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現代数学解説
文献あり

分離多元環の特徴づけ

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導入

多元環の中でもホモロジー的にもっとも単純なものは半単純多元環だが、半単純な多元環のなかでもさらに良いクラスに分離多元環(separable algebra)がある。その良さは主に基礎体上でのテンソル積についての振る舞いの良さという意味である。

この記事は、筆者がセミナーをやるときにFactとして出てきた、いくつかの分離多元環の有名な定義たちの同値性を、できるだけ元をとったりごちゃつかずに自分に見やすい形で示すことである。

この同値性は参考文献にあげた書籍等に載っているが、その証明はごちゃごちゃ元を取るのが多くて個人的に分かった気がしない。のでかんたんな証明を心がける。間違っている可能性もありうるので何かあればご指摘ください。

この記事を通してkを体(体は常に可換)とする。または常にkを意味する。また環は常に結合的単位的とし、k多元環はkの元が中心的に作用するものとする。

基礎的な定義や事実の確認

以下のことについては既知とする。

  • k多元環Aの定義。右・左A加群の定義、両側加群の定義。加群の準同型、(両側)加群のなす圏。
  • 加群の射影性や平坦性。両側(A,B)加群と両側(B,C)加群をB上でテンソルして両側(A,C)加群ができる。
  • 単純加群についてのSchurの補題、半単純環の定義(環自身を片側加群と見て半単純加群)や特徴づけ(すべての加群が射影など)、Artin-Wedderburnの定理。
  • Jacobson radicalと関連性質。有限次元多元環について半単純性とJacobson radical=0の同値性など。
  • 森田同値(環Aと行列環Mn(A)が森田同値など)。
  • 体の拡大の基本的なこと(代数閉包・代数拡大・分離拡大など)

また次の記号を使う。

  • AについてAopで双対環(積をひっくりかえしたやつ)。Ak多元環ならAopk多元環なことに注意。
  • AについてMn(A)でサイズnの全行列環。
  • Aについて、ModAで右A加群のなす圏、AModで左A加群のなす圏。
  • ABについて、AModBで両側(A,B)加群のなす圏。
  • 加群Mが右B加群、左A加群、両側(A,B)加群なことを強調して表すときにMB, AM, AMBと書く。

分離多元環で重要なのは多元環2つを基礎体上でテンソルして出てくる多元環である。

ABk多元環とすると、ABには自然にk多元環の構造が入る。この積は(a1b1)(a2b2)=(a1a2)(b1b2)を満たすように定義される唯一の積である。

ここでテンソル多元環上の加群を考えることと両側加群を考えることはほぼ同じである。厳密には基礎体についての少しの注意を必要とする:

ABk多元環とする。

  • 両側(A,B)加群Mk-compatibleとは、λm=mλがすべてのλkmMについて成り立つときをいう。つまり左A加群として誘導されるkベクトル空間構造と右B作用から誘導されるkベクトル空間構造が一致しているときである。
  • AModkBで、k-compatibleな両側(A,B)加群のなす圏とする。

このk-compatibleという用語は今適当に作っただけなので誰か標準的な用語があれば教えて下さい。k-compatibleという概念は環ABk多元環構造に依存しているので、AModkBは環ABだけではなく真に体kと環の多元環構造に依存していることに注意。

このとき次の同一視ができる。

ABk多元環としたとき、k-compatibleな両側(A,B)加群を考えることと、右AopB加群を考えることは同じである。つまり圏AModkBMod(AopB)は同型である。

概略のみ。k-compatibleな両側加群Mがあると、m(ab)=ambmM, aA, bBと考えることでこれは右AopB加群と見れる(テンソルからの射を伸ばしたいときにk-compatible性が必要になる)。逆もやればできる。

よって両側(A,A)加群を考えるときに次の概念が便利である。

Ak多元環としたとき、そのk上の包絡多元環(enveloping algebra)Aenv/kを次で定義するk多元環とする:
Aenv/k:=AopkA

命題2

k多元環Aについてk-compatibleな両側(A,A)加群を考えることと右Aenv/k加群を考えることは同じである、つまり圏AModkAMod(Aenv/k)は同型である。

