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高校数学解説
文献あり

Kiepert双曲線を用いたLesterの定理の証明

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今回は比較的最近(1997)にLester Juneによって提示,証明されたLesterの定理を多少寄り道しながらですが,証明しようと思います.ぜひ最後までお読みください.以下,常体.

導入

Lesterの定理の前に予備知識として次の定理を証明する.

Kiepertの定理

三角形ABCがあり,点A,B,Cが,三角形ABC,ABC,ABCが底角が等しい三角形であるとき,3直線AA,BB,CCは一点で交わる.
ただし,それぞれの二等辺三角形の底辺はBC,CA,ABとし,底角の向きは三角形ABCの外側を正とする.

チェバの定理による証明

等しい底角をθとする.直線AAと直線BCの交点をPとすると
BP:CP=|ABA|:|ACA|=ABBAsinABA:ACCAsinACA=ABsin(B+θ):ACsin(C+θ)
同様にBBCAの交点,CCABの交点をそれぞれQ,Rとすると
CQ:AQ=BCsin(C+θ):BAsin(A+θ),AR:BR=CAsin(A+θ):CBsin(B+θ)が成り立つので
BPCQAR=CPAQBRである.
よってチェバの定理の逆より示された.
命題1 図 命題1 図

Kiepert

定理1において底角をθ(π2<θ<π2)としたとき3直線の交点をK(θ)と定義する.

K(0)=G(重心),K(A)=A,limθπ2K(θ)=H(垂心)

念のため次の語句も導入する.

九点円

三角形ABCにおいて3辺の中点を通る円を三角形ABCの九点円と定義する.

ようやくLesterの定理のお出ましである.

Lesterの定理

任意の不等辺三角形ABCについて外心,九点円の中心,K(π3),K(π3)は同一円周上にある.
Lesterの定理 Lesterの定理

以下,必要な諸命題を示していく.

A

三角形ABCの外心,重心,九点円の中心,垂心をそれぞれO,G,N,Hとするとこの4点はこの順に同一直線上にあり,OG:GN:NH=2:1:3である.

長さ計算

三角形ABCの外接円の半径をR,辺BCの中点をMとする.
OM=RcosA
AH=ACsin(90A)sin1(180B)=2RcosA
よりOM:AH=1:2であり,また,OM//AHなのでOH,AMの交点は線分AM2:1に内分するが,これは重心Gに一致する.
よってGは線分OH上にあり,OG:GH=2:1が成り立つ.
また,Nの定義より,三角形ABCの3つの中点を結ぶ三角形を三角形ABCに移す移動によってNOに移る.
すなわちGを中心とする1/2倍の相似移動によってNOに移るので,Gは線分ON上にあり,OG:GN=2:1が成り立つ.
以上より示された.

B

まずはK(π3),K(π3)についてより扱いやすい定義を述べる.

K(π3),K(π3)の性質

異なる2点I,Jを,三角形BCI,BCJが正三角形になるようにとる.ただし,直線BCに関してA,Iは同じ側にある.
三角形BCJの外接円,三角形BCIの外接円と直線AJ,AIが再びそれぞれ交わる点はK(π3),K(π3)である.

ほぼ同様に議論できるためK(π3)についてのみ証明する。

初等幾何による証明

三角形ABCの外側に三角形ACKが正三角形になるように点Sをとる.K(π3)は線分AJ,BSの交点である.
このとき三角形BCSは三角形ACJπ3だけ回転させたものだからBK(π3)J=π3である.
よって円周角の定理の逆よりK(π3)三角形BCJの外接円上にあるのでこれで示された.

補題4で改めた定義を用いて次の命題を示す.

三角形ABCについて重心と垂心の中点をXとしたとき,K(π3),K(π3),Xは同一直線上にある.

初等幾何による考察

補題4における点I,Jの定義を用いる.また,便宜上K(π3)K,K(π3)Kと表記する.辺BCの中点をOとする.
命題3よりXは,重心Gに関して外心と対称な点である.線分AGの中点を通り線分BCに垂直な直線と直線KKの交点をXとし,Gに関してXと対称な点Zが三角形ABCの外心であることを示せばよい.
線分IJを直径とする円をωとして半径をrとする.
示すべきはOZ2+r23=ZA2である.

直線AJ,AIωが再び交わる点をそれぞれL,Lとする.前出の2円とωの半径比を考えるとJK:KL=IK:KL=2:1である.
したがってOを中心とする倍率3/2の拡大移動によってK,K,Xが移る点をそれぞれP,Q,RとするとPL=QL=r/2であり,PL,QL,AR//IJである.
線分AR2:1に内分する点をRとすればOZ=AR,ZA=ORなので
示すべきはAR2+r23=OR2である.

Aから直線IJへ下ろした垂線の足をHとするとOR2=(OHAR)2+AH2=OA22OHAR+AR2なので示すべき式は
OA22OHAR=r23となる.
さらに中線定理を用いて変形すれば結局

AI2+AJ24OHAR=83r2 を示せばよい.
命題5 図1 命題5 図1

正弦定理の乱用による証明

線分LLの中点をMとすると,Mは直線PQ上にある.
また,直線LL,ARの交点をYとする.
以下,LJI=α,LIJ=βとする.β>αとして一般性を失わない.
AI,AJ,OH,ARα,β,rのみで表す.

