中学生で習う“平方根で表される無理数”(例えば,$\sqrt{2}$や$\sqrt{3}$が挙げられる)の近似値の評価として,その数前後の平方数の平方根で評価するというのがポピュラーかと思われる.
例えば,$\sqrt{17}$を例に挙げると,$17$は$16$と$25$という2つの平方数にて,$16 < 17 < 25$と評価される.ゆえに,全辺平方根をとると,$\sqrt{16} < \sqrt{17} < \sqrt{25}$.すなわち,$4 < \sqrt{17} < 5$という評価を得る.
しかし,この評価はだいぶ雑である.いかんせん整数部分でしかその無理数を評価できないからである.そこで,中学生でも理解できる範疇で,もう少し精度の良い近似評価が得られれば,中学生の検算にも少しは役立つだろう...
とか何とか中学生のころ考えていた筆者であるが,最近Youtubeを見ていたとき,ある動画(参考文献[1]に挙げている)を見つけた.
その動画では,平方根で表される無理数の近似評価として次の例を挙げていた.
$\sqrt{87} \simeq 9.33... $
まず,$\sqrt{81} < \sqrt{87}$.すなわち,$9 < \sqrt{87}$より,$\sqrt{87}$の整数部分は$9$と解る.
次に,この$9$の2倍,すなわち,$18$を分母とし,それぞれのルートの中身:$81,\ 87$の差$6$を分子とする分数$6/18 = 1/3 = 0.33...$が$\sqrt{87}$の小数部分となる.
これより,$\sqrt{87} \simeq 9.33... $を得る.
なるほど,実際に電卓で計算してみると,$\sqrt{87} \simeq 9.3273... $となることから,確かに(整数部分だけの評価と比べると)精度よく近似出来ている.
他にも,動画内では$\sqrt{65},\ \sqrt{27}$も同様のアルゴリズムで近似評価を行っていた.
ただし,動画はそのアルゴリズムの紹介のみで証明には言及していなかったので,今回の記事ではその証明を2通り書いた.
また,発展的な例も挙げておいた.
動画で言及されている“平方根(で表される無理数)”の近似値は,実は不等式として上から押さえた評価であると予想がつく.例えば,例1に挙げた$\sqrt{87} \simeq 9.33... $もそうだし,他にも動画内で紹介されていた$\sqrt{65},\ \sqrt{27}$はそれぞれ,$8.0625, \ 5.2$と近似評価を得ているが,これらもそうである.
実際,表にしてみれば解りやすい.
無理数 | 真値(の有効数字5桁) | このアルゴリズムで得られる近似値(の有効数字5桁) |
---|---|---|
$\sqrt{87}$ | 9.3274 | 9.3333 |
$\sqrt{65}$ | 8.0623 | 8.0625 |
$\sqrt{27}$ | 5.1962 | 5.2000 |
このことから,この近似評価アルゴリズムは次の命題として一般化が考えられる.
平方数でない任意の自然数を$p$とする.このとき,$0 < \sqrt{p}-\sqrt{n} < 1$を満足する平方数$n$に対し,
$$
\sqrt{p} < \sqrt{n} + \frac{p-n}{2 \sqrt{n}}
$$
が成立する.
例えば,$p = 87,\ n = 81$とすると,例1の近似が得られる.
この命題1の証明を中学生向けと大学生向けの2通りで行った.
命題1の中学生向けの証明としては,平方根(で表される無理数)に対して,分母(あるいは分子)の有理化があったことを利用し示していく.
まず,
$$
\varepsilon := \sqrt{p} -\sqrt{n}
\tag{1} \label{def_error}
$$
なる$\varepsilon$を定めることで,$p$は次のようにかける:
$$
\sqrt{p} = \sqrt{n} + \varepsilon
\tag{2} \label{p}
$$
式(\ref{def_error})に対し,分子の有理化を行う.すなわち,
$$
\varepsilon = \sqrt{p} -\sqrt{n} = \frac{(\sqrt{p} -\sqrt{n})(\sqrt{p}+\sqrt{n})}{\sqrt{p}+\sqrt{n}} = \frac{p - n}{\sqrt{p}+\sqrt{n}}
$$
を得る.