この両側加群の圏について、次の関手を以下で用いる。

k多元環Aに対して、関手()(A):AModkAModkを、MAModkAに対して
M(A):={mM任意のaAについてam=ma}
で定める。

実はこれはAからのHomである:

k多元環Aに対して、関手の同型()(A)HomAModkA(A,)が存在する。

φ:AMAModkAであると、φ(1)を考えると、任意のaAに対して
aφ(1)=φ(a1)=φ(a)=φ(1a)=φ(1)a
であり、φ(1)M(A)である。逆にM(A)の元mが与えられると、φ(a):=am=maにより定めると、これはAModkAでの射であることがすぐに確認できる。これにより同型HomAModkA(A,M)M(A)が確認でき、明らかに自然である。

また以下で次の標準的な写像を用いる。

Ak多元環としたとき、積写像μ:AAAμ(ab)=abを満たすように定める。これは明らかにAModkAでの射である。

また半単純多元環のなかでも特別に良いクラスとして次を導入する。

Aを半単純k多元環とする。このときA分裂半単純k多元環(split semisimple k-algebra)である、または単にk上分裂するとは、次の同値な条件を満たすときをいう:

  • 任意の単純右A加群SについてEndA(S)kk多元環として同型。
  • 任意の単純右A加群Sについて、すべてのSの自己準同型はkの元のスカラー倍写像である。
  • AMn(k)という形の多元環の有限直積と同型。

あとで見るように、
{分裂半単純多元環}{分離多元環}{半単純多元環}という階層構造である。

kが代数閉体のとき、有限次元半単純k多元環はArtin-Wedderburnなどよりk上分裂している。このことは以下でもよく使う。

右加群といっているが左右対称である。同値性はArtin-Wedderburnの証明などから明らか。また分裂という概念は基礎体に依存していることに注意(体の真の拡大K/kがあるとKK上分裂しているがk上は分裂していない)。

主定理

さてこの記事の主定理は次を示すことである。

主定理

k多元環Aに対して以下は同値である。

  1. 任意の半単純k多元環Bに対してABがまた半単純環になる。
  2. Aenv/k=AopAが半単純環になる。
  3. AAenv/k加群とみて射影加群である。つまりAModkAの対象とみて射影対象である。
  4. 関手()(A):AModkAModkが全射を保つ。
  5. 積写像μ:AAAが圏AModkAの中で分裂全射である。
  6. dimkA<であり、任意のkの拡大体Kに対してAKが半単純環になる。
  7. dimkA<であり、kの代数閉包kに対してAkが半単純環である。
  8. あるkの有限次元拡大体Lが存在して、ALL上分裂半単純多元環である。
  9. あるkの拡大体Lが存在して、ALL上分裂半単純多元環である。
  10. Aは半単純環であり、任意の単純A加群Sに対して、その自己準同型環D:=EndA(S)は(Schurより可除環だが)次の性質を満たす:
    1. dimkD<
    2. Dの中心Z(D)は(kの拡大体だが)k上の(体論の意味での)分離拡大。
  11. Aは次の形の多元環の有限直積:上の性質iとiiを満たすk上の可除多元環Dに対して全行列環Mn(D)Dも動きうる)。

主定理の同値条件を満たすk多元環Ak分離多元環、またAk分離的と呼ぶ。

まず主定理の同値性から次が分かる。

k上の分離多元環Aに対して次が成り立つ。

  • dimkA<
  • Aは半単純。
  • 任意の体の拡大L/kに対してALL上分離的。
  • k多元環Bk-linearな森田同値なら、Bk上分離的。
  • k多元環ABk上分離的ならABk上分離的。

証明は主定理の同値条件のどれかからすぐなので略。

次は分離的k多元環であることが主定理のどれかを使ってかんたんに分かる。

  • kの有限直積。
  • K/kを有限次元分離拡大としたときのK
  • 2つの分離k多元環の直積や全行列環や(k上の)テンソル積。
  • kが体論の意味で完全体なとき(例えば代数閉体)の有限次元な半単純k多元環。