AI=IJsin(πα)sin(βα)=2rsinαsin(βα) 同様にAJ=2rsinβsin(βα)
2OH=IH+JH=AIcosβ+AJcosα=2rsin(α+β)sin(βα)

AY=ALsinβsin(α+β)=AIcos(βα)sinβsin(α+β)=2rsinαsinβcos(βα)sin(α+β)sin(βα)
YR=r2MYML=r2LY+LYLL=r2ALsinαsin(α+β)+ALsinβsin(α+β)2rsin(π2β+α)=r2sin2α+sin2βsin(α+β)sin(βα)
したがってAR=23(AY+TR)=r3sin2α+sin2β+4sinαsinβcos(βα)sin(α+β)sin(βα)

以上よりAI2+AJ24OHAR=83r2
4sin2α+sin2βsin2(βα)43sin2α+sin2β+4sinαsinβcos(βα)sin2(βα)=83
3(sin2α+sin2β)(sin2α+sin2β+4sinαsinβcos(βα))=2sin2(βα)
これが成り立つことは加法定理およびsin2θ+cos2θ=1を用いて容易に示される.
以上より所望の式が得られる.
命題5 図2 命題5 図2

結局計算に頼りましたが割ときれいに収まったので良しとします.

C

この記事では次の有名な事実を用いる.証明は重心座標を用いるが,計算が煩雑で,行列の知識も用いるためこの記事よりも長くなってしまう.なのでこの命題に関してのみ証明を省略させてもらう.

三角形ABCについてK(θ)の軌跡は直角双曲線である.

この双曲線はKiepert双曲線と呼ばれる.この定理により次がわかる.

6.1

頂点A,B,C,重心,垂心,K(π3),K(π3)は一つの直角双曲線上に乗る.

D

中心がOの直角双曲線Υ上に4点A,B,X,Yがあり,A,Bは異なる枝上にあり,かつX,Yは直線ABに関して反対側にあるとする.AXB=AYBであるとき,線分XYの中点はOに一致する.

複素数による証明

この証明において角度はすべて有向角とするので示すべきはAXB+AYB=0である.
Υ:Re(z)Im(z)=1,A(a+a1i),B(b+b1i),X(x+x1i),Y(y+y1i)(b<y<0<x<a)として一般性を失わない.
AXB=arg(x+x1i)(b+b1i)(x+x1i)(a+a1i)=arga(xb)(bxi)b(xa)(axi)=argbxiaxi
同様にAXB=argbyiayiなので,
AXB+AYB=0(bxi)(byi)(axi)(ayi)R
ここで(bxi)(byi)(axi)(ayi)=((a2xy1)+a(x+y)i)((b2xy1)b(x+y)i)(a2x2+1)(a2y2+1)
分子の虚部を計算すると(x+y)(ba)(abxy+1)であるので,
AXB+AYB=0x+y=0またはabxy=1
b<y<0<x<aよりx+y=0がわかるのでX,Yは点0に関して対称.よって示された.
命題7 図 命題7 図

A,K(π3)が直線BCに関して反対側にあるとしても対称性を失わず,このときBK(π3)C=BK(π3)C=2π3なので系6.1および命題7より次の事実が従う.

7.1

線分K(π3)K(π3)の中点はKiepert双曲線の中心に一致する.

E

中心がOの直角双曲線Υの同じ枝上に2点ABをとり,線分ABの中点をMとする.直線OMΥの交点をP,Qとすると,MA2=MPMQが成り立つ.

直交座標による証明

Υ:xy=4とする.対称性より,Px座標は正であるとしてよい.
A(2a,2a1),B(2b,2b1)(a,b>0)とおくと,M(a+b,a1+b1)であるので,
OM:(a+b)y=(a1+b1)xである.この式とΥ:xy=4を連立して解いて,
P(2ab,2a1b1),Q(2ab,2a1b1)を得る.PO=QOより
右辺=MO2OP2=(a+b)2+(a1+b1)24ab4a1b1=(ab)2+(a1b1)2=左辺
よって示された.
命題8 図 命題8 図

命題5におけるXの定義および命題5,系7.1,命題8により次がわかる.

8.1

三角形ABCの重心をGとするとXG2=XK(π3)XK(π3)

必要な道具は以上である.

Lester円の存在証明

Lesterの定理 再掲

任意の不等辺三角形ABCについて外心,九点円の中心,K(π3),K(π3)は同一円周上にある.

方べきの定理を用いた証明

外心,九点円の中心,重心をそれぞれO,N,G,Hとする.命題3よりこの4点は一直線上にあり,OG:GN:NH=2:1:3である.この直線と直線K(π3)K(π3)の交点をXとすると命題5よりXは線分GHの中点なのでOG:GN:NX=2:1:1である.
したがってXNXO=XG2が成り立つ.
また,系8.1よりXG2=XK(π3)XK(π3)なので先ほどの式と合わせて
XK(π3)XK(π3)=XNXOが成り立つ.
以上より方べきの定理の逆から,4点O,N,K(π3),K(π3)は同一円周上にある.Q.E.D.
定理9 図 定理9 図

終わりに

いかがだったでしょうか,初等幾何,三角比,直交座標,複素数平面など様々な証明手法でそろえた命題を用いてLesterの定理が導けました.いつか定理6にも立ち向かえる数学力をつけたいです.

最後まで読んでいただきありがとうございました.

参考文献

投稿日:2021911
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natu
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複素座標入門を終わらせたら何するか悩んでます

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  1. 導入
  2. A
  3. B
  4. C
  5. D
  6. E
  7. Lester円の存在証明
  8. 終わりに
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