導入
多元環の中でもホモロジー的にもっとも単純なものは半単純多元環だが、半単純な多元環のなかでもさらに良いクラスに分離多元環(separable algebra)がある。その良さは主に基礎体上でのテンソル積についての振る舞いの良さという意味である。
この記事は、筆者がセミナーをやるときにFactとして出てきた、いくつかの分離多元環の有名な定義たちの同値性を、できるだけ元をとったりごちゃつかずに自分に見やすい形で示すことである。
この同値性は参考文献にあげた書籍等に載っているが、その証明はごちゃごちゃ元を取るのが多くて個人的に分かった気がしない。のでかんたんな証明を心がける。間違っている可能性もありうるので何かあればご指摘ください。
この記事を通してを体(体は常に可換)とする。または常にを意味する。また環は常に結合的単位的とし、多元環はの元が中心的に作用するものとする。
基礎的な定義や事実の確認
以下のことについては既知とする。
- 多元環の定義。右・左加群の定義、両側加群の定義。加群の準同型、(両側)加群のなす圏。
- 加群の射影性や平坦性。両側加群と両側加群を上でテンソルして両側加群ができる。
- 単純加群についてのSchurの補題、半単純環の定義(環自身を片側加群と見て半単純加群)や特徴づけ(すべての加群が射影など)、Artin-Wedderburnの定理。
- Jacobson radicalと関連性質。有限次元多元環について半単純性とJacobson radical=0の同値性など。
- 森田同値(環と行列環が森田同値など)。
- 体の拡大の基本的なこと(代数閉包・代数拡大・分離拡大など)
また次の記号を使う。
- 環についてで双対環(積をひっくりかえしたやつ)。が多元環ならも多元環なことに注意。
- 環についてでサイズの全行列環。
- 環について、で右加群のなす圏、で左加群のなす圏。
- 環とについて、で両側加群のなす圏。
- 加群が右加群、左加群、両側加群なことを強調して表すときに, , と書く。
分離多元環で重要なのは多元環2つを基礎体上でテンソルして出てくる多元環である。
とを多元環とすると、には自然に多元環の構造が入る。この積はを満たすように定義される唯一の積である。
ここでテンソル多元環上の加群を考えることと両側加群を考えることはほぼ同じである。厳密には基礎体についての少しの注意を必要とする:
とを多元環とする。
- 両側加群が-compatibleとは、がすべてのとについて成り立つときをいう。つまり左加群として誘導されるベクトル空間構造と右作用から誘導されるベクトル空間構造が一致しているときである。
- で、-compatibleな両側加群のなす圏とする。
この-compatibleという用語は今適当に作っただけなので誰か標準的な用語があれば教えて下さい。-compatibleという概念は環との多元環構造に依存しているので、は環とだけではなく真に体と環の多元環構造に依存していることに注意。
このとき次の同一視ができる。
とを多元環としたとき、-compatibleな両側加群を考えることと、右加群を考えることは同じである。つまり圏とは同型である。
概略のみ。-compatibleな両側加群があると、と, , と考えることでこれは右加群と見れる(テンソルからの射を伸ばしたいときに-compatible性が必要になる)。逆もやればできる。
よって両側加群を考えるときに次の概念が便利である。
を多元環としたとき、その上の包絡多元環(enveloping algebra)を次で定義する多元環とする:
命題2
多元環について-compatibleな両側加群を考えることと右加群を考えることは同じである、つまり圏とは同型である。
この両側加群の圏について、次の関手を以下で用いる。
実はこれはからのHomである:
がであると、を考えると、任意のに対して
であり、である。逆にの元が与えられると、により定めると、これはでの射であることがすぐに確認できる。これにより同型が確認でき、明らかに自然である。
また以下で次の標準的な写像を用いる。
を多元環としたとき、積写像をを満たすように定める。これは明らかにでの射である。
また半単純多元環のなかでも特別に良いクラスとして次を導入する。
を半単純多元環とする。このときが分裂半単純多元環(split semisimple -algebra)である、または単に上分裂するとは、次の同値な条件を満たすときをいう:
- 任意の単純右加群についてがと多元環として同型。