2番めの例があるので、分離多元環は体の分離拡大の一般化とみなせる(というかそれが分離の名前の由来だろう)が、個人的には体論は難しいけど主定理の1や6の条件が表現論的にわかりやすいので、それの体の場合が体の分離拡大というふうにみたほうがわかりやすい(個人差があります)。

k多元環がk上分離的であるかはkに依存する。例えばk非分離有限次元拡大体Kをとると、Kk多元環として分離的でないが、K多元環としてはもちろん分離的である。

主定理の証明

以下では主定理を証明していく。以下常にAk多元環とする(有限次元性は仮定しないことに注意!)。

1,2,3,4,5の同値性

1ならば2

BとしてAopを取れば従う。

2ならば3

半単純環上の任意の加群は射影加群なので従う。

3と4の同値性

命題3より従う。

3ならば5

射影性よりただちに従う。

証明では必要ないが、5ならば3なことも、AAAModkAのなかで射影的なことから分かる(このことは、AAAModkA=ModAenv/kで同一したときまさに環自身Aenv/kを右加群とみなしたものであることから従う)。

5ならば1

仮定より積写像μ:AAAが圏AModkAの中で分裂全射である。また半単純k多元環Bを取る。このときBopAが半単純なことを示す。 これを示せば明らかに1が成り立つ(半単純環はoppositeで同値だしテンソルは入れ替えても多元環として同型なので)。

任意の加群MMod(BopA)をとる。これが射影的なことを示せばよい。まずBMAMk-compatibleな(B,A)両側加群とみなす。この両側加群を、積写像AAAAAAAに左からテンソルすると、分裂全射は関手で保たれるので、
BMAAkAABMAAA
という両側(B,A)加群の分裂全射が得られ、右側はBMAなので、BMAは左側の直和因子である。よって左側が射影的なことを示せばよい。しかし左側はBMkAAに同型であり、Bが半単純であったことからBMは射影左B加群である。
なのでBMBBの直和の直和因子だが、テンソルは直和と可換なので、BMkAABBkAAの直和の直和因子。
しかしBBkAAは、Mod(BopA)の元と見るとまさに環そのものなので射影的である。よって示された。

係数拡大周辺(1-5と6-10が同値なこと)

上に示したことから1-5は同値である。次に基礎体の係数拡大に関する6-10がこれらと同値なことを見る。

6ならば7

明らか。

7ならば8

ここは係数拡大を有限に取り替えられるかというテクニカルなところなので飛ばして読んでもよい

Akは代数閉体L上の有限次元半単純k多元環なのでk上分裂している、つまりkの行列環Mn(k)の直積にk多元環として同型。

これを利用して有限次元拡大に取り替えることを考える。まず中間体kLkがあるとALAkの部分L多元環とみなせることに注意。

いまAkが行列環の有限直積と同型である。このときAk基底を選び(有限次元より有限個)、次の有限個の元を考える:

  1. 同型で各行列単位(i,j成分が1で他はゼロのアレ)に対応する元
  2. Aの各k基底に対応するk成分行列の組があるが、そこに現れるkの元たち。

ここでkに含まれるkの有限拡大体Lが存在して、iiのkの元をすべて含み、かつALがiの元をすべて含む。
(これをちゃんと見るには、Lk上の基底を取ればAkLはその基底αiについてのAαiというkベクトル空間の直和になっているので、行列単位に対応する元は有限個のαiさえ入っていれば十分なので、そいつらと、またiiの元をkに添加した体をLとすれば(全部代数的な元なことに注意すると)、求める有限拡大が得られる。)

このときLが欲しい拡大、すなわちALは分裂半単純L多元環になっていることを主張する。簡単のため行列環が1つの場合に見てみると、AkMn(k)の同型を通してALMn(k)の部分L多元環と同型だが、すべての行列単位も含みかつLももちろん含むので、Mn(L)を含んでいる。よって同型を通してMn(L)ALである。
一方Aの元は同型でMn(k)の元と対応するが、iiの元をLがすべて含んでいたので、Aの元は同型でMn(L)の中に含まれる。よってALMn(L)が成り立つ。

