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高校数学問題
文献あり

逆双曲線函数のすゝめ

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$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathrm{div}} \newcommand{division}[0]{÷} \newcommand{grad}[0]{\mathrm{grad}\ } \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rot}[0]{\mathrm{rot}\ } \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

この記事はmathlogの アドベントカレンダー の12月24日分(クリスマス・イヴ!!)の記事です.

はじめに

今回は,しんどい積分の一例として,

$$ \int \frac{x^2}{\sqrt{x^2+1}}dx \tag{1} \label{kadai} $$

を解くことを目標にします.

高校3年生で数学3を履修していて,積分の扱いに慣れている受験生だったら,

$$ x = \tan \theta $$

という置換を思いつくかもしれません.

もちろん,この問題は$x = \tan \theta$と置換することで解くこと自体は可能です...

ただ残念ながら,その置換で解きにいくと,後半でさらに置換しなおし,その上とてつもなくしんどい部分分数分解が待っています.........(ヒエッ

そこでこの記事では,通常の高校数学でのカリキュラムでは習わない双曲線函数および,その逆函数である逆双曲線函数について解説したのち,それらを用いて積分(\ref{kadai})を解いていきたいと思います.

双曲線函数の基本性質

本題の積分(\ref{kadai})を計算する前に......
今回用いる双曲線函数について少し触れておきたいと思います.

双曲線函数

任意の実数$x$に対し,双曲線函数とは以下で定義される函数の事を言います:
\begin{align} \sinh(x) &:= \frac{e^x - e^{-x}}{2}, \\\ \cosh(x) &:= \frac{e^x + e^{-x}}{2}, \\\ \tanh(x) &:= \frac{\sinh(x)}{\cosh(x)} =\frac{e^x - e^{-x}}{e^x + e^{-x}} . \end{align}
ここで,$e$は自然対数の底を指します(すなわち,ここに出てきている$e^x$は指数函数のことです).
$\sinh,\cosh,\tanh$をそれぞれ双曲線正弦函数 (hyperbolic sine; ハイパボリック サイン), 双曲線余弦函数 (hyperbolic cosine; ハイパボリック コサイン) ,そして双曲線正接函数 (hyperbolic tangent; ハイパボリック タンジェント) と呼びます.

双曲線函数の定義を見て,「三角函数と似てる!」と思った人もいるかもしれません.
実は,次のような双曲線函数の相互関係も存在します.

双曲線函数の相互関係

任意の実数$x$に対し,$\sinh(x)$$\cosh(x)$は以下を満たす:

\begin{align} \cosh^2(x) - &\sinh^2(x) = 1. \end{align}

なお,$\sinh^2(x) := \{ \sinh(x) \}^2$の意味で用いている($\cosh^2$も同様).

定義に従って計算を進めればよい.
\begin{align} \cosh^2(x) - \sinh^2(x) =& \bigg( \frac{e^x + e^{-x}}{2} \bigg )^2 - \bigg( \frac{e^x - e^{-x}}{2} \bigg )^2 \\ =& \frac{e^{2x} + 2e^x e^{-x} + e^{-2x}}{4} - \frac{e^{2x} - 2e^x e^{-x} + e^{-2x}}{4} \\ =& \frac{2 + 2}{4} = 1. \end{align}

三角函数の相互関係式と違い,$\sinh$の部分の符号が逆なので注意!!
(cf. $\cos^2(x) + \sin^2(x) = 1.$ )

また,双曲線函数の微分も実は存在していて,それぞれ次のようになります.

双曲線函数の微分

任意の実数$x$に対し,$\sinh(x),\cosh(x),\tanh(x)$の微分は以下のようになる:
\begin{align} \frac{d}{dx}\sinh(x) &= \cosh(x), \\\ \frac{d}{dx} \cosh(x) &= \sinh(x), \\\ \frac{d}{dx} \tanh(x) &= \frac{1}{\cosh^2(x)}. \end{align}

双曲線函数を定義に従い,指数函数の形で書き直し,あとは指数函数の微分を実行すればよい.
計算は各自やってみてください(丸投げ).