- 任意の単純右加群について、すべてのの自己準同型はの元のスカラー倍写像である。
- はという形の多元環の有限直積と同型。
あとで見るように、
という階層構造である。
が代数閉体のとき、有限次元半単純多元環はArtin-Wedderburnなどより上分裂している。このことは以下でもよく使う。
右加群といっているが左右対称である。同値性はArtin-Wedderburnの証明などから明らか。また分裂という概念は基礎体に依存していることに注意(体の真の拡大があるとは上分裂しているが上は分裂していない)。
主定理
さてこの記事の主定理は次を示すことである。
主定理
多元環に対して以下は同値である。
- 任意の半単純多元環に対してがまた半単純環になる。
- が半単純環になる。
- が加群とみて射影加群である。つまりの対象とみて射影対象である。
- 関手が全射を保つ。
- 積写像が圏の中で分裂全射である。
- であり、任意のの拡大体に対してが半単純環になる。
- であり、の代数閉包に対してが半単純環である。
- あるの有限次元拡大体が存在して、が上分裂半単純多元環である。
- あるの拡大体が存在して、が上分裂半単純多元環である。
- は半単純環であり、任意の単純加群に対して、その自己準同型環は(Schurより可除環だが)次の性質を満たす:
- 。
- の中心は(の拡大体だが)上の(体論の意味での)分離拡大。
- は次の形の多元環の有限直積:上の性質iとiiを満たす上の可除多元環に対して全行列環(も動きうる)。
主定理の同値条件を満たす多元環を上分離多元環、またを上分離的と呼ぶ。
まず主定理の同値性から次が分かる。
上の分離多元環に対して次が成り立つ。
- 。
- は半単純。
- 任意の体の拡大に対しては上分離的。
- 多元環が-linearな森田同値なら、も上分離的。
- 多元環とが上分離的ならも上分離的。
証明は主定理の同値条件のどれかからすぐなので略。
次は分離的多元環であることが主定理のどれかを使ってかんたんに分かる。
- の有限直積。
- を有限次元分離拡大としたときの。
- 2つの分離多元環の直積や全行列環や(上の)テンソル積。
- が体論の意味で完全体なとき(例えば代数閉体)の有限次元な半単純多元環。
2番めの例があるので、分離多元環は体の分離拡大の一般化とみなせる(というかそれが分離の名前の由来だろう)が、個人的には体論は難しいけど主定理の1や6の条件が表現論的にわかりやすいので、それの体の場合が体の分離拡大というふうにみたほうがわかりやすい(個人差があります)。
多元環が上分離的であるかはに依存する。例えば非分離有限次元拡大体をとると、は多元環として分離的でないが、多元環としてはもちろん分離的である。
主定理の証明
以下では主定理を証明していく。以下常にを多元環とする(有限次元性は仮定しないことに注意!)。
1,2,3,4,5の同値性
1ならば2
としてを取れば従う。
2ならば3
半単純環上の任意の加群は射影加群なので従う。
3と4の同値性
命題3より従う。
3ならば5
射影性よりただちに従う。
証明では必要ないが、5ならば3なことも、はのなかで射影的なことから分かる(このことは、はで同一したときまさに環自身を右加群とみなしたものであることから従う)。
5ならば1
仮定より積写像が圏の中で分裂全射である。また半単純多元環を取る。このときが半単純なことを示す。 これを示せば明らかに1が成り立つ(半単純環はoppositeで同値だしテンソルは入れ替えても多元環として同型なので)。
任意の加群をとる。これが射影的なことを示せばよい。まずとを-compatibleな両側加群とみなす。この両側加群を、積写像に左からテンソルすると、分裂全射は関手で保たれるので、
という両側加群の分裂全射が得られ、右側はなので、は左側の直和因子である。よって左側が射影的なことを示せばよい。しかし左側はに同型であり、が半単純であったことからは射影左加群である。
なのではの直和の直和因子だが、テンソルは直和と可換なので、はの直和の直和因子。
しかしは、の元と見るとまさに環そのものなので射影的である。よって示された。
係数拡大周辺(1-5と6-10が同値なこと)
上に示したことから1-5は同値である。次に基礎体の係数拡大に関する6-10がこれらと同値なことを見る。
6ならば7
明らか。
7ならば8
ここは係数拡大を有限に取り替えられるかというテクニカルなところなので飛ばして読んでもよい。
は代数閉体上の有限次元半単純多元環なので上分裂している、つまりの行列環の直積に多元環として同型。
