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高校数学解説
文献あり

シングマスターの無限族とフィボナッチ数

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はじめに

二項係数とフィボナッチ数の面白い関係を紹介します。

最初に結論を提示し、後半で証明します。
そのあと、パスカルの三角形との関係などを確かめます。
お急ぎの方は、結論部分だけでもみていただければと思います。

この記事では Fn でフィボナッチ数を表し、Ln でリュカ数を表します。

{Fn}={0,1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,89,}(n0)

{Ln}={2,1,3,4,7,11,18,29,47,76,123,199,}(n0)

フィボナッチ数・リュカ数は次のように漸化式で定義できます。

フィボナッチ数・リュカ数の漸化式による定義

{F0=0,F1=1,Fn+2=Fn+Fn+1(n0).

{L0=2,L1=1,Ln+2=Ln+Ln+1(n0).

また、記号 φ で黄金比を表します。すなわち

φ=1+52

二項係数とフィボナッチ数の不思議な関係

シングマスターの無限族

まずは、次の式をご覧ください。

xCy+xCy+1=xCy+2

(余談ですが、まるでフィボナッチ数やリュカ数の漸化式みたいな式ですね。)

この式が成り立つ整数 x,y について考えます。

たとえば、

(14C4,14C5,14C6)=(1001,2002,3003)

について

14C4+14C5=14C6

となりますので、(x,y)=(14,4) は解の一つとなります。

このような x,y は他にもあるのでしょうか?

実は、この問題には既に答えが出ています。

xCy+xCy+1=xCy+2
{x=F2n+2F2n+31y=F2nF2n+31(n1)

この式により、フィボナッチ数を使って無数のx,yの組み合わせが得られます。シングマスターが1975年に発表した定理だそうです。

参考: パスカルの三角形にたくさん出てくる数: 3003

黄金比との関係、3項の比とフィボナッチ数の関係

さらに今日、次のような関係もあることに気が付きました!

{x=φ4n+551y=φ4n+351(n1)

xCy:xCy+1:xCy+2=F2n:F2n+1:F2n+2

まとめるとこうなります。

for nN,

xCy+xCy+1=xCy+2

{x=F2n+2F2n+31y=F2nF2n+31

{x=φ4n+551y=φ4n+351

xCy:xCy+1:xCy+2=F2n:F2n+1:F2n+2.

実に美しい関係だと思いませんか?

具体例

x,yの具体的な値は次のようになります。

n1234567
x141037134894335512299691576238
y43827118681581487839602068
具体例

14C4+14C5=14C6103C38+103C39=103C40713C271+713C272=713C2734894C1868+4894C1869=4894C187033551C12814+33551C12815=33551C12816229969C87839+229969C87840=229969C878411576238C602068+1576238C602069=1576238C602070

14C4:14C5:14C6=1:2:3103C38:103C39:103C40=3:5:8713C271:713C272:713C273=8:13:214894C1868:4894C1869:4894C1870=21:34:5533551C12814:33551C12815:33551C12816=55:89:144229969C87839:229969C87840:229969C87841=144:233:3771576238C602068:1576238C602069:1576238C602070=377:610:987

証明の方針

では、ここから上記の式を証明していきます。
証明すべきことを3つに分けます。

証明すべきこと(その1)

xCy+xCy+1=xCy+2{x=F2n+2F2n+31y=F2nF2n+31(n1)

証明すべきこと(その2)

xCy+xCy+1=xCy+2{x=φ4n+551y=φ4n+351(n1)

証明すべきこと(その3)

xCy+xCy+1=xCy+2xCy:xCy+1:xCy+2=F2n:F2n+1:F2n+2

証明すべきこと(その1)の証明

まずは、1つめの証明です。

xCy+xCy+1=xCy+2{x=F2n+2F2n+31y=F2nF2n+31(n1)

これを証明します。

x,y は二項係数の添字ですから、

xy+22

であることに注意します。

xCy+xCy+1=xCy+2

を展開して整理していきます。

x!(xy)!y!+x!(xy1)!(y+1)!=x!(xy2)!(y2)!

分母を払うと

(y+2)(y+1)+(xy)(y+2)=(xy)(xy1)

展開して整理すると

y23xy+x23x2=0

ぺル型方程式(あとで説明します。)の形にしたいので、両辺を 20 倍してから平方完成します。

20y260xy+20x260x40=0

5(3x2y)2(5x+6)2=4

ここで

{X=3x2yY=5x+6

とおくと、X,Y は自然数で、

5X2Y2=4

の関係にあることがわかります。

ペル型方程式 5X2Y2=4 の解

この形は「ペル型方程式」と呼ばれており、無限個の自然数解を持ちます。
ペル型方程式の中でも、5X2Y2=4のすべての自然数解は次のように奇数番目のフィボナッチ数とリュカ数で表すことができることが知られています。

5X2Y2=4 の自然数解

 5F2n+12L2n+12=4(n=0,1,2,)

