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裏・栗まんじゅう問題

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序章

栗まんじゅうが5分に1回分裂することはよく知られていますね。しかし、私はある疑問を抱きました。

「本当に分裂の間隔は5分なのだろうか?栗まんじゅうはどうやって5分を計っているのだろうか?」

自然界において、似たような現象に放射性物質の崩壊があります。こちらは物質ごとに半分になるまでの時間である半減期が存在しますが、半減期を迎えるごとに一斉に半分になるのではなく、各原子が確率的に崩壊することで、全体でみると半減期の時間がたった時に物質の量が半分になります。

もしそうなら、栗まんじゅうも確率的に分裂し、その「倍増期」が5分であると考えるのが妥当ではないでしょうか。

この記事では、確率的に増殖する栗まんじゅうを考えます。

問題

栗まんじゅうは微小時間ごとにその時間に比例する確率で分裂を行うものとします。また、そのときの比例定数は、十分に多い数の栗まんじゅうを集めた場合に平均して5分ごとに2倍になるように設定するとします。このとき、以下の問題が考えられます。

裏・栗まんじゅう問題

栗まんじゅうが有限の時間に無限個に増殖する確率は$ 0 $であるか?

栗まんじゅうの個数が発散すると数学的にいろいろと不都合が生じるので、これはまさしく問題ですね。

離散栗まんじゅう

いきなり連続的な時間を考えるのは大変なので、離散的なケースを考えましょう。

すなわち、各栗まんじゅうが、1tickごとに確率$ p $で分裂するものとします。
また、1個の栗まんじゅうが$ t $tick後に$ n $個に分裂する確率を$ P(t, n) $で表すことにします。

1個の栗まんじゅうが$ t $tick後に$ n $個に分裂するとき、次のシナリオが考えられます。

  • 最初のtickで分裂せず、残り$ t - 1 $tickで$ n $個に分裂する。
  • 最初のtickで分裂する。片方は$ i $個に分裂し、もう片方は$ n - i $個に分裂する。$ (0 < i < n) $

よって、$ P(t, n) $は次のような漸化式で表されます。

  • $ P(0, 1) = 1, P(0, n) = 0 (n \neq 1) $
  • $ P(t, n) = (1 - p)P(t - 1, n) + p\sum_{i = 1}^{n - 1} \left(P(t - 1, i) P(t - 1, n - i)\right) (t > 0) $

実験してみましょう。$ p = \frac{1}{2} $として、$ t = 4 $まで計算してみます。$ n = 1, 2, \cdots, 2^n $に対する$ P(t, n) $を横に並べて示しました。

$ t = 0: 1 $
$ t = 1: \frac{1}{2^1}, \frac{1}{2^1} $
$ t = 2: \frac{2}{2^3}, \frac{3}{2^3}, \frac{2}{2^3}, \frac{1}{2^3} $
$ t = 3: \frac{16}{2^7}, \frac{28}{2^7}, \frac{28}{2^7}, \frac{25}{2^7}, \frac{16}{2^7}, \frac{10}{2^7}, \frac{4}{2^7}, \frac{1}{2^7} $
$ t = 4: \frac{2048}{2^{15}}, \frac{3840}{2^{15}}, \frac{4480}{2^{15}}, \frac{4880}{2^{15}}, \frac{4416}{2^{15}}, \frac{3976}{2^{15}}, \frac{3128}{2^{15}}, \frac{2337}{2^{15}}, \frac{1616}{2^{15}}, \frac{1036}{2^{15}}, \frac{576}{2^{15}}, \frac{278}{2^{15}}, \frac{112}{2^{15}}, \frac{36}{2^{15}}, \frac{8}{2^{15}}, \frac{1}{2^{15}}$

(ところで$ t = 3 $の分子の数列ってOEISに載ってないんですよね。もしかしてこれって新規性だったりしますか?)

数値を並べてもわかりにくいので、平均と分散を求めてみましょう。$ m $が平均で、$ \sigma^2 $が分散です。

$ t = 0: m = 1, \sigma^2 = 0 $
$ t = 1: m = \frac{3}{2}, \sigma^2 = \frac{1}{4} $
$ t = 2: m = \frac{9}{4}, \sigma^2 = \frac{15}{16} $
$ t = 3: m = \frac{27}{8}, \sigma^2 = \frac{171}{64} $
$ t = 4: m = \frac{81}{16}, \sigma^2 = \frac{1755}{256} $

期待値が1tickごとに$ \frac{3}{2} $倍になっていますね。
一般に、分裂する確率が$ p $のときは$ 1 + p $倍になることが容易に示せます。
ということは、分裂する確率を$ \frac{1}{N} $とすると、$ N $tick後には$ \left( 1 + \frac{1}{N} \right)^N $倍、すなわち$ N \rightarrow \infty $$ e $倍になりますね。

