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$\tan 1$ が無理数であることの単純な証明

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最近、twitterで 次のような問題 が出題されたことがある。

tan1 は無理数か。

tan1 が無理数であることを証明する問題は、2006年度の京都大学の入試問題として有名である。これは tan60=tan(π/3)=3 が無理数であることと、三角関数の加法定理から証明できる(たとえば 高校数学の美しい物語: tan1 が無理数であることの証明 を参照。)。
一方、弧度法を用いてあらわされる定数 tan1 が無理数であることの証明は、加法定理のような幾何的・代数的な証明は知られていない。
INTEGERS: tan1 が無理数であることの証明 では、補助関数を用いて tan1 が無理数であることを証明している。

一方、e, sin1, cos1 についてはMaclaurin展開を利用して無理数であることを比較的容易に証明できる(たとえば、e については INTEGERS: e が無理数であることの5通りの証明 の第一証明を参照)。
実は、冒頭ツイートへの筆者の引用ツイート( https://twitter.com/tyamada1093/status/1475741355104440320)にも書いたように tan1 についても、同様に、Maclaurin展開を利用して、無理数であることを証明することができる。

そこで、本記事では、Maclaurin展開を利用して、tan1 が無理数であることを証明する。

tan1 が無理数であることの証明

tan1 が有理数ならば cos2=2cos211=(1tan21)/(1+tan21) だから、cos2 も有理数となる。cosx をMaclaurin展開し、
cos2=k=0(4)k(2k)!
を得る。
よって
ck=k=1(1)k22k1(2k)!
とおくと
sin21=1+cos22=k=1ck=pq
も有理数である。

さて、
ym=k=12m1ck,zm=k=2m1+1ck  (1)
とおくと、
sin21=ym+zm  (2)
となる。
ここで、zmym を既約分数表示したときの分母の逆数の正の定数倍よりも急速に 0 に近づく(しかし 0 にはならない)ことを示せばよい。

まず、ym の分母の大きさを評価する。
k+k2+k4+<j=1k2j=2k より (2k)!2 で割り切れる回数は多くとも 2k1 回だから ck を既約分数表示したときの分母は奇数で、かつ (2k)! を割り切る。

(2k)! を割り切る最大の奇数を Ak とおくと、AkAk+1 となるから、c1,c2,,c2m1 を既約分数表示したときの分母は A2m1 を割り切る。
(2m)!2 でちょうど 2m1+2m2++1=2m1 回割り切れるから、A2m1=(2m)!/22m1 となる。
よって
ym=NmDm,0<DmA2m1=(2m)!22m1  (3)
となる整数 Dm,Nm がとれる。

一方 (1) より
|zm|k=122k+2m1(2k+2m)!<22m1(2m)!k=1(22m)2k=22m1(2m)!×122(m1)1
が成り立つ。また、
c2j+1+c2j+2=24j+3(4j+4)!24j+1(4j+2)!<0
より
zm=k=2m1+1ck<0
となるから、
0>zm>1A2m1(22(m1)1)  (4)
となる。一方、zm<0 なので、(2) より
zm=sin21NmDm=pqNmDm<1qDm
となる。(3) にあるように DmA2m1 なので
zm<1qA2m1
となる。しかし、m はいくらでも大きくとれるから 22(m1)1>q となるように m をとったとき
zm<1A2m1(22(m1)1)
となって、 (4) に矛盾する。

これによって、sin21 は無理数なので cos2 も無理数、よって tan1 も無理数となる。

投稿日:20211230
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tyamada
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