問題を解く手順の中で, ある式を一つのカタマリと見て, 新しい文字で置くという発想がある. 以前にも紹介したが, この手順は必ずしも必要ではない. 例えば, 置換積分. 置換積分に頼らなくても積分できる例はたくさんある.
ベクトルの分野においても, こうした例を発見したので, 紹介する.
$\vec{a}, \vec{b}$が$ |\vec{a}-\vec{b}|=1, |2\vec{a}+3\vec{b}|=1$を満たすとき, $|\vec{a}+\vec{b}|$の最小値を求めよ.
まずは, 一般的な解答を紹介する.
解答1
\begin{align*}
\vec{a} - \vec{b} &= \vec{u} \quad \cdots (1),
& 2\vec{a} + 3\vec{b} &= \vec{v} \quad \cdots (2) \\
\end{align*}
とおく. このとき, $|\vec{u}| = 1,\; |\vec{v}| = 1$である.
(1),(2)より, $\vec{a}, \vec{b}$を$ \vec{u}, \vec{v} $で表すと,
\begin{align*}
\vec{a} &= \tfrac{3\vec{u} + \vec{v}}{5},
& \vec{b} &= \tfrac{\vec{v} - 2\vec{u}}{5}
\end{align*}
\begin{align*}
\therefore\quad \vec{a}+\vec{b} &= \tfrac{\vec{u} + 2\vec{v}}{5}
\end{align*}
ここで, $|\vec{a}+\vec{b}|^2$を計算すると,
\begin{align*}
|\vec{a}+\vec{b}|^2
&= \left|\tfrac{\vec{u}+2\vec{v}}{5}\right|^2 \\[6pt]
&= \tfrac{1}{25}\Bigl(|\vec{u}|^2 + 4\vec{u}\cdot \vec{v} + 4|\vec{v}|^2\Bigr) \\[6pt]
&= \tfrac{1}{25}(1^2 + 4\vec{u}\cdot \vec{v} + 4\times 1^2) \\[6pt]
&= \tfrac{1}{25}(5+4\vec{u}\cdot \vec{v}) \quad \cdots (3) \\[12pt]
\end{align*}
ここで, $ \vec{u}\cdot \vec{v}= -1$のとき, (3)は最小となる.
したがって, $ |\vec{a}+\vec{b}|=\frac{1}{5}$
次に, オリジナルの解答を示す.
解答2
\begin{align*}
|\vec{a}+\vec{b}|^2&=(\vec{a}+\vec{b})\cdot(\vec{a}+\vec{b})\\
&=|\vec{a}|^2+|\vec{b}|^2+2\vec{a}\cdot\vec{b}\\
&=|\vec{a}|^2+|\vec{b}|^2+|\vec{a}||\vec{b}|\cos{\theta}
\end{align*}
より, $ |\vec{a}|, |\vec{b}|, \cos{\theta}$の3つの値がわかれば, 原理的には$ |\vec{a}+\vec{b}|$の値がわかる. ここで, $\vec{a}, \vec{b}$のなす角を$\theta$とした.
ここで, 求める値が最小値であることより, $\cos{\theta}= -1$でなければならない.
このとき, 上の$ |\vec{a}-\vec{b}|=1 \quad \cdots (4), |2\vec{a}+3\vec{b}|=1 \quad \cdots(5)$と$\cos{\theta}= -1 $より, 2つの未知数$ |\vec{a}|, |\vec{b}|$に対して, 方程式は(4), (5)の2つであるから, $ |\vec{a}|, |\vec{b}|$は求まる.
よって, $|\vec{a}+\vec{b}|^2 $の値も求まる.