とある小学校の教室では、明日の遠足の話題でもちきりです。
自由時間は何をして遊ぼうか。おやつは何にしようか。
教室のあちこちで楽しそうな声が聞こえてきます。
扉が開き、先生が教室に入ってきました。
子供たちが全員席に着き、日直の号令の後、先生が口を開きます。
「明日は遠足ですね。何か質問はありますか?」
あるやんちゃな男の子が天井を突き抜けるような挙手をして質問をします。
「はいはいはい!!先生先生先生!!」
「なんですか?」
「バナナはおやつにはいりますか!?」
これを論理的に考えていきたいと思います。
ここで集合の考え方がパッと思い浮かぶ方は数学の才能がありそうです。
「バナナはおやつに入る」ということを数式で表すと
$$x=バナナ、x \in \lbrace y|y \in おやつ全体の集合 \rbrace$$
となります。
まず先生が考えなければならないのは、「おやつ」が何を指すのかです。
もちろん何を指して「おやつ」と呼ぶのかは人によって異なりますが、明確な定義をしなければ議論は進みません。
いろんな「おやつ」の定義を仮定してみましょう。
「おやつは朝食、昼食、夕食以外の軽い栄養補給」とみなす場合
この場合、おやつに入れることもできますし、入れないこともできます。
なぜなら、おやつが食べる時間で依存しているからです。
例えば、昼食のデザートとして食べるバナナはおやつに含まれないでしょう。
一方、昼食を食べた後、しばらくしてから食べるバナナはおやつに含まれてしまいます。
「バナナは果物であり、おやつではない」とみなす場合
例えば、リンゴはおやつでしょうか?ミカンはおやつでしょうか?ドリアンはおやつでしょうか?
恐らく「おやつ」ではなく「デザート」という分類になると思います。
同じくバナナも「おやつ」ではなく「デザート」になると予想されます。
数式で表すと
$デザートからなる集合をA、おやつからなる集合をBとすると$
$リンゴ \in A, ミカン \in A, ドリアン \in A$
$リンゴ \notin B, ミカン \notin B, ドリアン \notin B$
同様に
$バナナ \in A, バナナ \notin B$
となることが想像できると思います。
もし「いや、バナナはおやつだ」という人がいれば、なぜバナナはおやつなのにドリアンはおやつではないのかを言わなくてはなりません。
(ここで「ドリアンもおやつだ」という場合は、後述する3. のパターンです。)
「バナナは果物であり、おやつである」とみなす場合
2. とは違うパターンです。
リンゴ、ミカン、ドリアンも同じようにおやつとみなすと予想されます。
集合では一般的に以下のことが成り立ちます。
$A \subset B ⇔ (\forall x \in A ⇒ x \in B$)
つまり、「もし果物がおやつに含まれるなら、どんな果物でもおやつとみなすことができる」ということが言えます。
ちなみに、例えばケーキのように果物とは言えないおやつは存在するので
$B \not \subset A$
です。
もし「いや、ドリアンはおやつじゃない」と言う人がいるなら、なぜバナナはおやつなのにドリアンはおやつでないのかを言わなくてはなりません。
2. も3. も、なぜバナナだけ特別扱いなのかを言う必要があります。
「加工したらおやつになる」場合
ある人にこの議論をしたことがあるのですが、個人的に「へぇ~」となった定義です。
確かに、チョコバナナや焼きバナナは加工してあり、おやつと呼べそうです。
アップルパイも加工してあり、おやつと呼べそうです。
数式で表すと
$加工品全体の集合をCとすると$
$A \cap C \subset B$
果物かつ加工物、つまり「加工された果物はおやつである」という意味です。
この定義だと生バナナはおやつに含まれません。注意してください。
「おやつ」の定義は他にもいろいろ考えられると思いますが、自分でいろいろ考えてみてください。
さて、先生から「バナナはおやつに含まれます」との裁定が出ました。
ここで、よくある「おやつは300円まで」というルールも提示されたとします。
もうお分かりですよね?
そうです。
300円からおやつと化したバナナの値段も引かなくてはなりません。
「バナナはおやつに含まれない」との裁定が出たところでメリットは全くなく、「バナナはおやつに含まれる」ときのリスクの方が大きいです。
どうしてもバナナが食べたければ、この質問はせずに黙って持ってきたほうがいいんじゃないかな?と思いました。