、経路空間は可分なので、位相の情報を可算個の開球で記述できます。
したがって、
$$
\boxed{\text{有限個の時刻に関する条件}+\text{可算回の集合演算}}
$$
だけで、経路空間のBorel σ-field全体を作れます。
最終的な結論は、次の等式です。
$$
\boxed{\mathcal{B}(C_0([0,T];\mathbb{R}^d))=\sigma(X_t:t\in[0,T])=\sigma(X_q:q\in\mathbb{Q}\cap[0,T])}
$$
有限個の時刻しか見ていないcylinder setから始めてええ理由は、cylinder set一個で経路全体が分かるからではありません。
そうやないんです。
cylinder setsに、補集合、可算和、可算共通部分という操作を加えることで、閉球、開球、開集合、そしてすべてのBorel集合を作れるからです。
ここを押さえたら、ウィーナー空間の可測構造は一気に見通しがよくなります。
数学は、式だけ追ったら迷子になります。
今どの性質を使っているのか。
連続性なのか。
可分性なのか。
σ-fieldの可算演算なのか。
そこを意識して読む。
これが一番大事です。