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2次関数の周期点について

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まえがき

複素力学系の入門書があれば教えていただきたいです。

概要

今回は、2次関数の周期点の性質について、高校数学の範囲で発見したことを紹介していきます。

周期点とは

写像$f:S \rightarrow S$ の周期点とは、ある正整数$n$が存在し$f^n(x)=x$を満たすような$x$である。
ここで、$f^n$は写像$f$$n$回合成したもの(いわゆる写像の反復、$f^0 = \mathrm{id}_S$, $f^{n+1} = f \circ f^n$)。
周期点$x$について、$f^k(x)=x$なる最小の正整数$k$を周期という。
周期点全体の集合を$\mathrm{Perm}(f)$、周期$k$の周期点全体の集合を$\mathrm{Perm}_k(f)$とする。

言い換えると、周期点とは写像のfunctional graphの閉路に属する頂点ということになります。(この記事では、写像$f:S\rightarrow S$のfunctional graphとは頂点集合$S$, 辺集合$\{ (x,f(x)) \mid x \in S \}$である有向グラフのことをさす)
今回は$S=\mathbb{C}$とします。
実は、$f(x)=x^2-t$の時だけ調べればすべての2次関数について調べたことになります。
今回証明するのは、$t$$2$以上の実数の場合の周期点の振る舞いについてです。

$f(x)=x^2-t \hspace{4pt} (t \geq 2)$について、$f^n(x) = x$$2^n$個の相異なる実数解をもつ。
つまり、$d \mid n$のとき$f^d(x) = x \Rightarrow f^n(x) = x$が成り立つことを踏まえると、
$$\sum_{d \mid n} |\mathrm{Perm}_d(f)| = 2^n$$
メビウスの反転公式より
$$|\mathrm{Perm}_n(f)| = \sum_{d \mid n}2^d \mu(\frac{n}{d})$$

証明

補足

まず、「実は、$f(x)=x^2-t$の時だけ調べればすべての2次関数について調べたことになります。」を証明しておきましょう。
写像$f:S_0 \rightarrow S_0$$g:S_1 \rightarrow S_1$$h:S_0 \rightarrow S_1$があり、$h \circ f = g \circ h$を満たすとき、
$$f^n(x)=x \Rightarrow h(f^n(x)) = h(x) \Leftrightarrow g^n(h(x))=h(x)$$となります。つまり、$x$$f$の周期点であれば$h(x)$$g$の周期点なのです。
特に、$h$が全単射のとき、これは$f$$g$のfunctional graphの間の同型写像であり、$f$の構造が分かれば$h \circ f \circ h^{-1}$という形のすべての写像について、それらが$f$と同じ構造を持っていることがわかります。
$f(x)=ax^2 + bx + c(a \neq 0)$を調べたいわけですが、$h(x)=ax + b/2$とするとこれは明らかに全単射で$h^{-1}(x)=x/a - b/2a$であり、
$$h(f(h^{-1}(x))) = af(h^{-1}(x)) - \frac{b}{2} = a(\frac{x^2}{a}-\frac{b^2-4ac}{4a})-\frac{b}{2}$$
$$=x^2 - \frac{b^2 + 2b - 4ac}{4}$$
となるので、示されました。

定理1の証明

以降$f(x) = x^2 - t \hspace{4pt} (t > 2)$とします。($t = 2$のときは後で証明します)
方針としては、

  • $f^n(x)=0$の解について調べる(合成関数の微分が刺さる)
  • $f^n(x)=x$の右辺の$x$がこの方程式の解にそれほど影響を及ぼさないことを示す

です。
まずいくつか準備をしておきます。

$x=0$における反復関数の挙動

$f(0) = -t$,$f^n(0) > t \hspace{4pt} (n \geq 2)$

$|x| \geq t$における反復関数の挙動

$|x| \geq t$のとき$\lim_{n \to \infty} f^n(x) = \infty$

これらは簡単な不等式評価をすることで導けます。

$(f^n(x))' = f'(f^{n-1}(x))f'(f^{n-2}(x)) \cdots f'(f(x)) f'(x)$
$=2^n f^{n-1}(x)f^{n-1}(x) \cdots f(x)x$
つまり$f^k(x)=0(n>k)$の解は、$f^n(x)$が極値をとるような$x$である。

これは合成関数の微分より従います。

$f^n(x) = 0$の実数解の個数を$C_n$とし、その解を小さい順に$a_{n1},a_{n2},\cdots ,a_{nC_n}$とする。
$\{ a_{mk} \mid 0 \leq m \leq n \hspace{2pt}, 1 \leq k \leq C_m \} = \{ a_{01},a_{11},a_{12},a_{21},\cdots ,a_{n1},\cdots ,a_{nC_n}\}$のうち$i$番目に小さいものを$b_{ni}$とする。
補題2から$f^n(x)=0$なら$f^m(x)\neq 0 \hspace{4pt} (m > n)$なので$a_{ij}$はすべて相異なる。