以上からALMn(L)と同型である。行列環が2つ以上ある場合も議論は同じ。

8ならば9

明らか。

9ならば2

ここが地味に係数拡大やらについてのいくつかの補題を必要とする。

仮定よりある体の拡大L/kがあってAKLの行列環の直積に同型である。このとき次のことからALL上の多元環とみて、1-5の条件を満たす:

kを体としたとき、k上の行列環の有限直積Aは主定理の条件1-5を満たす。

すでに1-5が同値なことは示したので、1の条件を示す、つまり任意の半単純k多元環BについてABが半単純をみる。
環の直積とテンソルは分かれるので、ABMn(k)kBの有限直積なので、Mn(k)kBが半単純ならよい。がこれはMn(B)と同型であり、これはBと森田同値である。よって半単純である。

また実は係数拡大とテンソル積・包絡環をとる操作は次の意味で可換である。

kとその拡大体Lをとる。このときk多元環ABに対してL多元環ALBLができるが、L多元環の同型
(AL)L(BL)(AB)L
がある。とくにAenv/kkL(AkL)env/LL多元環として同型である。

とりあえず環構造は無視すると、L加群の同型
(AkL)L(BkL)=AkBkL
はある。ここでBkLの左L加群構造は右側のLで入っている(Lは可換なことに注意)。
対応は(aλ)(bμ)(ab)(λμ)にいく(a,bA, λ,μL)。
そしてこの同型は環構造を保っていることが頑張れば確認できる。

次に「係数拡大して半単純ならもともと半単純」が成り立つ:

k上の多元環Aと体の拡大L/kを考える。ここでdimkA<としMを有限生成右A加群、NModAとする。このとき任意のi0について同型
ExtAi(M,N)LExtALi(ML,NL)
が存在する。とくにALが半単純環であればAも半単純環である。

前半の同型は局所化でよく見るやつなので軽く。Mの射影分解をとると(仮定より有限生成射影A加群で取り続けられる)、これにLしてからHomAL(,NL)してコホモロジーとると右辺が出てくるが、有限生成射影加群PについてHomA(P,N)LHomAL(PL,NL)という同型があることはP=Aとすれば分かるので、右辺はもとの射影分解にHomA(,N)してからLしたのと思える。ここでLk上平坦なのでコホモロジーは保存されるので従う。

後半は、Ext1を見れば明らかである。

これらの補題から9ならば2が従う。なぜならまずdimkA<は9の条件から保証されており、見たことからALL多元環とみて1-5の条件をみたす、特に2より(AL)env/Lは半単純環である。よってAenv/kL(AL)env/Lの同型より、上の補題からAenv/kも半単純、つまり2が成り立つ。

1-5ならば6

1ならば6のdimkA<以外が成り立つことは自明。なので
ここでは5の条件からdimkA<が従うことを示す。これがわかれば、一周して1-9がすべて同値が分かる。
もともと半単純多元環といったら有限次元のものしか考えないような自分のような人はここのパートは正直いらない。

ここのところの主張はVillamayor-Zelinskyの結果らしい。証明は元をとって結構がんばる。このパートは参考文献の議論そのままである。誰かかんたんな証明を考えてください。

5の仮定より積写像μ:AAは両側(A,A)加群としてのsection s:AAAをもつ、つまりμs=idAである。

e:=s(1)AAとする。このeは任意のaAに対してae=eaを満たす(このは環の積ではなくAAへの左・右A作用)。なぜならsが両側(A,A)加群の射なことに注意すると:
ae=as(1)=s(a1)=s(a)=s(1a)=s(1)a=ea
だから。

さてAが有限次元を示したいのでAk加群としての基底{xi}iIをとる(とりたくないけど)。この基底に対応するprojection {fi:Ak}iIが取れる(ただのk線形写像)。これは任意の元aAに対して
a=iI(a)fi(a)xi
を満たす、ここでI(a)fi(a)0となるiIの集合で、どのaについても有限である。

またeAA
e=j=1Naibi
と書いておく。さらに見やすくするためiIについて
ϕi:=(fidA):AAA
とおく、つまりϕi(ab)=fi(a)bである。これは右A加群の準同型になっていることに注意。