次に,式(\ref{p})の両辺に$\sqrt{n}$を加えることで,
$$
\sqrt{p} +\sqrt{n} > 2\sqrt{n} \Leftrightarrow \frac{1}{\sqrt{p} +\sqrt{n}} < \frac{1}{2\sqrt{n}}
$$
を得る.これより,$\varepsilon$は
$$
\varepsilon = \frac{p - n}{\sqrt{p}+\sqrt{n}} < \frac{p - n}{2\sqrt{n}}
$$
なる上からの評価を得る.
したがって,
$$
\sqrt{p} = \sqrt{n} + \varepsilon < \sqrt{n} + \frac{p-n}{2 \sqrt{n}}
$$
となり,結論を得る.$\square$
さて,中学生向けの証明では分子の有理化がポイントであったが,大学生(あるいは勤勉な高校生)向けには次に挙げる平均値の定理を使った証明の方が馴染み深いかもしれない.
関数$f:\R \to \R$が閉区間$[a,b]$で連続であり,開区間$(a,b)$で可微分ならば
$$
\frac{f(b)-f(a)}{b-a} = f'(c)
$$
を満足する点$c \quad (a < c < b)$が存在する.(ここで,$f'$は$f$の微分としている.)
証明は各自,微分積分学等のテキスト・参考書を参照されたい.(例えば,参考文献[2]を挙げておく.)
それでは,平均値の定理を用いて命題1を証明していこう.
$f(x) := \sqrt{x} $なる関数$f$を定めると,その微分$f'$は
$$
f'(x) = \frac{1}{2\sqrt{x}}
$$
となる.
ここで,$a=p,\ b=n$として,先に挙げた平均値の定理を用いると,$\exists c$ s.t.
$$
\frac{f(p)-f(n)}{p-n} = f'(c) \Leftrightarrow \frac{\sqrt{p}-\sqrt{n}}{p-n} = \frac{1}{2\sqrt{c}}, \quad (n < c < p) \tag{3} \label{mean-value_thm}
$$
である.特に,$n < c$であることから
$$
\sqrt{p} = \sqrt{n} + \frac{p-n}{2 \sqrt{c}} < \sqrt{n} + \frac{p-n}{2 \sqrt{n}}
$$
となり,結論を得る.$\square$
さて,この平均値の定理を用いた証明では,$n < c < p$を満足する$c$を得られていることから,実は$\sqrt{p}$を下からも評価することが可能であり,次の命題が示される.
$\sqrt{p}$の上から押さえた評価を
$$
\sqrt{n} + \frac{p-n}{2 \sqrt{n}} =: P
$$
と定める.このとき$\sqrt{p}$に対し,次の不等式が成立する:
$$
\sqrt{p} > \sqrt{n} + \frac{p-n}{2 P}.
$$
平均値の定理を用いた命題1の証明過程で式(\ref{mean-value_thm})を得た.$n < c < p$,特に,$c < p$であることから
$$
\sqrt{p} = \sqrt{n} + \frac{p-n}{2 \sqrt{c}} > \sqrt{n} + \frac{p-n}{2 \sqrt{p}}
$$
となる.先に$\sqrt{p} < P$による評価を得ているとき,
$$
\sqrt{p} > \sqrt{n} + \frac{p-n}{2 \sqrt{p}} > \sqrt{n} + \frac{p-n}{2 P}
$$
となり,結論を得る.$\square$
実際,例1に対して次のように下からの評価も得られる.
$9.3214... < \sqrt{87} < 9.3333... $
まず,命題1より,$\sqrt{87} < {28}/{3}$を得る.これより,
$$
\sqrt{87} > 9 + \frac{6}{2 \times ({28}/{3})} = 9 + \frac{9}{28} = 9.3214...
$$
を得る.
今回はYoutubeの動画をきっかけに平方根で表される無理数の近似評価を証明しました.中学時代にこの評価のテクニックを知っていれば,あの頃もう少し自信を持って平方根の問題に取り組めていたのかもしれない...(笑)
今後も面白いと思った色々な問題や命題をmathlogに挙げていきます.
それでは今回はここまで.有難うございました.
次回もよろしくお願いします.