かえでです.
今回は,質問箱にSondatの定理(特に,Second Sondatの定理)について解説してくださいという旨の依頼が来たので,これについて書いていきます.
では本編へ.
まず,perspectiveについて説明していく.
三角形$ABC$と三角形$A_1B_1C_1$について,$X=BC \cap B_1C_1, Y=CA \cap C_1A_1, Z=AB \cap A_1B_1$とする.このとき,三直線$AA_1,BB_1,CC_1$が共点であることと三点$X,Y,Z$が共線であることは同値である.
三角形$ABC$と三角形$A_1B_1C_1$がperspective(配景, 配景的)であるとは,対応する頂点を結ぶ直線が共点である($=$Desarguesの定理の関係を満たしている)ことをいう.
またこのとき,点$AA_1 \cap BB_1 \cap CC_1$をperspector,直線$\overline{XYZ}$をperspectrixという.
例: 三角形とその垂心三角形(orthic triangle)はperspectiveであり,そのperspectorは垂心,perspectrixは垂軸である.
次は,perspectiveよりも比較的マイナーなorthologicについて説明していく.
三角形$ABC$と三角形$A_1B_1C_1$について,「$A$を通り$B_1C_1$に垂直な直線,$B$を通り$C_1A_1$に垂直な直線,$C$を通り$A_1B_1$に垂直な直線が共点である」ことと,「$A_1$を通り$BC$に垂直な直線,$B_1$を通り$CA$に垂直な直線,$C_1$を通り$AB$に垂直な直線が共点である」ことは同値である.
三角形$ABC$と三角形$A_1B_1C_1$がorthologic(対垂)であるとは,これらが定理2での関係を満たすことをいう.
またこのとき,定理2で定まる二つの共点をorthology center(s)という.
例えば,三角形$ABC$と点$P$について,三角形$ABC$とその$P$でのpedal triangleはorthologicである.このとき,垂足三角形側のorthology centerは$P$であり,三角形$ABC$側のorthology centerは$P$の等角共役点である.
すなわち定理2(定義2)は等角共役点の存在定理を含んでいる.
その他用語については,過去の記事を参照するか都度調べるなどして欲しい.
二つ定義を確認したところで,本題に入ろう.
Sondatの定理とは,P. Sondatが1984年のL'intermédiaire des mathématiciensの10号にQuestion 38として出題した問題である.さて,その主張を見ていこう.
perspectiveかつorthologicである三角形$ABC$と三角形$A_1B_1C_1$について,そのperspectorを$S$とし,$\triangle ABC,\triangle A_1B_1C_1$側のorthology centerをそれぞれ$H,H_1$とする.このとき,三点$S,H,H_1$は共線であり,直線$\overline{SHH_1}$とperspectrix$\overline{XYZ}$は直交する.
とんでもなく強力な主張であるが,とりあえず証明していく.Sondatの定理には多くの証明が存在するが,今回は最も本質的かつ一般的であると考えている証明を紹介する.
まず,以下の二つの補題(近代幾何では有名事実)を用意する.
homotheticでない三角形$ABC$と三角形$DEF$について,点$D,E,F$を通りそれぞれ$AP,BP,CP$に平行な直線が共点であるような点$P$の軌跡は,三角形$ABC$の外接円錐曲線$\cup$無限遠直線である.
三角形$ABC$とその外接直角双曲線$\mathcal{H}$上の二点$P,Q$について,$P$を通り直線$AQ$に垂直な直線が直線$BC$と交わる点を$A_1$とし,同様に$B_1,C_1$を定める.このとき,三点$A_1,B_1,C_1$は共線であり,直線$\overline{A_1B_1C_1}$と直線$PQ$は直交する.
(補題5がorthotransversalの一般化になっていて,さらに「三角形$ABC$とその垂心$H$および等角共役点$(P,Q)$について,$H$を通り$AQ,BQ,CQ$に垂直な直線がそれぞれ直線$BC,CA,AB$と交わる点を$D,E,F$としたとき,直線$\overline{DEF}$は$\odot (H,HP)$と$P$のreflection triangleの根軸である.」に系が登場したりその他有名円錐曲線上の点に適用するといい感じの系が得られて面白いみたいな話は今回は置いておくとして,)
これら補題を証明していく.
一般性を失わず,$A \equiv D$としてよい.(無限遠直線上にない点$P$について,)$U = BP \cap AE, V = CP \cap AF$とする.今直線$AP$上の点$Q$が$EQ \parallel BP, FQ \parallel CP$を満たすとすれば,三角形$PUV$と三角形$QEF$は$A$を中心としてhomotheticであるから,$UV \parallel EF$である.このような点$P$の軌跡は三角形$ABC$の外接円錐曲線に他ならない.