以上の記号設定のもとで、実はAk上有限個の元で生成されることを示していく。

まず任意にwAAをとると等式
w=iI(xiϕi(w))
がなりたつ(ϕi(w)0なるIは有限、よって有限和)。これはwabの形のときに示してやれば十分で、このときは等式a=ifi(a)xiを使えば計算すれば分かる。

よって任意にaAを取ると、次の等式が成り立つ:
a=1a=μ(s(a1))=μ(as(1))=μ(ae)=μ(iIxiϕi(ae))=iIμ(xiϕi(j=1Naajbj))=iIj=1Nμ(xifi(aaj)bj))=iIj=1Nfi(aaj)xibj
ここでiIϕi(ae)0なるiIを走る(有限)だが、これは一見aに依存しているように見える。しかしae=eaなことからϕi(ae)=ϕi(ea)=ϕi(e)aが成り立つ(ϕiが右A準同型もつかう)。なのでϕi(e)0なるiIを走れば十分、つまりI(e)上の和である。

よって上の等式からA{xibjiI(e),1jN}という有限集合でk上生成されることが分かった。ゆえにdimkA<である。



## 10と11と他の条件との同値性

今までのことから1-10はすべて同値である。この同値な条件を満たすときAk上分離的とよぼう。あと10と11が分離性と同値なことを示す。まずArtin-Wedderburnの議論より10と11は明らかに同値である。

いくつか体に帰着させる補題を準備する。



&&&lem
Aを有限次元な半単純k多元環、RAの中心Z(A)に含まれる(可換)部分k多元環とすると、Rも半単純である。
&&&

&&&prf
たぶんいろんな示し方がある。Artin-Wedderburnと、直積と中心を取る操作との可換性より、Z(A)は結局kの有限次元拡大体の有限直積である。よってZ(A)の冪零元はゼロのみ。よってRももちろん冪零元はゼロのみ。一方Rは有限次元k多元環であり、よってRのJacobson radicalは冪零だが、上の議論からRのJacobson radicalはゼロのはず。よって(Rが有限次元多元環よりアルティンなことに注意すると)Rは半単純である。
&&&

このことから次が分かる。

&&&lem
Aを分離k多元環、RAの中心Z(A)に含まれる(可換)部分k多元環とすると、Rも分離k多元環である。
&&&


&&&prf
Ak上有限次元である。任意に体の拡大K/kをとったとき、RKが半単純なことをみる。いまAKは半単純有限次元K多元環であり、RKAKの部分K多元環と見れる(Kk上平坦より)。一方RKAKの中心に含まれることが、RZ(A)よりごちゃごちゃやればすぐ分かる。よって上の補題によりRKは半単純である。
&&&




結局体論チックなところが出てくるが、それは下の理由による。

&&&lem
Lkの拡大体で拡大次数有限とする。このとき次は同値である。

a. Lk上(主定理1-10の意味での)分離多元環である。
b. Lkの(体論の意味での)分離拡大である、つまり任意のαLの元のkでの最小多項式fk[t]が分離多項式である。

&&&


&&&prf
(aならばb)

Lの元αLをとり、そのk上の最小多項式をfk[t]とする。まずkk[α]Lであるが、Lは可換分離k多元環より、上の補題からk[α]は分離k多元環である。

k[α]k[t]/(f)である。ここでfk[t]が分離多項式であるとは、fの任意の分解体KfK[t]と見たとき1次式の積に分かれるようなK)(たとえば代数閉包)に対してfL内で重根を持たないことである。fの適当な分解体Kをとり、そこでのfの根をa1,,am(相異なる)、その重複度をn1,,nmとする、つまりf=i=1m(tai)niである。このとき各ni=1をみたい。

このときk[α]kLを考えると、
k[α]kKk[t]/(f)kKK[t]/(f)K[t](i=1m(tai)ni)i=1mK[t]((tai)ni)i=1mK[t](tni)
というK多元環の同型が(中国式剰余定理やらで)ある。しかしk[α]が分離的なのでこれは半単純なはずで、するとni=1でなければならない。