これもまた三角函数の微分公式と似ていますね!

さらに,双曲線函数は三角函数と同様に加法定理も成り立ちます!!

双曲線函数の加法定理

任意の実数$x,y$に対し,以下が成立:
\begin{align} \sinh (x+y) &=\sinh x\cosh y+\cosh x\sinh y, \\\ \sinh (x-y) &=\sinh x\cosh y-\cosh x\sinh y, \\\ \cosh (x+y) &=\cosh x\cosh y+\sinh x\sinh y, \\\ \cosh (x-y) &=\cosh x\cosh y-\sinh x\sinh y, \\\ \tanh (x+y) &=\dfrac{\tanh x+\tanh y}{1+\tanh x\tanh y}, \\\ \tanh (x-y) &=\dfrac{\tanh x-\tanh y}{1-\tanh x\tanh y}. \end{align}


(時間があったら追記しておきます!)

三角函数の加法定理と形が似ていますが,符号が微妙に違うので注意して下さい.

cf.
\begin{align} \cos (x \pm y) &=\cos x\cos y \mp \sin x\sin y, \\ \tan (x \pm y) &=\dfrac{\tan x \pm \tan y}{1 \mp \tan x\tan y} \end{align}

逆双曲線函数とは

さて,ここからは本題である逆双曲線函数の定義を見ていきたいと思います!

双曲線函数の逆函数である逆双曲線函数は次の様に定義されます.

逆双曲線函数

任意の実数$x$に対し,逆双曲線函数のひとつである$\textrm{arsinh} (x), \textrm{arcosh}(x)$をそれぞれ次のように定義する:
\begin{align} \textrm{arsinh} (x) &:= \log(x+\sqrt{x^2+1}), \\ \textrm{arcosh}(x) &:=\log(x \pm \sqrt{x^2-1}). \end{align}

また,実数$x \ge 1$に対し,逆双曲線函数のひとつである$\textrm{artanh}(x)$を次のように定義する:
\begin{align} \textrm{artanh}(x) &:= \frac{1}{2}\log\frac{1+x}{1-x}. \end{align}

$\textrm{arsinh} (x), \textrm{arcosh}(x), \textrm{artanh}(x)$をそれぞれ
逆双曲線正弦函数 (area hyperbolic sine; エリア ハイパボリック サイン),
逆双曲線余弦函数 (area hyperbolic cosine; エリア ハイパボリック コサイン),
逆双曲線正接函数 (area hyperbolic tangent; エリア ハイパボリック タンジェント)
と呼びます.

英語呼称に “ area ” (面積) と名付けられている通り,逆双曲線函数は別名「面積函数」(英: area function)とも呼ばれます.

もちろん,逆双曲線函数にも微分公式や加法定理もありますが,この記事では割愛します.

実際に計算してみよう!

それでは本題の積分(\ref{kadai})
$$ \int \frac{x^2}{\sqrt{x^2+1}}dx $$

を解いていきましょう!

まず,置換積分実行します.
そこでまず,
$$ x = \sinh(t) $$
と置換します.
このとき,命題2($\cosh$の微分公式)より,
$$ dx = \cosh(t) dt $$
が得られます.

これより,

\begin{align} \label{int1} \int \frac{x^2}{\sqrt{x^2+1}}dx = \int \frac{\sinh^2(t)}{\sqrt{ \sinh^2(t) +1}}\cdot \cosh(t) dt \tag{2} \end{align}

が得られます.

ここで,双曲線函数の相互関係式(命題1)を変形すると,
\begin{align} \cosh(t) = \sqrt{ \sinh^2(t) +1} \end{align}
が得られます.

これより,式(\ref{int1})分母の$\sqrt{ \sinh^2(t) +1}$$\cosh(t)$に代えられます.

よって,
\begin{align} \int \frac{x^2}{\sqrt{x^2+1}}dx = \int \frac{\sinh^2(t)}{\cosh(t)}\cdot \cosh(t) dt = \int \sinh^2(t) dt \tag{2} \end{align}

となります.

