「多重ゼータ値面白そうだけどわかんない…」
「調和積とシャッフル積って何?」
そんな人たちに向けて解説記事を書いてみました。
前提知識は大学1年生までの数学の知識があれば十分です。
一部慣れない記法があるかもしれませんがそのたびに解説していきます。
ぜひ最後までご覧ください。
わかりやすさ重視で書いた記事なので厳密な定義や証明などは一部省略しています。合わせて他の文献も読むことをおすすめします。
・多重ゼータ値とは
・インデックス
・word
・調和積とシャッフル積
・正規化複シャッフル関係式
・コネクター
・アソシエータ関係式
レベル:★☆☆☆☆
多重ゼータ値について解説する前に、一般のリーマンゼータ関数について解説していきたいと思います。
リーマンゼータ関数とは
で定義される関数です。
具体的な値はたとえば、
などとなっています。
リーマンゼータ関数は数学の各分野で非常に注目されているのですが、その理由の1つはオイラー積表示があるからでしょう。
具体的な関数と素数を結びつける公式として非常に大きな注目を浴びています。
リーマンゼータ関数についてはたくさん面白い話題があるのですが、今回はこれくらいにして多重ゼータ値について話を進めます。
多重ゼータ値とは、簡単に言えばリーマンゼータ関数の一般化であり拡張バージョンです。
つまり、変数を
定義を見ましょう。
で定める。
と定める流儀もあり、この場合変数の向きが逆転します。
多重ゼータ値の文脈では著者がどちらの変数の向きで定義しているかが重要なので確認しましょう。
私のとっている流儀は左向きと呼ばれています。
まずはシグマの読み方を解説します。
のシグマの下にある式の意味は
たとえば
その条件を満たす
それを展開したのが1番右の式です。
そして、変数はすべて正整数とします。
そのほうがあとあと便利だからです。
さらに、変数が1つだけのときはリーマンゼータ関数に一致します。
リーマンゼータ関数の一般化であることが簡単にわかりますね。
さて、級数を定めたはいいのですが収束するかどうかが重要です。
これに関しては次のことが知られています。
つまり、先頭に来ている数が
ここで、
レベル:★☆☆☆☆
正整数を
また、
さらに、インデックス
同様に、全要素の和
また、
インデックスに線形写像
便宜上
この許容インデックスの定義は左向きです。
これは定義なので覚えておいてください。
たとえば
このとき、興味深い公式が成立します。
深さが
実は多重ゼータ値はリーマンゼータ関数と密接に結びついているのです。
さらに面白いことに、多重ゼータ値の集合には次のような性質があります。
たとえば、
指数法則のように掛け算と足し算が密接な関係で結びついているんですね。
たとえば
数学者の目標はすべての関係式を導出することです。
ですが、
そこで係数は有理数のみ、つまり
そうするといろいろな関係式が得られます。
例えばこんな感じです。
また、複数の関係式たちを一気に導出できる公式を関係式族とよびます。
有名な関係式族を紹介しましょう。
…と、その前にインデックスに代わるwordという概念を導入します。
レベル:★★☆☆☆
このとき、
便宜上
このwordの定義も左向きです。
たとえば
他にもたくさん例を挙げておきましょう。
このとき、次の有名な関係式が成り立ちます。
許容インデックスに対応するword
が成立する。
このように対応するwordの指数部分を反転させたインデックスを双対インデックスと呼び、
つまり、任意の許容インデックス
が成立。
wordの指数部分を反転させたものが等しいということですね。
たとえば
このような理由で、インデックスよりもwordのほうが扱いやすい場面が多々あります。
その1つが調和積とシャッフル積です。
レベル:★★★☆☆
任意の正整数
任意の
これらの定義も左向きです。
定義だけ見ても意味不明かもしれません。実際に計算してみましょう。
下線を引いた部分に注目してください。たとえば、
非常にめんどくさいですね。
ですが、それよりもどうしてこんなことをし始めたのかというと次の美しい性質が成り立つからです。
証明は別の文献で見ていただきたいのですが、非常に面白いです。
この公式により非常に多くの関係式が得られます。
だからwordが重要なんですね。
さきほどの例でいえば、
が成り立っています。
気になる人はwordをインデックスに変換してみてください。
ですが、この有限複シャッフル関係式をもってしても導けない関係式があります。
たとえば
そこで、片方を許容インデックスでなくてもいいようにしたのが正規化複シャッフル関係式です。
ですが1つ問題があります。