証明はこの記事では省略しますが、気になる方はこちらの記事をご覧ください。

Arithmetica算術ノート:フィボナッチ数の判定式(1) 二次体の整数の整除と単数

これで、X,Y の候補をしぼることができます。

{X=F2n+1Y=L2n+1

(不適な解も含んでいることに注意してください。)

5 を法として考えると

Y=5x+61mod5

となります。リュカ数は

{2,1,3,4,7,11,18,29,47,}{2,1,3,4,2,1,3,4,2,}mod5

と周期的に変化します(証明略)から、

 Y=L4n+1

の場合のみx=L4n+165 が整数になることがわかります。

x=L4n+165

次に y について考えます。x=L4n+165,X=F4n+1 を代入すると

y=3xX2=3L4n+165F4n+12=110(3L4n+15F4n+118)

ここで次の公式を使います。

5Fn=Ln1+Ln+1

y=110(3L4n+15F4n+118)=110(3L4n+1L4n+2L4n18)=110(3L4n+1(L4n+1+L4n)L4n18)=110(2L4n+12L4n18)=110(2L4n118)=L4n195

ここで
 L4n14mod5

ですから、
{X=F4n+1Y=L4n+1
のときは y は必ず整数になることがわかります。

xy+22

に注意して、添字を見やすいように4ずらして得られた式を整理すると次のようになります。

{x=L4n+565y=L4n+395

(n=1,2,)

さらに次の公式を使って変形しましょう。

5FjFk=Lk+j(1)jLkj

公式2で j=2n,k=2n+3 とすれば

5F2nF2n+3=L4n+34

となりますから、先ほどの式に代入して

y=L4n+395=(5F2nF2n+3+4)95=F2nF2n+31

同様に、公式2で j=2n+2,k=2n+3 とすれば

5F2n+2F2n+3=L4n+51

となりますから、先ほどの式に代入して

x=L4n+565=(5F2n+2F2n+3+1)65=5F2n+2F2n+31

以上より、x,y は次のとおりとなります。

{x=F2n+2F2n+31y=F2nF2n+31

(n=1,2,)

証明すべきこと(その2)の証明

次に、2つめの証明です。

xCy+xCy+1=xCy+2{x=φ4n+551y=φ4n+351(n1)

これを証明します。

{x=L4n+565y=L4n+395

この式から始めます。
まず、リュカ数は黄金比を使って次のように表現できます(証明略)。

Ln=φn+(1φ)n

これを代入すると、

{x=L4n+565=φ4n+5+(1φ)4n+565y=L4n+395=φ4n+3+(1φ)4n+395

次のように変形します。

{x+1+15(1(1ϕ)4n+5)=φ4n+55y+1+15(4(1ϕ)4n+3)=φ4n+35

両辺の床関数をとると

{x+1+15(1(1ϕ)4n+5)=φ4n+55y+1+15(4(1ϕ)4n+3)=φ4n+35

ここで |1ϕ|<1 ですから、

{x+1=φ4n+55y+1=φ4n+35

{x=φ4n+551y=φ4n+351

これで証明できました!

証明すべきこと(その3)の証明

最後に、3つめの証明です。

xCy+xCy+1=xCy+2xCy:xCy+1:xCy+2=F2n:F2n+1:F2n+2

これを証明します。
は自明ですから、について以下証明します。

xCy:xCy+1:xCy+2=x!(xy)!y!:x!(xy1)!(y+1)!:x!(xy2)!(y+2)!=(y+2)(y+1):(y+2)(xy):(xy)(xy1)

これに

{x=F2n+2F2n+31y=F2nF2n+31

を代入します。

(y+2)(y+1):(y+2)(xy):(xy)(xy1)=(F2nF2n+3+1)F2nF2n+3:(F2nF2n+3+1)(F2n+2F2n+3F2nF2n+3):(F2n+2F2n+3F2nF2n+3)((F2n+2F2n+3F2nF2n+3)1)

ここで

F2n+2F2n+3F2nF2n+3=(F2n+2F2n)F2n+3=F2n+1F2n+3

なので、

(F2nF2n+3+1)F2nF2n+3:(F2nF2n+3+1)(F2n+2F2n+3F2nF2n+3):(F2n+2F2n+3F2nF2n+3)((F2n+2F2n+3F2nF2n+3)1)=(F2nF2n+3+1)F2nF2n+3:(F2nF2n+3+1)F2n+1F2n+3:F2n+1F2n+3(F2n+1F2n+31)