これを利用して有限次元拡大に取り替えることを考える。まず中間体があるとはの部分多元環とみなせることに注意。
いまが行列環の有限直積と同型である。このときの基底を選び(有限次元より有限個)、次の有限個の元を考える:
- 同型で各行列単位(i,j成分が1で他はゼロのアレ)に対応する元
- の各基底に対応する成分行列の組があるが、そこに現れるの元たち。
ここでに含まれるの有限拡大体が存在して、iiのの元をすべて含み、かつがiの元をすべて含む。
(これをちゃんと見るには、の上の基底を取ればはその基底についてのというベクトル空間の直和になっているので、行列単位に対応する元は有限個のさえ入っていれば十分なので、そいつらと、またiiの元をに添加した体をとすれば(全部代数的な元なことに注意すると)、求める有限拡大が得られる。)
このときが欲しい拡大、すなわちは分裂半単純多元環になっていることを主張する。簡単のため行列環が1つの場合に見てみると、の同型を通してはの部分多元環と同型だが、すべての行列単位も含みかつももちろん含むので、を含んでいる。よって同型を通してである。
一方の元は同型での元と対応するが、iiの元をがすべて含んでいたので、の元は同型での中に含まれる。よってが成り立つ。
以上からはと同型である。行列環が2つ以上ある場合も議論は同じ。
8ならば9
明らか。
9ならば2
ここが地味に係数拡大やらについてのいくつかの補題を必要とする。
仮定よりある体の拡大があってはの行列環の直積に同型である。このとき次のことからは上の多元環とみて、1-5の条件を満たす:
を体としたとき、上の行列環の有限直積は主定理の条件1-5を満たす。
すでに1-5が同値なことは示したので、1の条件を示す、つまり任意の半単純多元環についてが半単純をみる。
環の直積とテンソルは分かれるので、はの有限直積なので、が半単純ならよい。がこれはと同型であり、これはと森田同値である。よって半単純である。
また実は係数拡大とテンソル積・包絡環をとる操作は次の意味で可換である。
体とその拡大体をとる。このとき多元環とに対して多元環とができるが、多元環の同型
がある。とくにとは多元環として同型である。
とりあえず環構造は無視すると、加群の同型
はある。ここでの左加群構造は右側ので入っている(は可換なことに注意)。
対応はがにいく(, )。
そしてこの同型は環構造を保っていることが頑張れば確認できる。
次に「係数拡大して半単純ならもともと半単純」が成り立つ:
体上の多元環と体の拡大を考える。ここでとしを有限生成右加群、とする。このとき任意のについて同型
が存在する。とくにが半単純環であればも半単純環である。
前半の同型は局所化でよく見るやつなので軽く。の射影分解をとると(仮定より有限生成射影加群で取り続けられる)、これにしてからしてコホモロジーとると右辺が出てくるが、有限生成射影加群についてという同型があることはとすれば分かるので、右辺はもとの射影分解にしてからしたのと思える。ここでは上平坦なのでコホモロジーは保存されるので従う。
後半は、を見れば明らかである。
これらの補題から9ならば2が従う。なぜならまずは9の条件から保証されており、見たことからは多元環とみて1-5の条件をみたす、特に2よりは半単純環である。よっての同型より、上の補題からも半単純、つまり2が成り立つ。
1-5ならば6
1ならば6の以外が成り立つことは自明。なので
ここでは5の条件からが従うことを示す。これがわかれば、一周して1-9がすべて同値が分かる。
もともと半単純多元環といったら有限次元のものしか考えないような自分のような人はここのパートは正直いらない。
ここのところの主張はVillamayor-Zelinskyの結果らしい。証明は元をとって結構がんばる。このパートは参考文献の議論そのままである。誰かかんたんな証明を考えてください。
5の仮定より積写像は両側加群としてのsection をもつ、つまりである。
とする。このは任意のに対してを満たす(このは環の積ではなくへの左・右作用)。なぜならが両側加群の射なことに注意すると:
だから。
さてが有限次元を示したいのでの加群としての基底をとる(とりたくないけど)。この基底に対応するprojection が取れる(ただの線形写像)。これは任意の元に対して
を満たす、ここではとなるの集合で、どのについても有限である。
またを
と書いておく。さらに見やすくするためについて
とおく、つまりである。これは右加群の準同型になっていることに注意。