$H_B,H_C$をそれぞれ三角形$BPQ,CPQ$の垂心とすれば,$H_B,H_C$はそれぞれ直線$PB_1,PC_1$と$\mathcal{H}$の第二交点である.よって,$PH_CCABH_B$にPascalの定理を適用して$B_1,C_1$と$\perp PQ$方向の無限遠点の共線を得る.よって$B_1C_1 \perp PQ$である.
では,Sondatの定理の証明に入ろう.
補題4から,点$H,S$と三角形$ABC$の垂心は,三角形$ABC$の外接円錐曲線に乗っていることが分かり,これは外接直角双曲線である.$S$を通り$BH,CH$に直交する直線がそれぞれ直線$CA,AB$と交わる点をそれぞれ$Y',Z'$とすれば,三角形$A_1YZ$と三角形$SY'Z'$は$A$を中心としてhomotheticであるから,$YZ \parallel Y'Z'$である.一方補題5から,$Y'Z' \perp HS$である.よって,$YZ \perp HS$となり,三点$H,H_1,S$が直線$\overline{XYZ}$に垂直な直線上にあることが示される.
以上で証明完了である.
また,この証明から,以下のことも同時に示される.
perspectiveかつorthologicである三角形$ABC$と三角形$A_1B_1C_1$について,そのperspectorを$S$とし,$\triangle ABC,\triangle A_1B_1C_1$側のorthology centerをそれぞれ$H,H_1$とする.このとき,$S \in HH_1$であり,$S$は$A,B,C,H$および$A_1,B_1,C_1,H_1$を通る直角双曲線上にある.
(また,直線$\overline{SHH_1}$とperspectrix$\overline{XYZ}$は直交する.)
ところで,Sondatの定理は人によってそのstatementに大きく違いがあるらしい.
Xuming Liangは定理6をStrong Sondat's Theoremの定理と呼んでいて,Telv Cohlは定理6をSondatの定理と呼んでいる.
Li4の平面幾何では全く別の命題(補題4の一般化)がStrong Sondat's Theoremと呼ばれていて,書いてる時に大混乱した.
なので,平面幾何 / Li4でのstatementも書いておくことにする.
直線$L$および$L$がそのperspectrixとならないような三角形$ABC$と三角形$A_1B_1C_1$について,三直線$A_1(L \cap AP),B_1(L \cap BP),C_1(L \cap CP)$が共点であるような点$P$の軌跡は,三角形$ABC$の外接円錐曲線$ \cup $直線$L$である.
では,Sondatの定理を用いて問題を解いていこう.
三角形と点$P$について,$P$のpedal triangleがある点のcevean triangleになるような点$P$の軌跡はDarboux三次曲線($=$K004)という外接三次曲線になる.
三角形$ABC$とそのDarboux三次曲線上の点$P$について,そのpedal triangleを$P_aP_bP_c$とする.$P$の等角共役点を$Q$とし,$R= AP_a \cap BP_b \cap CP_c$としたとき,三点$P,Q,R$は共線であることを示せ.
orthopoleの存在を示せ.すなわち,三角形$ABC$と直線$l$について,$A,B,C$から$l$に下ろした垂線の足をそれぞれ$D,E,F$とするとき,$D,E,F$を通りそれぞれ$BC,CA,AB$に垂直な直線は共点であることを示せ.
三角形$ABC$において,その内心を$I$とし,垂心を$H$とする.$A$-傍接円と$BC$の接点を$D$とし,同様に$B$-傍接円と$CA$,$C$-傍接円と$AB$の接点をそれぞれ$E,F$とする.$X= BC \cap EF, Y= CA \cap FD, Z= AB \cap DE $とするとき,$X,Y,Z$は直線$IH$に直交する直線上にあることを示せ.
三角形$ABC$と円$\omega$について,$\omega$は辺$BC$と$A_1,A_2$で交わり,$\omega$における$A_1,A_2$での接線は$A'$で交わっている.同様に$B',C'$を定義するとき,三直線$AA',BB',CC'$は共点であることを示せ.
Chasles's Polar Triangle Theoremを示せ.すなわち,三角形$ABC$と円錐曲線$\mathcal{C}$について,$A,B,C$における$\mathcal{C}$の極線の成す三角形は三角形$ABC$とperspectiveであることを示せ.
問題3において,$Na = AD \cap BE \cap CF$とし,$AD,BE,CF$の垂直二等分線がそれぞれ$BC,CA,AB$と交わる点を$A_1,B_1,C_1$とする.このとき,$A_1,B_1,C_1$は共線であって,$\overline{A_1B_1C_1} \perp INa$であることを示せ.
三角形$ABC$と点$P$について,直線$AP,BP,CP$が$\odot (ABC)$と再び交わる点をそれぞれ$D,E,F$とする.$D,E,F$を通りそれぞれ$BC,CA,AB$に垂直な直線が$Q$で共点であるとき,直線$PQ$は$P$に依らずある定点を通ることを示せ.
Euler線,垂軸,Gergonne点の三線極線,内心とGergonne点を結ぶ直線の成す四角形は共円か?