$f^n(x)=0$の解について調べる

数学的帰納法を使って以下の命題を証明します。

$C_n=2^n$であり、$b_{(n-1)i} = b_i$,$a_{ni} = a_i$,$b_0 = -t$,$b_{2^n} = t$とすると$a_i \in (b_{i-1},b_i)$である。
つまり、$b_{ni} = b'_n$とすると$b'_{2m-1}=a_m$$b'_{2m}=b_m$

$n=1$のとき、明らかに成り立つ。
$n\leq k$で成り立つと仮定する。このとき$y = f^{k+1}(x)$$(f^{k+1}(x))'=0$となる点、すなわち補題4より$f^{k}(x)f^{k-1}(x) \cdots f(x)x = 0$となる$x$で、つまり$x=b_{ki}$で極値をとる。また、ここから帰納法の仮定より極値をとるような$x$の値は$C_0 + C_1 + \cdots + C_k = 1+2+4+ \cdots 2^k = 2^{k+1}-1$個あることがわかる。
このとき$f^{k+1}(b_{ki})$の値は、

  • $i=2j-1$のとき$b_{ki}=a_{kj}$より$f^{k+1}(b_{ki}) = f^{k+1}(a_{kj}) = f(0) = -t$

  • $i=2j$のとき$b_{ki}=a_{k'i'} \hspace{4pt} (k>k')$より補題2から$f^{k+1}(b_{ki}) = f^{k+1}(a_{k'i'}) = f^{k+1-k'}(0) > t$

  • また$b_{k0} = -t , \hspace{4pt} b_{k2^{k+1}} = t$とすると、帰納法の仮定より$b_{k0}< b_{k1}<\cdots < b_{k(2^{k+1}-1)}< b_{k2^{k+1}}$で、$f^{k+1}(b_{k0}) = f^{k+1}(b_{k2^{k+1}}) = f^{k+2}(0)>t$

つまり$f^{k+1}(b_{ki})$の符号は正負が交互に繰り返されるので、中間値の定理より$a_{(k+1)i} \in (b_{k(i-1)},b_{ki})$である。($f^{k+1}(x)$の次数は$2^{k+1}$なので、$f^{k+1}(x) = 0$の複素数解は高々$2^{k+1}$個だから、$(b_{k(i-1)},b_{ki})$に属する解はただ一つで、その解は小さい方から$i$番目の実数解としてよい。)
よって示された。

ところで、上の証明で「$y=f^n(x)$の極値の絶対値は$t$以上」がわかり、また定理5、補題4より「$f^k(x)=0(n>k)$の解となる(=つまり$f^n(x)$が極値をとる)ような$x$の絶対値は$t$未満」ということがわかる。
つまり、$f^n(x)$が極値をとるような$x$について$|f^n(x)|>|x|$なので、このとき$f^n(x)$$f^n(x)-x$の符号は一致する。よって、中間値の定理より定理1の$t>2$の場合の証明が完了した。

t = 2の場合

$g(x)=2x$とすると$f(2\cos x) = 2\cos 2x = 2\cos g(x)$であるので、$y=2\cos x$$f^n(y) = y$の解であるなら
$f^n(2\cos x) = 2\cos g^n(x) =2\cos 2^nx = 2\cos x$
$0\leq x \leq \pi$とすると、この範囲では$2\cos x$は単射。$2^nx-x=2k\pi$または$2^nx+x=2l\pi$となればいいので$x=2k\pi / (2^n - 1),2l\pi / (2^n + 1)$$(0\leq k \leq 2^{n-1} - 1,1\leq l \leq 2^{n-1})$
よって$f^n(y)=y$は相異なる実数解を$2^n$こ持つ。
三角関数の置換でうまくいく理由は、$x^2-2$が、ちょうどチェビシェフ多項式$2x^2 - 1$を補足のところで説明した手順で$x^2-t$の形に直したものであるからです。
他にも$x\rightarrow x+\frac{1}{x}$という置換でもうまくいきます。
これを図示すると、複素平面の単位円周上に稠密に分布している$x^2$の周期点を、$x+\frac{1}{x}$、つまり$x + \overline{x}$という変換で$[-2,2]$上に写していると見ることができます。
以上から、

$f(x)=x^2-t \hspace{4pt} (t \geq 2)$について、$f^n(x) = x$$2^n$個の相異なる実数解をもつ。
つまり、$d \mid n$のとき$f^d(x) = x \Rightarrow f^n(x) = x$が成り立つことを踏まえると、
$$\sum_{d \mid n} |\mathrm{Perm}_d(f)| = 2^n$$
メビウスの反転公式より
$$|\mathrm{Perm}_n(f)| = \sum_{d \mid n}2^d \mu(\frac{n}{d})$$

周期点全体の集合の閉包

なんでも、多項式関数の周期点全体の集合の閉包はジュリア集合となり、フラクタルになるらしいです。
実際$t>2$の場合、これはちょうどカントール集合のような形になります。(多分)

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