以上の記号設定のもとで、実はが上有限個の元で生成されることを示していく。
まず任意にをとると等式
がなりたつ(なるは有限、よって有限和)。これはがの形のときに示してやれば十分で、このときは等式を使えば計算すれば分かる。
よって任意にを取ると、次の等式が成り立つ:
ここではなるを走る(有限)だが、これは一見に依存しているように見える。しかしなことからが成り立つ(が右準同型もつかう)。なのでなるを走れば十分、つまり上の和である。
よって上の等式からはという有限集合で上生成されることが分かった。ゆえにである。
## 10と11と他の条件との同値性
今までのことから1-10はすべて同値である。この同値な条件を満たすときを上分離的とよぼう。あと10と11が分離性と同値なことを示す。まずArtin-Wedderburnの議論より10と11は明らかに同値である。
いくつか体に帰着させる補題を準備する。
&&&lem
を有限次元な半単純多元環、をの中心に含まれる(可換)部分多元環とすると、も半単純である。
&&&
&&&prf
たぶんいろんな示し方がある。Artin-Wedderburnと、直積と中心を取る操作との可換性より、は結局の有限次元拡大体の有限直積である。よっての冪零元はゼロのみ。よってももちろん冪零元はゼロのみ。一方は有限次元多元環であり、よってのJacobson radicalは冪零だが、上の議論からのJacobson radicalはゼロのはず。よって(が有限次元多元環よりアルティンなことに注意すると)は半単純である。
&&&
このことから次が分かる。
&&&lem
を分離多元環、をの中心に含まれる(可換)部分多元環とすると、も分離多元環である。
&&&
&&&prf
は上有限次元である。任意に体の拡大をとったとき、が半単純なことをみる。いまは半単純有限次元多元環であり、はの部分多元環と見れる(は上平坦より)。一方はの中心に含まれることが、よりごちゃごちゃやればすぐ分かる。よって上の補題によりは半単純である。
&&&
結局体論チックなところが出てくるが、それは下の理由による。
&&&lem
をの拡大体で拡大次数有限とする。このとき次は同値である。
a. が上(主定理1-10の意味での)分離多元環である。
b. がの(体論の意味での)分離拡大である、つまり任意のの元のでの最小多項式が分離多項式である。
&&&
&&&prf
(aならばb)
の元をとり、その上の最小多項式をとする。まずであるが、は可換分離多元環より、上の補題からは分離多元環である。
である。ここでが分離多項式であるとは、の任意の分解体(と見たとき1次式の積に分かれるような)(たとえば代数閉包)に対してが内で重根を持たないことである。の適当な分解体をとり、そこでのの根を(相異なる)、その重複度をとする、つまりである。このとき各をみたい。
このときを考えると、
という多元環の同型が(中国式剰余定理やらで)ある。しかしが分離的なのでこれは半単純なはずで、するとでなければならない。
(bならばa)
帰納的にやれば避けられる気がするが、簡単のため「有限次元分離拡大は単拡大」という事実を使う。よってとを用いてかける。の上の最小多項式をとする、とこれは分離多項式である。
さてあとは上とほぼ同じ議論である。同値条件の8を示す、より具体的にはの適当な分解体をとったときがの有限直積と同型なことをみる。ががでは一次式の積に分かれることから、その根をとすると、上の式変形と同様に、同型
があり、そこから従う。
&&&
さてこの準備のもと、分離多元環ならば10や11を満たす方向が分かる。
### 分離的ならば10
を上分離的な多元環とする。このときは上有限次元な半単純多元環より、という形では上有限次元可除多元環というものの有限直積である。このに対して、が上(体論的に)分離拡大であればよい。
さて多元環の直積とテンソルは分かれるので、自体が分離的多元環であり、さらにが任意の多元環について成り立ち、はと森田同値なので、結局自体が分離的多元環である。
ゆえに補題9によりは上分離的多元環である。よってがの拡大体なことに注意すると、補題10によりはの分離拡大である。
### 中心的可除多元環は分離的
あと残るは10,11から残りを出すところだが、そこで重要な補題があるので少し詳しく書く。
10などから他を出したいとき、結局は可除環の場合に帰着され、という列で、仮定よりは分離的なので、が上分離的かが気になる。これについて次の「中心的可除環は分離的」が成り立つ。
&&&prop