(bならばa)
帰納的にやれば避けられる気がするが、簡単のため「有限次元分離拡大は単拡大」という事実を使う。よってL=k[α]αLを用いてかける。αk上の最小多項式をfとする、とこれは分離多項式である。

さてあとは上とほぼ同じ議論である。同値条件の8を示す、より具体的にはfの適当な分解体KをとったときLKKの有限直積とK同型なことをみる。がfKでは一次式の積に分かれることから、その根をa1,,amとすると、上の式変形と同様に、K同型
LKk[α]kKK[t]/(f)i=1mK[t]/(tai)i=1mK
があり、そこから従う。
&&&

さてこの準備のもと、分離多元環ならば10や11を満たす方向が分かる。

### 分離的ならば10

Ak上分離的な多元環とする。このときAk上有限次元な半単純多元環より、Mn(D)という形でDk上有限次元可除多元環というものの有限直積である。このDに対して、Z(D)k上(体論的に)分離拡大であればよい。

さて多元環の直積とテンソルは分かれるので、Mn(D)自体が分離的k多元環であり、さらにMn(D)BMn(DB)が任意のk多元環Bについて成り立ち、Mn(DB)DBと森田同値なので、結局D自体が分離的k多元環である。

ゆえに補題9によりZ(D)k上分離的多元環である。よってZ(D)kの拡大体なことに注意すると、補題10によりZ(D)kの分離拡大である。

### 中心的可除多元環は分離的
あと残るは10,11から残りを出すところだが、そこで重要な補題があるので少し詳しく書く。

10などから他を出したいとき、結局は可除環Dの場合に帰着され、DZ(D)kという列で、仮定よりZ(D)kは分離的なので、DZ(D)上分離的かが気になる。これについて次の「中心的可除環は分離的」が成り立つ。

&&&prop
Dを中心がZ(D)=kを満たすk上有限次元な可除多元環とする。このとき任意の体の拡大K/kに対してDKは半単純である、つまりDk上分離的多元環である。
&&&


&&&prf
DKは有限次元K多元環なので、半単純なことを見るには、単純、つまり両側イデアルが0と自分自身しかないことを見ればよい(なぜならこれが分かればJacobson radicalがゼロなので、有限次元性より半単純が従う)。

0XDKをゼロでないDKの両側イデアルとする。まずKk上の基底を{αi}iIとすると、DK=iIDkkαi=iIDαiと直和分解される。
ここでXのゼロでない元xをとると、
x=d1αi1+d2αi2++dmαim
d1,,dmDi1,,imIを用いて一意的にかけるが、xXのゼロでない元のうち、このmが最小であるように取る。最小性から各di0に注意。
ここでXが両側イデアルなので(d111)xXであるので、d1=1であるとしてよい、すなわち
0x=1αi1+d2αi2++dmαimX.
次に任意にdDを取る。このとき(d1)xx(d1)Xだが、
(d1)xx(d1)=(dd2d2d)αi2++(ddmdmd)αimX
なので、mの最小性からこの元はゼロである。よって各ddidid=0が従う、つまりdiZ(D)である。仮定よりdiKが従う。

すると
0x=1αi1+d2αi2++dmαim=1αi1+1d2αi2++1dmαim=1(αi1+d2αi2++dmαim)=1βX
である、最後にβKと置いた。しかしこの元は0βKより、1β1を逆元として持つ、つまりxは可逆である。よって両側イデアルXが可逆元を含むので、Xは全体に一致しなければならない。
&&&


### 分離拡大の推移性

次に体論での「分離拡大の分離拡大は分離拡大」に対応する補題を準備する。

&&&lem
Lkの拡大体、AL多元環とする(とAk多元環でもある)。このときLkの有限分離拡大であり、AL上分離的であれば、Ak上でも分離的である。
&&&

これはたぶんいろんな言い方があるので、違うやり方を2つ紹介する。
まずは代数閉包を使って無理やりやるやり方。

&&&prf
まずdimLA<dimkL<からdimkA<に注意。ここで7を示す、つまりAkが半単純をみる。LLの代数閉包とするとL=kと見れる。よってAkLが半単純なことをみる。

