これは Math Advent Calendar 2024 の
この記事は、「三角形の内接円と外接円の相似比の明示公式とその例・応用について述べるもの」です。
内容のレベルは高校数学で、ジャンルは初等幾何学です。
平面において、三角形に対し内接円・外接円と呼ばれる
三角形の各角の二等分線は一点で交わる。この交点のことをもとの三角形の内心と呼ぶ。
内心を中心として三角形のある辺(どの辺でもよい)までの距離を半径とした円を書くと、これはその三角形の全ての辺に接する。
こうして作った円をもとの三角形の内接円と呼ぶ。
内接円
三角形の各辺の垂直二等分線は一点で交わる。この交点のことをもとの三角形の外心と呼ぶ。
外心を中心として三角形のある頂点(どの頂点でもよい)までの距離を半径とした円を書くと、これはその三角形の全ての頂点を通る。
こうして作った円をもとの三角形の外接円と呼ぶ。
外接円
さて、円という図形は全て相似であり、その相似比は各々の半径の比です。それでは、この「内接円と外接円の相似比」はどれくらいなのでしょうか?これら
三角形の内接円と外接円
今回の記事では、それが実際に可能であり、「三角形の外接円の半径に対する内接円の半径の比を、三角形の角度の情報を用いて表示できる」ことを紹介・証明します。関連して、その結果から得られるいくつかの系も記載します。
最後に、三角形の表示に関する注意を述べます。
本記事において、三角形の
即ち、三角形の角と辺が以下の画像のような位置関係であることを念頭に置いて命題・証明・例の記述を行うことに注意します。
位置関係
主張を述べるにあたって、初めに
内角が
と定義する
「
正三角形の
また、直角二等辺三角形の
さらに、辺の長さが
この
三角形の外接円に対する内接円の相似比は
即ち、三角形の外接円の半径及び内接の半径をそれぞれ
この記事ではこの定理(のみ)を主定理と呼び、以下のいくつかの箇所で参照します。
以下、この定理の主張を具体例とともに観察してみようと思います。
正三角形の
直角二等辺三角形の
辺の長さが
色々な三角形の内接円と外接円
ラフな説明にはなりますが、こう見てみると、主に三角形の潰れ具合によって内接円の半径が小さくなり、それが結果として
三角形の潰れ具合が最も小さい「正三角形」の内接円はこの
また、三角形の潰れ具合が最も大きい「辺の長さが
(むしろ
さらに、この相似比計算には角度の情報しか利用していません。
よって「相似な三角形はすべて共通の『外接円に対する内接円の比の値』を持つ」ことがわかります。
以下、この主定理の証明のため、いくつか補題を用意します。
ただし、その中で高校数学においてあまりにも使われている公式や、「~の公式」というように名称が既にあるものについては、その検索可能性から証明を省略しようと思います。
また、改めて三角形の辺・角の位置関係が次のようであることを再掲しておきます。
辺と角の位置関係
三角形の三辺
三角形の三辺
三角形の三辺
三角形の三辺を
三角形の三辺を
下記画像のように、三角形を「その内心
内接円の半径と面積
すると、
三角形の三辺を
正弦定理及び「
以下、主定理の証明をします。
余弦定理を用いて、次のように変形していく。
ここで、
を得る。最後に、「外接円の半径による面積公式」を用いれば、下記のように主張を得る。
ここまでで、一般的な三角形において外接円と内接円の大きさの比を導出してきました。
ここで、その結果の系として、「特徴的な三角形についてはその比がどのようにして計算できるのか」を見てみようと思います。
取り扱うのは、「正三角形」「二等辺三角形」「直角三角形」の
まず、正三角形の場合の系を明示します。上で記載した内容と重複するのですが、この場合
正三角形において、外接円と内接円の相似比は
即ち、正三角形の外接円の半径
次に二等辺三角形の場合の系を見てみます。
この場合、
下記画像のように底角を
底角を
底角を
このとき、この二等辺三角形の外接円と内接円の相似比は