それは、許容インデックスではないインデックスに対応する多重ゼータ値は発散してしまうことです。
そこを正規化というプロセスを経てうまく乗り越えたのが正規化複シャッフル関係式です。
どんなことをするのかというと、発散する多重ゼータ値の定数項だけを取り出そうという発想です。
例えば、正規化複シャッフル関係式の手前のバージョンである次の関係式を見てみてください。
これであれば、
つまり、発散する部分を上手く打ち消し合わせることで新しい関係式を導こうという発想です。
これを踏まえ、最強の関係式族の1つと言われている正規化複シャッフル関係式に迫ろうと思います。
レベル:★★★★☆
許容インデックスでなくてもよいインデックスを任意にとって
このとき、次の2つが成立:
(i)調和正規化多項式
ある非負整数
このとき、
(ii)シャッフル正規化多項式
ある非負整数
このとき、
ここで、
このとき、次の2つが成立:
ためしに
一方、
以上より
よって
これは数値的にも一致しています。
この正規化複シャッフル関係式はすべての関係式を導くと予想されていて、最強の関係式族の1つだと言われています。
しかし、双対性が正規化複シャッフル関係式から導けるかどうかは現状未解決であり、多分導けるだろうと予想されてはいますが証明されていません。
そこで、双対性をも導ける最強の関係式族であるアソシエータ関係式についてあとで紹介します。
まずは多重ゼータ値のもう一つの中心的な話題であるコネクターについて紹介しようと思います。
レベル:★★★☆☆
突然ですが、
ここで、シグマの意味は
その前に便利な記法について紹介します。
インデックス
空インデックスに対しては
この定義も左向きです。
このとき、次の3つの等式が成り立ちます。
次の3つが成立:
(1)対称性
(2)輸送関係式
(3)境界条件
(1)と(3)は定義より明らかで、(2)の証明は
から簡単にわかる。
Q.E.D.
この3つの式を使えば双対性が示せます。
次が成立:
許容インデックス
ここで対称性と境界条件を使えば
を得る。
Q.E.D.
このように、簡単な級数変形だけで双対性が証明できてしまいました。
このような方法は連結和法と呼ばれていて、日本人の関真一朗さんと山本修司さんにより初めて発見されました。
多重ゼータ値の世界では日本人が大きな役割を果たしています。すごいですね。
そんな話は他の文献にゆずるとして、いよいよアソシエータ関係式について話をしようと思います。
レベル:★★★★★
この章は非常に難しい内容であり、私の勉強不足により一部の内容が間違っている可能性があります。
詳しくは参考文献を参照してください。
まず、アソシエータ関係式について話を始める前に準備をしたいと思います。
すでにわかっている人は飛ばしていただいて大丈夫です。
ここで、
普通の掛け算の
(i) 存在性
双線形写像
(ii) 一意性
任意の双線形写像
このとき、
厳密な定義には加群の概念が必要ですがここでは省略させてください。
明らかに
これを踏まえてアソシエータを定義します。
また、
この条件のもと、
(1)commutator group-like
準同型写像
(i)
(ii)
(2)2-cycle relation
(3)3-cycle relation
(4)5-cycle relation
(i)
(ii)
(iii)
(iv)
このとき、
意味不明ですね。笑
特に
です。
これはテンソル積に次のような演算が成り立っているからです。
ですがこれはあくまでアソシエータの一般的な定義であって多重ゼータ値に対応するアソシエータが存在します。
すると、
このときの関係式たちをアソシエータ関係式と呼ぶ。
実際に代入して遊んでみましょう。
(1)commutator group-like の(i)は次のように書き直せます。
次が成立:
これを準同型写像および双線形写像の性質を使い証明してみます。
ここで、
が成り立っていることにより
を得る。
これはシャッフル関係式、
Q.E.D.
あとの関係式たちは私の勉強不足により紹介できないため参考文献を参照することをおすすめします。
ですが、このアソシエータ関係式は双対性や正規化複シャッフル関係式すらも従わせることのできる超強力な関係式です。
もちろん、すべての関係式がアソシエータ関係式から従うだろうと予想されてはいますが証明はされていません。
これからも研究は続いていくと思うので、最後に有名な未解決の予想を紹介して終わろうと思います。
重さが
一方、数列
このとき、任意の
が成立する。
この記事を読んでもっと気になったという方は調べてみてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。