これは、
AkL=(ALL)kL=AL(LkL)
となるが、Lk上分離的であることから、(分離多元環の方の性質より)LkLが半単純環となり、しかも半単純L多元環である(L作用は右ではなく左成分でいれる)。するとAL上分離的であったことから、AL(LkL)は半単純環なことが従う。
&&&

次は、あまり使わなかった関手()(A)を使うやりかた。


&&&prf
4を示す、つまり関手()(A):AModkAModkが全射を保つかをみる。
AModkAでの全射φ:MNをとる。このときMNk-compatibleであり、一方両側A作用から両側L作用も誘導されるのでM,NLModkLと見れる。
このとき()(L):LModkLModkLk上分離的なことから全射である、つまり
M(L)N(L)
は全射。
次にM(L)Mのなかで両側(A,A)作用で閉じていることが分かる:実際mM(L)をとるとambは、任意のλLに対してλ(amb)=a(λm)b=a(mλ)b=(amb)λである。
またM(L)の定義よりL-compatibleである、つまりM(L)AModLAである。

ここでAL上分離的なことを使うと、()(A):AModLAModkが全射を保つので、
(M(L))(A)(N(L))(A)
は全射。最後に落ち着くと(M(L))(A)=M(A)が分かるので、求める結果が得られた。
&&&


### 11なら分離的

いよいよ最後である。Aが11を満たすとするときAが分離的をみたいが、例えば1などは有限直積で保たれ、行列環Mn(D)が分離的かどうかはDが分離的かどうかと同値なので、次を示せばよい:

&&&
主張:
Dを可除k多元環でdimkD<とし、Z(D)kの分離拡大だとする。このときDk上分離的である。
&&&



&&&prf
命題11よりDZ(D)上分離的である。よって推移性の補題12によりDk上分離的である。
&&&

# 分離多元環なら何がうれしいの?

多元環をやっていて分離多元環が出てくるのは、多元環をテンソルしたときの振る舞いである。証明はしないけど次とかが例えば成り立つ。


&&&prop
A,Bを有限次元k多元環とする。このときAをJacobson radicalで割った半単純多元環がk上分離的だと仮定する。と次が成り立つ。
1. Aの大域次元はAAenv/k加群としての射影次元に等しい。
2. ABの大域次元はABの大域次元の和である。
&&&


# まとめ・感想・補足
拡大体を有限に取り直せるかとか、中心的可除環は分離的か、とかのところでいろいろめんどくさい議論があって、なかなか簡潔にはまとまらなかった気がする。けど構造定理の10と11を除いた1-9は(有限次元性を除けば)わりと変なことはせず元をとらずに証明できたと思う。

最後に、実は条件6などでの有限次元性の仮定は外すことができるらしい、つまり「任意に係数拡大して半単純ならその多元環は有限次元」がなりたつらしい。これはMathoverflowで筆者が聞いてみたらそうだという答えが帰ってきた。
https://mathoverflow.net/questions/415736/is-a-separable-algebra-over-a-field-finite-dimensional
証明は可換環や体論のいろんな非自明な結果を使うものでちょっとめんどくさい。さすがにここまではまとめる気はないし正直最初からAは有限次元だと仮定して自分になんの損もないのでまあまとめはしないことにする。

参考文献

[1]
Frank DeMeyer, Edward Ingraham, Separable Algebras over Commutative Rings, Springer
[2]
Charles W. Curtis, Irving Reiner, Representation Theory of Finite Groups and Associative Algebras
[3]
R.S. Pierce, Associative Algebras, Springer
投稿日:2022213
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H.E.
H.E.
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某大ポスドク、詳しくはtwitterまで。自分の分野(環の表現論)でよく使われるfolkloreの解説記事を主に書いています。

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  1. 導入
  2. 基礎的な定義や事実の確認
  3. 主定理
  4. 主定理の証明
  5. 1,2,3,4,5の同値性
  6. 係数拡大周辺(1-5と6-10が同値なこと)
  7. 1-5ならば6
  8. 参考文献