即ち、二等辺三角形の外接円の半径
主張において、
そしてこれは倍角の公式を用いた次の計算によりわかる。
このことからわかるのは、二等辺三角形の外接円と内接円の相似比は、正三角形の場合(
次に、「辺を用いて計算した結果」を確認してみます。
下記画像のような設定で考えてみます。
斜辺が
斜辺が
このとき、この二等辺三角形の外接円と内接円の相似比は
即ち、二等辺三角形の外接円の半径
二等辺三角形の底角の大きさを
よって一つ前の命題にこれを代入すれば
この場合は、ちょっとした表示式が得られることになりました。
最後に、直角三角形の場合の系を見てみます。
下記画像のような設定で考えてみます。
直角三角形
底辺が
このとき、この二等辺三角形の外接円と内接円の相似比は
即ち、二等辺三角形の外接円の半径
実は、この関係式から直角三角形の内接円の半径の表示について下記の事実がわかります。
底辺が
例えば、底辺・高さ・斜辺が
直角三角形において、その斜辺の長さは外接円の直径に一致することに注意する(この事実の証明は、本質的には円周角の定理だが、おそらく正弦定理で「斜辺に向かい合う角が直角である」ことに気づく方が早い。)。
よって、この直角三角形の外接円の半径
さて、ここまで
次は、「この
即ち、次の条件を満たすような実数の区間
前者については、ごく簡単には次のように評価できます。
主定理より、
また、
しかしながら、これは少しラフな評価です。
異なる三角形における比較(外接円の大きさは同じ)
この点から考えると、三角形の「潰れ(
即ち、一つ前の自明な評価について上界を
以下、この予想を証明します。
さて、
を示すことで従う。実際、この不等式が示せていたとすると、
最後に余弦定理を用いて左辺の各項を書きかえれば主張が従う。
下記の不等式を示す。右辺から左辺を引いた結果が非負であることを示す。辺の対称性から
となり、不等式が証明できた。なお、最終行の第一項は三角形の三辺の関係式
余談ですが、
ここではそれを詳解することはしませんが、「関数
さて、ここまでで、目標の半分ができました。即ち
次のような実数の区間
後半を証明します。
三角形一般について証明するのは大変ですが、幸いにも前節で証明の足掛かりになる結果を一つ確認しています。
底角が
これを用いれば、パラメータ
即ち、以下が成り立ちそうに思えます。
勝手な
即ち、勝手な
より簡単な証明のために、パラメータをいろいろと動かして、できる限り簡単な形に主張を帰着してみましょう。
勝手な
最終的に、かなり単純な形に主張を帰着することができました。ところが、最終行に書かれた命題は
従って、目標の後半部分も正しいと確認できたことになります。
最後に、ここで得られた結果を主定理に応用して、結果を
三角形の外接円の半径
最後に、主定理から証明できる少し変わった面積公式を紹介します。
下記の事実が成り立ちます。
三角形の三辺
この事実の証明のために、次の命題を用います。
三角形の三辺
なお、「第一」というからにはもちろん「第二余弦定理」も存在します。実はこれは通常単に「余弦定理」と呼ばれている主張です(命題
第一余弦定理を用いて、次のように変形を行う。
ここで、
これより、
ここで、正弦定理を用いれば、
を得る。これを整理して主張が従う。
三角形の外接円と内接円の関係について書きました。
この内容は、私が中学生から高校生くらいの間に考えていたことをまとめなおしたものです。当時は三角比を用いることで平面幾何の色々な公式が次々に導出できることが大変面白く、夢中になって考え込んでいました。
当時から時間がたった今まとめなおしてみると、論証が危うかったところも多く、修正のためそれなりに時間を使うことになりました。それでも、記事作成中は当時の感覚を思い出してなかなか懐かしい心持でした。
なお、記事中の図式作成には GeoGebra というサイトを利用しました。直感的に作図ができるのでかなり助けられました。
この記事に関してコメントや誤植等がありましたらぜひお知らせください。