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Arctanxのテイラー展開をtanxの積分から導く

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$$\newcommand{Arctan}[0]{\mathrm{Arctan} \,} \newcommand{d}[0]{\displaystyle} \newcommand{f}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{Log}[0]{\mathrm{Log} \,} $$

はじめに

どうも. 高3の12月, 共通テストの勉強が嫌でごちゃごちゃやってたら偶然発見した内容を, せっかくなので書いてみようと思います. 特に大学数学の予習をしていたわけではないので, 内容自体は高校数学で理解できます. それと, 現在私はB1の5月で, 全然数学のことわかりません!高校生が書いてると思って見てくれると嬉しいです. 議論に不備があったら遠慮なく指摘してほしいです.

知識の確認

Arctanについて

そもそもの話, Arctanは高校範囲ではありません. 読み方は「アークタンジェント」であり, tanの逆関数を表します. すなわち、$x,\, y$$y = \tan x$を満たすとき, $x$$y$の式で表すと$x = \Arctan y$となります. ですが勘のいい方はお気づきかもしれませんが, 1つの$y$に対応する$x$はたくさんあります. なんなら無限にあります. そもそも, 逆関数は区間内で単調な関数にのみ存在するのでした. 実数全体を定義域としたとき, $\tan x$は周期関数なので単調ではないですね. $\tan x$を単調な関数にするように定義域に制限を設けましょう. できる限り広い区間にしたいですが, 区間の取り方はたくさんありますね…. $\displaystyle \bigg] \frac{2025}{2}\pi,\, \frac{2027}{2}\pi \bigg[$みたいな区間も$\tan x$が単調な関数になる最も広い区間の1つですが, 変に逆張っても特にいいことはありません. (ちなみに$]a,\, b[$で開区間$(a,\, b)$を表します. これ, 変な記法ですよね. 大学生最初の授業でこれを教わったので, 今回はせっかくですしこの記法を使ってみます.)今回は, 素直に$\displaystyle \bigg] -\frac{\pi}{2},\, \frac{\pi}{2} \bigg[$にしておきましょう.定義域がこの区間であれば, $\tan x$は逆関数$\Arctan x$を持ちます. 逆関数の定義域と値域は, それぞれ元の関数の値域と定義域になるので, いま, $\Arctan x$の定義域は$]-\infty,\, \infty[$で, 値域は$\displaystyle \bigg] -\frac{\pi}{2},\, \frac{\pi}{2} \bigg[$となりました. これで綺麗に$\tan x$の逆関数を定義できたと思います. (余談ですが, $\Arctan x$は他にも$\arctan x$$\tan ^{-1} x$のような表記があります. よく$\arctan x$が使われるイメージですが, 私は1文字目を大文字にするのが好きです. 先ほども触れたとおり, 実数全体を定義域とする$\tan x$の逆関数は, 1つの入力に対し複数の出力が対応します. これはそもそも関数の定義から外れるのですが, このような関数もどきを多価関数と言います. そして, 多価関数の出力にはメインとなるものがあって, それを主値と言います. 例えば, $\tan x = 1$なる$x$$\displaystyle \frac{\pi}{4}$$\displaystyle \frac{5}{4}\pi$など色々ありますが, やはりメインと言えば$\displaystyle \frac{\pi}{4}$でしょう. 出力の値が主値だけになるよう多価関数の値域を調整したものを, よく1文字目を大文字にして表します. 例えば$z \in \mathbb{C}$についての対数関数$\Log z$とかもそうです. そういうわけで, 私は$\Arctan x$が好きです. ($\tan ^{-1} x$$\d \f{1}{\tan x}$に見えるからむしろ嫌いです. ))

テイラー展開について

テイラー展開も高校範囲ではありませんが, 知っている人も多いかと思います. 定義は以下の通りです.

テイラー展開

無限回微分可能な関数$f(x)$に対して,
$\d f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} \f{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n$
が成り立つ. $a$は定義域内であれば任意である.
右辺の式を得ることをテイラー展開と言う.

