Mathlogの読者のみなさんは結構ご存知かと思うのですが、巨大数という分野があります。
その名のとおり、いかに巨大な数を作るかを目的とした分野です。
学問としての数学の側面もありますが、むしろアマチュアの間で大変人気があり、ネット文化としての側面も持ち合わせているようです。
日本では「東方巨大数」(Ref.[1])というコンテストがあり、次々と大きな数が作られています。
巨大数の作り方は大きく分けると
繰り返し・再帰的な手続きによる巨大数
組み合わせ論、条件内で可能なパターン生成による巨大数
集合の内包的定義による巨大数
があるように思います。その中でも、1.に属する、シンプルで比較的わかりやすい巨大数である
コンウェイのテトラトリ:
のことを書いておこうと思います。
いろんなところに情報のある内容ですので目新しくもないですが、お正月にボーッと眺めて好きになったので、書いておきます。
だいたいWikipedia情報です(Ref.[2])。
ただ、多少のオリジナリティーを出すために、かなり丁寧な解説を心掛けました。
計算の感覚みたいなものも書いたつもりです。
そのため数学にあまり馴染みがない方向けになっていることをご了承ください。
次の3つの数、どれくらいの大きさでしょう?
私の感覚では、左から
27,
という感じがします。
しかし正解は
27,
です。計算ルールとして、指数の上から順に計算していくことに注意してください。
このように、指数べきのタワー
は、普段の人間の感覚からはかけ離れた強い発散を示します。
この指数タワーがたくさん続く場合に便利な表記法があります。それが「クヌースの矢印表記」です。
ルールは以下です:
ここで計算は右から行う。例えば
である。一般に
である。
4.は
さて、この記号でできる数がいかに大きいかを感じてみましょう。
前章で見たように、指数タワーは1つ増えるごとに爆発的な増加を見せます。
こんな大きな数を作れるのは、
クヌースの矢印記号を用いて、さらに大きな数を作りましょう。そのために、コンウェイのチェーン表記を導入します。まず
とします。矢印が1つまたは2つのときは、これらの規則で計算できます(記事末[注]参照)。
3つ以上の矢印を含む場合に計算を拡張するため、以下のルールを導入します:
以上で計算に必要な全てのルールが揃っています。なぜならこのルールを用いれば、すべての計算のチェーン長を3以下にできるからです。ルール3.の左辺と右辺でチェーン長が変化せず、かつチェーンの終わりの数字を1小さくできること、さらに
次の章で具体的な計算を行います。
さて、「コンウェイのテトラトリ」と呼ばれる巨大数
を計算してみましょう。
まず
上式の真ん中の
となります。
最後の表式はすべて
とおくと、
これですべてが長さ3のチェーンに落ちました。
となります。ここでは真ん中の
これがどんな数か、感覚を掴むため、
を計算してみましょう。これは
となります。「クヌースの矢印の指数部」にさらに「クヌースの矢印で表される数」が階層的に繰り返されるのがわかります。このような「クヌースの矢印の指数タワー」が27回続いたのが
Wikipediaに、テトラトリのうまい表現が載っていたので、引用させて頂きます:
右辺右側の27層ある方の数が上記の
この図では、下段が上段の矢印の数を定めます。その矢印の数によって定まる数が、さらにその上の段の矢印の数を定め、さらに…(以下略)が延々と続いています。
こういうのを見ると、俗に言う「厨二心」というやつがくすぐられます。子供が「ひゃくおくまんのひゃくおくまんのひゃくおくまんばい!」などと言うことがありますが、これの大人版て感じです。
このように、コンウェイのテトラトリは途方もなく大きい数ですが、しかし巨大数の世界では、コンウェイのテトラトリより大きな数がいくつも作られています。それは単にテトラトリを倍にするとか、そういう小手先の大きさではありません。本質的に比較にならないほど大きい数だし、そもそも構成のコンセプトが全く違う数もあります。
こういう数に触れてしまうと、なんだか世界がちっぽけな、取るに足らない存在に思えてくるかもしれません。「天文学的数字」が塵に思える(塵に例えるのもおこがましいくらい...)かもしれません。しかし我々のような、それこそ点に等しい存在でも、「点は点で生きるのに必死」(玖保キリコさん作の漫画「バケツでごはん」より。うろ覚え)なんですよね…。
我々は、我々のスケールの物事を大切にして生きていきましょう。
おしまい。
[注] 計算規則からわかるように、コンウェイのチェーン表記では、結合律が成り立ちません:
また、クヌースの矢印記号は右から計算する規則でしたが、チェーン表記ではそれも成り立ちません:
このへん勘違いすると、計算を大きく誤ります。