を中心がを満たす上有限次元な可除多元環とする。このとき任意の体の拡大に対しては半単純である、つまりは上分離的多元環である。
&&&
&&&prf
は有限次元多元環なので、半単純なことを見るには、単純、つまり両側イデアルがと自分自身しかないことを見ればよい(なぜならこれが分かればJacobson radicalがゼロなので、有限次元性より半単純が従う)。
をゼロでないの両側イデアルとする。まずの上の基底をとすると、と直和分解される。
ここでのゼロでない元をとると、
ととを用いて一意的にかけるが、をのゼロでない元のうち、このが最小であるように取る。最小性から各に注意。
ここでが両側イデアルなのでであるので、であるとしてよい、すなわち
次に任意にを取る。このときだが、
なので、の最小性からこの元はゼロである。よって各が従う、つまりである。仮定よりが従う。
すると
である、最後にと置いた。しかしこの元はより、を逆元として持つ、つまりは可逆である。よって両側イデアルが可逆元を含むので、は全体に一致しなければならない。
&&&
### 分離拡大の推移性
次に体論での「分離拡大の分離拡大は分離拡大」に対応する補題を準備する。
&&&lem
をの拡大体、を多元環とする(とは多元環でもある)。このときがの有限分離拡大であり、が上分離的であれば、は上でも分離的である。
&&&
これはたぶんいろんな言い方があるので、違うやり方を2つ紹介する。
まずは代数閉包を使って無理やりやるやり方。
&&&prf
まずとからに注意。ここで7を示す、つまりが半単純をみる。をの代数閉包とするとと見れる。よってが半単純なことをみる。
これは、
となるが、が上分離的であることから、(分離多元環の方の性質より)が半単純環となり、しかも半単純多元環である(作用は右ではなく左成分でいれる)。するとが上分離的であったことから、は半単純環なことが従う。
&&&
次は、あまり使わなかった関手を使うやりかた。
&&&prf
4を示す、つまり関手が全射を保つかをみる。
での全射をとる。このときとは-compatibleであり、一方両側作用から両側作用も誘導されるのでと見れる。
このときはが上分離的なことから全射である、つまり
は全射。
次にはのなかで両側作用で閉じていることが分かる:実際をとるとは、任意のに対してである。
またの定義より-compatibleである、つまりである。
ここでが上分離的なことを使うと、が全射を保つので、
は全射。最後に落ち着くとが分かるので、求める結果が得られた。
&&&
### 11なら分離的
いよいよ最後である。が11を満たすとするときが分離的をみたいが、例えば1などは有限直積で保たれ、行列環が分離的かどうかはが分離的かどうかと同値なので、次を示せばよい:
&&&
主張:
を可除多元環でとし、がの分離拡大だとする。このときは上分離的である。
&&&
&&&prf
命題11よりは上分離的である。よって推移性の補題12によりは上分離的である。
&&&
# 分離多元環なら何がうれしいの?
多元環をやっていて分離多元環が出てくるのは、多元環をテンソルしたときの振る舞いである。証明はしないけど次とかが例えば成り立つ。
&&&prop
を有限次元多元環とする。このときをJacobson radicalで割った半単純多元環が上分離的だと仮定する。と次が成り立つ。
1. の大域次元はの加群としての射影次元に等しい。
2. の大域次元はとの大域次元の和である。
&&&
# まとめ・感想・補足
拡大体を有限に取り直せるかとか、中心的可除環は分離的か、とかのところでいろいろめんどくさい議論があって、なかなか簡潔にはまとまらなかった気がする。けど構造定理の10と11を除いた1-9は(有限次元性を除けば)わりと変なことはせず元をとらずに証明できたと思う。
最後に、実は条件6などでの有限次元性の仮定は外すことができるらしい、つまり「任意に係数拡大して半単純ならその多元環は有限次元」がなりたつらしい。これはMathoverflowで筆者が聞いてみたらそうだという答えが帰ってきた。
https://mathoverflow.net/questions/415736/is-a-separable-algebra-over-a-field-finite-dimensional
証明は可換環や体論のいろんな非自明な結果を使うものでちょっとめんどくさい。さすがにここまではまとめる気はないし正直最初からは有限次元だと仮定して自分になんの損もないのでまあまとめはしないことにする。