$f^{(n)}(a)$を簡単に$n$の式で表すことができるのであれば, テイラー展開は簡単に計算できます. $a=0$においては, $e^x$とか, $\sin x$とか, $\cos x$とか, $\log (1+x)$とかがその例です. 肝心の$\Arctan x$は…ちょっと試してみましょう.
$\d \f{d}{dx}\Arctan x = \f{1}{1+x^2}$
($\because$ $y=\Arctan x$とすると, $x=\tan y$であり, $\d \f{dy}{dx} = \f{1}{\f{dx}{dy}} = \cos ^2 y = \f{1}{1+\tan ^2 y} = \f{1}{1+x^2}$)
$\d \f{d^2}{dx^2}\Arctan x = \f{-2x}{(1+x^2)^2}$ ($\because$ 商の微分)
$\d \f{d^3}{dx^3}\Arctan x = \f{6x^2-2}{(1+x^2)^3}$ ($\because$ 商の微分)
まだ3階微分ですが, もうこの時点でごちゃごちゃしてきました. この後も続けていけばわかりますが, 第$n$次導関数を簡単な$n$の式で表すことは難しそうです. その後, $x$に結果がシンプルになりそうな値を代入するのですが, それ以前の問題ですね. 今回は何回も微分する方法ではなく, その他の方法で$\Arctan x$のテイラー展開を導きたいと思います.

本題

ゴールは?

まず結論として, $\Arctan x$のテイラー展開は次式で表されます.

$\Arctan x$のテイラー展開

$|x| \leqq 1$に対して,
$\d \Arctan x = \sum_{n=0}^{\infty}\f{(-1)^{n}}{2n+1}x^{2n+1}$

なぜ区間に制限がかかっているかとか, そういうのは後で説明します. ちなみにこれはさっきの定義1での$a=0$の場合です. こういうのを$x=0$のまわりでのテイラー展開で, マクローリン展開なんて言ったりしますけど, まぁ今はそういうのは気にしないでやっていきます.

下準備

タイトルにもある通り, 今回は$\tan x$の積分を用います. そこで, $I_n(x)$を以下のように定義します.

$\d n \in \mathbb{N},\, |x| < \f{\pi}{2}$に対して,
$\d I_n(x) \overset{\text{def}}{=} \int_0^x \tan ^{2n} \theta \, d\theta$

定積分ですが上端が$x$なので, 実質不定積分みたいなものです. 不定積分は積分定数の任意性が厄介なので, こういう形を考えています.

$I_n(x)$の一般項

定義2で定義した$I_n(x)$をこのままの形にしていても意味がありません. 今から一般項を導出するのですが, その前に漸化式を考えましょう.
\begin{align} I_{n+1}(x) &= \int_0^x \tan ^{2n+2} \theta \, d\theta \\ &= \int_0^x \tan ^{2} \theta \cdot \tan ^{2n}\theta \, d\theta \\ &= \int_0^x \bigg(\frac{1}{\cos ^2 \theta} - 1\bigg) \tan ^{2n} \theta \, d\theta \\ &= \int_0^x \tan ^{2n} \theta \f{d(\tan \theta)}{d\theta} \, d\theta - \int_0^x \tan ^{2n} \theta \, d\theta \\ &= \bigg[\frac{\tan ^{2n+1} \theta}{2n+1}\bigg]_0^x - I_n(x) \\ &= \frac{\tan ^{2n+1} x}{2n+1} - I_n(x) \end{align}
以上により, 漸化式$\d I_{n+1}(x) + I_n(x)= \f{\tan ^{2n+1} x}{2n+1}$を得ました.
2項間の差が$n$の式である階差型なら簡単に一般項を求められるのですが, 今回は2項間の和が$n$の式で表されています. 厄介そうに見えますが, ひとまず漸化式の両辺に$(-1)^{n+1}$をかけてみます.そうすると,
$\d (-1)^{n+1} I_{n+1}(x) - (-1)^n I_n(x)= \f{(-1)^{n+1}}{2n+1}\tan ^{2n+1} x$
となり, $J_n(x) = (-1)^n I_n(x)$とおけば,
$\d J_{n+1}(x) - J_n(x) = \f{(-1)^{n+1}}{2n+1}\tan ^{2n+1} x$
となって, 右辺は$J_n(x)$の階差数列を表しています.
よって, $\tan ^{0} \theta = 1$として, 便宜的に$I_0(x),\, J_0(x)$を考えれば, $n \in \mathbb{N}$に対して,
\begin{align} J_n(x) &= J_0(x) + \sum_{k=0}^{n-1} \f{(-1)^{k+1}}{2k+1}\tan ^{2k+1} x \\ &= \int_0^x d\theta + \sum_{k=0}^{n-1} \f{(-1)^{k+1}}{2k+1}\tan ^{2k+1} x \\ (-1)^n I_n(x) &= x + \sum_{k=0}^{n-1} \f{(-1)^{k+1}}{2k+1}\tan ^{2k+1} x \\ I_n(x) &= (-1)^n x + \sum_{k=0}^{n-1} \f{(-1)^{n+k+1}}{2k+1}\tan ^{2k+1} x \end{align}
となり, $I_n(x)$の一般項が求まりました.
なんだか, 上の定理1で見た$\Arctan x$のテイラー展開と形が似ている気がしますね!
ついでですが, $I_n(x)$が奇関数であることを確認しておきます.
\begin{align} I_n(-x) &= (-1)^n (-x) + \sum_{k=0}^{n-1} \f{(-1)^{n+k+1}}{2k+1}\tan ^{2k+1} (-x) \\ &= -(-1)^n x + \sum_{k=0}^{n-1} \f{(-1)^{n+k+1}}{2k+1}\{\tan (-x)\} ^{2k+1} \\ &= -(-1)^n x + \sum_{k=0}^{n-1} \f{(-1)^{n+k+1}}{2k+1}(-\tan x)^{2k+1} \text{($\because$ $\tan x$は奇関数)} \\ &= -\bigg\{ (-1)^n x + \sum_{k=0}^{n-1} \f{(-1)^{n+k+1}}{2k+1}\tan^{2k+1} x \bigg\} \\ &= -I_n(x) \end{align}
よって, $I_n(x)$は奇関数だとわかりました.