連続栗まんじゅう

ここまでの話を連続関数に移動させましょう。簡単のため、時間$ 1 $$ e $倍になるように時間の単位を調整しておきます。このとき、1個の栗まんじゅうが微小時間$ dt $のうちに分裂する確率は$ dt $であり、時間$ t $まで1個のままである確率は$ e^{-t} $、時間$ t $から$ dt $以内に初めて分裂する確率は$ e^{-t} dt $となります。

時間$ a $が経過した後の個数の確率分布を考えましょう。

1個の場合

明らかに$ e^{-a} $です。

2個の場合

「時刻$ t $で分裂し、分裂した2個は残りの$ a - t $の時間は分裂しない」というシナリオが起こった場合に2個になります。

正確に時刻$ t $で分裂する確率は$ 0 $なので、時刻$ t $から$ t + dt $までの間に分裂するシナリオを考えましょう。

最初の栗まんじゅうが時刻$ t $から$ t + dt $までの間に分裂する確率は$ e^{-t} dt $です。

分裂した栗まんじゅうが残りの時間分裂しない確率は、「$ a - t $よりも後に分裂する確率」と考えて$ \int_{a - t}^{\infty} e^{-x} dx = e^{-(a - t)} $です。

よって、全体での確率は

$$\begin{align*} & \int_0^a e^{-t} \left( e^{-(a - t)} \right)^2 dt \\ =& \int_0^a e^{t - 2a} dt \\ =& e^{-2a} \left(e^a - 1 \right) \end{align*}$$

となります。全体として$ O\left(e^{-a}\right) $なのが面白いですね。分裂した2個の両方が分裂しないよりは、最初の1個が分裂しないほうが可能性が高いということを表しているといえます。

また、この確率は$ a = \ln{2} $で最大値を取ります。単位時間で$ e $倍になるように時間の単位を定めたので、$ \ln{2} $は栗まんじゅうの個数が$ 2 $倍になる時間ですね。たしかに一致しています。

3個の場合

「最初の栗まんじゅうが分裂し、さらに分裂したうちの片方だけが分裂する」というシナリオが考えられます。

最初の栗まんじゅうが時刻$ t $から$ t + dt $までの間に分裂する確率は$ e^{-t} dt $です。

分裂した栗まんじゅうについて、

  • 分裂した栗まんじゅうが残りの時間分裂しない確率は、$ e^{-(a - t)} $です。
  • 分裂した栗まんじゅうが残りの時間でもう1回だけ分裂する確率は、$ e^{-2(a - t)} \left(e^{a - t} - 1 \right) $です。

これらを全てかけ合わせて、求める確率は

$$ \int_0^a e^{-t} \cdot e^{-(a - t)} \cdot e^{-2(a - t)} \left(e^{a - t} - 1 \right) dt $$

ですね。

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.

.

ごめんなさい、騙しました。

どちらの栗まんじゅうが分裂するかを考慮する必要があります。確率の計算間違いあるあるですね。

では気を取り直して、積分を計算していきましょう。

\begin{align*} & 2\int_0^a e^{-t} \cdot e^{-(a - t)} \cdot e^{-2(a - t)} \left(e^{a - t} - 1 \right) dt \\ =& 2\int_0^a \left( e^{t-2a} - e^{2t-3a} \right) dt\\ =& 2e^{-2a}\left( e^a - 1 \right) - 2e^{-3a}\left( \frac{1}{2} e^{2a} - \frac{1}{2} \right) \\ =& 2e^{-2a}\left( e^a - 1 \right) - e^{-2a}\left( e^{a} - e^{-a} \right) \\ =& e^{-a} - 2e^{-2a} + e^{-3a} \\ =& e^{-3a} \left(e^a - 1 \right)^2 \end{align*}

4個以上の場合

シナリオが複数出てきて計算がしんどいです。誰か解いてください

でも、なんとなく$ a \rightarrow \infty $$ e^{-a} $になりそうな気がする

裏・栗まんじゅう問題が解決する日は来るのだろうか・・・

あとがき

そのうち少しずつ計算を足すかもしれません。

この連続栗まんじゅうの確率分布に何か名前付いてますか
もしなければ今後これに関する別の記事を書くときのために栗まんじゅうの分裂に関するなゆ分布と呼ぶことにします
また1個の栗まんじゅうが分裂するまでの時間を一般の確率分布にしたものを栗まんじゅうの分裂に関する一般なゆ分布と呼ぶことにします
だって、上位互換の名前を他の人に取られたら嫌じゃないですか

投稿日:2022213
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