次に,式(\ref{int1})へ$\sinh$の定義式を代入すると,

\begin{align} \int \frac{x^2}{\sqrt{x^2+1}}dx &= \int \sinh^2(t) dt = \int (\frac{e^t - e^{-t}}{2})^2 dt \\ &= \frac{1}{4} \int (e^{2t} + e^{-2t} -2) dt = \frac{1}{4} (\frac{e^{2t}}{2} - \frac{e^{-2t}}{2} -2t) \\ &= \frac{1}{4} (\sinh(2t) -2t) = \frac{1}{4}\sinh(2t) - \frac{1}{2}t \end{align}

が得られました!

最後に,初めに設定した$x = \sinh(t)$$t$について逆函数をとってあげると,
$$ t = \textrm{arsinh}(x) $$
が得られるので,これを代入すると,

\begin{align} \int \frac{x^2}{\sqrt{x^2+1}}dx = \frac{1}{4}\sinh(2 \textrm{arsinh}(x) ) - \frac{1}{2} \textrm{arsinh}(x) +C \end{align}

として解を得る事が出来ました!
(但し,$C$は任意定数.)

しかし,この解の表記だと見慣れないかもしれないので,もうちょっと見やすい解の形でも表現してみましょう.

解の別表現

ここでは先ほど導出した解:

\begin{align} \int \frac{x^2}{\sqrt{x^2+1}}dx = \frac{1}{4}\sinh(2 \textrm{arsinh}(x) ) - \frac{1}{2} \textrm{arsinh}(x) +C \end{align}

をもう少し見やすい形で表現していきます.

その為に上式を

\begin{align} \int \frac{x^2}{\sqrt{x^2+1}}dx = \frac{1}{4}\sinh(2t) - \frac{1}{2}t \end{align}

の形に書き直します.

ここで,上式の右辺第一項$ \sinh(2t) $に注目します.
双曲線函数は加法定理が成り立つのでした.
このことから,$\sinh$に関する次の二倍角の公式が得られます.

$\sinh$の二倍角

\begin{align} \sinh (2x)=2 \sinh (x)\cosh (x) \end{align}

これより,

\begin{align} \int \frac{x^2}{\sqrt{x^2+1}}dx &= \frac{1}{4}\sinh(2t) - \frac{1}{2}t \\ &= \frac{1}{4}\cdot 2 \sinh (t)\cosh (t) - \frac{1}{2}t \\ &= \frac{1}{2} \sinh (t)\cosh (t) - \frac{1}{2}t. \end{align}

ここで,$\cosh(t) = \sqrt{ \sinh^2(t) +1}$を適用すると,

\begin{align} \int \frac{x^2}{\sqrt{x^2+1}}dx = \frac{1}{2} \sinh(t) \sqrt{\sinh^2(t) + 1} - \frac{1}{2}t \end{align}

が得られるので,$x = \sinh(t)$とその逆函数$ t = \textrm{arsinh}(x) $を代入しなおすと,

\begin{align} \int \frac{x^2}{\sqrt{x^2+1}}dx = \frac{1}{2}x\sqrt{x^2 + 1} - \frac{1}{2} \textrm{arsinh}(x). \end{align}

最後に,$ \textrm{arsinh}(x) $の定義式を適用すると,

\begin{align} \int \frac{x^2}{\sqrt{x^2+1}}dx = \frac{1}{2}x\sqrt{x^2 + 1} - \frac{1}{2} \log(x+\sqrt{x^2+1}) +C \end{align}

として解を得る事が出来ました!
(但し, $C$は任意定数)

まとめ

いかがでしたか?

今回は,高校数学の範囲で解くと中々面倒くさい積分について,逆双曲線函数という観点から紹介しました.

やはり面倒くさい積分なだけあって,解法自体はしんどいですね!
(それでも逆双曲線函数を使ったほうが楽.)

しかし,面倒くさいほど別解の解きがいがあるというもの!
今後も双曲線函数から目が離せそうにはありませんね!(ホント??)

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!
ハッピーメリークリスマス!!

参考文献

投稿日:20211223
OptHub AI Competition

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