$I_n(x)$の極限

突然ですが, $\d \lim_{n \to \infty} I_n \bigg( \f{\pi}{4} \bigg)$を求めます.
これは直感的に$0$に行くことがわかると思います. $I_n(x)$の被積分関数は$\tan^{2n}\theta$だったので, $n \to \infty$では$\tan ^{\infty} \theta$みたいなもんです. 積分区間は$\d \bigg[ 0,\, \f {\pi}{4} \bigg]$だったので, この区間で被積分関数はほとんど$0$, 唯一$\d \theta = \f{\pi}{4}$のときだけ$1$をとります. そんな関数を積分しても, まぁ積分値は$0$でしょう. とは言っても, これは直感の話で, 実際に成り立つかどうかを証明しましょう.
$\theta \varphi$平面において, $\varphi = \tan \theta$のグラフは$\d \bigg[ 0,\, \f {\pi}{4} \bigg]$で下に凸なので, グラフ上の2点を結んだ直線はその2点の間で必ずグラフより上にあります. 端点を結んだ直線を考えると, その方程式は$\d \varphi = \f{4}{\pi}\theta$で表されます.
よって, $\d 0 \leqq \theta \leqq \f {\pi}{4}$において,
$\d 0 \leqq \tan \theta \leqq \f{4}{\pi}\theta$
が成り立ち, 両辺を$2n$乗すると,
$\d 0 \leqq \tan^{2n} \theta \leqq \bigg( \f{4}{\pi}\theta \bigg)^{2n}$
これの両辺を$\d \bigg[ 0,\, \f {\pi}{4} \bigg]$$\theta$で積分すると,
$\d 0 < I_n\bigg( \f{\pi}{4} \bigg) < \int_0^{\f{\pi}{4}}\bigg( \f{4}{\pi}\theta \bigg)^{2n} \, d\theta$
となります.
\begin{align} (\text{最右辺}) &= \bigg[ \f{\pi}{4} \cdot \f{1}{2n+1} \bigg( \f{4}{\pi}\theta \bigg)^{2n+1} \bigg]_0^{\f{\pi}{4}} \\ &= \f{\pi}{4} \cdot \f{1}{2n+1} \xrightarrow[n\to\infty]{} 0 \end{align}
となるので, はさみうちの原理から, $\d \lim_{n \to \infty} I_n\bigg( \f{\pi}{4} \bigg) =0$が示されました.
また, $I_n(x)$は単調増加です. これは,
\begin{align} \d \f{d}{dx}I_n(x) &= \f{d}{dx} \int_0^x \tan ^{2n} \theta \, d\theta \\ &= \tan ^{2n} x \text{($\because$ 微分積分学の基本定理)} \\ &\geqq 0 \end{align}
より明らかです.
$I_n(0) =0$なので, $\d 0 \leqq x \leqq \f {\pi}{4}$において,
$\d 0 \leqq I_n(x) \leqq I_n \bigg( \f{\pi}{4} \bigg)$
が成り立ち, $\d I_n \bigg( \f{\pi}{4} \bigg) \xrightarrow[n \to \infty]{} 0$より, はさみうちの原理から, $\d \lim_{n \to \infty}I_n(x) =0$となります.
次に, $\d -\f {\pi}{4} \leqq x \leqq 0$において,
$\d I_n \bigg( -\f{\pi}{4} \bigg) \leqq I_n(x) \leqq 0$
が成り立ち, $\d I_n \bigg( -\f{\pi}{4} \bigg) = -I_n \bigg( \f{\pi}{4} \bigg) \xrightarrow[n \to \infty]{} 0$より, はさみうちの原理から, $\d \lim_{n \to \infty}I_n(x) =0$となります.
以上を合わせて, $\d |x| \leqq \f{\pi}{4}$において, $\d \lim_{n \to \infty}I_n(x) =0$となります.