ここで次の公式を使います。

Fi+jFi+kFiFi+j+k=(1)iFjFk

公式3で
i=2n,j=1,k=2 とすれば、

F2n+1F2n+2F2nF2n+3=1

F2nF2n+3+1=F2n+1F2n+2

公式3で
i=2n+1,j=1,k=1 とすれば、
F2n+2F2n+2F2n+1F2n+3=1

F2n+1F2n+31=F2n+2F2n+2

これらの式を使うと

(F2nF2n+3+1)F2nF2n+3:(F2nF2n+3+1)F2n+1F2n+3:F2n+1F2n+3(F2n+1F2n+31)=F2n+1F2n+2F2nF2n+3:F2n+1F2n+2F2n+1F2n+3:F2n+1F2n+3F2n+2F2n+2=F2n(F2n+1F2n+2F2n+3):F2n+1(F2n+1F2n+2F2n+3):F2n+2(F2n+1F2n+2F2n+3)=F2n:F2n+1:F2n+2

これで証明の完成です!

xCy:xCy+1:xCy+2=F2n:F2n+1:F2n+2

黄金比やパスカルの三角形との関係

さて、得られた関係式を改めてみてみましょう。

for nN,

xCy+xCy+1=xCy+2

{x=F2n+2F2n+31y=F2nF2n+31

{x=φ4n+551y=φ4n+351

xCy:xCy+1:xCy+2=F2n:F2n+1:F2n+2.

3つめの式では、 x,y を床関数と黄金比で表しています。

{x=φ4n+551y=φ4n+351

この式をみると、シングマスターの無限族に含まれる数字がパスカルの三角形のどのあたりに出てくるかわかります。

パスカルの三角形とは、次のように二項係数を三角形にならべたものでした。

パスカルの三角形

11 11 2 11 3 3 11 4 6 4 11 5 10 10 5 11 6 15 20 15 6 11 7 21 35 35 21 7 1

まず、x,yn1 増えるごとに約 φ4(6.85) 倍ずつ増えていくことがわかります。

また、
 x:(xy):yφ2:φ:1
ですから、パスカルの三角形の行の中では、両端からの比がおよそ 1:φ の位置にあることになります。

パスカルの三角形は左右対称ですので、同じ行の中にもう一つ同じ数字があります。2つの数字の、行の中での位置の両端からの比は φ:1:φ であることもわかりますね。

全体が相似の関係になっており、フラクタルのように思えます。面白いですね!

より直接的な表現

{14C4=14!10!6!532114C5=14!10!6!532214C6=14!10!6!5323

{103C38=103!65!40!13853103C39=103!65!40!13855103C40=103!65!40!13858

{713C271=713!442!273!3421138713C272=713!442!273!34211313713C273=713!442!273!34211321

一般化すると

{x=F2n+2F2n+31y=F2nF2n+31

{xCy=(F2n+3F2n+21)!(F2n+3F2n+1)!(F2n+3F2n+1)!F2n+3F2n+2F2n+1F2nxCy+1=(F2n+3F2n+21)!(F2n+3F2n+1)!(F2n+3F2n+1)!F2n+3F2n+2F2n+1F2n+1xCy+2=(F2n+3F2n+21)!(F2n+3F2n+1)!(F2n+3F2n+1)!F2n+3F2n+2F2n+1F2n+2

xCy+xCy+1=xCy+2

フィボナッチ数がたくさんでなかなか壮観ですね!

関連情報など

もともとは、Twitterでの ゆう の 右腕 さんのこのツイートを見て、自分で解いてみようと思ったのが始まりでした。(ツイート内で言及されている資料はまだ見ていません。)

ゆう の 右腕 さんのツイート

「あの数列」とみてもしやと思ったのですが、やはりフィボナッチ数列が絡んできましたね!
また、この問題は ゆう の 右腕 さんのブログ記事の演習問題にもなっています。ペル型方程式の解もこのブログから引用しています。

Arithmetica算術ノート:フィボナッチ数の判定式(1) 二次体の整数の整除と単数
Arithmetica算術ノート:フィボナッチ数の判定式(2) 二次体の整数の整除と単数
Arithmetica算術ノート:フィボナッチ数の判定式(3) 二次体の整数の整除と単数

それから、tsujimotter さんのブログ記事に、今回の記事ででてきた「Singmasterの定理」と、パスカルの三角形に複数回出てくる数字とのとても面白い関係が紹介されています。

tsujimotterのノートブック:パスカルの三角形にたくさん出てくる数: 3003

この記事を見ると、パスカルの三角形に8回出てくる3003という数が特別であることがよくわかります!

おわりに

フィボナッチ数と二項定理には、ほかにもいろいろ面白い関係が隠れていそうです。

関連情報など何かあれば教えていただければ幸いです。

参考文献

投稿日:2021417
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  1. はじめに
  2. 二項係数とフィボナッチ数の不思議な関係
  3. シングマスターの無限族
  4. 黄金比との関係、3項の比とフィボナッチ数の関係
  5. 具体例
  6. 証明の方針
  7. 証明すべきこと(その1)の証明
  8. ペル型方程式 5X2Y2=4 の解
  9. 証明すべきこと(その2)の証明
  10. 証明すべきこと(その3)の証明
  11. 黄金比やパスカルの三角形との関係
  12. より直接的な表現
  13. 関連情報など
  14. おわりに
  15. 参考文献