De Longchamps点は,その等角共役点と等長共役点を結ぶ直線上にあることを示せ.
三角形$ABC$と点$P$について,直線$BC,CA,AB$について$P$と対称な点をそれぞれ$D,E,F$とする.三角形$ABC$と三角形$DEF$がperspectrixを持つとき,そのperspectrixの三線極点は三角形$ABC$のKiepert双曲線上にあることを示せ.
三角形$ABC$について,その内心を$I$,重心を$G$,九点円心を$N$とし,中点三角形を$A_0B_0C_0$とする.三角形$BIC,CIA,AIB$の九点円心をそれぞれ$N_a,N_b,N_c$とし,それぞれ$A_0N_a,B_0N_b,C_0N_c$を直径とする三円の根心を$P$とするとき,直線$NP$は線分$IG$を二等分することを示せ.
四角形$ABCD$について,三角形$ABC,BCD,CDA,DAB$のEuler線のうち三本が共点であるならば,四本目も共点であることを示せ.
三角形$ABC$と等角共役点$(P,Q)$について,その重心を$G$,中点三角形を$A_0B_0C_0$とし,三角形$A_0B_0C_0$における$P$のcevian triangleを$XYZ$とする.$PX=PY=PZ$のとき,$P,Q,G$の共線を示せ.
三角形$ABC$と点$D \in BC,E \in CA, F \in AB$は,$AD \perp EF, BE \perp FD ,CF \perp DE$を満たしている.三角形$DEF$の外心を$O$とし,円$DEF$が直線$BC,CA,AB$と再び交わる点をそれぞれ$R,S,T$とする.$D,E,F$を通りそれぞれ直線$BC,CA,AB$に垂直な直線が一点$X$で交わり,四直線$AR,BS,CT,OX$は共点であることを示せ.
三角形$ABC$とそのKiepert双曲線$\mathcal{K}$上の点$P$について,$P$のKiepert三角形を$A'B'C'$とし,$AA',BB',CC'$を直径とする円がそれぞれ直線$BC,CA,AB$と交わる点を$(A_1,A_2),(B_1,B_2),(C_1,C_2)$とする.このとき,三円$\odot (AA_1A_2),\odot (BB_1B_2),\odot (CC_1C_2)$の根心$H$は$\mathcal{K}$上にあり,さらに直線$PH$上にある点$N$が存在して$NA_1=NA_2=NB_1=NB_2=NC_1=NC_2$を満たすことを示せ.
最後に,Sondatの定理をその証明に用いることで有名なLiang-Zelichの定理の主張を書いて終わりにする.証明は書くにはあまりに長くて複雑なので,知りたい人は平面幾何 / Li4を各自読むように.
三角形$ABC$と点$P$について,その外心を$O$,垂心を$H$とし,$Q$を$P$の等角共役点とする.$T= PQ \cap OH$とするとき,$t(P)=t(P,\triangle ABC)=\frac{TO}{TH}$と定義する.
垂心を$H$,外心を$O$とする三角形$ABC$と点$P$および定数$x$について,$P$を中心とする$x^{-1}$倍の相似拡大における$X$の像を$\mathfrak{h}_{P,x^{-1}}(X)$とする.このとき,三角形$ABC$における$(P,x)$-Euler線を$\mathfrak{h}_{P,x^{-1}}(O)H$と定義する.
三角形$ABC$と定数$t_0(\neq 0,\infty)$および(固定されていない)点$P$について,直線$BC,CA,AB$について点$P$と対称な点をそれぞれ$P_a,P_b,P_c$とし,三角形$BPC,CPA,APB$の外心をそれぞれ$O_a,O_b,O_c$とする.このとき,以下はすべて同値.
$(1)$ $t(P)=t_0$.
$(2)$ $\mathfrak{h}_{P,t_0^{-1}}(\triangle P_aP_bP_c)$と三角形$ABC$はperspective.
$(3)$ $\mathfrak{h}_{P,t_0^{-1}}(O_aO_bO_c)$と三角形$ABC$はperspective.
$(4)$ 三角形$ABC,BPC,CPA,APB$の$(P,t_0)$-Euler線は共点
Liang-Zelichの定理は,外心と垂心を$s:(1-s)$に内分する点をpivotとするpivotal isogonal cubicを$\mathcal{P}_s$とするとき,「三角形$ABC$の$\mathcal{P}_s$上の点$X$のpedal triangleの$\mathcal{P}_s$は$X$を通る.」などの非常に強力な主張を含んでいるが,この定理についての話は今回は軽く触れるだけにして,また別の機会で話そうと思う.
余談ですが,Xuming LiangとIvan ZelichがLiang-Zelichの定理について書かれた論文を投稿した2015年時点で,まだ彼らは高校生でした.このことを初めて知った時にめちゃくちゃ衝撃を受けたのを思い出します.
質問箱での要望に応えられているような記事になっているかは分かりませんが,今回この記事を書く機会が出来たことを非常に嬉しく思います.
以上です.