$\Arctan x$のテイラー展開

$I_n(x)$の一般項, 極限を見てきましたが, ここから$\Arctan x$のテイラー展開を導きます. まず, $I_n(x)$の一般項を以下に示します.
\begin{equation} I_n(x) = (-1)^n x + \sum_{k=0}^{n-1} \f{(-1)^{n+k+1}}{2k+1}\tan ^{2k+1} x \end{equation}
ここで, $x = \Arctan y$と変数変換をすると, $\tan (\Arctan y) =y$に注意して,
\begin{equation} I_n(\Arctan y) = (-1)^n \Arctan y + \sum_{k=0}^{n-1} \f{(-1)^{n+k+1}}{2k+1} y^{2k+1} \end{equation}
となります. これを右辺第$1$項の$\Arctan y$について整理すると,
\begin{equation} \Arctan y = \sum_{k=0}^{n-1} \f{(-1)^{k}}{2k+1} y^{2k+1} + (-1)^n I_n(\Arctan y) \end{equation}
となります.
ここで, $\d |x| \leqq \f{\pi}{4}$において, $\d \lim_{n \to \infty}I_n(x) =0$でしたが, $x = \Arctan y$より,
これは, $|y| \leqq 1$において, $\d \lim_{n \to \infty}I_n(\Arctan y)=0$を意味します.
よって, 上の式で両辺の$n \to \infty$の極限をとれば, $|y| \leqq 1$において,
\begin{equation} \Arctan y = \sum_{k=0}^{\infty} \f{(-1)^{k}}{2k+1} y^{2k+1} \end{equation}
を得ます. 定理1と形を合わせるために, $y$$x$に, $k$$n$に置き換えれば,
\begin{equation} \Arctan x = \sum_{n=0}^{\infty} \f{(-1)^{n}}{2n+1} x^{2n+1} (|x| \leqq 1) \end{equation}
となって, 無事$\Arctan x$のテイラー展開を導けました.

おわり

ここまで読んでくれてありがとうございます!はじめてMathlog書いたけど, 結局ここまで4時間くらいかかりました.
ちなみにですけど, 実は$|x|>1$では上の式は成り立ちません. 右辺の無限級数が発散しちゃうんですね. その話も入れたかったんですけど, 思ったよりも長くなっちゃったのでまた今度にします. こういう, 収束と発散が切り替わる$x$収束半径って言うらしいですね. 収束"半径"という名前は変数$x$を複素数に拡張するとしっくりくる, と聞いて感動しました. 複素関数論にとても興味があるので, はやくそこまで数学の勉強を進めたいです.
数学楽しい!!!!

投稿日:52
更新日:53
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  1. はじめに
  2. 知識の確認
  3. Arctanについて
  4. テイラー展開について
  5. 本題
  6. ゴールは?
  7. 下準備
  8. $I_n(x)$の一般項
  9. $I_n(x)$の極限
  10. $\Arctan x$のテイラー展開
  11. おわり